上 下
37 / 497
アレクサンドル・クロムウェル

皇宮入りと婚約と/ モフモフとお説教

しおりを挟む
 発散できない熱に悶々としながら、リップ音を立てて唇を離し、俺が咲かせた婚約紋をじっくり観察した。

 俺の婚約紋は、こんな模様なのか。

 本来、婚姻に向けて相手に刻む紋は、求愛・婚約・婚姻の三種類あるが、三種類の紋に決まった形はない。

 獣人の種族によって、紋を刻む場所と形は似た様なものになるが、婚約するお互いの魔力を練り合わせて刻むため、同じ模様になることはないからだ。
 
 俺は最初の求愛を飛ばして、正式な婚約紋をレンに刻んだ訳だが、求愛の紋も見てみたかった。

 残念な事に、求愛や婚約紋は一段階上の紋を刻むと消えてしまい、紋を刻み直すことはできないのだ。

 俺がレンに刻んだ紋は、虎縞と蔦が絡み合った、大輪の花の様だった。

 我ながら良い仕事をしたと思う。

 レンの髪を指で梳きながら、感慨に耽っていると、腕の中のレンが俺から離れようと身を引いた。
 俺は慌てて細い腰に腕を回し、引き戻した。

「どうした?」

 レンはパタパタと暴れて俺から離れようと躍起になっているが、俺からしたら小動物が暴れているのと変わらない。
 片手で簡単に制圧できる・・・・。

「えッ?」

 どうやったのかは分からないが、レンはスルリと俺の腕をすり抜け、ベットの足の方へ逃げてしまった。

「レン?」
 どうしたんだ?伸ばした手をペシリと叩かれた。
「めッ!!アレクさんお触り禁止です!」

 めッ?
 今めって言った?
 めちゃくちゃ怒っているのだろうが
 全然怖くない。
 逆に可愛い。

「ちょっと、ここに座って下さい」
 ベットの上をベシベシ叩かれ、俺は大人しく座り直した。

「怒っているのか?」
「怒ってます」
 ふんすと腕を組んで、精一杯睨んでくる。
「なにが気に入らなかったんだ?」

 まったく怖くはないが、本気で怒っているのだけは分かる。

「私は、ヤダって言いました。ダメって」
「アレクさんは、嫌がることはしないって言いましたよね?」
「あ~~」

 レンの言う通りだ、夢中になり過ぎて調子に乗ったな。
 最後に魔力を回したのは、俺がマーキングしたかっただけで、必要ではなかった。
 確かに、やり過ぎたかもしれない。

 本心を言えば、レンが可愛かったからなのだが、それを言っても納得は・・・
しないだろうな。

 毛を逆立てた子猫の様に、がるがると威嚇して見せるレンに、気を抜いたら笑ってしまいそうになるのを必死で耐えて、俺は言い訳を並べ立てた。

 自分がした事は、婚約紋を刻む正式な作法で、紋を刻んだ時は、最後にお互いの魔力をなじませなければならず、魔力詰まりの治癒の仕上げでもあったから、途中で止めることはできなかった。
決して意地悪をしたわけではないし、実際体調は良くなっている筈だ。と。

 苦しい言い訳だが、本当の事は絶対言わないほうがいい。
と俺の本能が警告している。

「許してくれるか?」

 信用を失ってしまったのか
 向けられるじと目に心が痛い。

 暫く、むぅっと考え込んでいたレンだが、次に顔を挙げた時には、何か悪戯を思いついたような笑顔でこう言った。

「アレクさんの、お耳と尻尾を好きな時に、好きなだけ、触っても良いなら許します」

 ・・・・・しまった。
 気付かないうちに、また耳と尾が出てる。

 獣人にとって尾と耳は逆鱗と言える部位だ。
 二次性徴前の子供時代でも、親でさえ滅多に触れることなどない。
 物心がついた頃には、他人に触らせてはいけないと教えられるし、治癒師であっても、余程の事がない限り、触れたりはしない。

 何かの拍子に間違って触れてしまった者は、その場で叩きのめされても文句は言えないのだ。

 それに大人の尾には、性的な意味も含まれてくる為、普段は隠して生活するものなのだが・・・・。

 異界から来たばかりのレンが、そんな事情を知るはずも無く。期待の籠った瞳でキラキラと見つめられたら、俺に“断る”という選択肢は無い。

 敏感な部位だから、強く握ったりしないようにと、注意だけして、後は好きにさせる事にした。

「うわ~!ふしぎ~。まん丸もふもふだぁ!」
 さわさわと耳に触れる、番の指遣いは優しく、思いの外気持ちが良い。

「わぁ。お尻尾しましま。アレクさんは猫ちゃんなの?」
 今度は、尾をするすると撫でながら、レンが聞いてきた。

 尾を触られるのは初めてだが、色々とまずそうだから、気を逸らすためにも、話をするのは有り難い。

「いや。白虎だ」
 白虎?と首を傾げるレンに、白虎は猫科最大の希少種だと教えた。
 するとレンの世界にも、アムール虎と言う白い虎が、北方に生息していると教えてくれた。

「でも、私の国で白虎というと、神獣、幻獣とも言いますが、それのことで、東は青龍・西が白虎・南が朱雀で北が玄武。東西南北の方位を、其々が悪いものから守ってくれる、四神の一柱のことをいうんです」
 と説明してくれた。

「その幻獣というのは?」
 と聞くと、ああ、そこからかあ。と言葉を継いだ。

「一応空想上の生き物って言われてます。でも大昔からの話なので、その頃は本当に居たのかも知れないですけど。たしか白虎は風を操れるのだったかな?」
「神の話しなのに、随分と曖昧なのだな」

 するとレンは言葉を探すように、う~んと唸って考え込んだ。

 その間もレンは、手に俺の尾を持って、尾の先で自分の顎を撫でている。

 やはり色々まずい。
 止めたほうが良いだろうか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

淫らなお姫様とイケメン騎士達のエロスな夜伽物語

瀬能なつ
恋愛
17才になった皇女サーシャは、国のしきたりに従い、6人の騎士たちを従えて、遥か彼方の霊峰へと旅立ちます。 長い道中、姫を警護する騎士たちの体力を回復する方法は、ズバリ、キスとH! 途中、魔物に襲われたり、姫の寵愛を競い合う騎士たちの様々な恋の駆け引きもあったりと、お姫様の旅はなかなか困難なのです?!

5人の旦那様と365日の蜜日【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
気が付いたら、前と後に入ってる! そんな夢を見た日、それが現実になってしまった、メリッサ。 ゲーデル国の田舎町の商人の娘として育てられたメリッサは12歳になった。しかし、ゲーデル国の軍人により、メリッサは夢を見た日連れ去られてしまった。連れて来られて入った部屋には、自分そっくりな少女の肖像画。そして、その肖像画の大人になった女性は、ゲーデル国の女王、メリベルその人だった。 対面して初めて気付くメリッサ。「この人は母だ」と………。 ※♡が付く話はHシーンです

迷い込んだ先で獣人公爵の愛玩動物になりました(R18)

るーろ
恋愛
気がついたら知らない場所にた早川なつほ。異世界人として捕えられ愛玩動物として売られるところを公爵家のエレナ・メルストに買われた。 エレナは兄であるノアへのプレゼンとして_ 発情/甘々?/若干無理矢理/

クソつよ性欲隠して結婚したら草食系旦那が巨根で絶倫だった

山吹花月
恋愛
『穢れを知らぬ清廉な乙女』と『王子系聖人君子』 色欲とは無縁と思われている夫婦は互いに欲望を隠していた。 ◇ムーンライトノベルズ様へも掲載しております。

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

異世界召喚されたけどヤバい国だったので逃げ出したら、イケメン騎士様に溺愛されました

平山和人
恋愛
平凡なOLの清水恭子は異世界に集団召喚されたが、見るからに怪しい匂いがプンプンしていた。 騎士団長のカイトの出引きで国を脱出することになったが、追っ手に追われる逃亡生活が始まった。 そうした生活を続けていくうちに二人は相思相愛の関係となり、やがて結婚を誓い合うのであった。

【R-18】喪女ですが、魔王の息子×2の花嫁になるため異世界に召喚されました

indi子/金色魚々子
恋愛
――優しげな王子と強引な王子、世継ぎを残すために、今宵も二人の王子に淫らに愛されます。 逢坂美咲(おうさか みさき)は、恋愛経験が一切ないもてない女=喪女。 一人で過ごす事が決定しているクリスマスの夜、バイト先の本屋で万引き犯を追いかけている時に階段で足を滑らせて落ちていってしまう。 しかし、気が付いた時……美咲がいたのは、なんと異世界の魔王城!? そこで、魔王の息子である二人の王子の『花嫁』として召喚されたと告げられて……? 元の世界に帰るためには、その二人の王子、ミハイルとアレクセイどちらかの子どもを産むことが交換条件に! もてない女ミサキの、甘くとろける淫らな魔王城ライフ、無事?開幕! 

処理中です...