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アレクサンドル・クロムウェル

ミーネの森5

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 “ヒュルルル…”
 つまらない謀の手配が済んだ頃、森の梢に合図の鏑矢が上がった。

「見つかったようですね」空を見上げてつぶやいたマークも心なしかホッとしたように見える。
 エンラを駆り、矢の放たれた方へ向かうと、50ミーロ近い高さの崖下に、ロロシュと今年入団したばかりの、シッチンの姿が見えた。
「シッチン、矢を放ったのはお前か?」
「はツはい!矢はおれ・・・自分ですが、見つけたのはロロシュさんです!!」
 声はでかいが、純朴そうな顔を赤らめたシッチンは、緊張してガチガチだ。
「ご苦労だった」と労うと、益々顔を赤くして、頭から湯気が出そうなほどだ。
 入団したての若い者の初々しさは、心が和む。

「ロロシュ、陣はどこだ?」
 直ぐに確認できると思っていた俺達に、ロロシュは団員が全て揃うまで待てという。
「随分と勿体ぶるじゃないか?」
「そういう訳じゃないんですがね。閣下には先に見て貰いたい物があるんですよ」
 何を?と問う前にロロシュは崖の右隅にある茂みへと歩み寄り、こっちに来いと手招いた。

 ロロシュに言われるがまま、茂みの裏に回り込んだ俺たちは、息をのんだ。

「なっ?!」
 其処にはボロ切れを纏い、消炭のように黒く干からびたものが二つ転がっていた。
「ロロシュ・・・・これは」
 変わり果ててはいるが、元は人であったろう。
「この服、見覚えがある。ボロボロだが神官の祭服だと思う」
「村に来た神官か?」
「おそらく」
 誰に問うでもなく呟いた言葉に、ロロシュが律儀にこたえた。
「2人だけか?」
「近くを探してみましたが、それらしき遺体は見当たりません」直立不動のシッチンが報告した。
 後の1人は、恐ろしくなって逃げ出したか、神殿へ転移したのか・・・。

「何故こんなことに」
 レイスのエナジードレインをまともにくらっても、ここまで酷い干からび方はしない。
「これは彼も同意見なんだが」とロロシュはシッチンに目を向けた。
 ロロシュの視線を追って、シッチンに目を向けると、シッチンは変わらず直立不動のまま、ブンブンと頷いて見せた。

「此処に有るのはポータルだ」ロロシュは親指で崖を示した。
「こんなところに?」マークは半信半疑な顔だ。
「まだ作動させてないんで、ハッキリとは断言できないが、この崖つーか絶壁?の一枚岩な。あれと同じくらいの大きさだと思う」
 俺達は崖の一枚岩を見上げた。
 言われてみれば、所々苔むした一枚岩は、自然物にしては表面が滑らかで、人工物と見れなくもない。

 高さは崖の半分ほどか。横幅もエンラを10頭は並べられそうだ。
 其れと同規模なら、ポータルで間違いないだろう。
 考えてみれば、その昔、神殿が放棄される以前、参拝者が列を成していた時代が有り、入り口が此処だけなら、少人数用の転移陣では間に合わなかっただろう。

「ロロシュ、要点は?」俺は回りくどいことは苦手だ。
 物事には順番ってものがあるんだがな。とボヤきながらも、ロロシュは説明を始めた。
「問題は、ポータルの作動条件だ」
 ここのポータル作動条件は3つ。 

 1・ポータルを起動させるには鍵が必要。
 2・設定された対象者以外を排除する。
 3・転移の動力は起動させた者の魔力が
   使用される。

「あれの原因は、三つの条件全てに引っかかる」あれのところでロロシュは、神官だったものを指差した。

 そうなのか?とシッチンを見た。
「自分は、領に発生したゴブリンの巣穴で、似たような仕掛けを見たことがあります。あの時は、マスターゴブリンが仕掛けたものでしたが、敵の排除と無力化の効果がありました」
「成る程?」
 確かシッチンは地方の貧乏男爵家の出だったな。
 シッチンの実家の領地は、是といった特産物はなく、更に領内に頻繁にオークやゴブリンが湧くため、当主自らが討伐に向かうと聞いている。
 シッチンも子供の頃から討伐に連れ回され、其処で剣の腕を磨いたのだとか。
 入団試験の時に変り種が居るな、とは思ったが、存外使い道が有りそうだ。

 神殿に続くであろうポータルに、魔物の罠に似た仕掛けを施した真意は謎だが、今気にするべきは其処じゃない。

「で?それの何処が問題だ?」
「何処がって、全部ですよ」
 何言ってんだコイツと言いたげなロロシュだが、俺にはさっぱり理解できない。

「いいですか?鍵がない以上、任意の相手がヴィンター家の者に限られている可能性が高く、攻撃を受けるかもしれない。それをクリアしたとして、あんな風になる迄、魔力を吸い上げられたらどうするんです?死にますよ?」と茂みの方へ腕を振った。

 ロロシュの言葉に、シッチンもブンブンと首を縦に振り、マークとミュラーも思案げに顔を見合わせている。

「そんな危ない事、誰にやらせる気だ?」
「誰って・・・そりゃあ俺だな」
「はあ?!」
 何を驚く。危険が有るなら俺がやるのが一番手っ取り早いだろうが。
「ダメです!」
「なに言ってるんですか?!」
 いやいや。マークとミュラーよ。2人が忠誠心から言ってくれているのは分かる。
 しかし、俺は騎士団で一番頑丈で、魔力もその耐性も高い。他の奴らにやらせるわけがないだろう?

「確かに閣下はバケモノ並みにお強いです。ですが、其れと是とは話が別です!」
「おい!」
 何度もバケモノとか言うなよ。失礼な。
「そんな怖い顔をしても、ダメなものは駄目です!」
 ツンとして言うマークに俺はため息を吐いた。
「なあミュラー。マークはこう言うが、俺は信用されていないのか?」
「閣下・・・そういう言い方はずるいですよ?」と情けない顔をされた。

「どのみち鍵の複製は作れないんだろ?他に方法があるワケじゃなし。やる必要が有るなら、俺が試せばいいじゃないか」
 それにむざむざ部下を危険に晒すような真似は出来ない。
「それは閣下も同じでしょう?」
「なに、俺はバケモノだからな」
 そういうとマークはグウっと言葉に詰まり
「あぁもう!ほんと言い出したら聞かないんだから」と肩を落とした。
「心配するな。回復薬の2、3本でも用意しておけば問題ないさ」
 4人から何とも言えない表情を向けられたが、俺自身は鼻歌を歌いたい程いい気分だった。
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