獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

こむぎダック

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アレクサンドル・クロムウェル

邂逅/ 理性再び

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 落ち着け、アレクサンドル・クロムウェル。
 お前は大人で、相手は子供。
 しかも、怪我から回復したばかりの、弱った子供だ。

 お前は紳士だ。
 変態じゃないぞ!

 いいか?
 これは、怪我をした団員の世話と同じだぞ!

 呪いのようにブツブツと繰り返し、出来るだけ番から目を逸らして、胸に触れないように気を付けながら、血の汚れを落とした。

 服を着せ替える時には、黒く艶やかな髪から香る、芳しい香りにグラグラと揺れる本能を、ギリギリと奥歯で噛み潰した。

 全ての身繕いを終え、横たわる小さな体に毛布をかける頃には、疲労困憊、精も根も尽き果てて、太腿に肘を付いた両手に顔を埋めて、グッタリしてしまった。

 俺の番は12.3歳に見える。
 この国では18歳で成人だ。
 成人まで5~6年、もし見た目より幼かったら、それ以上の長い期間を我慢しなければならない。

 婚姻前に体の関係を持つ者は多い。
 だが、こんな華奢な躰で俺を受け入れられるだろうか?
 どんなに体格差があっても、番の躰はちゃんと受け入れられるようになっている、とはよく聞く話だが。
 俺は番に無理はさせたくない。

 今からこんなことで、俺は我慢し続けられるのか?
 こんな事が続いたら、俺の精神のほうが先にやられそうだ。

 そこで、ふと血のついたタオルを握り締めたままだったことに気づいた。
 精神的に疲れ切っていた俺は、桶にタオルを放り込んで、まとめて洗浄魔法をかけた。

「あっ?」

 俺は馬鹿か?
 洗浄魔法を掛ければ、態々清拭をする必要は無かっただろ?
 そうすれば、こんな拷問じみた時間を過ごす必要も無かったのに・・・・。

 自分の馬鹿さ加減にウンザリして、両手で顔を擦った。

 其れも此れも、俺の番が魅惑的すぎるのが悪い。
 いや、逆に良すぎるのが悪いと言うか。

 あぁ!!俺は何を言ってるんだ?!
 もう、訳がわからん!!
 混乱しすぎて、頭が爆発しそうだ!

 頭をガリガリと掻きむしりながら、規則正しい寝息を立てる、愛しい番を見下ろした。

 薬が効いたのか、頬に赤味が戻っている。
 何も知らない、無邪気とも言える寝顔に、愛しさが込み上げる。

 愛しさが膨らみ過ぎて、今すぐ外に飛び出して駆け回りたいような、これが自室だったなら、ベットにダイブして、枕をめちゃくちゃに殴りたいような。
 自分でも御しきれない感情に、本気でどうしたら良いのか分からない。

 そうだ仕事しよう。

 仕事をすれば、少しは頭を冷やすことが出来るだろう。

 通信鳥を飛ばすようにミュラーに言ったが、ミュラーの事だ、俺が追加する事がないか、確認待ちの状態だろう。

 今思いついたが、俺がこれ程混乱しているのは、きっと俺が愛し子について、何も知らなさ過ぎるからじゃないだろうか?
 本人から聞くのが一番だが、知識は多い方が良い。
 皇宮に戻ったら、直ぐに愛し子の記録を閲覧できるように、ウィリアムに頼んでおこう。

 帰還の手筈も確認して、ついでに水差しの水も取り替えたほうがいいだろう。

 番も今は容態が落ち着いている様だし、眠っているうちに済ませて仕舞えばいい。

 番を1人にするのは不安だが、部屋の入り口に結界を2枚・・・いや3枚張れば問題ないだろう。

 そうと決まれば、さっさと済ませてしまおうと、立ち上がった。
しかし、勢いがつき過ぎて、椅子の脚をガタリと鳴らしてしまった。
 しまったな。と思いながらサイドテーブルに乗せた水差しと木桶に手を伸ばした。

「天使様?」
「?」
 鈴を振る様な小さな声にふりむくと。
 宝石のように澄んだ、銀色の星が浮かぶ黒い瞳と目があった。
「あなたは天使様ですか?・・・・えっと・・日本語わかります?」

 天使?・・・・俺が?
 それより、俺は今、番に話し掛けられているのか?

 真剣に問い掛ける番の、なんと可愛らしいことか。

 あなたの方こそ、天使ではないのか?

「目が覚めたのだな」
「ここは天国じゃない?」
「違うな・・・」
 死んだと思う程、酷い目に遭ったのか?

「ヤベちゃん・・・矢部あかりさんは、どうしていますか?」
「ヤベと言うのは?」
「一緒にいた友達なんですけど・・・」

 呟く様な声は小さく、毛布を掴む指が、小さく震えている。

 余程怖い思いをしたんだろう。
 可哀想に。

 小さな手を掬い上げると、指先が冷たくなっていた。
 温めるように両手で包むと、俺の番は安心した様に、小さく息を吐いた。

 ただ手に触れただけなのに、ドキドキと早鐘を打つ心臓の音が、番にも聞こえてしまうのではと心配になる。

「君は1人でここに来た。ヤベと言う者の事は分からない」

 スマン、と謝ると、番は「いいんです」と首を横に振った。

「君はここに現れた時、酷い傷を負っていた。今は傷と魔力切れの治癒が終わったばかりだ。何処か具合の悪いところはないか?」
 俺の説明に“魔力切れ?”“治癒?”と小首を傾げる姿も愛おしい。

「少し頭がクラクラして、気持ち悪いです」
「そうか・・・それは魔力切れの症状だな。それに少し声も掠れている様だ。水は飲めるか?」

 大丈夫だとの答えに、俺は番の体を起こし水を入れたカップを手渡そうとしたが、手に力が入らないのか、うまく掴めないようだ。

 そこで番の背を俺の体にもたれさせ、水が飲みやすいようにカップを手で支えてやると、やはり喉が渇いていたのか、一杯目を直ぐに飲み干し、二杯目をついでやった。

 今度は少し時間をかけながら、半分ほどを飲んだところで、満足そうに息を吐き、「ありがとう」と微笑んでくれた。

 その可愛らしさに、悶絶しそうになるのを必死に堪え、俺は番の体をベッドに戻した。
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