獣人騎士団長の愛は、重くて甘い

こむぎダック

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アレクサンドル・クロムウェル

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「じゃあ、ここからが本題」

 皇帝の顔に戻ったウィリアムはズイッと身を乗り出した。

「分かってると思うけど、神殿に愛し子は渡せないし、渡さない」
 当然のことなので頷いて先を促した。

「本当は今すぐにでも出発して欲しいとこなんだけど、準備にどのくらい掛かりそう?」
 顎先に指を当て少し考え「明日の昼だな」と答えた。

「もっと早くできない?」
 ウィリアムが食い気味に頼んでくる。
 その気持ちは分かるが、そんなに簡単な事ではない。

「エンラの扱いに長けた者を選抜して、移動時間の短縮はできるだろう。だが物資の調達は必須だ」
「調達の時間が無ければ?」
 そうだなと空を見つめて考える。
「・・・最短で2.3時間」
 マークとミュラーを見れば2人とも同意らしく頷いている。
「ほんと⁉︎じゃあそれでお願い」
 人の話を聞け!
「神殿を見つけるのに幾日掛かるか分からん。物資は必要だ」

 手を合わせて拝んでも、無理な物は無理だ。それとも近隣の村から接収しろと言う気か?

「軍事の座学をやり直すか?」
 と睨みつけると、ウィリアムはヘラリと笑った。
「あのねぇ。こう見えて僕は出来る子なんだよ?」

 だからどうした

「影から神託の話しを聞いて、直ぐに遠征の準備をさせてあるのさ!」

 ドヤっと胸を張る姿が、そういう事は早く言えよ、まったく小憎たらしい。

「森の話しは昨日聞いたと言わなかったか?」
「そうだけどさ。信用できる相手でもないし 念の為?」

 そうだった。コイツはこういう奴だった。
 表と裏の顔を器用に使い分け。
 狡賢く抜け目がない。
 自分の懐に入れた者には寛容だが、それ以外には冷徹で、簡単に人を信用する事も無い。
 
 望まない至高の頂を守り続ける
 孤高の存在。

「それで?愛し子の囲い込みの理由は神殿への牽制だけか?」
「そうね。理由は他にも色々あるけど・・・」
 
 言葉を濁すウィリアムに先を促す。

「一番の理由は、今回の愛し子がどんな能力を持っているのかは分からないから。でも何かしらの力はあるはずなんだ。でも神殿に渡したら、アイツらの都合の良い様にこき使われて、振り回されるでしょ?」
「そうだな…もし言う事を聞かなければ、軟禁の可能性もあるな」
「そうそう」と腕を組むウィリアムの青灰色の目を俺は覗き込んだ。
「だが、お前も利用するだろう?」
 
ウィリアムは一瞬息を飲んだが、俺と同じ色の瞳を強くして見つめ返してくる。

「そりゃ・・・するよ?僕は皇帝だ。国と民の為ならなんだってするし、どんな酷いことだって出来る。だってやらなきゃいけないから」

 でもね と続ける声は少し疲れた様に聞こえた。

「愛し子は、たった1人でこの世界に来るんだ・・・独りぼっちなんだよ?愛し子が望んで俗世を捨てて、それで神殿に入るならいいよ。でもそれを望まなかったら?・・・そんな人の自由まで僕は奪えない」

「だって・・・可哀想じゃないか」

 呟きは小さかった。

 そうだな。お前の言う通りだ。

 心優しい孤高の王。
 お前の孤独を、愛し子が癒すのだろうか。

「って事で!!」
 しんみりした空気を祓うようにウィリアムは声をはり上げた。
「ヴワァーー!!っといっちゃってー!!」

 誰か・・・・俺の感傷を返してくれ。
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