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アレクサンドル・クロムウェル

紫藤 蓮/シトウ・レン モラハラ・パレード

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「はいはい。そこまで~。お前だって嫁の来手がいないだろう?」

 剣呑な空気を漂わせる2人の間に、笑いながら入ったのは、営業2課の鈴木課長です。

「もうすぐ出番だからね。矢部くんも紫藤君も笑って、笑って」

 そう言うと、課長は足立先輩の肩を掴んで、後ろにズルズルと引っ張っていきました。

「チッ!旗持ちのくせに、前に出てくんなよ」
 ヤベちゃん激おこです。

 足立先輩は、忙しいからとパレードの練習にも参加せず。
 本番の今日になって現れたのですが、当然できる事はないし、衣装合わせも出来なかったので、私服で旗持ちをさせることしか出来ません。
 それに、忙しさで言ったら、営業部の鈴木課長の方が、よっぽどお忙しいです。

 着付けを終えた私たちを見て、同じ物を用意しろとか、無理に決まってます。
 衣装を借りるのだって、ただじゃないんです。来るか来ないか、分からない人の分まで、準備は出来ませんよ?

 頭おかしいんじゃないでしょうか?

 ヤベちゃんは衣装や小物の準備から、殺陣の練習も熱心に取り組んで。
 今日だって、早朝から全員分の、着付けやメイクも頑張っていたのです。

 それを馬鹿にする様な態度は許せません。

 労働規定が有るから、難しいのは分かりますが、早くこの人、クビにしてくれないでしょうか?

 ぶすっとしていると、鈴木課長と目が合って、課長は口だけで「笑って」と言って手を振っています。
 こういう気遣いが出来る処が、出世の早道なのでしょうか?

「れんちゃん知ってる?足立と鈴木課長って同期なんだって」
 ヤベちゃんも、私と同じことを考えていたのか、ボソリと呟きました。

 へえ。それは初耳。同期が先に出世したから、足立先輩は捻くれているのでしょうか?

 いやいや。あれは元からの性格ですね。

 ”だ・か・ら“出世できないの方ですね。


 私達がくだらない事で揉めている間も、パレードはつつがなく進行し、私達も高校生に続いて、大通りに出ました。

 沿道には多くの人が詰め掛け、想像以上の賑わいです。

 しばらく進んで、最初のパフォーマンス会場に着きました。
 高校生の演奏に拍手を送り、いよいよ私達の出番です。

 ◯ラブの、⒉5次元ミュージカルの方の主題歌が、大音量で流れる中、私とヤベちゃんは向かい合って礼をします。
 今回の筋立ては、2人で剣を鍛錬している所に、襲って来た敵を薙ぎ払う、と言うものです。

 練習の成果も有り、ヤベちゃんの動きは軽快で、ポーズを決める度に、沿道のヤベちゃんファンだけでなく、お姉様方からも黄色い声援が上がります。

 もちろん、私にも声援を贈ってくれる人はいますよ?

 お子様中心、ですけれども。

 鈴木課長を中心とした、時間◯軍の面々も頑張ってくれています。
 メイクで分かり辛いですが、皆さん楽しそうで良かったです。

 まぁ、約1名不機嫌な顔で、ボサっと突っ立っている方が居りますが、自業自得ですから、構ってなどあげません。

 最後のポーズを決めた所で、大きな拍手を頂きました。

 とても嬉しいです。
 こんな気分を味わえるのも、ヤベちゃんがパレードに誘ってくれたお陰です。

 沿道からの声援に、手を振りながら行進に戻ろうとした時、沿道のドラキュラの扮装をした、男の人と目が合いました。
 その人は、直ぐに目を逸らしたのですが、なんとなく嫌な感じがします。

 でもその人は、そのままパレードに背を向けて人混みに紛れてしまい、私も忘れてしまいました。

 その後は、足立先輩(もう足立と呼び捨てでもいいでしょうか?)が足が痛いだの、旗が重いだのと、ぶすくれて文句を言う他は、特に問題もなく、メイン会場である、県立公園の広場へ到着しました。

 少し休憩を挟んで、パレードの順番通りに、もう一度パフォーマンスを披露したら、今回のイベントはお役御免です。

 水分補給をして、汗でヨレたメイクを、ヤベちゃんに直してもらっている間、足立は文句を言い続け“オレはもう帰る”と騒いでいます。

 鈴木課長は「後ちょっとだから、付き合えよ」と宥めていますが、私としては、「ど~ぞ、お帰りください」と言ってやりたいです。

 でも、鈴木課長の、苦笑を浮かべた顔を見た時、ゾクリと悪寒が走りました。

 足立の参加を言い出したのは、鈴木課長でした。
 渋る私たちに「あいつ今、微妙な立場だから、みんなと仲良くなれる機会が、必要だと思うんだ」と。

 でも自分が足立だったら?
 小中学生じゃあるまいし、仲良しこよしなんて、そんなお節介を望むでしょうか?

 パフォーマンスのメインは、足立が見下している女子2人。

 それプラス、先に出世した同期と一緒になんて、目立ちたがりで、性格のよろしくない彼にとっては、拷問なのでは?

 そう考えると、課長の苦笑の中に、優越感が滲んでいるように、見えなくもないです。

 もしも、私の考えが当たっていたとして、鈴木課長が確信犯なら、相当いい性格をしているし、無自覚だとしたら・・・。
 余計にタチが悪いです。

 ここまで考えて、軽く頭を振って思考を振り払いました。

 こういう考え方をするのは、私の悪い癖です。

 祖父からも、他人の粗探しをするような真似は、やめなさいと言われてきましたし。

 お見合い相手からも、頭の中を見透かされてるようで、怖いし気持ち悪いと、速攻で破談の連絡が来ました。

 私も、辞めようと気をつけてはいるのですが、なかなかうまく行かないものです。
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