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アレクサンドル・クロムウェル

神託の愛し子 / 悪役令息なの?

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 コイツの父親のメリオネス侯爵は、社交界での影響力が強い。

 この愚かな振る舞いも、親の力を笠に着ての事なのだろうが、社交を始めたばかりの、小僧でもあるまいし。
 これが聡明なレンと同い年とは思えない。

 これが獣人なら、本能で強者を見極め、余計な争いは避けるものだが、このような愚行を犯すのは、人族の愚かな貴族に多い。
「・・・・・・」

 冷たい目を向け、ダンマリを通す俺に、業を煮やしたのか、愚かなアルケリスは、その矛先をレンに向けてきた。
「閣下が抱いておられるのが、噂の稚児でしょうか?」
 これを聞いて、俺の頭にカッと血が上った。

 ”稚児“には二つの意味が有る。
 普通に小さな子供という意味と、情交を交わした子供という意味だ。

 今アルケリスが口にしたのは、明らかに後者を意味しているが、字面だけでは、どちらと判断し難く、不敬と断ずることは出来ない。

 陳腐な挑発だが、俺は怒りで、魔力と威嚇が漏れる寸前だ。

「悪役令息かよ、バッカじゃないの」
 とレンがボソリと呟いて、俺の腕をポンポンと優しく叩いた。

 そして俺の胸に埋めていた顔を、ゆっくりと振り向かせ、アルケリスを見据えた。

「「「おぉッ」」」
 レンの花の顔を目にした、アルケリスとその取り巻きは、その美しさに感嘆の声を上げた。

「これは此れは・・・・」

 レンを舐め回すように見る視線は、値踏みする様でもあり、オスの情欲に塗れてもいた。

 不快だ!!
 今直ぐ、薄汚い奴の素っ首を
 刎ね飛ばしてやりたい!!

「初めまして、美しい方。私はアルケリス・メリオネスと申します。このように天気も良く、気持ちの良い日に、無骨な方と一緒では、退屈ではありませんか?」
「「・・・・・・」」
 俺たち2人は、あからさまな侮蔑に押し黙った。
 
 それを己の都合のいいように解釈したアルケリスは、調子に乗って話し続ける。

「彼方に、茶菓の用意も有ります。我々とゲームでもして、楽しく遊びませんか?」
 と高位貴族とは思えない、嫌らしく下卑た笑いを浮かべた。

 それを見たレンは、フルっと小さく身を震わせた後、ギリギリと奥歯を鳴らす俺の上着を、ツンツンと引いて口を開いた。

「私の位階って、どのあたりでしょうか?」

 位階?
 この場面で?

 だが、キュルンと見上げる、あざとい仕草は、あえて子供っぽく見せるための演技だろう。
 
 レンが何をするのか、気になった俺は、この演技に乗る事にした。

「お立場的には陛下の上ですが、近く、公爵か侯爵に叙されるかと」

 それを聞いたアルケリスは、己の間違いに気付いたのか、顔色が一変した。

「では、私はこの方に、お返事しなくても大丈夫ですね?」
「仰る通りです」
「よかった」
 とレンは、にっこりと笑い、アルケリス達に顔を向けた。

「私、祖母から知らない人と、口を聞いたり、着いて行ったりしてはいけない、と躾けられているんです。それで困ってしまって」
 と頬に手を当てて、小首を傾げて見せる。

 あざといが、かわいいな。

「なるほど」
「そうなんです。特にお菓子や玩具で、気を引こうとするのは“変態の、ドグザレ野郎”だから、絶対に着いて行ってはダメだって」
「それは、確かに困りましたね」

 だんだん楽しくなってきたぞ。

「でも、皇宮にいらっしゃるなら、キチンとした方の筈でしょう?」
「そうですね。立ち入り許可を受けていない者が、皇宮の、特に内宮を彷徨いていれば、処罰の対象になりますから」

 取り巻きの2人の肩が、ビックっと跳ねた。

 レンは「よかった」と子供っぽく両手を合わせた。

「私もこの方達が、祖母が言うような“クソ野郎”だとは思えなかったんです。ウィリアム陛下が、皇宮への立ち入りを許可されてるなら、ちゃんとした方の筈でしょう?だから陛下が紹介してくれたら、一緒にお話し出来ますよ、って教えてあげて欲しいのですけど」
「クッ!」
 湧き上がる笑いを、奥歯で噛んでなんとか耐えた。

 レンはこの3人を、堂々と“ドグサレ野郎”と貶した上に、ウィリアムの名を呼ぶことで皇帝との親密さを示しつつ。
 言外で自分と話がしたかったら、謁見の許可を取れ、と言ってのけたのだ。

 痛快だ!

「アルケリス卿、そう言うことだ」

 羞恥と、己の犯した失敗に、顔色を無くして慄く3人に、レンは「バイバイ」と手を振って、俺達はその場を離れた。

「ぷっ!・・ククク・・・」
「アレクさん?」
「あははは・・・!見たか?あいつらの顔!」

 爆笑する俺に、レンは少し戸惑った顔を見せたが「喜んでもらえて良かったです」と嬉しそうに微笑んだ。
「レン!君は最高だ!!」

 爆笑しながら歩く俺を見て。

 “あの”大公が笑うとは。
 誰の首を刎ねたのか?

 等々、驚愕と慄きの声が上がった。

 後日、ルナコルテが、サロンを訪れた自分の客達に、自分の感動を喋りまくった事と、アルケリス達との、顛末見ていた者達から、新たな噂が流れる事となった。
 が、概ね好意的なものが多く、穢らわしい噂を払拭する一助ともなった。
 
しかし、アルケリスとの一件は、別な問題の火種となってしまうのだった。
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