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アレクサンドル・クロムウェル
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言外の揶揄に気付いたのか、ゼノンは再び口元をひくつかせた。
「はぁー」俺ははわざとらしくため息をつき、額にかかる前髪を態とらしく掻き上げた。
「もう一度言うが、俺たちは本当に、暇じゃない。それ以上に陛下の貴重な時間を割いていただいていると理解されているのか?」
「なっなにを」
瞳に威嚇を込めると、ゼノンは怯えを見せた。
「アレク、そう急くな。それにお主の威嚇は洒落にならん」
重々しく仲裁に入った皇帝だが、その目は完全に面白がっている。
「これはご無礼を」
主君に一礼してゼノンに向き直った俺は、見開かれたままの目と目をひたりと合わせた。
もちろん威嚇は放ったままだ。
「神託は承った。愛し子の招来も、ミーネの森に、迎えが必要なのも理解した」
ズイッとゼノンに近くと、皺っぽい喉がゴクリと上下するのがわかった。
「だが、いくら世俗を離れた大司教殿でも、ミーネの辺りの管轄が、第四なのは知っているだろう?」
さらに一歩近づくとゼノンが一歩下がる。
「そこでだ。俺が聞きたいのは、何故、俺を呼んだのか?なのだがな?」
俺は神の存在こそ否定しないが、神殿の在り方や、神官の言う事には懐疑的でそれを隠した事はない。
俺の神殿嫌いは周知のことだ。
本来神殿の仕事は、神と人との橋渡しと癒しを与える事だ。
それがいつの頃からか、権力に執着し政治に介入する様になった。神力による癒しにも、法外な金銭が要求される様になると、助けられるべき力を持たない人々は、神の恩寵から置き去りにされた。
そんな胡散臭く傲慢な連中でも、力無い者たちは信じて縋るしかないのだ。
そして俺は、神の名のもとに、弱者を軽んじるこいつらが大嫌いだ。
そんな俺を、敢えて選んだ理由を問うているのだ。
「それに、神託が下りてから10日か?しかし今の今まで、神殿からの触れは聞かなかったなぁ?愛し子の招来は喜ばしいことだろう?なのに民は誰もその事を知らないとはどう言うことだ?」
また一歩ゼノンに近いた。
「今まで何をしていた?あぁ、歓迎の準備とか、ふざけた事は抜かすなよ?」
おおかた愛し子欲しさに、裏でコソコソと手を回したが、行き詰まって泣きついた。
そんな所だろうな。
本当に来るのかどうかは知らんが、神殿が愛し子を欲しがるのは分かる。
何せ相手はアウラ神が、直接選んだ神の御使いだ。
だが、それだけか?
なんの報告もなく、帝国の主を蔑ろにし、真っ向から刃向かう様なまねまでして得たいものはなんだ?
コイツらが純然たる善意や信仰心で動くはずがない。
欲しいのは権威か?力か?
コイツらは今までも皇家,皇帝を失墜するために、裏で散々汚い事をしてきているから今更だが。
何を隠している?
あぁ、嫌な感じだ。
いっその事、コイツらをここでくびり殺し
てしまおうか。
ついでに神殿もぶっ壊してしまえばいい。
そうすれば愛し子は皇家のものだ。
そうだなそれがいい。
よし殺う。
俺の放つ威嚇にゼノンは画面蒼白。
胡散臭い笑みも消えガタガタと震え出した。
すると痺れを切らしたように、司教のアガスが前に出た。
「閣下!畏れながら私めから説明を!」
俺はアガスを睨め付けた。
「アーチャー。皇宮の作法はいつ変わった?」
下位の者から上位のものへ先に声を掛けることは許されない。
神殿ないならいざ知らず。貴族間での司教の地位は低い。
そこらの有象無象と大差ないのだ。
方や俺は、継承権こそないがその地位は皇帝に次ぐものだ。
「ハッ!当家の末が今年デビュタントなので、マナーレッスンも行っておりますが、改変があったとは聞いておりません」
マークの答えに皇帝は「そうかそうかマシューは今年デビュタントか」と手を打って喜んだ。
俺が、アガスに向かって片眉を上げて見せると「たったいへん申し訳なく・・・・」頭を下げたアガスの額がビクビクと痙攣した。
安いプライドだ
苦々しい思いでアガスを見下ろしていると、皇帝が俺に声を掛けた。
「アレク、遊びも大概にせよ。話が進まんだろう。ゼノンは…もう役に立たんな」
皇帝の指示を受けた宰相が側仕えを呼び入れ、ゼノンを別室へ連れて行かせた。
この間アガスは頭を下げたままだった。
恥辱のせいか、腹の肉が邪魔で中腰が辛いのか、アガスの肩が震えているのが分かる。
それを見た皇帝は、薄笑いを浮かべて言った。
「アガスも司教になって日が浅い故、慣れぬことも多かろう、勘弁してやれ」
これは貴族語で
田舎者が身の丈に合わぬ出世をしたせいで、いい気になっているだけだから、相手にするな。
という意味だ。
相変わらずお人が悪いことで
内心の失笑を堪えるために、俺は頬の内側を噛んだのだった。
「はぁー」俺ははわざとらしくため息をつき、額にかかる前髪を態とらしく掻き上げた。
「もう一度言うが、俺たちは本当に、暇じゃない。それ以上に陛下の貴重な時間を割いていただいていると理解されているのか?」
「なっなにを」
瞳に威嚇を込めると、ゼノンは怯えを見せた。
「アレク、そう急くな。それにお主の威嚇は洒落にならん」
重々しく仲裁に入った皇帝だが、その目は完全に面白がっている。
「これはご無礼を」
主君に一礼してゼノンに向き直った俺は、見開かれたままの目と目をひたりと合わせた。
もちろん威嚇は放ったままだ。
「神託は承った。愛し子の招来も、ミーネの森に、迎えが必要なのも理解した」
ズイッとゼノンに近くと、皺っぽい喉がゴクリと上下するのがわかった。
「だが、いくら世俗を離れた大司教殿でも、ミーネの辺りの管轄が、第四なのは知っているだろう?」
さらに一歩近づくとゼノンが一歩下がる。
「そこでだ。俺が聞きたいのは、何故、俺を呼んだのか?なのだがな?」
俺は神の存在こそ否定しないが、神殿の在り方や、神官の言う事には懐疑的でそれを隠した事はない。
俺の神殿嫌いは周知のことだ。
本来神殿の仕事は、神と人との橋渡しと癒しを与える事だ。
それがいつの頃からか、権力に執着し政治に介入する様になった。神力による癒しにも、法外な金銭が要求される様になると、助けられるべき力を持たない人々は、神の恩寵から置き去りにされた。
そんな胡散臭く傲慢な連中でも、力無い者たちは信じて縋るしかないのだ。
そして俺は、神の名のもとに、弱者を軽んじるこいつらが大嫌いだ。
そんな俺を、敢えて選んだ理由を問うているのだ。
「それに、神託が下りてから10日か?しかし今の今まで、神殿からの触れは聞かなかったなぁ?愛し子の招来は喜ばしいことだろう?なのに民は誰もその事を知らないとはどう言うことだ?」
また一歩ゼノンに近いた。
「今まで何をしていた?あぁ、歓迎の準備とか、ふざけた事は抜かすなよ?」
おおかた愛し子欲しさに、裏でコソコソと手を回したが、行き詰まって泣きついた。
そんな所だろうな。
本当に来るのかどうかは知らんが、神殿が愛し子を欲しがるのは分かる。
何せ相手はアウラ神が、直接選んだ神の御使いだ。
だが、それだけか?
なんの報告もなく、帝国の主を蔑ろにし、真っ向から刃向かう様なまねまでして得たいものはなんだ?
コイツらが純然たる善意や信仰心で動くはずがない。
欲しいのは権威か?力か?
コイツらは今までも皇家,皇帝を失墜するために、裏で散々汚い事をしてきているから今更だが。
何を隠している?
あぁ、嫌な感じだ。
いっその事、コイツらをここでくびり殺し
てしまおうか。
ついでに神殿もぶっ壊してしまえばいい。
そうすれば愛し子は皇家のものだ。
そうだなそれがいい。
よし殺う。
俺の放つ威嚇にゼノンは画面蒼白。
胡散臭い笑みも消えガタガタと震え出した。
すると痺れを切らしたように、司教のアガスが前に出た。
「閣下!畏れながら私めから説明を!」
俺はアガスを睨め付けた。
「アーチャー。皇宮の作法はいつ変わった?」
下位の者から上位のものへ先に声を掛けることは許されない。
神殿ないならいざ知らず。貴族間での司教の地位は低い。
そこらの有象無象と大差ないのだ。
方や俺は、継承権こそないがその地位は皇帝に次ぐものだ。
「ハッ!当家の末が今年デビュタントなので、マナーレッスンも行っておりますが、改変があったとは聞いておりません」
マークの答えに皇帝は「そうかそうかマシューは今年デビュタントか」と手を打って喜んだ。
俺が、アガスに向かって片眉を上げて見せると「たったいへん申し訳なく・・・・」頭を下げたアガスの額がビクビクと痙攣した。
安いプライドだ
苦々しい思いでアガスを見下ろしていると、皇帝が俺に声を掛けた。
「アレク、遊びも大概にせよ。話が進まんだろう。ゼノンは…もう役に立たんな」
皇帝の指示を受けた宰相が側仕えを呼び入れ、ゼノンを別室へ連れて行かせた。
この間アガスは頭を下げたままだった。
恥辱のせいか、腹の肉が邪魔で中腰が辛いのか、アガスの肩が震えているのが分かる。
それを見た皇帝は、薄笑いを浮かべて言った。
「アガスも司教になって日が浅い故、慣れぬことも多かろう、勘弁してやれ」
これは貴族語で
田舎者が身の丈に合わぬ出世をしたせいで、いい気になっているだけだから、相手にするな。
という意味だ。
相変わらずお人が悪いことで
内心の失笑を堪えるために、俺は頬の内側を噛んだのだった。
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