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アレクサンドル・クロムウェル

邂逅/ 外堀を埋めるなら迅速に2

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 天幕の外に出て、籠から出した鳥にウィリアムの名を告げると、ダンプティーは夜空に赤い魔力の尾を引いて、あっという間に見えなくなった。

 空になった鳥籠を手に、天幕に戻ると、3人が俺の話を聞こうと、待ち構えていた。

「陛下への急ぎの知らせとは、愛し子に何かありましたか?」
 口火を切ったのはマークだった。

 それは・・・有ったし、無かったな。

「それについては、陛下と話してからだ」

 そう言うと、騎士としての規範が染み付いたマークとミュラーは黙ったが、ロロシュは違った。

「ここまで来て、ダンマリとかねえよなぁ?オレ結構役に立っただろ?」
「まぁ、そうだな」
「だったら、教えてくれても良いんじゃね?」

 こいつの気安い態度も嫌いではないが、少し考えものだな。

「駄目だ。陛下との話しもだが、何よりレンの承諾を得ていない。レンの承諾がなければ話すことはない」
 キッパリと言い切ると、ロロシュは不満そうに鼻に皺を寄せた。
「チェッ!オレ達、愛し子の顔もろくに見てないのに」
「見ただろ?治癒魔法をかけた時に」
「いいや、見てない!閣下が顔が見えないように抱き寄せてたじゃないか?!」
「そうか?気づかなかったな。どの道お前はレンに近付くな」
「はあ?何でだよ!減るもんじゃあるまいし!」

 いいや、減る。
 少なくとも俺の忍耐力は減る。

「幼気な子供に、お前の様な汚れた大人が近付けば、碌な事にならん」
「ちょっと!酷くない?」

 ロロシュは俺を指差し、助けを求めるようにマークとミュラーを見たが、マークから「言い得て妙ですね」と駄目押しをされて、ガックリと肩を落とした。

「なんだよ。兄弟揃って俺の扱い雑すぎ」
 フンと鼻を鳴らしてロロシュをいなし、話を仕切り直した。

「其れはそれとして、お前達に頼みがある」
「どういった事でしょう」
 とマークとミュラーは居住まいを正した。

「夜明け前に、俺はレンを連れて皇都に戻る、2人には、アガスの足止めを頼みたい」
「先ほどの話と、関係あるんですか?」
 と言うマークの言葉をミュラーが受けて
「神殿に知られたくない事なんですね?」と確認してくる。

「それも有るが、神殿に横槍を入れられる前に、婚約を済ませておこうと思ってな」
「はあ?相手はまだ子供じゃねぇか!子供相手に何する気だよ、この変態!?」
「ロロシュ。不敬ですよ」
 まぁ、気持ちは分かりますが。
 とマークも一言多い。
 この短期間でロロシュの影響を受け過ぎじゃないか?

「何か問題あるか?」
「あるよ!大有りだ!!相手は人族の子供だぞ?」
「求愛を飛ばして、婚約なさるのですか?」

 マークとロロシュは正反対の性格かと思ったが、変なところで真面目なのが似ている気がする。

「私は良いと思いますよ?」
「ミュラーまで何言ってんだよ」
「閣下が幼児趣味とか言われたら、どうするんですか?」
「それは困りますね」
 とミュラーは笑い、ですが、と続けた。

「愛し子を一刻も早く皇宮に入れ、陛下の名前で愛し子の招来と、皇家が庇護者となったことを万民に証し、且つ大公である閣下との婚約を発表すれば、愛し子が皇家と共にある事は明らかです。守護者として閣下以上に優れた方は居ないわけですから、神殿側としても、おいそれとは手出し出来ないでしょう」

「閣下の幼児趣味疑惑が・・・」
 とマークはしつこく渋った声を出した。

「レンは俺の番だ。番を迎えたのだから、婚約もおかしな話では無いだろう?」
「でも、未成年の子供に婚約紋を刻むのは、負担が大き過ぎませんか?」
「猫科が紋を刻むのは、頸から首筋にかけてだ。髪で隠せる」

 俺の言葉の意味に気づいたロロシュが、ニヤリと笑った。

「つまり婚約発表は、表向きに取り急いで行うが、紋を刻むのは成人を待つってことか?」
 企むねぇ。とロロシュは茶化したが、椅子にだらしなく腰掛けていた居住まいを正し、真面目な顔で聞いてきた。

「マジで、我慢できるのか?」
「できる出来ないの話ではない。俺は悪鬼と呼ばれはするが、鬼畜では無いからな、手順は守る」
「そうは言っても、あと10年もだぜ?」
 とロロシュは皮肉ってきた。
「話し方もしっかりしていたし、そこまで幼くはないだろう?」
 と子持ちにミュラーに助けを求めた。

「そうですねぇ。サイズ的には10歳程度に見えますが、愛し子は異界から招来される訳ですし、ヨシタカ様も小柄な方だった様ですから、体の大きさだけで、判断するのは性急過ぎると思いますよ?」

 慰めだとしてもミュラーの話は有難かった。
 40近くまで我慢を強いられるのは、流石にキツ過ぎる。

 年齢については、レンが目を覚ましたら本人に聞けばいい。
 この国の婚姻制度や、獣人の求愛行動についても、理解してくれると思う。
 レンとの会話は短いものだったが、受け答えもしっかりしていて、聡明さが窺えるものだった。

 美しく愛らしい上に、聡明さも併せ持つなど、俺の番は完璧じゃないか?

 そこまで考えて、レンのエコンの様なパッチリとした瞳を思い出してしまった。

 一度思い出してしまうと、レンの柔らかい唇や、甘い舌先と芋蔓式に掘り起こされて、さらに服を脱がせてから、最後まで致すところまでの妄想が膨らんで、膨らみ切ったそれを反芻し夢見心地だ。

 俺が何食わぬ顔で、空想の中でレンとの逢瀬を楽しむ間、頼もしい腹心の部下達は、アガスの足留めと帰還の手筈に付いて話し合っていた。

 その合間に
「誰彼構わずの牽制が、これから何年も続くなんて」
「八つ当たりされる団員達が不憫で」
「それ私達もですよ?」
「でもウサギよりマシだろ?」

 と不本意な言葉を吐いていたが、レンとの逢瀬の空想と、人族の番をどう落とすかの計画を立てるのに忙しく、気にはならなかった。

 外野は放って置いて、愛しい番をどう落とすかだが。

 やはり外堀を埋めるのが先決だ。
 そして一見其れとは分からない様に、大きな檻に入れて、思う存分甘やかし、俺から離れられないように、俺無しでは生きられないようにすれば良い。

 後はレンが、俺のところに落ちてくるのを待つだけだ。

 レン。早く俺の腕の中に落ちて来い。
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