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アレクサンドル・クロムウェル

竜の遊び場3

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 一通り神殿内を見て回った俺達は、一旦外に出て、ドラゴンの石像の前で団員達からの報告を受けた。
 報告など、どこで受けてもよかったのだが、表に出ると同時に、マークがドラゴンの石像に吸い寄せられるように近寄って行ってしまったため、仕方なく其れに付き合う形となったのだが、不思議なことに石像前には椅子が用意されていた。

 おそらくマークが石像を気に入ったことを見ていた団員の誰かが、気を利かせたつもりなのだろうが、その気配りが本当に今必要なのか疑問だ。

 それはさておき、団員達の報告によれば庭園内に水路はあったが、泉や池の類いは見つからなかったとの事。
 水路の水源は神殿の裏手、少し奥まった処に、別棟として建てられた奥の院らしい。

 奥の院は貴族の子供達の洗礼に使われることも多いが、基本は高位の神官以外の立ち入りが許されない場所だ。

 余談だが、獣人は生まれてから1ヶ月以内に一度目の洗礼を受ける。これは子供の無事な成長を願うもので、貴賤の関係も種族の関係もなく、全ての赤子が受けるものだ。
 其れに加えて、獣人の、特に貴族や裕福な家庭の子供は、二次性徴を迎え、耳と尾が隠せる様になると、神殿の奥の院にて二度目の洗礼を受け、二つ目の名をアウラ神より授けられる。

 二つ目の名は、洗礼を受けるものが、一人で奥の院の泉に入り、神から本人に直接授けられる。
 今思い出してもあれは不思議な体験だった。
 泉の中で祈りを捧げると、頭の中に直接声が聞こえてくるのだ。
 人によっては名の他に、祝福を授かる者もいるらしいが、俺の時は名を授かった後、手の中に、白蓮の花が一輪残されていた。

 あの時の花は保存魔法を施し、ガラスケースに入れられて、親父殿が保管しているはずだ。

 二つ名は魂に直結した神聖なものとされている。この名は洗礼に立ち会った神官だけでなく、実の親にも知らされる事はなく、二つ名にかけた誓いは魂を縛る為、生涯で一度きりだけ結ぶ事ができる。

 だが魂を掛けた誓いなど、そうそう結ぶものではない、誓いを立てぬまま一生を終える者の方が圧倒的に多い。


 今の問題は、奥の院に入る扉が開かず、団員達が手こずっている事だ。

 ポータルといい奥の院といい、ここの神官は、余程仕掛けを施すことが好きらしい。
 まったく面倒な事だが、これに関しては現物を見てみるしかないだろう。

「あの・・・閣下もう一件ご報告が」
 最後に手を挙げたのは、今年第三から移動になった、名前は・・・モルローだったか?
「なんだ?」
「それが、遺体が見つかりまして」
「遺体?」
「はい。遺体は既に白骨化しており、身につけていた物もボロボロで個人を特定するのは難しいかと」
「・・・神官ではないのだな?」
「はい」
 となると、残った神官は、ポータルに魔力を吸い尽くされた仲間を見て、逃げ帰ったと見て間違いないだろう。

 その神官が魔獣に喰われるか、二度と関わり合いたくないと、逃げたかしなければ、アガス達神殿の奴等がポータルの在処や、その危険を知らぬはずがない。

 何か危険が有りそうだ。という憶測と、こんな危険が有る。
 と分かっていることには雲泥の差がある。
 しかも実際にその危険に対処する者に、その危険性を知らせないとなると・・・。

 アガスは、我帝国第二騎士団を捨て駒と見做し、誰が死んでも構わないと考えているようだ。

 舐めやがって。

「アガスの野郎、ぶち殺してやる」
「かっ閣下?」
 奥歯を噛み締めていたおかげで、俺の呪詛は聞かれなかった様だが、一瞬殺気が漏れたせいで、無駄に部下を怯えさせてしまった。

「なんでもない、他にも何かあるか?」
「こっこちらを首に掛けていました」
 差し出されたのは、花と蔦が絡まり合った大ぶりのペンダントだった。

「これは…」眉根を寄せるとモルローは、ヒクリと頬を引き攣らせた。
「これは俺が預かろう。遺体は何処かに埋葬してやってくれ」
 そう言って肩をを叩いて、労ったつもりが
「ヒッ!!」と一声発したモルローは慌てたように走り去ってしまった。
「なんだ?」
 今の遣りとりで慌てる要素がどこかにあっただろうか。

 不思議に思い顎を指で撫でていると、後ろからため息が二つ聞こえて来た。
「閣下、お願いですから、部下を脅すのは止めて頂けませんか」
「モルローの奴、辞めるとか言いださなきゃいいのですが」
「俺がいつ部下を脅したって?」
 振り向くと二人のため息が深くなった。

「今ですよ。!そんな2.30人殺して来ました。みたいな顔されたら誰だってビビるでしょう!?」
「・・・・これが地顔だ」
「元からなのは知ってますけど?そんな怖い顔してたら、愛し子だって怖がりますよ?」

 初対面で怖がられるのには慣れてはいるが、流石に愛し子を怖がらせるのはいかんな。
 だが今更どうしろと言うのか。
「取り敢えず、眉間の皺だけでもどうにかしてください」
 マークに言われた俺は、大人しく眉間の皺を指で揉みほぐした。

「あんたら、何時もそんななのか?」
 ロロシュが意外なものを見たような顔をした。
「そんなとは?」
 怪訝そうなマークがツンと聞き返す。
「いや。なんつーか、世話焼きの嫁と、尻に敷かれた亭主?みたいな?」
 ロロシュの言葉にマークは、露骨に嫌そうな顔になった。
「冗談でもやめて下さい。私の番はこんなゴリゴリの熊などでは有りません」
 断言しているが、俺は熊ではなく猫科だぞ?
「私の番は、可憐で可愛らしい人なんです!」
 言い切ったマークにロロシュは揶揄うようなニヤついた笑いを見せた。
「副団長には、番の当てがおありで?」
「それは・・・まだだが」
「夢が叶うと良いですねぇ」
 ロロシュの猫撫で声が、揶揄っている事に気付いているのだろう、マークが渋い顔になっている。
 だがロロシュが揶揄いたくなる気持ちも理解できる。

 獣人の番への想いは本能だ。
 出会ってしまえば、番の全てが自分の理想になるが、番に出会う前に好感を持つ相手が、番とは全く違う容姿をしていることも多い。

 可憐なうさぎ獣人を追いかけ回していた奴の番が、実はだった。とういう話しもある。
 しかし、理想と現実のギャップがどれだけ大きくとも、それが原因で揉めたという話しは聞いたことがないから、番とは不思議なものだ。

 まぁ、それもこれも番が見つかればこその話しだ。
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