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アレクサンドル・クロムウェル

神託の愛し子 / 仲直りと執着と

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「うちの副団長は、マキシマス・アーチャーと言うんだが、あれは文句なく美形だな」
「その方と、アレクさんはどう違うんですか?」
「そうだな・・・」

 マークの身長は180チルで理想的だ。
 髪は白銀、顔は細面で
 眉も細く目元も涼やかだ。
 全体的に、嫋やかでバランスが良い。

 一方俺は。
 身長が200チル越えで、デカ過ぎる。
 まゆは太過ぎるし、目は険が強く、
 顔も体も厳つ過ぎて、バランスが悪い。

 自分で話しているのだが、改めてマークと比べると、余りにも違い過ぎて、落ち込みそうだ。

 だが、俺の説明を聞いても、レンは納得できないようだ。

「そうだな・・・マークほどではないが、ウィリアムも美形の内に入るな」
「なら、お二人はよく似ているから、アレクさんも美形でしょ?」
「いや、俺たちは産みの親が別でな。全く似ていないと、言われている」
「ごめんなさい。余計に分からなくなりました」とレンは額に手を当てて、考え込んでいる。

 そんなに、難しい話だろうか?

「分かりました・・・いえ・・・全然分からない、謎理論があるのは、理解しました。」

 でも・・・とレンは俺の髪に手を伸ばし、その一房を指に絡めて、こう言った。

「アレクさんの身長はとても高いけれど、手足も長くて、鍛えられているので、均整がとれていて、素敵だと思います。このサラサラした、ガーネット色の髪も綺麗だし、眉も青灰色の瞳も凛々しくて、精悍なお顔立ちのハンサムさんですよ?」

 俺の髪を撫でる、番の指が優しい。

「だがな、レンもすぐに分かると思うが、貴族の多くは、俺を蔑んだ目で見る者も多い。それに、ウィリアムや俺に近しいもの以外は、皆俺を恐れて、近づいてこないのだぞ?」
 レンの瞳がキラリと光った。

「私のアレクさんに、なんて失礼な!」
 ぷう、と膨れた頬がマシュマロみたいだ。

 いや待て?
 今“私の”と言ったか?
 俺を、自分の物だと言ってくれるのか?
 美男と言われるより、嬉しいぞ!

 喜ぶ俺とは裏腹に、レンは急に黙り込み、唇に小さな拳をあて、真剣な顔で考え込んでいる。

 やっぱり、醜男は嫌だと、願い下げだと、 
 考えていたらどうしよう

「どうした?急に黙り込んで」
「え?いや・・・アレクさんが醜男で良かったなって」
「よかった?」

 醜男がいい?
 まさか俺の番は、特殊な性癖の持ち主なのか?それならそれで、レンの趣味に合わせるのは、吝かではないが・・・。

 特殊性癖のアレやこれやの、膨らみ掛けた妄想から、レンの声が引き戻した。

「だって、誰も寄ってこないなら、独り占めできますよね?ライバルが居なくて、浮気の心配が無いなんて、最高じゃないですか」
「浮気?そんな心配をしていたのか?」
「イケメンは、浮気するものですよ?」

 なんだ、その“常識”みたいな言い方は。
 いや、マークレベルの男が、人族だったら、あるのか?まぁ、貴族でも人族同士の夫夫だと、愛人を囲うことも多いようだから、レンが言っているのは、その部類の話なのだろう・・・が

「俺は獣人だ。浮気など有り得んな」

 断言した俺に、レンは安心したような笑みを浮かべ、それを見た俺に、余計ないたずら心が湧いた。

「俺は誓って浮気はしないが、もし仮に、仮にだぞ?浮気をしたら、レンはどうするんだ?」
「聞きたいですか?」

 レンの表情に、余計なことを言った。
 と後悔したが、もう遅い。

「一応」
「そうですね。まず頭から塩をぶっ掛けて、家から叩き出します。慰謝料を絞れるだけ、搾り取ってから、離婚ですね。そのあとは、有りと有らゆる手を使って、社会的に抹殺して、地べたに這いつくばる、無様な姿を嘲笑ったら、後は、顔も見たくないので、二度と会いません」
「そッそれは・・・怖いな」
 底光のする瞳に、背筋がゾクリと震えた。

 可愛い顔で、恐ろしい事を言う番に、背徳的な喜びを感じる俺は、何処かおかしいのだろうか?

「ふふっ。私実は、結構嫉妬深くて、欲張りなんです。アレクさん、これから大変ですよ?大丈夫ですか?」

 レンが浮かべる、少し冷たい笑みに、跪いて縋りつきたくなった。番が俺に執着してくれるなら、喜び以外何も無い。

「大丈夫。うんと甘やかしてやる。覚悟しておけよ?」

 無事、レンとの仲直りを済ませた俺は、この国の獣人と人族の婚約と、婚姻に関する法の概要を説明した。

 獣人のいない、異界から招来されたレンにとって、馴染みの無い制度ばかりで、驚いていたが。
「結婚する意思があるなら、細かいことは気にしなくて良さそうですね」

 となんとも、大雑把というか、度量が深いというか、そんな感想をもらして、婚約申請書と、婚約許可証にサインしてくれた。

 俺の記したサインの下に、記されたレンの名は、全く見た事のない文字だった。
 物珍しさに、繁々と眺める俺に、レンは名の文字の意味を教えてくれた。

 紫藤は、フジと言う青紫の花。
 蓮は、水上に咲くハスの事だと。

 二度目の洗礼の後、俺の手に残され、招来の泉に咲き乱れていた、レンの名と同じ白蓮の花。

 俺達2人が、番として出逢うことは、定められていたのだと、人生で初めて、運命の采配に感謝した。
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