きれいだから。

ねのん

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数日後。
彼は死んだ。

聞いた話によると、
まるで眠りゆくことに
幸せを感じているような
優しい笑顔で死んでいたらしい。
綺麗な姿で、
腹元に重ねられた手の中には
小さなメモ用紙が入っていて、
『悲しくしないで下さい』
とだけ書いてあったようだ。

彼女は呆然と
彼の病室だった部屋に立ち尽くし、
窓外から吹く風を受けていた。







  「おはよう」
  「おはようございます。
  昨日はよく眠れましたか?」
  「夢を見たよ。
 凄く素敵な夢を。」

(そういえば、
 どんな夢を見たんだろう。
 聞いておけばよかったな。)


  「僕は美しいものが大好きなんだ」

(……)

  「うん。いつもありがとう。」

(……)

  「僕、君の瞳が大好きだ」
  「まぁた、それですか。
 毎日言って、よく飽きませんね。」
  「まぁ、本当に思ってることだしね。
 いくら言ったってかまわないほどさ」

(………)







「あ、あの…大丈夫ですか?」
「…え?」

後輩の女の子が
心配そうに彼女に声をかける。

「え、えぇ、
 ここの患者さんとは
 仲が良かったものだから、つい。
 でも、もう大丈夫よ!
 これからも頑張らなくっちゃね。」
「…嘘ついてますよね」
「え?」
「だって今の先輩、
 まるで全身を涙に浸かったみたいに
 独りぼっちなんですもの」

彼女は自分の頬を触る。
あぁ、確かに。
彼女の頬には
幾筋もの涙が溢れ出ていた。

「実は私、隠してることがあって…」

後輩は彼女に
小さく折られた紙切れを渡した。

「ここの患者さんの枕の下に
 置いてあって…」

紙切れを広げてみると、
そこには綺麗な文字で書かれていた。

『出来ることなら、
 君と……

「っ」
「あ、先輩!?」

とっさに彼女は走り出した。
胸が苦しい。
息ができない。
目頭が熱い。

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