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アレクサンドル・クロムウェル

紫藤 蓮/シトウ・レン サイコパス・パーティー

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 そうこうする内、うさぎの着ぐるみを着たスタッフさんが、出番を知らせてくれました。

 広場の特設舞台に上がった私達は、パレードで披露した殺陣と、この舞台用に練習したもう一曲分を、プラスで演じます。

 一曲目が終わり、二曲目に入った所で、足立の怒鳴り声が聞こえてきました。

 足立は舞台袖の階段あたりで、旗持ちとして立っていた筈。
 何があったのかと目を向けると、舞台に上がってこようとする、誰かと揉めています。

 その時、突き飛ばされた足立が、私たちのいる、舞台中央までよろけて来て、尻餅をついてしまいました。

 一体誰がと見た先に、沿道で見たドラキュラ男が立っていました。

 取り押さえようとする、スタッフさんを振り払い、黒いマントをバサリと翻した男の手には、大きな鉈が握られていて、これを見て、スタッフさんも無闇に近づけなくなりました。

 悲鳴が響き、茫然とする人、逃げようとする人、馬鹿みたいに、スマホで動画を撮り続ける人。
 会場は一気にパニックです。

 私は「なんで?」という言葉で頭をいっぱいにしながら、一歩づつ、ジリジリと近づいてくる男の顔を凝視しました。

 とても正気とは思えない、血走った男の目が、ヤベちゃんに注がれています。

 ヤベちゃんに、嫌がらせしてる男だ!

 そう確信した私は、会場に居るはずの警察官の姿を探しました。
 制服組は舞台より、遠く離れたところにしかいません。

 郵便局前で見た青いシャツの人は、舞台までの距離は、それ程空いていませんが、パニックを起こした観客に邪魔されて、思うように進めない様子です。

 間に合わない!!

「ヤベちゃん逃げてッ!!」
 呆然とする、ヤベちゃんの腕を強く引いて、舞台の反対側に押しやると、同時に男が駆け寄って来ました。

 尻尾を巻いて逃げたいけど、無防備な背中を切りつけられるのは嫌だし、ヤベちゃんが逃げる時間も稼ぎたい。

 腰の刀は、銀色の塗料を塗っただけの、軽い木製だけど、当たれば痛いし、鞘ごとなら鉈で折られなくて済むかも。

 なんとかなる。

 そう判断した私は、剣帯を引き千切る勢いで、鞘ごと刀を抜き、そのまま鉈を握った男の腕を「せいッ!」と気合いを込めて、下から打ち上げ、返刀で手首を打ち下ろしました。

 予想通り、男は鉈を取り落とし、手首を掴んで呻いています。

 手加減なしだったから、骨まで逝っちゃってるかもしれません。

 その隙に、鉈を舞台下に蹴り落として、逃げるが勝ち、と踵を返した瞬間。

「うわぁぁ!」
 叫び声と共に、立ち上がった足立に、突き飛ばされました。

 パニックを起こしたのか、私を盾にしようとしたのかは知りませんが、とんだ迷惑です。

 あだちぃ!
 なにしてくれてんだあ!!
 と罵声を浴びせてやりたいです。

 突き飛ばされた私は、背中から暴漢にぶつかってしまいました。
 慌てて体勢を立て直して、逃げようと足を踏み出した所で、ウィッグごと頭を掴まれて引き戻されました。

 男の腕が首に巻き付いて、生臭い息が首にかかって気持ち悪いです。

「お前が、お前らみたいなバカがいるから」
 ブツブツ言っていますが、そんなの知ったこっちゃありません。

「バカはお前だッ!放せ変態!!」
 踵で男の足の甲を、思いっきり踏み抜いてやりました。

「ぐあぁッ!」
 ベキっと嫌な音がしたので、確実に骨が砕けましたね。

ザマアミロ!!

 相手が怯んだ隙に、体を下に沈めて拘束から抜け出した私は、振り向き様に男の顎目掛けて、掌底をぶち込んでやりました。

 型通りに綺麗に決まった掌底で、脳を揺らされた男は、白目を剥いて、ペシャンと崩れ落ちました。

 ふんッ!ざまあ!!

 倒れた男の横に、私のウィッグが落ちているのが、なんかシュールです。

「レンちゃん!!」
 ヤベちゃんが叫んでいるのが聞こえます。
 アドレナリンが出過ぎた反動でしょうか。
 なんか、頭がぼーっとして来ました。

「レンちゃん!レンちゃんしっかり!!」

 ヤベちゃん?
 私、嫌がらせしてきた奴、倒したよ?
 もう大丈夫なのに、なんで泣いてるの?

「誰か!早く助けて!!」

 あれ?
 私、いつの間に跪いたんだっけ?

 なんか右の脇腹が、ものすごく熱い。

 熱を持った脇腹に手を当てると、やけに冷たい物が、体に突き立っていました。

「刺されちゃった?」

 これはしまった。
 おじいちゃんに怒られちゃう。

 膝をついた舞台に、真っ赤な血溜まりがどんどん広がって。

 やばい。これダメかも。

 霞んでいく眼に、おじいちゃんの仏頂面が見えた気がします。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「それって、レンちゃんとばっちりで死んだってこと?」
「そうなんでしょうか。とばっちり、と言うより自業自得かな?」
「・・・自分に厳しすぎない?」
 珍しく、ウィリアムが心配そうだ。

「そうですか?でもいいんです。祖父のお稽古はとても厳しくて、辛かったですが、最後に、大好きな友達を助けられまし・・・。だけど、死んじゃったから。ヤベちゃん、きっと泣いてるだろうな。おじいちゃんも、多分怒ってる」

「大丈夫か?」
 シュンとする頭を撫でると、レンは少しくすぐったそうに首を竦めた。

「・・・大丈夫。おかげで今はこうして、アレクさんやウィリアムさんと出会うことができましたから・・・ってアレクさん?」

 レンの言葉に、俺は猛烈に感動して華奢な体を強く抱きしめた。

 ウィリアムも感激してるのか、ハンカチで目元を押さえている。

「レンちゃん。ホントに良い子。お兄ちゃんレンちゃんの為なら、なんでもしてあげちゃうよ」

 お前は必要ない!
 と言ってやりたいが、レンのためになるなら、我慢も必要だ。
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