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アレクサンドル・クロムウェル

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「閣下、本当に宜しいのですか?」
マークの声で思考の渦から現実に引き戻された。
「何がだ?」
「アガスですよ」
ミュラーはまだおかんむりのようだ。
「あぁ、あの生臭か?まぁ問題ないだろう」

口が悪いですね とマークは笑っい、白銀の髪を煩そうに肩から払った。
そんな姿も様になる、数多の貴族が、婿がねに望むのも納得な美麗さだ。
普段は冷静沈着、柔和な笑みを浮かべ、内心を悟らせない。
そんな奴が今日のように感情を表に出すことは珍しい。

 コイツの神殿嫌いは俺以上だからな。

「取り敢えず喉が渇いた。茶を3人・・いや4人分頼む」
「4人分ですか?」3人しかいませんよ?とミュラーが首を傾げる。
幼い頃からの付き合いのマークは「確かに4人分いりますね」と合点が入ったようだ。

廊下にいた部下に茶の用意を頼み、今回の遠征に必要な人員と物資の手配の検討に入る。
兵士はゲームの駒のように、右から左へと簡単に動かせるものではない。
金も掛かれば飯も食う。
そこをうまく回してやるのが俺たちの役割なのだ・・・。

原因は未だに不明だが、20年程前から魔獣.魔物の被害が増加し続けている。
その煽りで各騎士団の討伐遠征の回数も増える一方だ。
おかげで手配だけなら慣れたものだが、復帰できていない負傷者の穴埋めには、毎回頭を悩ますことになる。

茶の用意が整い一息ついていると、壁の中から誰かが走る足音が近づいてきた。
かと思ったら、いきなり執務室の壁が反転し勢いよく開いた。

「おっ待たせ~!!」
現れたのは、ウィリアム・ネルソン・クレイオス。帝国の太陽、皇帝だった。
「・・・陛下。ノックをお忘れです」
「やだなぁ!僕たちの仲じゃない。硬いこと言うなよ~」

突然秘密通路から現れた、皇帝の崩れた態度にミュラーが呆気に取られている。
あぁミュラーは初めてか?知らなければ、ギャップに驚くよな。

「それともぉ  するところだったぁ?」
「どんな仲ですか。それに貴方に押し付けられた仕事の真っ最中で、忙しいんですよ」

用がないならお引き取りを、と渋い顔を見せたが、気にする素振りもなく、まぁまぁと言いながらウィリアムはソファーに腰掛けた。

「僕が来るって分かってたから、お茶の用意もしてくれたんでしょ?僕も仲間に入れてよぉ」
 本当にコイツは外面と内面の差が激しすぎる
呆然と口を開け閉めするミュラーに「こういう方なので、くれぐれもご内密に」コソコソとマークが念押しをする。

「で?御満足ですか?」
「そうだねぇ。75点ってとこかな?」
癖の強いふわふわな緋色の髪を、胸元で弄る姿は、玉座の皇帝と同一人物とは思えない。
「演者がアレだからね。出し物としては三流だけど、そこそこ楽しめたよ?」
「それは宜しゅうございました」
俺はわざと慇懃な礼をしてやった。
「えっ?なに?いつもより凄く距離が遠い気がする・・・・もしかして怒ってる?」
「いいえ」と首を振ったが、今の俺は氷より冷たい目をしているだろう。
「偉大なる皇帝陛下の御心は、眇眇たる私めなどが推し量れるものではございませんので」
「怒ってるよね?」
「そんなことはございません。10日も前に神託が降りたにも関わらず、神託のしの字も聞きませんでしたが?まぁ、陛下もご存じ無かったということであれば、それはそれでどうかとも思いますが、致し方ない事です」
「あぁ・・・そうね」
「事前に何の擦り合わせも無く、いきなり召還し、説明も他人任せで高みの見物。これも権力者の特権と申せましょう」
「あっうん。それについては弁解出来ないかも」
「ザンド村までは、エンラでも4日程かかるのですが、次の満月までいく日もありません。それに間に合わせろとおっしゃるのですから、村にはポータルか転移陣があるのですね?」

皇帝ウィリアムは、居心地悪そうにモジモジと指を動かしている。

そうそう!とわざとらしく手を打って
「そうでした。私はいつ"樹界の王"などという、こっ恥ずかしい位階に叙されたのでしょうか?」
「めちゃくちゃ怒ってるじゃない!しかもなんか饒舌!!普段そんなに喋らないよね?必要最低限の一言二言しか話さないよね?!」
「気のせいでしょう」
あぁ、もう!
と頭をガシガシとかき混ぜた至高の皇帝ウィリアム・ネルソン・クレイオスはガバリとテーブルに両手を付き、何の躊躇いもなく「すまなかった」と頭を下げた。

「神託が降りたことは、その日のうちに知ってたよ?でも大司教からは何の連絡もなくてさ。こっちからどうなってる?とか聞けないでしょ?」
 それをやるのが皇帝の仕事だろう
「裏でコソコソと村長と連絡とってるのは分かってたけど、あいつら情報統制だけは上手くてさ。神託の内容までは分からなかったんだよぅ!」
「言い訳だな」俺
「言い訳ですね」マーク
「ノーコメントで」ミュラー
日和ったな、ミュラー
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