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アレクサンドル・クロムウェル

ミーネの森4

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 程なく2人も俺の言いたいことを理解した。
 今まで転移陣は無いとの思い込みで、その可能性に思い至らなかったのは、完全に俺の失策だ。

 転移陣が正解とは限らないが、唯当てもなく神殿を求めて森の中を彷徨うより、目標物がある方が団員達の士気も上がるだろう。

 捜索すべきは転移陣、若しくはポータルのどちらか。
 これまで人工物は見つかっていない為、陣は自然物に刻まれている可能性が高く、更に隠蔽魔法が掛けられているかもしれない。
 これだけの巨木が生い茂る森の中で、大人数が転移出来るポータルの設置は難しいだろうが、千年前の森の様子が分からない以上、その存在を否定する理由はない。

 呼び戻した団員達に改めて捜索対象の変更を指示し、俺たちもそれに加わった。

 地面を這う様に捜索を続ける頭上、緑なす梢からトップバードの囀りが聞こえる。
 疲れが癒やされる様な、長閑な歌声だった。
 そこで俺はハタと気付いた。
 森に入ってから、小型で比較的大人しいコネリやウロシュ以外の魔獣や魔物の類に一切遭遇していない。
 東側の森では大型魔獣が目撃されているにも関わらずだ。

 魔物の類になど、出会わないのに越したことは無いが、これだけ深い森で一切出くわさないと言うのも不自然だ。
 結界の気配は感じられない、となれば、この森はアウラ神の加護を受けているのかも知れない。
 なんにせよ面倒事の最中に邪魔が入らないことは有り難い。

 邪魔・・・邪魔と言えば、あの生臭坊主はどうしているだろうか?

「ミュラー、あの生臭の報告は受けているか?」
「生臭?」ミュラーは一瞬キョトンとした表情を見せたが、直ぐにアガスのことだと理解すると、本当に嫌そうに鼻に皺を寄せた。

「昨日の夕刻に、神官3名とギルドの傭兵と思われる護衛を引き連れて村に入ったそうです」
「来たのか?」
「来ましたね」

 置き去りにすれば諦めるのでは、と淡い期待を持ってみたが、面子か執着か、何方にしても諦めの悪い奴だ。

「今のところ動きはないんだな?」
「はい。森の反対側とは言え大型魔獣の目撃情報があると聞いて、二の足を踏んでいる様ですね。その代わり、村に入った直後から村人相手に我儘放題だそうですよ」
 神の使いが聞いて呆れると、またもミュラーはお冠だ。

 うちの連中は、アガス達に付き合う必要はないが、片田舎の村人にとっては、神官は病を癒してくれる救い主だ。
 腐ってはいても、司教のアガスの横暴な態度にも、諾と従うほかないのだろう。

「護衛は何人だ?」
「5名のようです」
 成る程、見通しのきく街道ならともかく、森の中で、丸腰の神官を三人も護るには、
5名では心許無い。
 雇われ傭兵達も、敢えて危険を犯したくはないだろう。

 しかし、お飾りとは言え、神殿にも警護や護衛を担当する神兵がいる。
 その神兵を使わず、敢えてギルドの傭兵を雇う・・・か。
 現実的と言えなくもないが、人数が少な過ぎて、何処かしっくりこない。

 あの生臭のやる事は、一々一貫性がない様な、妙な違和感を感じる。
 上手く言葉には出来ないが、イヤな感じだ。

 愛し子の件を別にしても、あの脂肪に埋もれた顔は、出来れば目にしたくはない。
 ザンド村の村長には悪いが、もう暫く村に足止めをしておきたい。

 さて、どうしたものか

「マーク、確かロドリックは新婚だったか?」
「えっ?えぇ、そうですが?それが何か」
「なに、アイツはウサギだし、新婚で何日も家を空けるのは辛かろう?休暇をやろうかと思ってな」
「今ですか?」とミュラーが不思議そうな顔をした。

 ロドリックには、森で遭遇した魔獣との戦闘で負傷を負った事にする。
 村に戻らせ少し大袈裟に騒がせたら、アガスが治癒すると言い出す前に、皇都に戻らせる。
 身体の傷は、治癒や回復薬である程度癒せるが、魔物に襲われた事で、心が弱くなった者が、毎日神殿に通って祈りを捧げても咎めるものはいないだろう。
 神殿通いで分かることなど、たかが知れているが、拾える噂話には馬鹿にできないものがある。

「というのはどうだろう」
 児戯にも等しい姑息な嫌がらせだが、やらないよりかは幾分マシだろう。
 俺の提案を聞いた2人は「いいかもしれませんね」と意地の悪い笑みを浮かべて、乗り気の姿勢を見せた。

「魔獣はムースでいいか?」
 顎に指を充てたマークが「ライノの方がいいのでは?」と言うと「ライノ相手で負傷者1名は少なくないですか?」とミュラーが答えた。

 アガスをビビらせて足止めするなら、目撃情報があった魔獣の中でも、よりデカくてヤバいやつの方がいい。
しかし、リアリティーも大事ということだ。
 唯の児戯にリアルさを求めるとは、ミュラーも芸が細かい。

「出来れば、ショーンも同行させてください」と言うミュラーに、ショーンに何かあったのかと聞くと、遠征続きで自宅に戻れる時間があまり取れず、やっとの思いで休暇をもぎ取ったショーンが、可愛い盛りの子供から「おじさん、今度は何日泊ってくの?」と言われて、“親認定されてない!”と酒の席で号泣したのだそうだ。

 獣人は総じて愛妻家で子煩悩なものだ。
 自身も子持ちのミュラーとしては、身につまされるものが有るのだろう。

 お前も帰るか?とミュラーを揶揄うと
「うちの子は、今反抗期なんです」と悲しそうに肩を落とした。

 後は、村で待機中の者をアガスに張り付かせ、森の入り口を封鎖して出入りを禁止する。
 邪魔者相手に、監視と牽制が一度に出来れば、一石二鳥。
 団員の家庭円満も入れれば三鳥だ。
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