62 / 608
アレクサンドル・クロムウェル
神託の愛し子 / お客様
しおりを挟む
レンがアルケリス達をやり込めたことで、
爽快な気分で、午餐の給餌をすることが出来た。
「ちょっと、待っててくれ」
午餐を取っていたティーテーブルから、レンをソファーに連れて行き、一旦降ろして寝室の壁に立て掛けてある、レンの剣を取って戻った。
「君の剣だろ?」
キラリと嬉しそうに瞳を光らせたレンだが、剣を受け取ると、“おや”という表情を見せ、細工の施された鞘から剣を引き抜いた。
剣を見つめる瞳は真剣で、刃こぼれでも探しているのか、腕を伸ばし、刀身を立て、手の中で柄を回して、全体を確認している。
手の中で柄が回るたび“チャキッ”と小気味良い音が鳴るのは、構造の違いからだろうか。
「真剣だ・・・うそ・・・・抜丸?」
「その剣は、名がついているのか?」
余程集中していたのか、レンは、ハッとして振り返り、何故かばつが悪そうに頬を掻いた。
「これは“剣”ではなく、私の国の固有の武器で“日本刀”と言います。通常は“刀と呼ぶことが多いですね。日本刀は製作者の名前で呼ばれたり、逸話などから、名がつくこともあるんですよ?」
「興味深いな」
と言うと、機会があったら、自分の知る逸話を、教えてくれると約束した。
「アレクさんの剣は、諸刃ですよね?」
「あぁ、そうだが?」
「では、アレクさんの剣を、私たちは”けん“とか”つるぎ“と呼びます。アーサー王と言う、大昔の伝説の王様が持っていた剣は、エクスカリバーって名前でした」
「エクスカリバー?」
「はい、なんでも魔法の剣だったらしいです」
「なるほど」
「この刀は、1000年以上前に作られた、抜丸と言う刀のレプリカ・・・複製品です」
「いい作りのように見えるが、複製なのか?」
「複製と、言って良いのかも微妙ですね。本物は行方不明だそうですから。でも、これはヤベちゃんが、私のために選んでくれた刀なんです。まさか、一緒に持ってきてるとは、思いませんでした」
レンの刀身を見つめる瞳が、寂しい気に揺れている。きっと異界の友を、思い出しているのだろう。
「ちょっと、振ってみてもいいですか?」
無理に明るい声を出しているような、そんな気がする。だが、それで番の憂いが晴れるなら、幾らでも刀を振ればいい。
「ああ、いいぞ」
レンはトラウザーズのベルトに鞘を差し込んだ。
腰を落とし、柄に軽く手を当てた姿は、隙がない。
子供の剣術を想像していた俺は、その姿に居住まいを正して、レンを観察する。
呼吸を整えてからの、鋭い抜刀。
上段・下段・横なぎ・突きと、いくつかの型を確かめるように、刀を振るう姿は、なかなか堂に入ったものだった。
適当な所で、無理は良くない、と切り上げさせた。
少し汗ばんだ、レンから香り立つ、花のような匂いに、理性がグラグラ揺らされたが、この後モーガンが来ることを思うと、手を出す訳にはいかない。
我慢がまん。
少しづつって、約束したからな。
その後は、俺は過去の愛し子の記録を読み、レンは俺に寄りかかったまま、“すてーたすがめん”で何かを勉強しているようだった。
そうこうする内に、モーガンが来たとの、訪いが有り、席を立った俺はモーガンを招き入れた。
「レン。こちらが第3騎士団、団長のモーガンだ」
紹介され、レンの顔を見たモーガンは息を呑み、しばし呆然とレンを見つめていた。
「あの?」
「はっ失礼いたしました。レオン・モーガンと申します。ご体調がすぐれない中、拝謁を容受頂き、感謝いたします」
とモーガンは、片膝をついた騎士の礼をとった。
「モーガンさんですね?私はシトウと申します。どうか頭を上げて、こちらに座ってくださいね」
顔を上げたモーガンの耳が赤い。
モーガンは、鷲の獣人で既婚者だから、レンのそばに来ても問題ないと思ったのだが。
モーガンが腰を下ろすと、レンがニコニコしながら、茶を入れようとするのを、俺は止めた。
「俺が入れる」
「お茶くらいなら、私も入れられますよ?」
「火傷したらどうする?」
「過保護は良くないと思います」
「ゴホンッ」
一連のやり取りを見ていたモーガンが、咳払いをしてから、口を開いた。
「僭越ながら、愛し子様。私も獣人なので分かりますが、これは獣人の性ですので、どうか、クロムウェル殿のお好きなように、させてあげて下さい」
よく言ったモーガン。
頭は硬いが、お前
結構良い奴だったんだな。
「私だってできるのに」
ぷうっと頬を膨らます、番が可愛い。
「愛し子様は、お可愛らしい方ですな」
俺の手の中で、ティーポットがビキッ!と鳴った。
お前、既婚者だろ!?
「まるで我が子を見ているようです」
なんだ、驚かすなよ。
「あの、私25なんですが」
「ええ。存じておりますよ。ただお体が私の10歳の子供と変わりませんので、つい」
「10歳?・・・・うそ」
縋るように“嘘だと言って”とレンの目が語っているが、俺はそっと目を逸らした。
爽快な気分で、午餐の給餌をすることが出来た。
「ちょっと、待っててくれ」
午餐を取っていたティーテーブルから、レンをソファーに連れて行き、一旦降ろして寝室の壁に立て掛けてある、レンの剣を取って戻った。
「君の剣だろ?」
キラリと嬉しそうに瞳を光らせたレンだが、剣を受け取ると、“おや”という表情を見せ、細工の施された鞘から剣を引き抜いた。
剣を見つめる瞳は真剣で、刃こぼれでも探しているのか、腕を伸ばし、刀身を立て、手の中で柄を回して、全体を確認している。
手の中で柄が回るたび“チャキッ”と小気味良い音が鳴るのは、構造の違いからだろうか。
「真剣だ・・・うそ・・・・抜丸?」
「その剣は、名がついているのか?」
余程集中していたのか、レンは、ハッとして振り返り、何故かばつが悪そうに頬を掻いた。
「これは“剣”ではなく、私の国の固有の武器で“日本刀”と言います。通常は“刀と呼ぶことが多いですね。日本刀は製作者の名前で呼ばれたり、逸話などから、名がつくこともあるんですよ?」
「興味深いな」
と言うと、機会があったら、自分の知る逸話を、教えてくれると約束した。
「アレクさんの剣は、諸刃ですよね?」
「あぁ、そうだが?」
「では、アレクさんの剣を、私たちは”けん“とか”つるぎ“と呼びます。アーサー王と言う、大昔の伝説の王様が持っていた剣は、エクスカリバーって名前でした」
「エクスカリバー?」
「はい、なんでも魔法の剣だったらしいです」
「なるほど」
「この刀は、1000年以上前に作られた、抜丸と言う刀のレプリカ・・・複製品です」
「いい作りのように見えるが、複製なのか?」
「複製と、言って良いのかも微妙ですね。本物は行方不明だそうですから。でも、これはヤベちゃんが、私のために選んでくれた刀なんです。まさか、一緒に持ってきてるとは、思いませんでした」
レンの刀身を見つめる瞳が、寂しい気に揺れている。きっと異界の友を、思い出しているのだろう。
「ちょっと、振ってみてもいいですか?」
無理に明るい声を出しているような、そんな気がする。だが、それで番の憂いが晴れるなら、幾らでも刀を振ればいい。
「ああ、いいぞ」
レンはトラウザーズのベルトに鞘を差し込んだ。
腰を落とし、柄に軽く手を当てた姿は、隙がない。
子供の剣術を想像していた俺は、その姿に居住まいを正して、レンを観察する。
呼吸を整えてからの、鋭い抜刀。
上段・下段・横なぎ・突きと、いくつかの型を確かめるように、刀を振るう姿は、なかなか堂に入ったものだった。
適当な所で、無理は良くない、と切り上げさせた。
少し汗ばんだ、レンから香り立つ、花のような匂いに、理性がグラグラ揺らされたが、この後モーガンが来ることを思うと、手を出す訳にはいかない。
我慢がまん。
少しづつって、約束したからな。
その後は、俺は過去の愛し子の記録を読み、レンは俺に寄りかかったまま、“すてーたすがめん”で何かを勉強しているようだった。
そうこうする内に、モーガンが来たとの、訪いが有り、席を立った俺はモーガンを招き入れた。
「レン。こちらが第3騎士団、団長のモーガンだ」
紹介され、レンの顔を見たモーガンは息を呑み、しばし呆然とレンを見つめていた。
「あの?」
「はっ失礼いたしました。レオン・モーガンと申します。ご体調がすぐれない中、拝謁を容受頂き、感謝いたします」
とモーガンは、片膝をついた騎士の礼をとった。
「モーガンさんですね?私はシトウと申します。どうか頭を上げて、こちらに座ってくださいね」
顔を上げたモーガンの耳が赤い。
モーガンは、鷲の獣人で既婚者だから、レンのそばに来ても問題ないと思ったのだが。
モーガンが腰を下ろすと、レンがニコニコしながら、茶を入れようとするのを、俺は止めた。
「俺が入れる」
「お茶くらいなら、私も入れられますよ?」
「火傷したらどうする?」
「過保護は良くないと思います」
「ゴホンッ」
一連のやり取りを見ていたモーガンが、咳払いをしてから、口を開いた。
「僭越ながら、愛し子様。私も獣人なので分かりますが、これは獣人の性ですので、どうか、クロムウェル殿のお好きなように、させてあげて下さい」
よく言ったモーガン。
頭は硬いが、お前
結構良い奴だったんだな。
「私だってできるのに」
ぷうっと頬を膨らます、番が可愛い。
「愛し子様は、お可愛らしい方ですな」
俺の手の中で、ティーポットがビキッ!と鳴った。
お前、既婚者だろ!?
「まるで我が子を見ているようです」
なんだ、驚かすなよ。
「あの、私25なんですが」
「ええ。存じておりますよ。ただお体が私の10歳の子供と変わりませんので、つい」
「10歳?・・・・うそ」
縋るように“嘘だと言って”とレンの目が語っているが、俺はそっと目を逸らした。
98
お気に入りに追加
1,338
あなたにおすすめの小説

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた
狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている
いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった
そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた
しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた
当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

前世の記憶しかない元侯爵令嬢は、訳あり大公殿下のお気に入り。(注:期間限定)
miy
恋愛
(※長編なため、少しネタバレを含みます)
ある日目覚めたら、そこは見たことも聞いたこともない…異国でした。
ここは、どうやら転生後の人生。
私は大貴族の令嬢レティシア17歳…らしいのですが…全く記憶にございません。
有り難いことに言葉は理解できるし、読み書きも問題なし。
でも、見知らぬ世界で貴族生活?いやいや…私は平凡な日本人のようですよ?…無理です。
“前世の記憶”として目覚めた私は、現世の“レティシアの身体”で…静かな庶民生活を始める。
そんな私の前に、一人の貴族男性が現れた。
ちょっと?訳ありな彼が、私を…自分の『唯一の女性』であると誤解してしまったことから、庶民生活が一変してしまう。
高い身分の彼に関わってしまった私は、元いた国を飛び出して魔法の国で暮らすことになるのです。
大公殿下、大魔術師、聖女や神獣…等など…いろんな人との出会いを経て『レティシア』が自分らしく生きていく。
という、少々…長いお話です。
鈍感なレティシアが、大公殿下からの熱い眼差しに気付くのはいつなのでしょうか…?
※安定のご都合主義、独自の世界観です。お許し下さい。
※ストーリーの進度は遅めかと思われます。
※現在、不定期にて公開中です。よろしくお願い致します。
公開予定日を最新話に記載しておりますが、長期休載の場合はこちらでもお知らせをさせて頂きます。
※ド素人の書いた3作目です。まだまだ優しい目で見て頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。
※初公開から2年が過ぎました。少しでも良い作品に、読みやすく…と、時間があれば順次手直し(改稿)をしていく予定でおります。(現在、142話辺りまで手直し作業中)
※章の区切りを変更致しました。(11/21更新)
訳ありな家庭教師と公爵の執着
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝名門ブライアン公爵家の美貌の当主ギルバートに雇われることになった一人の家庭教師(ガヴァネス)リディア。きっちりと衣装を着こなし、隙のない身形の家庭教師リディアは素顔を隠し、秘密にしたい過去をも隠す。おまけに美貌の公爵ギルバートには目もくれず、五歳になる公爵令嬢エヴリンの家庭教師としての態度を崩さない。過去に悲惨なめに遭った今の家庭教師リディアは、愛など求めない。そんなリディアに公爵ギルバートの方が興味を抱き……。
※設定などは独自の世界観でご都合主義。ハピエン🩷
※稚拙ながらも投稿初日(2025.1.26)からHOTランキングに入れて頂き、ありがとうございます🙂 最高で26位(2025.2.4)。
※断罪回に残酷な描写がある為、苦手な方はご注意下さい。

平凡令嬢の婚活事情〜あの人だけは、絶対ナイから!〜
本見りん
恋愛
「……だから、ミランダは無理だって!!」
王立学園に通う、ミランダ シュミット伯爵令嬢17歳。
偶然通りかかった学園の裏庭でミランダ本人がここにいるとも知らず噂しているのはこの学園の貴族令息たち。
……彼らは、決して『高嶺の花ミランダ』として噂している訳ではない。
それは、ミランダが『平凡令嬢』だから。
いつからか『平凡令嬢』と噂されるようになっていたミランダ。『絶賛婚約者募集中』の彼女にはかなり不利な状況。
チラリと向こうを見てみれば、1人の女子生徒に3人の男子学生が。あちらも良くない噂の方々。
……ミランダは、『あの人達だけはナイ!』と思っていだのだが……。
3万字少しの短編です。『完結保証』『ハッピーエンド』です!

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

大公閣下!こちらの双子様、耳と尾がはえておりますが!?
まめまめ
恋愛
魔法が使えない無能ハズレ令嬢オリヴィアは、実父にも見限られ、皇子との縁談も破談になり、仕方なく北の大公家へ家庭教師として働きに出る。
大公邸で会ったのは、可愛すぎる4歳の双子の兄妹!
「オリヴィアさまっ、いっしょにねよ?」
(可愛すぎるけど…なぜ椅子がシャンデリアに引っかかってるんですか!?カーテンもクロスもぼろぼろ…ああ!スープのお皿は投げないでください!!)
双子様の父親、大公閣下に相談しても
「子どもたちのことは貴女に任せます。」
と冷たい瞳で吐き捨てられるだけ。
しかもこちらの双子様、頭とおしりに、もふもふが…!?
どん底だけどめげないオリヴィアが、心を閉ざした大公閣下と可愛い謎の双子とどうにかこうにか家族になっていく恋愛要素多めのホームドラマ(?)です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる