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アレクサンドル・クロムウェル
皇宮入りと婚約と/ モフモフとお説教
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発散できない熱に悶々としながら、リップ音を立てて唇を離し、俺が咲かせた婚約紋をじっくり観察した。
俺の婚約紋は、こんな模様なのか。
本来、婚姻に向けて相手に刻む紋は、求愛・婚約・婚姻の三種類あるが、三種類の紋に決まった形はない。
獣人の種族によって、紋を刻む場所と形は似た様なものになるが、婚約するお互いの魔力を練り合わせて刻むため、同じ模様になることはないからだ。
俺は最初の求愛を飛ばして、正式な婚約紋をレンに刻んだ訳だが、求愛の紋も見てみたかった。
残念な事に、求愛や婚約紋は一段階上の紋を刻むと消えてしまい、紋を刻み直すことはできないのだ。
俺がレンに刻んだ紋は、虎縞と蔦が絡み合った、大輪の花の様だった。
我ながら良い仕事をしたと思う。
レンの髪を指で梳きながら、感慨に耽っていると、腕の中のレンが俺から離れようと身を引いた。
俺は慌てて細い腰に腕を回し、引き戻した。
「どうした?」
レンはパタパタと暴れて俺から離れようと躍起になっているが、俺からしたら小動物が暴れているのと変わらない。
片手で簡単に制圧できる・・・・。
「えッ?」
どうやったのかは分からないが、レンはスルリと俺の腕をすり抜け、ベットの足の方へ逃げてしまった。
「レン?」
どうしたんだ?伸ばした手をペシリと叩かれた。
「めッ!!アレクさんお触り禁止です!」
めッ?
今めって言った?
めちゃくちゃ怒っているのだろうが
全然怖くない。
逆に可愛い。
「ちょっと、ここに座って下さい」
ベットの上をベシベシ叩かれ、俺は大人しく座り直した。
「怒っているのか?」
「怒ってます」
ふんすと腕を組んで、精一杯睨んでくる。
「なにが気に入らなかったんだ?」
まったく怖くはないが、本気で怒っているのだけは分かる。
「私は、ヤダって言いました。ダメって」
「アレクさんは、嫌がることはしないって言いましたよね?」
「あ~~」
レンの言う通りだ、夢中になり過ぎて調子に乗ったな。
最後に魔力を回したのは、俺がマーキングしたかっただけで、必要ではなかった。
確かに、やり過ぎたかもしれない。
本心を言えば、レンが可愛かったからなのだが、それを言っても納得は・・・
しないだろうな。
毛を逆立てた子猫の様に、がるがると威嚇して見せるレンに、気を抜いたら笑ってしまいそうになるのを必死で耐えて、俺は言い訳を並べ立てた。
自分がした事は、婚約紋を刻む正式な作法で、紋を刻んだ時は、最後にお互いの魔力をなじませなければならず、魔力詰まりの治癒の仕上げでもあったから、途中で止めることはできなかった。
決して意地悪をしたわけではないし、実際体調は良くなっている筈だ。と。
苦しい言い訳だが、本当の事は絶対言わないほうがいい。
と俺の本能が警告している。
「許してくれるか?」
信用を失ってしまったのか
向けられるじと目に心が痛い。
暫く、むぅっと考え込んでいたレンだが、次に顔を挙げた時には、何か悪戯を思いついたような笑顔でこう言った。
「アレクさんの、お耳と尻尾を好きな時に、好きなだけ、触っても良いなら許します」
・・・・・しまった。
気付かないうちに、また耳と尾が出てる。
獣人にとって尾と耳は逆鱗と言える部位だ。
二次性徴前の子供時代でも、親でさえ滅多に触れることなどない。
物心がついた頃には、他人に触らせてはいけないと教えられるし、治癒師であっても、余程の事がない限り、触れたりはしない。
何かの拍子に間違って触れてしまった者は、その場で叩きのめされても文句は言えないのだ。
それに大人の尾には、性的な意味も含まれてくる為、普段は隠して生活するものなのだが・・・・。
異界から来たばかりのレンが、そんな事情を知るはずも無く。期待の籠った瞳でキラキラと見つめられたら、俺に“断る”という選択肢は無い。
敏感な部位だから、強く握ったりしないようにと、注意だけして、後は好きにさせる事にした。
「うわ~!ふしぎ~。まん丸もふもふだぁ!」
さわさわと耳に触れる、番の指遣いは優しく、思いの外気持ちが良い。
「わぁ。お尻尾しましま。アレクさんは猫ちゃんなの?」
今度は、尾をするすると撫でながら、レンが聞いてきた。
尾を触られるのは初めてだが、色々とまずそうだから、気を逸らすためにも、話をするのは有り難い。
「いや。白虎だ」
白虎?と首を傾げるレンに、白虎は猫科最大の希少種だと教えた。
するとレンの世界にも、アムール虎と言う白い虎が、北方に生息していると教えてくれた。
「でも、私の国で白虎というと、神獣、幻獣とも言いますが、それのことで、東は青龍・西が白虎・南が朱雀で北が玄武。東西南北の方位を、其々が悪いものから守ってくれる、四神の一柱のことをいうんです」
と説明してくれた。
「その幻獣というのは?」
と聞くと、ああ、そこからかあ。と言葉を継いだ。
「一応空想上の生き物って言われてます。でも大昔からの話なので、その頃は本当に居たのかも知れないですけど。たしか白虎は風を操れるのだったかな?」
「神の話しなのに、随分と曖昧なのだな」
するとレンは言葉を探すように、う~んと唸って考え込んだ。
その間もレンは、手に俺の尾を持って、尾の先で自分の顎を撫でている。
やはり色々まずい。
止めたほうが良いだろうか。
俺の婚約紋は、こんな模様なのか。
本来、婚姻に向けて相手に刻む紋は、求愛・婚約・婚姻の三種類あるが、三種類の紋に決まった形はない。
獣人の種族によって、紋を刻む場所と形は似た様なものになるが、婚約するお互いの魔力を練り合わせて刻むため、同じ模様になることはないからだ。
俺は最初の求愛を飛ばして、正式な婚約紋をレンに刻んだ訳だが、求愛の紋も見てみたかった。
残念な事に、求愛や婚約紋は一段階上の紋を刻むと消えてしまい、紋を刻み直すことはできないのだ。
俺がレンに刻んだ紋は、虎縞と蔦が絡み合った、大輪の花の様だった。
我ながら良い仕事をしたと思う。
レンの髪を指で梳きながら、感慨に耽っていると、腕の中のレンが俺から離れようと身を引いた。
俺は慌てて細い腰に腕を回し、引き戻した。
「どうした?」
レンはパタパタと暴れて俺から離れようと躍起になっているが、俺からしたら小動物が暴れているのと変わらない。
片手で簡単に制圧できる・・・・。
「えッ?」
どうやったのかは分からないが、レンはスルリと俺の腕をすり抜け、ベットの足の方へ逃げてしまった。
「レン?」
どうしたんだ?伸ばした手をペシリと叩かれた。
「めッ!!アレクさんお触り禁止です!」
めッ?
今めって言った?
めちゃくちゃ怒っているのだろうが
全然怖くない。
逆に可愛い。
「ちょっと、ここに座って下さい」
ベットの上をベシベシ叩かれ、俺は大人しく座り直した。
「怒っているのか?」
「怒ってます」
ふんすと腕を組んで、精一杯睨んでくる。
「なにが気に入らなかったんだ?」
まったく怖くはないが、本気で怒っているのだけは分かる。
「私は、ヤダって言いました。ダメって」
「アレクさんは、嫌がることはしないって言いましたよね?」
「あ~~」
レンの言う通りだ、夢中になり過ぎて調子に乗ったな。
最後に魔力を回したのは、俺がマーキングしたかっただけで、必要ではなかった。
確かに、やり過ぎたかもしれない。
本心を言えば、レンが可愛かったからなのだが、それを言っても納得は・・・
しないだろうな。
毛を逆立てた子猫の様に、がるがると威嚇して見せるレンに、気を抜いたら笑ってしまいそうになるのを必死で耐えて、俺は言い訳を並べ立てた。
自分がした事は、婚約紋を刻む正式な作法で、紋を刻んだ時は、最後にお互いの魔力をなじませなければならず、魔力詰まりの治癒の仕上げでもあったから、途中で止めることはできなかった。
決して意地悪をしたわけではないし、実際体調は良くなっている筈だ。と。
苦しい言い訳だが、本当の事は絶対言わないほうがいい。
と俺の本能が警告している。
「許してくれるか?」
信用を失ってしまったのか
向けられるじと目に心が痛い。
暫く、むぅっと考え込んでいたレンだが、次に顔を挙げた時には、何か悪戯を思いついたような笑顔でこう言った。
「アレクさんの、お耳と尻尾を好きな時に、好きなだけ、触っても良いなら許します」
・・・・・しまった。
気付かないうちに、また耳と尾が出てる。
獣人にとって尾と耳は逆鱗と言える部位だ。
二次性徴前の子供時代でも、親でさえ滅多に触れることなどない。
物心がついた頃には、他人に触らせてはいけないと教えられるし、治癒師であっても、余程の事がない限り、触れたりはしない。
何かの拍子に間違って触れてしまった者は、その場で叩きのめされても文句は言えないのだ。
それに大人の尾には、性的な意味も含まれてくる為、普段は隠して生活するものなのだが・・・・。
異界から来たばかりのレンが、そんな事情を知るはずも無く。期待の籠った瞳でキラキラと見つめられたら、俺に“断る”という選択肢は無い。
敏感な部位だから、強く握ったりしないようにと、注意だけして、後は好きにさせる事にした。
「うわ~!ふしぎ~。まん丸もふもふだぁ!」
さわさわと耳に触れる、番の指遣いは優しく、思いの外気持ちが良い。
「わぁ。お尻尾しましま。アレクさんは猫ちゃんなの?」
今度は、尾をするすると撫でながら、レンが聞いてきた。
尾を触られるのは初めてだが、色々とまずそうだから、気を逸らすためにも、話をするのは有り難い。
「いや。白虎だ」
白虎?と首を傾げるレンに、白虎は猫科最大の希少種だと教えた。
するとレンの世界にも、アムール虎と言う白い虎が、北方に生息していると教えてくれた。
「でも、私の国で白虎というと、神獣、幻獣とも言いますが、それのことで、東は青龍・西が白虎・南が朱雀で北が玄武。東西南北の方位を、其々が悪いものから守ってくれる、四神の一柱のことをいうんです」
と説明してくれた。
「その幻獣というのは?」
と聞くと、ああ、そこからかあ。と言葉を継いだ。
「一応空想上の生き物って言われてます。でも大昔からの話なので、その頃は本当に居たのかも知れないですけど。たしか白虎は風を操れるのだったかな?」
「神の話しなのに、随分と曖昧なのだな」
するとレンは言葉を探すように、う~んと唸って考え込んだ。
その間もレンは、手に俺の尾を持って、尾の先で自分の顎を撫でている。
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