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アレクサンドル・クロムウェル
皇宮入りと婚約と/ 治療ではなく
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大混乱する俺の耳に、パフォスのとんでもない質問が飛び込んできた。
「性的なご経験はありますか?」
「おいッ!不敬だぞ!!」
「必要だから、聞いておりますよ」
と冷たい視線が飛んできた。
「な・・・・ないです」
痛みと羞恥に耐えられなかったのか、レンが俺の胸元に額を押し付けてきた。
かわいい。
そうか、経験はないのか。
うん、かわいいな。
思わず、ヨシヨシと頭を撫でたが、レンの身体は強張ったままだ。
喜んでいる場合ではなかった。
「それで、病の原因はなんだ?」
「原因は、閣下ですな」
おれ?
俺が一体何をした?
「レン様の魔力値は、大変高いとお見受けいたします。ですが、その膨大な魔力量に対し、魔力経路がとても細くていらっしゃる」
「それで?」
「そんな方が、魔力切れを起こした後、回復薬を飲んだだけで、二日近く、閣下の強力な魔力に晒されたのですね?」
「・・・そうだな」
「魔力が枯渇されていたレン様は、無意識のうちに、閣下の魔力を御身に取り込んだのでしょう。他人の強力な魔力を、大量に吸収した結果、閣下の魔力と、レン様の魔力とを馴染ませる事が間に合わなくなり、魔力詰まりを起こされたのですな」
「魔力詰まりなら、直ぐに治せるだろう?」
ごたくはいいから、早くやれよ。
「私では、レン様のご負担の方が大きいと思われます」
元々魔力の流れに関する治癒は、魔力の相性が良くないと、時間もかかり上手くいかない事もあるらしい。
レンの魔力経路が細い上に、今レンの中にある俺の魔力と、パフォスの魔力は相性が悪く、時間が掛かり過ぎるのだそうだ。
「では、どうすればいい?」
「閣下が、ご自身で整えて差し上げるのが一番かと存じます」
魔力詰まりの原因が俺の魔力なのだから、細い経路も、流れの悪くなった経絡も、元の魔力の持ち主なら、操作も容易く、レンへの負担は少なくて済むだろう。
そう言われれば、そうなのかもしれない。
だが、素人が簡単に出来るものなのか?
「魔力の相性がよく、魔力操作に長けた方なら、そう難しいことではありません」
「そうなのか?」
「はい。さらに伴侶がいる方の場合、性行為が一番手っ取り早い方法なのです。行為で放った精は魔力の塊ですから、体の中から一気に魔力を巡らせることが出来るのです」
「なるほど」
だから、経験が有るか聞いたのか。
「ですが、閣下がいらっしゃるとはいえ、未経験のレン様には、負担が大きすぎますので、この手は使えません」
「それは、そうだな・・・・では普通に魔力を流し込めばいいのか?」
「そうですね。流す魔力はできるだけ細くしてください。ただ時間を掛け過ぎますと、レン様の負担が大きくなりますので、口付けくらいは、なさった方がいいでしょうな」
「口付け・・・をするのか?」
「はい、幸いレン様は、成人されておられますし、体液の交換は魔力の巡りを良くします」
俺たちは、無意識に魔力を取り込めるほど、魔力の相性が良いのだから、身体的接触と、体液の交換で底上げをすれば、素人の俺でも、スムーズに治癒ができるらしい。
自分は隣室に控えているから、何かあったら呼ぶようにと告げ、パフォスは寝室から出ていった。
しかし、出掛けにパフォスが遮音魔法を掛けて行った事で、これからする事に気恥ずかしさを覚える。
どうしたものかと、逡巡し掛けたが、苦しそうに荒い息を吐く番を前に、呑気にしてはいられないと、心を決めた。
「レン。君の嫌がることはしないから、君に触れてもいいか?」
コクコクと頷く小さな体を抱え直し、ヘッドボードに背を預け、足の間に座らせて、俺の胸に寄りかからせた。
煩悩を噛み潰した俺は、レンの柔らかな胸の上に左手を置き、右手でレンの右手を持って、ゆっくり魔力を流していく。
「少し時間がかかるから、その間、俺の話を聞いてくれるか?」
声を出すのが辛いのか、今度も小さく頷いて、軽く右手を握り返してくれた。
細く撚った魔力を少しづつレンへ流し、つまりを起こした経絡を、ゆっくり溶かしていく。
その間、俺はレンの様子を見ながら、言葉を紡いだ。
神託が神殿に降り、神託の愛し子をミーネの森の神殿に探しに行き、そこにレンが招来された。その光景は、一生忘れることが出来ないほど美しかったと。
自分は獣人で、光の中から現れたレンを見た瞬間、一目で俺の番だと分かり、人生が一変するほどの喜びを得ることができた。
だが、その番が重傷を負っていて、死ぬほど肝が冷えたのだと。
28年間待ち続け、レンに出逢えて、今とても幸せだ。
レンの経絡は大方溶けて、流れも良くなり、痛みも引いてきたのだろう、浅かった呼吸も落ち着いてきた。
残るは、魔力核とその周辺だ。核の周辺の経絡は複雑で、今のやり方だと深い所のつまりを溶かすことが難しそうだ。
しかし、レンとの初めての、まともな口付けを、単なる医療行為と思われるのは嫌だ。初めての口付けを、そんなものにしたくない。
俺の想いを伝えなければ。
異界から来たばかりの、人族の君には獣人の俺の想いは、理解しにくいかもしれない。
でも、信じて。
俺は君を愛している。
この気持ちだけは、疑わないでくれ。
握ったレンの指先に、手の甲へ、手のひらから手首へと唇を寄せた。
親愛・敬愛・懇願・渇望
レンはこの口付けの意味を
知っているだろうか?
俺の言葉は、レンの心に届いただろうか?
「性的なご経験はありますか?」
「おいッ!不敬だぞ!!」
「必要だから、聞いておりますよ」
と冷たい視線が飛んできた。
「な・・・・ないです」
痛みと羞恥に耐えられなかったのか、レンが俺の胸元に額を押し付けてきた。
かわいい。
そうか、経験はないのか。
うん、かわいいな。
思わず、ヨシヨシと頭を撫でたが、レンの身体は強張ったままだ。
喜んでいる場合ではなかった。
「それで、病の原因はなんだ?」
「原因は、閣下ですな」
おれ?
俺が一体何をした?
「レン様の魔力値は、大変高いとお見受けいたします。ですが、その膨大な魔力量に対し、魔力経路がとても細くていらっしゃる」
「それで?」
「そんな方が、魔力切れを起こした後、回復薬を飲んだだけで、二日近く、閣下の強力な魔力に晒されたのですね?」
「・・・そうだな」
「魔力が枯渇されていたレン様は、無意識のうちに、閣下の魔力を御身に取り込んだのでしょう。他人の強力な魔力を、大量に吸収した結果、閣下の魔力と、レン様の魔力とを馴染ませる事が間に合わなくなり、魔力詰まりを起こされたのですな」
「魔力詰まりなら、直ぐに治せるだろう?」
ごたくはいいから、早くやれよ。
「私では、レン様のご負担の方が大きいと思われます」
元々魔力の流れに関する治癒は、魔力の相性が良くないと、時間もかかり上手くいかない事もあるらしい。
レンの魔力経路が細い上に、今レンの中にある俺の魔力と、パフォスの魔力は相性が悪く、時間が掛かり過ぎるのだそうだ。
「では、どうすればいい?」
「閣下が、ご自身で整えて差し上げるのが一番かと存じます」
魔力詰まりの原因が俺の魔力なのだから、細い経路も、流れの悪くなった経絡も、元の魔力の持ち主なら、操作も容易く、レンへの負担は少なくて済むだろう。
そう言われれば、そうなのかもしれない。
だが、素人が簡単に出来るものなのか?
「魔力の相性がよく、魔力操作に長けた方なら、そう難しいことではありません」
「そうなのか?」
「はい。さらに伴侶がいる方の場合、性行為が一番手っ取り早い方法なのです。行為で放った精は魔力の塊ですから、体の中から一気に魔力を巡らせることが出来るのです」
「なるほど」
だから、経験が有るか聞いたのか。
「ですが、閣下がいらっしゃるとはいえ、未経験のレン様には、負担が大きすぎますので、この手は使えません」
「それは、そうだな・・・・では普通に魔力を流し込めばいいのか?」
「そうですね。流す魔力はできるだけ細くしてください。ただ時間を掛け過ぎますと、レン様の負担が大きくなりますので、口付けくらいは、なさった方がいいでしょうな」
「口付け・・・をするのか?」
「はい、幸いレン様は、成人されておられますし、体液の交換は魔力の巡りを良くします」
俺たちは、無意識に魔力を取り込めるほど、魔力の相性が良いのだから、身体的接触と、体液の交換で底上げをすれば、素人の俺でも、スムーズに治癒ができるらしい。
自分は隣室に控えているから、何かあったら呼ぶようにと告げ、パフォスは寝室から出ていった。
しかし、出掛けにパフォスが遮音魔法を掛けて行った事で、これからする事に気恥ずかしさを覚える。
どうしたものかと、逡巡し掛けたが、苦しそうに荒い息を吐く番を前に、呑気にしてはいられないと、心を決めた。
「レン。君の嫌がることはしないから、君に触れてもいいか?」
コクコクと頷く小さな体を抱え直し、ヘッドボードに背を預け、足の間に座らせて、俺の胸に寄りかからせた。
煩悩を噛み潰した俺は、レンの柔らかな胸の上に左手を置き、右手でレンの右手を持って、ゆっくり魔力を流していく。
「少し時間がかかるから、その間、俺の話を聞いてくれるか?」
声を出すのが辛いのか、今度も小さく頷いて、軽く右手を握り返してくれた。
細く撚った魔力を少しづつレンへ流し、つまりを起こした経絡を、ゆっくり溶かしていく。
その間、俺はレンの様子を見ながら、言葉を紡いだ。
神託が神殿に降り、神託の愛し子をミーネの森の神殿に探しに行き、そこにレンが招来された。その光景は、一生忘れることが出来ないほど美しかったと。
自分は獣人で、光の中から現れたレンを見た瞬間、一目で俺の番だと分かり、人生が一変するほどの喜びを得ることができた。
だが、その番が重傷を負っていて、死ぬほど肝が冷えたのだと。
28年間待ち続け、レンに出逢えて、今とても幸せだ。
レンの経絡は大方溶けて、流れも良くなり、痛みも引いてきたのだろう、浅かった呼吸も落ち着いてきた。
残るは、魔力核とその周辺だ。核の周辺の経絡は複雑で、今のやり方だと深い所のつまりを溶かすことが難しそうだ。
しかし、レンとの初めての、まともな口付けを、単なる医療行為と思われるのは嫌だ。初めての口付けを、そんなものにしたくない。
俺の想いを伝えなければ。
異界から来たばかりの、人族の君には獣人の俺の想いは、理解しにくいかもしれない。
でも、信じて。
俺は君を愛している。
この気持ちだけは、疑わないでくれ。
握ったレンの指先に、手の甲へ、手のひらから手首へと唇を寄せた。
親愛・敬愛・懇願・渇望
レンはこの口付けの意味を
知っているだろうか?
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