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アレクサンドル・クロムウェル
竜の遊び場1
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全員が揃ったところで、神官の遺品を回収した後、崖の近くに埋葬させた。
マークからポータルについて説明させると、何人かの団員から反対の声が上がったが「俺に勝ったら、役目を譲ってやる」と言って黙らせた。
固唾を飲む部下達に見守られながら、ロロシュにポータルの機動部へと案内させた。
岩壁の前に立つと、森の空気を取り込んで苔むした岩肌は、しっとりと湿っていた。
「此処です」と示された場所は、俺の胸より少し下あたりで、ナイフで苔をこそぎ落とした跡があった。
陣の機動部の大きさは、俺の掌より少し大きいくらい。
長い年月の風化で多少薄くなっているようだ。
縦長の瞳孔を持った、獣の瞳の周りに刻まれた紋様は、蔦と花が絡み合う美しいもので、俺が知るどの魔法陣とも違ったものだった。
蔦と花の紋様部分が少し窪んでいるのは、此処にロロシュが言っていた、鍵を嵌め込むようになっているのだろう。
「閣下、此処に手を当てて魔力を流してください。でもちょっとした違和感でも何でも、おかしいと感じたら直ぐに離れてください。良いですね?解りましたか?」
何度も念押しをしてくるロロシュは、はっきり言うと面倒だった。
しかし俺を心配してくれての事だけに、邪険にする事もできず、大人しく「わかった」と頷くことにした。
何があるか分からないため、下がるように言うと、ロロシュはため息を吐いて。
「まったく、誰がこんな面倒なもん作ったのか知りませんけどね?こんなもんのせいで閣下に何かあったら、オレが陛下に殺られちゃうんですよ」
ほんと頼みますよ?とボヤきながら離れて行った。
あの口振りだと、俺が思っているよりウィリアムとの主従関係は、良好そうで何よりだ。
これからもウィリアムの側には、信頼できる相手が、1人でも多くなってくれたらと思う。
ロロシュが充分な距離を取った所で、軽く頭を振って岩肌の紋様に向き直る。
伸ばした腕の指先が微かに震えているのは、緊張よりも、この先で出会えるであろう愛し子への期待の方が大きい気がする。
そこでふと気付いた。
俺はいつからか、愛し子に見える事を待ち望んでいた事に。
らしくもない
自嘲に口の端を歪ませた俺は、一つ嘆息して紋様に掌を押し当て、魔力を流した。
すると掌の下から浮かんだ光が、絡まり合う蔦と花を彩り、中心にある獣の瞳を輝かせた。
どこからかカチリと歯車が噛み合うような音が聞こえた気がする。
幸いにも問答無用で攻撃される事はなかったが、警戒を続けることに如くはない。
魔力を流し込むにつれ、俺の周りで起こった風が、髪を攫いマントの裾を翻らせた。
やがて紋様から一枚岩の中心へと一筋の光が走り、岩の表面に巨大な魔法陣を浮かび上がらせた。
そこでグンっと強制的に引き出される魔力が増え、気を抜いたら膝から力が抜けそうだ。
だが俺は、干からびた神官のようになるつもりもないし、此処まで来てスゴスゴと引き下がるつもりも無い。
脚を踏ん張り、丹田に力を入れて、魔力を練り上げた。
浮かび上がった魔法陣は、白から青へと変化していく。
そして紋様が放つ光が濃い藍色に染まった刻、巨大な一枚岩の表面に、ポータルの入り口が開いていた。
開いたポータルは十数人が一度に通れる大きさで、その内部は白から青、そして濃い藍色へと変化しながら中へと誘うように渦を巻いていた。
ほうっと息を吐いて手を離すと、後ろから「わああ!!」と弾けるような歓声が上がった。
「閣下!」
「ご無事ですか!?」
マーク、ミュラー、ロロシュの3人が駆け寄ってきた。
よほど心配だったのか、3人とも酷い顔色だ。
「特に問題はない」と本当の事を言ったのだが、痩せ我慢をしていると思われたのか、回復薬を飲めと、薬の入った小瓶を押し付けられた。
多少魔力を抜かれはしたが、この程度なら、若い頃キマイラに追いかけ回され、魔力切れ寸前で戦ったときのほうがキツかったように思う。
しかしここで意地を張っても、3人が納得しなさそうだし。他の団員の中にも心配そうな視線を送ってくる者がいるようだった。
皆を安心さる為に、仕方なく一口だけ小瓶の中身を呷って、残りは上着の隠しに押し込んだ。
騒つく団員達をマークが一括し、隊列を組み直させた。
エンラと共に、ポータルへ足を踏み入れ、
薄青い光に包まれた内部を進むと、呆気ないほどの速さで出口へ到着した。
表に出る瞬間、身体の中がひっくり返るような感覚に襲われるが、慣れてしまえばどうと言う事はない。
逆に慣れない者がポータルを通ると、魔力酔いを起こすこともあるが、遠征慣れした、うちの団員なら問題はないだろう。
マークからポータルについて説明させると、何人かの団員から反対の声が上がったが「俺に勝ったら、役目を譲ってやる」と言って黙らせた。
固唾を飲む部下達に見守られながら、ロロシュにポータルの機動部へと案内させた。
岩壁の前に立つと、森の空気を取り込んで苔むした岩肌は、しっとりと湿っていた。
「此処です」と示された場所は、俺の胸より少し下あたりで、ナイフで苔をこそぎ落とした跡があった。
陣の機動部の大きさは、俺の掌より少し大きいくらい。
長い年月の風化で多少薄くなっているようだ。
縦長の瞳孔を持った、獣の瞳の周りに刻まれた紋様は、蔦と花が絡み合う美しいもので、俺が知るどの魔法陣とも違ったものだった。
蔦と花の紋様部分が少し窪んでいるのは、此処にロロシュが言っていた、鍵を嵌め込むようになっているのだろう。
「閣下、此処に手を当てて魔力を流してください。でもちょっとした違和感でも何でも、おかしいと感じたら直ぐに離れてください。良いですね?解りましたか?」
何度も念押しをしてくるロロシュは、はっきり言うと面倒だった。
しかし俺を心配してくれての事だけに、邪険にする事もできず、大人しく「わかった」と頷くことにした。
何があるか分からないため、下がるように言うと、ロロシュはため息を吐いて。
「まったく、誰がこんな面倒なもん作ったのか知りませんけどね?こんなもんのせいで閣下に何かあったら、オレが陛下に殺られちゃうんですよ」
ほんと頼みますよ?とボヤきながら離れて行った。
あの口振りだと、俺が思っているよりウィリアムとの主従関係は、良好そうで何よりだ。
これからもウィリアムの側には、信頼できる相手が、1人でも多くなってくれたらと思う。
ロロシュが充分な距離を取った所で、軽く頭を振って岩肌の紋様に向き直る。
伸ばした腕の指先が微かに震えているのは、緊張よりも、この先で出会えるであろう愛し子への期待の方が大きい気がする。
そこでふと気付いた。
俺はいつからか、愛し子に見える事を待ち望んでいた事に。
らしくもない
自嘲に口の端を歪ませた俺は、一つ嘆息して紋様に掌を押し当て、魔力を流した。
すると掌の下から浮かんだ光が、絡まり合う蔦と花を彩り、中心にある獣の瞳を輝かせた。
どこからかカチリと歯車が噛み合うような音が聞こえた気がする。
幸いにも問答無用で攻撃される事はなかったが、警戒を続けることに如くはない。
魔力を流し込むにつれ、俺の周りで起こった風が、髪を攫いマントの裾を翻らせた。
やがて紋様から一枚岩の中心へと一筋の光が走り、岩の表面に巨大な魔法陣を浮かび上がらせた。
そこでグンっと強制的に引き出される魔力が増え、気を抜いたら膝から力が抜けそうだ。
だが俺は、干からびた神官のようになるつもりもないし、此処まで来てスゴスゴと引き下がるつもりも無い。
脚を踏ん張り、丹田に力を入れて、魔力を練り上げた。
浮かび上がった魔法陣は、白から青へと変化していく。
そして紋様が放つ光が濃い藍色に染まった刻、巨大な一枚岩の表面に、ポータルの入り口が開いていた。
開いたポータルは十数人が一度に通れる大きさで、その内部は白から青、そして濃い藍色へと変化しながら中へと誘うように渦を巻いていた。
ほうっと息を吐いて手を離すと、後ろから「わああ!!」と弾けるような歓声が上がった。
「閣下!」
「ご無事ですか!?」
マーク、ミュラー、ロロシュの3人が駆け寄ってきた。
よほど心配だったのか、3人とも酷い顔色だ。
「特に問題はない」と本当の事を言ったのだが、痩せ我慢をしていると思われたのか、回復薬を飲めと、薬の入った小瓶を押し付けられた。
多少魔力を抜かれはしたが、この程度なら、若い頃キマイラに追いかけ回され、魔力切れ寸前で戦ったときのほうがキツかったように思う。
しかしここで意地を張っても、3人が納得しなさそうだし。他の団員の中にも心配そうな視線を送ってくる者がいるようだった。
皆を安心さる為に、仕方なく一口だけ小瓶の中身を呷って、残りは上着の隠しに押し込んだ。
騒つく団員達をマークが一括し、隊列を組み直させた。
エンラと共に、ポータルへ足を踏み入れ、
薄青い光に包まれた内部を進むと、呆気ないほどの速さで出口へ到着した。
表に出る瞬間、身体の中がひっくり返るような感覚に襲われるが、慣れてしまえばどうと言う事はない。
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