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アレクサンドル・クロムウェル

神託の愛し子 / お客様

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 レンがアルケリス達をやり込めたことで、
 爽快な気分で、午餐の給餌をすることが出来た。

「ちょっと、待っててくれ」

 午餐を取っていたティーテーブルから、レンをソファーに連れて行き、一旦降ろして寝室の壁に立て掛けてある、レンの剣を取って戻った。

「君の剣だろ?」

 キラリと嬉しそうに瞳を光らせたレンだが、剣を受け取ると、“おや”という表情を見せ、細工の施された鞘から剣を引き抜いた。

 剣を見つめる瞳は真剣で、刃こぼれでも探しているのか、腕を伸ばし、刀身を立て、手の中で柄を回して、全体を確認している。

 手の中で柄が回るたび“チャキッ”と小気味良い音が鳴るのは、構造の違いからだろうか。

「真剣だ・・・うそ・・・・抜丸?」

「その剣は、名がついているのか?」
 
 余程集中していたのか、レンは、ハッとして振り返り、何故かばつが悪そうに頬を掻いた。

「これは“剣”ではなく、私の国の固有の武器で“日本刀”と言います。通常は“かたなと呼ぶことが多いですね。日本刀は製作者の名前で呼ばれたり、逸話などから、名がつくこともあるんですよ?」
「興味深いな」
 と言うと、機会があったら、自分の知る逸話を、教えてくれると約束した。

「アレクさんの剣は、諸刃ですよね?」
「あぁ、そうだが?」
「では、アレクさんの剣を、私たちは”けん“とか”つるぎ“と呼びます。アーサー王と言う、大昔の伝説の王様が持っていた剣は、エクスカリバーって名前でした」
「エクスカリバー?」
「はい、なんでも魔法の剣だったらしいです」
「なるほど」
「この刀は、1000年以上前に作られた、抜丸と言う刀のレプリカ・・・複製品です」
「いい作りのように見えるが、複製なのか?」
「複製と、言って良いのかも微妙ですね。本物は行方不明だそうですから。でも、これはヤベちゃんが、私のために選んでくれた刀なんです。まさか、一緒に持ってきてるとは、思いませんでした」

 レンの刀身を見つめる瞳が、寂しい気に揺れている。きっと異界の友を、思い出しているのだろう。

「ちょっと、振ってみてもいいですか?」

 無理に明るい声を出しているような、そんな気がする。だが、それで番の憂いが晴れるなら、幾らでも刀を振ればいい。

「ああ、いいぞ」

 レンはトラウザーズのベルトに鞘を差し込んだ。

 腰を落とし、柄に軽く手を当てた姿は、隙がない。

 子供の剣術を想像していた俺は、その姿に居住まいを正して、レンを観察する。

 呼吸を整えてからの、鋭い抜刀。
 上段・下段・横なぎ・突きと、いくつかの型を確かめるように、刀を振るう姿は、なかなか堂に入ったものだった。

 適当な所で、無理は良くない、と切り上げさせた。

 少し汗ばんだ、レンから香り立つ、花のような匂いに、理性がグラグラ揺らされたが、この後モーガンが来ることを思うと、手を出す訳にはいかない。

 我慢がまん。
 少しづつって、約束したからな。

 その後は、俺は過去の愛し子の記録を読み、レンは俺に寄りかかったまま、“すてーたすがめん”で何かを勉強しているようだった。

 そうこうする内に、モーガンが来たとの、訪いが有り、席を立った俺はモーガンを招き入れた。

「レン。こちらが第3騎士団、団長のモーガンだ」

 紹介され、レンの顔を見たモーガンは息を呑み、しばし呆然とレンを見つめていた。
「あの?」
「はっ失礼いたしました。レオン・モーガンと申します。ご体調がすぐれない中、拝謁を容受頂き、感謝いたします」
 とモーガンは、片膝をついた騎士の礼をとった。
「モーガンさんですね?私はシトウと申します。どうか頭を上げて、こちらに座ってくださいね」

 顔を上げたモーガンの耳が赤い。
 モーガンは、鷲の獣人で既婚者だから、レンのそばに来ても問題ないと思ったのだが。

 モーガンが腰を下ろすと、レンがニコニコしながら、茶を入れようとするのを、俺は止めた。
「俺が入れる」
「お茶くらいなら、私も入れられますよ?」
「火傷したらどうする?」
「過保護は良くないと思います」

「ゴホンッ」
 一連のやり取りを見ていたモーガンが、咳払いをしてから、口を開いた。

「僭越ながら、愛し子様。私も獣人なので分かりますが、これは獣人の性ですので、どうか、クロムウェル殿のお好きなように、させてあげて下さい」

 よく言ったモーガン。
 頭は硬いが、お前
 結構良い奴だったんだな。

「私だってできるのに」

 ぷうっと頬を膨らます、番が可愛い。

「愛し子様は、お可愛らしい方ですな」
 俺の手の中で、ティーポットがビキッ!と鳴った。

 お前、既婚者だろ!?

「まるで我が子を見ているようです」

 なんだ、驚かすなよ。

「あの、私25なんですが」
「ええ。存じておりますよ。ただお体が私の10歳の子供と変わりませんので、つい」
「10歳?・・・・うそ」
 縋るように“嘘だと言って”とレンの目が語っているが、俺はそっと目を逸らした。

 
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