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アレクサンドル・クロムウェル
皇宮入りと婚約と/ たった1人
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自分と異なる性が有るとは。
天地がひっくり返るほどの衝撃だった。
予備知識がある為か、ウィリアムは何て事ない様に話しているが、この記録は禁書にして正解だ。
魔力も使わず、己の血肉から人を創るなど、神の領域ではないのか?
これは神殿の奴らに知られたら、厄介どころの話じゃないぞ。
いや、別の性が有る事自体は、奴等も知っている可能性が高い。だが、レンが女だと知られたら、どんな難癖を付けてくるか、分かったもんじゃない。
「レンちゃん、女なんだ」
「そのようだ」
感慨深げなウィリアムに相槌を打つ。
「これは・・・幼児趣味とか言ってる場合じゃないね。少しでも早く婚約しちゃわないと」
「あぁ・・・そうだな」
俺の返事が不満なのか、ウィリアムが胡乱な瞳を向けてきた。
「どうしたのさ、急に大人しくなっちゃって。レンちゃんが、自分と全然違ってて、気に入らないワケ?」
「そんなわけあるかッ!!」
じゃあ、なんなのさ。と拗ねた口調に自分の想いをまとめてみる。
今俺が感じている一番の感情は、喜びだ。
そう、ほっとしたと言ってもいい。
もし、レンが男として、俺たちと同じ体で招来されていたら、ヨシタカの様に、俺に嫌悪感を抱いて、触れることさえ許されなかったかもしれない。
だが、レンは女で、俺はレンの伴侶たりえる資格がある。
それは素直に嬉しい。
嬉しいが、同じ性を持つ者が1人もいないこの世界へ、何のためかは知らないが、親しい者達から切り離し、放り込んだアウラへ怒りも湧くし、喜びを感じる自分に、嫌悪と罪悪感を感じる。
それでも、今ではレンのいない人生を想像することさえ出来ない。
「そうだね。レンちゃんは1人だ。歴代の愛し子を含めても、この世界で初めての、たったひとりの女だ」
「たった・・・ひとり」
世界で唯一の俺の番。
命を賭して守るべき女
「元気だしなよ。お兄ちゃんも頑張るからさ」
「ははは・・・」
「僕達2人が、力を合わせたら無敵でしょ?」
「そうだな」
11年前、俺はウィリアムのために剣を取り、2人で力を合わせて戦い抜いた。
今度だって、レンを守り抜くことが出来る筈だ。
「深刻な顔はやめて、2人の婚約式の話でもしようよ」
わかったと頷いた時、ついさっきまで規則正しかったレンの呼吸が、乱れているのに気が付いた。
「?!・・・レン!!」
何があった?!
立ち上がった俺は、ソファーを飛び越え寝室へと走った。
ベットの上のレンは、両腕で体を抱くように蹲っていた。
「どうした?・・・苦しいのか?」
「あ・・レクさん?・・・ごめ・・なさい」
抱き上げた身体は、細かく震え、額には脂汗が浮かんで、か細い声が今にも消えてしまいそうだ。
「何故謝る。何処が苦しいんだ?怪我したところか?」
「か・・・体中・・・いたい」
痛みに耐えようと、俺のシャツを掴んだ指先が白くなっている。
「治癒師を呼べ!!早く!!」
俺の怒鳴り声に、律儀にドアの前で様子を見ていたウィリアムが、飛び上がって踵を返した。
「大丈夫だ。直ぐに治癒師が来るからな」
頷いた小さな背中を、掌でゆっくり撫でた。
「落ち着いて、ゆっくり息をして・・・そうゆっくり」
レンは言われた通りにしようとしているが、痛みが酷いせいか、どうしても呼吸が浅くなる。
「大丈夫、心配するな?」
顔を覗き込むと、痛みで浮かんだ涙で、濡れた瞳に銀の虹彩がキラキラと光っている。
こんな時でも美しいとは。
この人は俺をどうしたいんだ。
「んっ・・うう」
痛みに耐えるためか、噛み締めた唇が赤くなっている。
「あぁ。ダメだ唇が傷ついてしまう。俺の腕を噛んでいいから、唇を噛んじゃダメだ」
「や・・できない・・・」
フルフルと首を振る番は、なんて優しくて健気なんだ。痛みで苦しい筈なのに俺の心配をしてくれるなんて。
俺は無力だ。番が苦しんでいるのに、痛みを変わってやる事もできない。
「ウィリアム!!治癒師はまだかっ?!」
「今パフォスが向かって・・・・来たよ!!」
初老のパフォスは皇帝付きで、皇宮内で一番腕の良い治癒師だ。
相当急かされたのだろう、駆け込んできたパフォスの首には汗が流れ、肩で息をしている。
「パフォス、すまんがレンの手足以外には触れないでくれ」
無茶なことを、と言いたそうな顔をしたが、パフォスは黙って頷いた。
長年宮廷医として生きてきたパフォスは、無理難題を吹っかける高位貴族に慣れている筈だ。皆が皆、正論が通る相手ではないと、骨身に染みているだろう。
俺としては、番の健康が最優先では有るが、皇帝付きの治癒師とはいえ、パフォスを信用して良いのか判断できない以上、今はまだ、レンの体と性の違いを知られる訳にはいかないのだ。
「レン様とお呼びしてもよろしいですか?」
「・・・は い」
「私はパフォスと申します。お体の不調を診させて頂きますので、お手をよろしいか?」
パフォスの問いかけに、レンは震える手を差し出した。
時折質問を挿みながら、診察を行なっていたパフォスは、嵌めていたモノクルを外し、胸のポケットに仕舞こんだ。
「レン様、失礼ですが、お年を伺えますか?」
「にじゅう・・・ごです」
ん? 俺は今、聞き間違えたのか?
「レンは15歳なのだな?」
聞き直すと、レンはフルフルと首を振り、右手の指を2本立て、左手をいっぱいにひろげて「25です」と言い直した。
25?
未成年どころか、俺と3つしか違わない?
とっくに成人してるよな?
嘘だろ、幼く見えるにもほどがある。
じゃあ、今までの俺の葛藤は何だったん
だ?
成人してるからと、文句を言っている訳じゃないぞ。俺としては万々歳だが・・・・。
やっぱり小さすぎないか?
天地がひっくり返るほどの衝撃だった。
予備知識がある為か、ウィリアムは何て事ない様に話しているが、この記録は禁書にして正解だ。
魔力も使わず、己の血肉から人を創るなど、神の領域ではないのか?
これは神殿の奴らに知られたら、厄介どころの話じゃないぞ。
いや、別の性が有る事自体は、奴等も知っている可能性が高い。だが、レンが女だと知られたら、どんな難癖を付けてくるか、分かったもんじゃない。
「レンちゃん、女なんだ」
「そのようだ」
感慨深げなウィリアムに相槌を打つ。
「これは・・・幼児趣味とか言ってる場合じゃないね。少しでも早く婚約しちゃわないと」
「あぁ・・・そうだな」
俺の返事が不満なのか、ウィリアムが胡乱な瞳を向けてきた。
「どうしたのさ、急に大人しくなっちゃって。レンちゃんが、自分と全然違ってて、気に入らないワケ?」
「そんなわけあるかッ!!」
じゃあ、なんなのさ。と拗ねた口調に自分の想いをまとめてみる。
今俺が感じている一番の感情は、喜びだ。
そう、ほっとしたと言ってもいい。
もし、レンが男として、俺たちと同じ体で招来されていたら、ヨシタカの様に、俺に嫌悪感を抱いて、触れることさえ許されなかったかもしれない。
だが、レンは女で、俺はレンの伴侶たりえる資格がある。
それは素直に嬉しい。
嬉しいが、同じ性を持つ者が1人もいないこの世界へ、何のためかは知らないが、親しい者達から切り離し、放り込んだアウラへ怒りも湧くし、喜びを感じる自分に、嫌悪と罪悪感を感じる。
それでも、今ではレンのいない人生を想像することさえ出来ない。
「そうだね。レンちゃんは1人だ。歴代の愛し子を含めても、この世界で初めての、たったひとりの女だ」
「たった・・・ひとり」
世界で唯一の俺の番。
命を賭して守るべき女
「元気だしなよ。お兄ちゃんも頑張るからさ」
「ははは・・・」
「僕達2人が、力を合わせたら無敵でしょ?」
「そうだな」
11年前、俺はウィリアムのために剣を取り、2人で力を合わせて戦い抜いた。
今度だって、レンを守り抜くことが出来る筈だ。
「深刻な顔はやめて、2人の婚約式の話でもしようよ」
わかったと頷いた時、ついさっきまで規則正しかったレンの呼吸が、乱れているのに気が付いた。
「?!・・・レン!!」
何があった?!
立ち上がった俺は、ソファーを飛び越え寝室へと走った。
ベットの上のレンは、両腕で体を抱くように蹲っていた。
「どうした?・・・苦しいのか?」
「あ・・レクさん?・・・ごめ・・なさい」
抱き上げた身体は、細かく震え、額には脂汗が浮かんで、か細い声が今にも消えてしまいそうだ。
「何故謝る。何処が苦しいんだ?怪我したところか?」
「か・・・体中・・・いたい」
痛みに耐えようと、俺のシャツを掴んだ指先が白くなっている。
「治癒師を呼べ!!早く!!」
俺の怒鳴り声に、律儀にドアの前で様子を見ていたウィリアムが、飛び上がって踵を返した。
「大丈夫だ。直ぐに治癒師が来るからな」
頷いた小さな背中を、掌でゆっくり撫でた。
「落ち着いて、ゆっくり息をして・・・そうゆっくり」
レンは言われた通りにしようとしているが、痛みが酷いせいか、どうしても呼吸が浅くなる。
「大丈夫、心配するな?」
顔を覗き込むと、痛みで浮かんだ涙で、濡れた瞳に銀の虹彩がキラキラと光っている。
こんな時でも美しいとは。
この人は俺をどうしたいんだ。
「んっ・・うう」
痛みに耐えるためか、噛み締めた唇が赤くなっている。
「あぁ。ダメだ唇が傷ついてしまう。俺の腕を噛んでいいから、唇を噛んじゃダメだ」
「や・・できない・・・」
フルフルと首を振る番は、なんて優しくて健気なんだ。痛みで苦しい筈なのに俺の心配をしてくれるなんて。
俺は無力だ。番が苦しんでいるのに、痛みを変わってやる事もできない。
「ウィリアム!!治癒師はまだかっ?!」
「今パフォスが向かって・・・・来たよ!!」
初老のパフォスは皇帝付きで、皇宮内で一番腕の良い治癒師だ。
相当急かされたのだろう、駆け込んできたパフォスの首には汗が流れ、肩で息をしている。
「パフォス、すまんがレンの手足以外には触れないでくれ」
無茶なことを、と言いたそうな顔をしたが、パフォスは黙って頷いた。
長年宮廷医として生きてきたパフォスは、無理難題を吹っかける高位貴族に慣れている筈だ。皆が皆、正論が通る相手ではないと、骨身に染みているだろう。
俺としては、番の健康が最優先では有るが、皇帝付きの治癒師とはいえ、パフォスを信用して良いのか判断できない以上、今はまだ、レンの体と性の違いを知られる訳にはいかないのだ。
「レン様とお呼びしてもよろしいですか?」
「・・・は い」
「私はパフォスと申します。お体の不調を診させて頂きますので、お手をよろしいか?」
パフォスの問いかけに、レンは震える手を差し出した。
時折質問を挿みながら、診察を行なっていたパフォスは、嵌めていたモノクルを外し、胸のポケットに仕舞こんだ。
「レン様、失礼ですが、お年を伺えますか?」
「にじゅう・・・ごです」
ん? 俺は今、聞き間違えたのか?
「レンは15歳なのだな?」
聞き直すと、レンはフルフルと首を振り、右手の指を2本立て、左手をいっぱいにひろげて「25です」と言い直した。
25?
未成年どころか、俺と3つしか違わない?
とっくに成人してるよな?
嘘だろ、幼く見えるにもほどがある。
じゃあ、今までの俺の葛藤は何だったん
だ?
成人してるからと、文句を言っている訳じゃないぞ。俺としては万々歳だが・・・・。
やっぱり小さすぎないか?
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