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アレクサンドル・クロムウェル
皇宮入りと婚約と/皇宮へ
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最も信頼する、腹心の部下2人に後を任せ、俺はレンを連れて森の神殿を後にした。
森に繋がるポータルから出ると、ミーネの森の様子は一変していた。
神殿を探して、彷徨い歩いた3日間は、拍子抜けするほど穏やかだったが、今は街道へ抜けるまでの間に、ライノの群れに遭遇し、興奮しきったジャイアントボアに追いかけ回された。
やって殺れない相手ではないが、レンを連れている以上無理はできない。
ライノの群れには、ポータルから出て直ぐに、まるで待ち構えていたかのように、一瞬で取り囲まれた。
ライノは一頭の大きさが、乗合馬車の荷台ほども有り、更に鼻の上に伸びた角から、魔力の斬撃を飛ばして来る、厄介な魔獣だ。
しかも単体でいる事は稀で、10頭前後の群れを作っている。
厄介な相手だったが、頭から三番目までの、体の大きなライノを雷撃で丸焦げにしてやると、統率するものを失い、群れの動きが鈍った所で、ブルーベルの脚で逃げ切った。
群れのリーダーと、序列高位と見られる個体を失ったライノの群れは、暫くの間は、リーダー争いで忙しくなるはずだ。
そうなれば、後に残したマーク達も討伐がやり易くなるだろう。
一息着く間も無く、現れた巨大なジャイアントボアは、ライノの群れより面倒だった。
通常ジャイアントボアは、余程飢えていない限り、こちらが交戦の意思を見せなければ、深追いをしてこないものだ。
しかしコイツは腹が減っているのか、余程気に食わないことが有ったのか、執拗に俺たちの後を追って来る。
魔獣を見慣れた俺の目にも、その姿は異様に映った。
皇都までの道のりは長く、こんな所でブルーベルを疲れさせる訳には行かない。
森の開けた場所に出た俺は、ブルーベルを反転させて、追ってくる巨獣と対峙した。
巨躯の割に、つぶらな瞳を持つジャイアントボアだが、今は二つの目を赤い攻撃色に光らせ、荒い息と共に、涎を垂れ流す姿は、やはり異様だった。
残して来た団員達の手間を考えると、コイツも此処で仕留めてしまった方がいいだろう。
腰から剣を抜き、つかに嵌め込んだ魔晶石に魔力を込める。
間合いを測るかの様に、前足で土を掻いていた巨獣が、身を躍らせて突進してきた。
3ミーロ迄近づいた所で、剣に貯めた魔力を解放する。
空気が凍り、ジャイアントボアの体毛に霜が降りる。
己の身に起こった異変に気付いたのか、慌てて足を止めたジャイアントボアだが、もう遅い。
俺の可愛い番を、危険に晒すヤツを、俺が簡単に許すとでも?
伸ばした左腕の掌をぐっと握り込むと、凍てついた空気が一気に巨獣へと集まり、ギチッと音を立てて、巨大な氷の塊に変化した。
氷漬けジャイアントボアの完成だ。
今の季節なら、氷が溶けるまで3.4日と言ったところか。
それ迄生きていられるかは、コイツ次第だが、俺の番に手を出す様な奴に、掛ける情けなど無い。
加えてザンド村への被害を考えると、こんな気性の荒いヤツを放置も出来ない。
ジャイアントボアから採れる素材は貴重だが、後々の憂いとならぬ様、氷ごと打ち砕いて、息の根を止めてやった。
街道に出てからの道行は、森での襲撃が嘘の様に順調だった。
ブルーベルが疲れを見せると、休憩をとり。俺はレンの寝顔を思う存分堪能して、英気を養った。
本音を言えば、あのキラキラした黒い瞳で見つめて欲しかったし、涼やかな声も聞きたかった。
だが、眠っているお陰で無駄に怖い思いをさせる事もなく、俺が抱える事で、エンラでの移動の負担も少ない筈だ。
ふと、このまま二度と目覚めなかったら?
と嫌な考えが頭を過ぎり、肝が冷える事もあったが、あれ程の深傷を負った上で、魔力切れを起こしたのだから、今は回復の為に眠っているだけだと、自分に言い聞かせ、ブルーベルを走らせ続けた。
そんな俺の心情を察してか、ブルーベルの足取りは軽く、後続を気にする必要も無かったお陰で、行きに2日かかった行程を、1日半で駆け抜けることが出来た。
これは歴代早駆け記録1位となり、俺が死ぬ迄、この記録が塗り替えられることは無かった。
最速で皇宮に入った俺は、出迎えた侍従にブルーベルを任せ、腕に抱いたレンと共に、皇宮内の自室へと足を向けた。
気が急いて、大股で自室に向かう俺の後ろを、慌ただしい足音が追い掛けて来た。
何事かと振り向くと、現れたのはグリーンヒルだった。
「閣下・・・どちらに・・・・行かれるおつもりです?」
中腰で膝に手を当てた体勢で、ゼエゼエと荒い息を吐くグリーンヒルが問うて来た。
「俺の部屋だ」
文句があるか?と見下ろす俺に、ズレたメガネを直しながら、グリーヒルが舌打ちをした。
幾ら宰相といえど、位格は俺の方が上なのに、失礼すぎないか?
「陛下から話を伺った時は、まさか、と思いましたが、少しは物を考えて行動してもらえませんか?」
宰相殿は何を言っているんだ?
俺は番を休ませてあげたいだけなのだが?
森に繋がるポータルから出ると、ミーネの森の様子は一変していた。
神殿を探して、彷徨い歩いた3日間は、拍子抜けするほど穏やかだったが、今は街道へ抜けるまでの間に、ライノの群れに遭遇し、興奮しきったジャイアントボアに追いかけ回された。
やって殺れない相手ではないが、レンを連れている以上無理はできない。
ライノの群れには、ポータルから出て直ぐに、まるで待ち構えていたかのように、一瞬で取り囲まれた。
ライノは一頭の大きさが、乗合馬車の荷台ほども有り、更に鼻の上に伸びた角から、魔力の斬撃を飛ばして来る、厄介な魔獣だ。
しかも単体でいる事は稀で、10頭前後の群れを作っている。
厄介な相手だったが、頭から三番目までの、体の大きなライノを雷撃で丸焦げにしてやると、統率するものを失い、群れの動きが鈍った所で、ブルーベルの脚で逃げ切った。
群れのリーダーと、序列高位と見られる個体を失ったライノの群れは、暫くの間は、リーダー争いで忙しくなるはずだ。
そうなれば、後に残したマーク達も討伐がやり易くなるだろう。
一息着く間も無く、現れた巨大なジャイアントボアは、ライノの群れより面倒だった。
通常ジャイアントボアは、余程飢えていない限り、こちらが交戦の意思を見せなければ、深追いをしてこないものだ。
しかしコイツは腹が減っているのか、余程気に食わないことが有ったのか、執拗に俺たちの後を追って来る。
魔獣を見慣れた俺の目にも、その姿は異様に映った。
皇都までの道のりは長く、こんな所でブルーベルを疲れさせる訳には行かない。
森の開けた場所に出た俺は、ブルーベルを反転させて、追ってくる巨獣と対峙した。
巨躯の割に、つぶらな瞳を持つジャイアントボアだが、今は二つの目を赤い攻撃色に光らせ、荒い息と共に、涎を垂れ流す姿は、やはり異様だった。
残して来た団員達の手間を考えると、コイツも此処で仕留めてしまった方がいいだろう。
腰から剣を抜き、つかに嵌め込んだ魔晶石に魔力を込める。
間合いを測るかの様に、前足で土を掻いていた巨獣が、身を躍らせて突進してきた。
3ミーロ迄近づいた所で、剣に貯めた魔力を解放する。
空気が凍り、ジャイアントボアの体毛に霜が降りる。
己の身に起こった異変に気付いたのか、慌てて足を止めたジャイアントボアだが、もう遅い。
俺の可愛い番を、危険に晒すヤツを、俺が簡単に許すとでも?
伸ばした左腕の掌をぐっと握り込むと、凍てついた空気が一気に巨獣へと集まり、ギチッと音を立てて、巨大な氷の塊に変化した。
氷漬けジャイアントボアの完成だ。
今の季節なら、氷が溶けるまで3.4日と言ったところか。
それ迄生きていられるかは、コイツ次第だが、俺の番に手を出す様な奴に、掛ける情けなど無い。
加えてザンド村への被害を考えると、こんな気性の荒いヤツを放置も出来ない。
ジャイアントボアから採れる素材は貴重だが、後々の憂いとならぬ様、氷ごと打ち砕いて、息の根を止めてやった。
街道に出てからの道行は、森での襲撃が嘘の様に順調だった。
ブルーベルが疲れを見せると、休憩をとり。俺はレンの寝顔を思う存分堪能して、英気を養った。
本音を言えば、あのキラキラした黒い瞳で見つめて欲しかったし、涼やかな声も聞きたかった。
だが、眠っているお陰で無駄に怖い思いをさせる事もなく、俺が抱える事で、エンラでの移動の負担も少ない筈だ。
ふと、このまま二度と目覚めなかったら?
と嫌な考えが頭を過ぎり、肝が冷える事もあったが、あれ程の深傷を負った上で、魔力切れを起こしたのだから、今は回復の為に眠っているだけだと、自分に言い聞かせ、ブルーベルを走らせ続けた。
そんな俺の心情を察してか、ブルーベルの足取りは軽く、後続を気にする必要も無かったお陰で、行きに2日かかった行程を、1日半で駆け抜けることが出来た。
これは歴代早駆け記録1位となり、俺が死ぬ迄、この記録が塗り替えられることは無かった。
最速で皇宮に入った俺は、出迎えた侍従にブルーベルを任せ、腕に抱いたレンと共に、皇宮内の自室へと足を向けた。
気が急いて、大股で自室に向かう俺の後ろを、慌ただしい足音が追い掛けて来た。
何事かと振り向くと、現れたのはグリーンヒルだった。
「閣下・・・どちらに・・・・行かれるおつもりです?」
中腰で膝に手を当てた体勢で、ゼエゼエと荒い息を吐くグリーンヒルが問うて来た。
「俺の部屋だ」
文句があるか?と見下ろす俺に、ズレたメガネを直しながら、グリーヒルが舌打ちをした。
幾ら宰相といえど、位格は俺の方が上なのに、失礼すぎないか?
「陛下から話を伺った時は、まさか、と思いましたが、少しは物を考えて行動してもらえませんか?」
宰相殿は何を言っているんだ?
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