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第一章 『マルとバツ』
第十四話
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採掘が終わった後,赤い鉱石の行方について大広間でスペクタとケルンに尋ねてみた。二人には,「そんな鉱石は見ていない。」と返答された。二人にどんな鉱石だったのかと質問され,透明感のある赤い鉱石で,触れた時人肌くらいの温かさがあったことを伝えた。二人とも「人肌くらいの温かさ」という特徴に引っかかっていた。
赤い鉱石ならルビーという宝石の可能性がある。ただこの鉱山でルビーが採れたことは一度もなく,ましてや温かい鉱石なんて見たことも聞いたこともないとのことだった。その後,鉱石の詳細や,どういう風に見つけたのかについて事細かく聞かれた。幻覚の可能性を疑われたとき,俺は,「たしかにこの手で握ったから,流石に幻覚ではないと思う」と答えた。その後しばらく話し合いを続け,誰かが拾って懐にしまったり,土砂の中に紛れ込んだりしていない限り幻覚だろうという結論になった。
採掘場の土砂はコンクリートを作るのに利用される。昨日の土砂に,もしそのような鉱石が紛れ込んでいたなら,今日の午後六時までには上から何かしらの連絡が来るはずだ。もし連絡が来たら,夕食を運ぶ給仕係にマルに伝えるよう頼んでおく。もし給仕係から何も伝えられなかったら,そういった鉱石は土砂からは見つからなかったんだろうと思ってくれ。という話になった。
夕食の時,給仕係に何も伝えられなかった俺は,シカクとサンカク,ゴカクにもそれぞれ赤い鉱石の行方について知らないか尋ねてみた。三人は,大広間に帰って来た時にもスペクタ達に同じことを聞かれていたようだった。みんな知らない,赤い鉱石も見かけなかったと返答された。
夕食が終わった後,あのとき採掘をしておらず,俺が気絶した一部始終を見ていた可能性のあるサンカクにだけ,もう一度尋ねてみた。サンカクは,「俺を疑ってんのかよ。」と少し不機嫌そうだった。
俺は,「気を悪くさせちゃってすまん。」と謝ったうえで,本当に何も心当たりはないのか,俺が倒れた瞬間は見ていなかったのか尋ねた。
サンカクは当時目をつむっていて,バツの「マルっ!?」という叫び声で何か問題が起きていることに気が付き,マルが倒れていることに気付いたのだということ,マルが倒れた瞬間を見た人はあの場にはおらず,倒れた拍子に赤い鉱石がどうなったのか知っている人はいないだろうことを教えてくれた。
「もし本当に幻覚じゃないなら,転んだ拍子に地面に落ちて転がってって近くの土砂に紛れ込んでった,としか考えられねぇぜ。周りにそれらしいもんはなかったはずだしな。給仕係から連絡がなかったっつっても,土砂に紛れ込んだっていう線はまだ消えてねぇだろ。土砂の取り扱いを担当してる奴が,周りの奴らに報告せずにくすねたっていう可能性は考えられるわけだし。・・・まぁ,土砂を猫車に積んだり,猫車で運んだりしていたときに俺とシカクがそれらしいもんを見かけていない時点で,俺はマルの幻覚だと思うけど。」
そうしてサンカクとの話し合いは終わり,赤い鉱石の行方の調査は幕を閉じた。
スー,スー
休息所が寝息に満ちている。
マルは組んだ両掌を枕にして,暗くごつごつした天井を見つめていた。
(・・・マジでどこに行っちゃったんだろう,赤い鉱石。みんな嘘ついてる感じじゃなかった。サンカクの言う通り,土砂担当の人が周りに伝えず自分の懐にしまったんだろうか?現状考えられる可能性はそれしかねぇよなぁ。・・・いやぁでも,サンカクとシカクが気づかなかったっていうのがなぁ。倒れた拍子に転がって,土砂と一緒になっちゃったんだとしたら,積もった土砂の奥の方じゃなくて表面か表面付近にあったはずだ。土砂は灰色だから赤い色は目立つはずだし,流石に猫車に土砂を積んでるときにあの二人が気づかないとは思えない。)
マルは,おもむろに右手を顔の前に持って来て,掌を見つめる。
(・・・。)
昨夜,赤い鉱石が突き刺さっているように見えた掌。
長年採掘をやっているから皮膚が厚く,ごつごつしている。傷跡はなく,赤い鉱石ももちろん埋まっていない。
(やっぱ,幻覚なのかなぁ・・・。いやぁ,絶対幻覚じゃないと思うんだけどなぁ。昨夜の掌に鉱石が埋まってるように見えた現象は,百歩譲って幻覚だったかもしれねぇなぁって納得したけど,赤い鉱石を見つけて,採掘して,持ちあげたこと自体も幻覚だったっていうのはとてもじゃないが納得できない。・・・でも,みんなの証言的には,それすらも幻覚って線の方が辻褄があうんだよなぁ。・・・ああー,モヤモヤする。ほんとにわからねぇ。あの赤い鉱石マジで何だったんだよー。)
頭を両手で抑えながら,そんな風に悩むマル。しばらくして,「はぁっ」と息を吐いて両腕を地面に降ろした。
「・・・まぁいっか。行方が分かったからといって,何かしたかったわけでもねぇし。」
(今の俺には,もっと大事なことがあるわけだしな。)
スー,スー・・・
休息所が寝息で満ちている。マル以外に起きている人は,おそらくもういない。
「・・・よしっ,そんじゃ切り替えて,そろそろバツを起こすかな。」
そんなことを呟いて,マルは「ふっ」と上半身を起こした。
赤い鉱石ならルビーという宝石の可能性がある。ただこの鉱山でルビーが採れたことは一度もなく,ましてや温かい鉱石なんて見たことも聞いたこともないとのことだった。その後,鉱石の詳細や,どういう風に見つけたのかについて事細かく聞かれた。幻覚の可能性を疑われたとき,俺は,「たしかにこの手で握ったから,流石に幻覚ではないと思う」と答えた。その後しばらく話し合いを続け,誰かが拾って懐にしまったり,土砂の中に紛れ込んだりしていない限り幻覚だろうという結論になった。
採掘場の土砂はコンクリートを作るのに利用される。昨日の土砂に,もしそのような鉱石が紛れ込んでいたなら,今日の午後六時までには上から何かしらの連絡が来るはずだ。もし連絡が来たら,夕食を運ぶ給仕係にマルに伝えるよう頼んでおく。もし給仕係から何も伝えられなかったら,そういった鉱石は土砂からは見つからなかったんだろうと思ってくれ。という話になった。
夕食の時,給仕係に何も伝えられなかった俺は,シカクとサンカク,ゴカクにもそれぞれ赤い鉱石の行方について知らないか尋ねてみた。三人は,大広間に帰って来た時にもスペクタ達に同じことを聞かれていたようだった。みんな知らない,赤い鉱石も見かけなかったと返答された。
夕食が終わった後,あのとき採掘をしておらず,俺が気絶した一部始終を見ていた可能性のあるサンカクにだけ,もう一度尋ねてみた。サンカクは,「俺を疑ってんのかよ。」と少し不機嫌そうだった。
俺は,「気を悪くさせちゃってすまん。」と謝ったうえで,本当に何も心当たりはないのか,俺が倒れた瞬間は見ていなかったのか尋ねた。
サンカクは当時目をつむっていて,バツの「マルっ!?」という叫び声で何か問題が起きていることに気が付き,マルが倒れていることに気付いたのだということ,マルが倒れた瞬間を見た人はあの場にはおらず,倒れた拍子に赤い鉱石がどうなったのか知っている人はいないだろうことを教えてくれた。
「もし本当に幻覚じゃないなら,転んだ拍子に地面に落ちて転がってって近くの土砂に紛れ込んでった,としか考えられねぇぜ。周りにそれらしいもんはなかったはずだしな。給仕係から連絡がなかったっつっても,土砂に紛れ込んだっていう線はまだ消えてねぇだろ。土砂の取り扱いを担当してる奴が,周りの奴らに報告せずにくすねたっていう可能性は考えられるわけだし。・・・まぁ,土砂を猫車に積んだり,猫車で運んだりしていたときに俺とシカクがそれらしいもんを見かけていない時点で,俺はマルの幻覚だと思うけど。」
そうしてサンカクとの話し合いは終わり,赤い鉱石の行方の調査は幕を閉じた。
スー,スー
休息所が寝息に満ちている。
マルは組んだ両掌を枕にして,暗くごつごつした天井を見つめていた。
(・・・マジでどこに行っちゃったんだろう,赤い鉱石。みんな嘘ついてる感じじゃなかった。サンカクの言う通り,土砂担当の人が周りに伝えず自分の懐にしまったんだろうか?現状考えられる可能性はそれしかねぇよなぁ。・・・いやぁでも,サンカクとシカクが気づかなかったっていうのがなぁ。倒れた拍子に転がって,土砂と一緒になっちゃったんだとしたら,積もった土砂の奥の方じゃなくて表面か表面付近にあったはずだ。土砂は灰色だから赤い色は目立つはずだし,流石に猫車に土砂を積んでるときにあの二人が気づかないとは思えない。)
マルは,おもむろに右手を顔の前に持って来て,掌を見つめる。
(・・・。)
昨夜,赤い鉱石が突き刺さっているように見えた掌。
長年採掘をやっているから皮膚が厚く,ごつごつしている。傷跡はなく,赤い鉱石ももちろん埋まっていない。
(やっぱ,幻覚なのかなぁ・・・。いやぁ,絶対幻覚じゃないと思うんだけどなぁ。昨夜の掌に鉱石が埋まってるように見えた現象は,百歩譲って幻覚だったかもしれねぇなぁって納得したけど,赤い鉱石を見つけて,採掘して,持ちあげたこと自体も幻覚だったっていうのはとてもじゃないが納得できない。・・・でも,みんなの証言的には,それすらも幻覚って線の方が辻褄があうんだよなぁ。・・・ああー,モヤモヤする。ほんとにわからねぇ。あの赤い鉱石マジで何だったんだよー。)
頭を両手で抑えながら,そんな風に悩むマル。しばらくして,「はぁっ」と息を吐いて両腕を地面に降ろした。
「・・・まぁいっか。行方が分かったからといって,何かしたかったわけでもねぇし。」
(今の俺には,もっと大事なことがあるわけだしな。)
スー,スー・・・
休息所が寝息で満ちている。マル以外に起きている人は,おそらくもういない。
「・・・よしっ,そんじゃ切り替えて,そろそろバツを起こすかな。」
そんなことを呟いて,マルは「ふっ」と上半身を起こした。
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