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アレクサンドル・クロムウェル
皇宮入りと婚約と/ 性別とは
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「未成年だよ?大丈夫?」
「婚約だけなら、未成年でもOKか?」
ブツブツ、ウロウロしていたウィリアムだが、グリーンヒルが戻ると、飛びつくように話し始めた。
身振り手振りを交えた、ウィリアムの大袈裟な話しぶりにも慣れているのか、グリーンヒルも最初は落ち着いて耳を傾けていたが、内容が婚約の件に至ると、顔を引き攣らせた。
「一旦火のついた獣人を、止められる者なんていませんね」
と諦めの溜息を吐いた。
「閣下の仰る通り、婚約だけなら法的な問題はありません。それに最善の策ではありますが・・・小児性愛者の鬼畜とは言われるでしょうな」
「ほら!やっぱり~~~!!」
ウィリアムは頭を抱えたが、俺にはどうでも良いことだ。
「アレクは、本当は優しくて、いい子なのに」とウィリアムは嘆いていたが、元々泥まみれの俺の評判など、悪名の一つ二つ増えたところで、大した違いはない。
場が落ちつたところで、グリーンヒルは婚約の申請書と許可証を用意するために席を外し、俺とウィリアムは、客間のソファーでテーブルを挟み、向かい合う形で腰を下ろした。
軽食を摘みながら、ザンド村での神官達の動きや、ミーネの森の神殿での出来事を報告した。
ネサルについては、ウィリアムも失念していたらしく、報告した神殿の価値の高さからも、一度調べ直すこととなった。
報告の間も、俺は寝室で眠るレンの気配を追い続けた。
眠っているのだから、何処かに行く訳もなく、獣人の俺の耳には、規則正しい寝息が聞こえている。
目覚めたら、何か食事を用意してあげないと。
やはり消化の良いスープが良いだろうな・・・と何食わぬ顔で考えていた。
報告があらかた終わったところで、最重要案件に取りかかる。
「これは、他言無用で願いたいのだが・・・」
と切り出すとウィリアムも居住まいを正した。
「実はな・・・レンの事なんだが・・・・」
自分から言い出した事だが、身体的特徴に関わることを、勝手に他人に話しても良いのだろうか。
逡巡する俺に、ウィリアムが痺れを切らした。
「どうしたの?らしくないよ?」
「うむ」
そうは言われても、なかなか踏ん切りがつかない。
「アレクが他言無用って言うなら、僕は誰にも漏らさないよ?少しはお兄ちゃんを信用して、何でも打ち明けてごらん?」
今日一の良い笑顔で言うウィリアムに、思わず笑ってしまった。
「三月しか離れていない弟に、土下座する兄にか?」
もう忘れてよ!と笑う顔に、俺の肩の力も抜けた様だ。
「その・・・レンの躰なんだが・・・俺達と全く違う様でな?病という訳ではないと思うのだが・・・」
「違うって、どんな風に?」
聞かれて灯火に浮かんだ白く艶かしい肌や、果実の様に豊かでまろい胸を思い出して、顔に熱が集まった。
「その・・・胸が・・・ある・・・・それとあるべき物が無い」
それを聞いたウィリアムの顔が青くなった。
「胸って、なに?裸見たの?」
「いやッ!決して邪な考えじゃ無いぞ!!レンの服が血で汚れていたから、下着はつけたままだし、着替えさせようと・・・見た」
「何やってんの?そんなの洗浄魔法で、チャチャっと済ませれば良いじゃない!あとで怒られても、僕知らないよ?」
こればかりは、ウィリアムのいう通りなので、何も言い返せない。
「それで、同じような記録はないか?」
腕を組んだウィリアムは、何かを諳んじるように空を見つめていたが、何かを思いついたのか、ソファーから立ち上がると、窓際に置かれたティーテーブルに歩み寄った。
そこに積み上げられた本の中から、数冊を選り分け、ソファーに戻ったウィリアムは、その中の一冊をテーブルの上で開いて、頁を捲り始めた。
「う~ん。確かこの辺りに・・あっあった!ここ此処、ほら読んで」
言われるが儘、指で示された箇所に目を通した。
それは、ヨシタカとの異界に関する会話を纏めたものだった。
その内容は、要約すると。
ヨシタカが居た異界の人間には、男と女と呼ばれる二つの性があり、我々やヨシタカの様な体を持つ者は、男と呼ばれていたらしい。
我々の様に、誰もが子を成せる訳ではなく、男は子を産むことが出来ないとある。
逆に子を宿せるのは、女と呼ばれる身体を持つもので、男より体は小さいが、腹の中で、自分の血肉を分けて子を育て、十月十日の後、子を赤子の形で産み落とすのだという。
子を産む行為は命懸けで、命を落とす者も少なくないようだ。
無事に子を産むことが出来ても、赤子の死亡率は高く、女は自分の胸から出る乳を飲ませながら、大切に子を育てるのだそうだ。
「・・・子を創って育てるのに、魔力を使わないのか?」
呆然とする俺に、ウィリアムは頷いてみせた。
「そうみたいだね。ヨシタカ様は、異界でも此方でも、独身を貫いた方なんだけど。異界では若すぎて、婚姻できる年じゃなくて。此方では異界で言う、男同士の婚姻っていうか、同性との肉体的な関係に、嫌悪感をお持ちだったみたい」
「なっなるほど?」
「っで、この二冊は、もっと古い記録なんだけど、異界の婚姻制度に触れた箇所があって、一夫一婦制だったり、一夫多妻だったり、その辺は時代によって違ったみたい。でも婚姻関係を結べるのは、男と女の組み合わせだけだってある」
俺は今まで、自分と違う性が有るなどと考えた事も無かった。体格の差はあれど、皆同じ体を持っているのが当たり前だと思っていたのだ。
「婚約だけなら、未成年でもOKか?」
ブツブツ、ウロウロしていたウィリアムだが、グリーンヒルが戻ると、飛びつくように話し始めた。
身振り手振りを交えた、ウィリアムの大袈裟な話しぶりにも慣れているのか、グリーンヒルも最初は落ち着いて耳を傾けていたが、内容が婚約の件に至ると、顔を引き攣らせた。
「一旦火のついた獣人を、止められる者なんていませんね」
と諦めの溜息を吐いた。
「閣下の仰る通り、婚約だけなら法的な問題はありません。それに最善の策ではありますが・・・小児性愛者の鬼畜とは言われるでしょうな」
「ほら!やっぱり~~~!!」
ウィリアムは頭を抱えたが、俺にはどうでも良いことだ。
「アレクは、本当は優しくて、いい子なのに」とウィリアムは嘆いていたが、元々泥まみれの俺の評判など、悪名の一つ二つ増えたところで、大した違いはない。
場が落ちつたところで、グリーンヒルは婚約の申請書と許可証を用意するために席を外し、俺とウィリアムは、客間のソファーでテーブルを挟み、向かい合う形で腰を下ろした。
軽食を摘みながら、ザンド村での神官達の動きや、ミーネの森の神殿での出来事を報告した。
ネサルについては、ウィリアムも失念していたらしく、報告した神殿の価値の高さからも、一度調べ直すこととなった。
報告の間も、俺は寝室で眠るレンの気配を追い続けた。
眠っているのだから、何処かに行く訳もなく、獣人の俺の耳には、規則正しい寝息が聞こえている。
目覚めたら、何か食事を用意してあげないと。
やはり消化の良いスープが良いだろうな・・・と何食わぬ顔で考えていた。
報告があらかた終わったところで、最重要案件に取りかかる。
「これは、他言無用で願いたいのだが・・・」
と切り出すとウィリアムも居住まいを正した。
「実はな・・・レンの事なんだが・・・・」
自分から言い出した事だが、身体的特徴に関わることを、勝手に他人に話しても良いのだろうか。
逡巡する俺に、ウィリアムが痺れを切らした。
「どうしたの?らしくないよ?」
「うむ」
そうは言われても、なかなか踏ん切りがつかない。
「アレクが他言無用って言うなら、僕は誰にも漏らさないよ?少しはお兄ちゃんを信用して、何でも打ち明けてごらん?」
今日一の良い笑顔で言うウィリアムに、思わず笑ってしまった。
「三月しか離れていない弟に、土下座する兄にか?」
もう忘れてよ!と笑う顔に、俺の肩の力も抜けた様だ。
「その・・・レンの躰なんだが・・・俺達と全く違う様でな?病という訳ではないと思うのだが・・・」
「違うって、どんな風に?」
聞かれて灯火に浮かんだ白く艶かしい肌や、果実の様に豊かでまろい胸を思い出して、顔に熱が集まった。
「その・・・胸が・・・ある・・・・それとあるべき物が無い」
それを聞いたウィリアムの顔が青くなった。
「胸って、なに?裸見たの?」
「いやッ!決して邪な考えじゃ無いぞ!!レンの服が血で汚れていたから、下着はつけたままだし、着替えさせようと・・・見た」
「何やってんの?そんなの洗浄魔法で、チャチャっと済ませれば良いじゃない!あとで怒られても、僕知らないよ?」
こればかりは、ウィリアムのいう通りなので、何も言い返せない。
「それで、同じような記録はないか?」
腕を組んだウィリアムは、何かを諳んじるように空を見つめていたが、何かを思いついたのか、ソファーから立ち上がると、窓際に置かれたティーテーブルに歩み寄った。
そこに積み上げられた本の中から、数冊を選り分け、ソファーに戻ったウィリアムは、その中の一冊をテーブルの上で開いて、頁を捲り始めた。
「う~ん。確かこの辺りに・・あっあった!ここ此処、ほら読んで」
言われるが儘、指で示された箇所に目を通した。
それは、ヨシタカとの異界に関する会話を纏めたものだった。
その内容は、要約すると。
ヨシタカが居た異界の人間には、男と女と呼ばれる二つの性があり、我々やヨシタカの様な体を持つ者は、男と呼ばれていたらしい。
我々の様に、誰もが子を成せる訳ではなく、男は子を産むことが出来ないとある。
逆に子を宿せるのは、女と呼ばれる身体を持つもので、男より体は小さいが、腹の中で、自分の血肉を分けて子を育て、十月十日の後、子を赤子の形で産み落とすのだという。
子を産む行為は命懸けで、命を落とす者も少なくないようだ。
無事に子を産むことが出来ても、赤子の死亡率は高く、女は自分の胸から出る乳を飲ませながら、大切に子を育てるのだそうだ。
「・・・子を創って育てるのに、魔力を使わないのか?」
呆然とする俺に、ウィリアムは頷いてみせた。
「そうみたいだね。ヨシタカ様は、異界でも此方でも、独身を貫いた方なんだけど。異界では若すぎて、婚姻できる年じゃなくて。此方では異界で言う、男同士の婚姻っていうか、同性との肉体的な関係に、嫌悪感をお持ちだったみたい」
「なっなるほど?」
「っで、この二冊は、もっと古い記録なんだけど、異界の婚姻制度に触れた箇所があって、一夫一婦制だったり、一夫多妻だったり、その辺は時代によって違ったみたい。でも婚姻関係を結べるのは、男と女の組み合わせだけだってある」
俺は今まで、自分と違う性が有るなどと考えた事も無かった。体格の差はあれど、皆同じ体を持っているのが当たり前だと思っていたのだ。
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