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アレクサンドル・クロムウェル

邂逅/ 理性と欲望と

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 ミュラーに言われて、耳と尾をしまおうとしたが、どうにも上手くいかない。
 普段無意識に隠しているものだが、勝手が分からないとかでは無いと思う。

 動揺しずぎだ。俺もまだまだ青いな。

 深呼吸を繰り返し、集中することで漸くしまう事ができた。

 耳と尾を隠し、落ち着いたところで、マークに渡された着替えの服を広げると、貫頭衣とその上に羽織る上着だった。

 俺の番には、大き過ぎる気もするが、夜着と思えば問題ないだろう。

 水差しの水を桶に移し、魔力を込めて少し高めの温度に温め、タオルと一緒にサイドテーブルに置いた。

 眠っている番の首から背中に腕を入れ、上半身を起こして俺の躰ににもたれさせた。
 華奢な躰が倒れないように、左腕で抱えて、空いた右手で薬瓶の蓋を飛ばし、さくらんぼの様な唇に、回復薬を少量含ませた。

 やはりと言うか、眠っている者に薬液を飲ませるのは難しく、含ませた薬の殆どが、唇の端から流れてしまった。

 困ったぞ、病人用の吸い口なんて無いし。

 他にも薬を飲ませる方法がない訳じゃないが、問題は俺の方に有る。

 いや、これは医療行為だ。
 魔力切れは、時と場合によっては、生命の危険に晒される事もある。
 そう!これは医療行為!
 決して邪な気持ちではない。

 医療行為・イリョウコウイと何度か呟いて、己に言い聞かせ、回復薬を一口あおった。

 番の丸みを帯びた顎に指を当て唇を開かせ、小僧の様にドキドキと煩い心臓を無視して、番の唇に俺の唇を押し当てた。

 それだけで、意識が飛びそうになった。

 イリョウコウイ。

 そう頭の中で念じて、舌で小さな歯列を割り開き、そのまま少しづつ薬を流し込むと、番の喉がコクリと鳴って、薬を飲み込んだのが分かった。

 もう少し飲ませたほうが良いかと、一度目より多めに薬を口に含んで、同じように小さな口に流し込むと、コクコクと飲み込んでくれた。

 喉が渇いているのかもしれない。
 少し水も飲ませてあげようと唇を引こうとした時、番の小さな舌先が俺の舌裏を掠めた。

「ウッツ!」衝撃が背筋を走り抜け、俺は動けなくなった。

 なんて甘いんだ。

 このまま舌を絡ませ、口蓋を舐めまわし、歯列の一本一本を舌で確かめたい。
 この痺れるほど甘い舌を啜りあげたら、どんな声で鳴くのだろう?

 いいや、ダメだ!!
 成人もしていない、幼気な子供相手に何を考えてるんだ!?

 そうだ!着替え!
 着替えをさせてあげなくては!

 俺は不埒な誘惑と、必死に戦いながら、愛しい番の躰をベットに戻した。

 俺は帝国第二騎士団、団長、アレクサンドル・クロムウェル。
 俺は大人で、紳士だ。

 何度も口の中で呪文の様に唱えて、躰の中心に集まった熱を抑え込んだ。

 もう一度深呼吸してから、番の衣に手を伸ばした。
 番の身を包む衣には、ボタンの類が一つもなく、幾重にも重ねられた衣を、紐で結んで留めているだけの簡素な作りだった。

 だが、使われている布は元より、結ばれた紐でさえ滑らかで肌触りが良く、メイジアクネの最上級の糸で織られた布の様だ。

 こんな高級品を身に纏えるのなら、おそらく高位貴族の子供なのだろう。
 親と引き離され、たった1人で見知らぬ国に送り込まれたと知ったら、どれ程心細い事か。

 そう思い至ると、熱に浮かされ、理性を手放し掛けた己が恥ずかしくなった。

 何度目か分からない溜息を吐いて、サイドテーブルを引き寄せたが、桶の中の湯はすっかり冷めてしまっていた。

 血の汚れを清めてあげなくては。
 湯を温め直し、熱くなった湯に浸したタオルをきつく絞った。
 結ばれた紐を解き、番の躰を少し浮かせて上着を頭から引き抜いて、後は開くだけになった襟に指を伸ばし・・・。

 しまった!

 泉の前で見た、白い肌を思い出してしまった。

 あの時は動揺しすぎて気にならなかったが、今は違う。
 月の青い光と、揺らめく灯火に浮かんだ肌は、子供とは思えない程の妖艶さだった。
 ついさっきの反省は何処へ行ってしまったのか、一気に下腹に熱が集まってきた。

 頭の中では、唇に喰らい付き、思う存分甘い舌を味わった後、白い肌に手を滑らせて、その細腰を引き寄せ、最後まで致すところまでの妄想が膨れ上がった。

 そこへ「嫌われますよ」とロロシュの声が頭に響いた。

 いかん、いかん。
 今はダメだ。
 もう少し熟れるのを待たなければ・・・・
 って、違う!!

 俺は大人・この人は怪我人・俺は紳士。

 しつこいくらい自分に言い聞かせ、息を整えてから、もう一度襟を摘み直して衣の前を開けさせた。

「うん?・・・エッ?!」

 なんだ?これは・・・?
 残った衣も開いて上半身を露わにして確かめた。

 俺達と全然違う。

 多分下着だろう、小さな布で隠された胸は、まろく果実の様に膨らみ、腹は薄く、括れた腰が、柔らかいカーブを描いて脚へと伸びている。

 まさか。

 動揺して震える指で、腰で結ばれた下穿きの紐を解いて、恐る恐る引き下げた。
「?!・・・・・ない?!」

 頼りない程小さな布で隠された秘所は、髪と同じ色の下生えが薄く透けて見えたが、有るべきが在るべき場所にない?!

 人族も獣人も躰のつくりは同じ筈だ。
 まさか魔族なのか?
 いや、魔族にも会った事はあるが、躰の作りが違う様子は無かった。

 この果実の様な胸・・・・。

 知らず知らずのうちに、指で豊かな双丘をなぞっていた。

「んっ・・・ふぁ」
 眠ったままの番が、甘い吐息を漏らした。
 指でなぞる内に、爪で胸の先にある蕾を引っ掻いてしまったらしい。

「ウッ!グウッ」
 番の零した吐息に、全身がカッと熱くなり、耳と尾が勢いよく飛び出した。

 俺の指で感じている?
 カラカラに干上がった喉に、ゴクリと音を立てて唾を飲み込んだ。

「人族の子供に、無茶をしたら嫌われる」
 再びロロシュの声が聞こえた。

 ダメだ!
俺はこの人に嫌われたら生きていけない!!

 そうだ。俺は大人で紳士だ。
 幼子を好む変態ではない!

 断じて違うからなっ!!
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