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綿花
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薄青色の空、
真っ白なシルクを透かしたような
天気の下。
11月の薄ら寒い朝。
雪が降り注いだかのように
真っ白な綿花畑の道を歩く
重く高級感のある
黒いトレンチコートを着る男は、
実を瑞々しくはじけさせた花々から
1つをちぎり取り
優しくポケットに入れた。
あとで彼女にあげよう。
きっと百合のように
優しく笑うんだろう。
口に指した上品な紅を艶めかせ、
花の香りのようなアイシャドウを
きらきらさせるんだ。
*
コンコン…
「はぁい」
「入るよ?」
黒いトレンチコートの男は
優しくそうっと扉を開けると、
瑠璃色の上品なソファに座り
綿毛の様にふわふわで
綺麗な短い金髪に
櫛を通す彼女がいた。
伏せられた瞼には
それは見事なアイシャドウがのっていた。
「あら、来てくれたのね」
「ちょっと通りかかったんでね」
「もっと来てくれれば良いのに」
「サンタクロースは
クリスマスに来るから
サンタクロースでいられるんだ」
「君がサンタクロースなら
さながら私は
プレゼントを待つ子供かしら?」
彼女は男の方へ瞼を伏せながら
微笑んだ。
「良い子にしていた君には
こちらをさしあげよう」
「まぁ、何かしら」
男は彼女の両手に
ポケットから取り出した綿花を
優しく置いた。
今朝取ってきたそれは、
ポケットの中にいた割には
形が保たれていた。
「繊細なものさ。
風が吹くと飛んでいってしまうよ」
「ふわふわとカサカサ。
これは一体なぁに?」
彼女は両手に乗ったそれを
ガラス細工を触るようにいじる。
匂いを嗅ぐ。
「食べていいものかしら?」
「窓際に飾るのが良いかもね」
「意地悪しないでくださる?
これは食べ物ではないのね。」
頬でその感触を楽しむ彼女に
微笑みながら男は答える。
「綿花だよ」
「まぁ!…これが……」
彼女は釣り上げていた片眉を
元に戻し、
両手の綿花に顔を向け、
しばらくするとクスリと笑った。
「こんなに優しい手触りだなんて
夢にも思わなかったわ」
「気に入った?」
「えぇ、とっても。
繊細で優しくて、
一体どんな色をしているのかしら。」
「そうだなぁ。
天使の羽のように輝くよ。」
「そう。
サンタクロースのお髭は
こんな感じなのかしら」
「さぁね。
俺は悪い子だったから、
お目にかかったことは無いけど」
「窓際に飾ってあげて。
きっと輝きたいはずよ」
彼女は綿花を男に渡す。
男がそれを窓際に置くと
彼女は満足そうに微笑んだ。
「喜んでるかい?」
「喜んでるわ」
お昼時の暖かな日光が
綿花を照らす。
彼女は満足したようで、
ソファから立ち上がり
クローゼットに向かった。
男がクローゼットの扉を
開けてやると、
彼女は中にかけられた
沢山の美しい服達に手を伸ばした。
「今日はどれが良さそうかな?」
「そうねぇ。
これがいいわ。
私も太陽を浴びて輝きたいの」
「じゃあ、これなんてどうだろう」
男は彼女の腕に
ふわふわで
真っ白なファーコートを渡す。
「これがいいわ!」
「じゃあ、靴を選んで
さしあげましょう。」
彼女がコートを器用に着ながら
ソファに座ると、
男は上品な黒のヒールを
彼女の足にはめた。
「どんな靴かしら」
「踊ってみるとわかるかも」
「一緒に踊ってくださらないの?」
「俺の音が混ざりはしないかな?」
「それくらい聞きわけるわ♪
私、耳がとっても良いんだから」
彼女は伏せた瞼でこちらを見つめ、
両耳に両手をかざした。
男はクスリと笑い、
彼女の手をとりワルツを踊った。
彼女のヒールから
カツカツと
軽快な音色が零れ落ちる。
「まぁ!
なんて楽しそうなのかしら!」
「気に入った?」
「君が選ぶ靴は
いつも楽しそうに
歌っているわ♪」
「どんな靴でも
あなたはそう言うね」
「君には
幸せな靴を選ぶ才能があるのよ。
きっと」
コートとセットになっている
真っ白で
ふわふわなウシャンカを被ると、
彼女は男の前で
まるで妖精のように
一周まわって見せた。
「どうかしら」
「とっても綺麗だよ。
あの花みたいに輝いている」
「そう。嬉しいわ」
彼女は嬉しそうに笑うと、
男に手を引かれながら
新しいレストランへ
ランチに出かけた。
扉の閉まる振動で
窓際の綿花がふわりと揺れた。
真っ白なシルクを透かしたような
天気の下。
11月の薄ら寒い朝。
雪が降り注いだかのように
真っ白な綿花畑の道を歩く
重く高級感のある
黒いトレンチコートを着る男は、
実を瑞々しくはじけさせた花々から
1つをちぎり取り
優しくポケットに入れた。
あとで彼女にあげよう。
きっと百合のように
優しく笑うんだろう。
口に指した上品な紅を艶めかせ、
花の香りのようなアイシャドウを
きらきらさせるんだ。
*
コンコン…
「はぁい」
「入るよ?」
黒いトレンチコートの男は
優しくそうっと扉を開けると、
瑠璃色の上品なソファに座り
綿毛の様にふわふわで
綺麗な短い金髪に
櫛を通す彼女がいた。
伏せられた瞼には
それは見事なアイシャドウがのっていた。
「あら、来てくれたのね」
「ちょっと通りかかったんでね」
「もっと来てくれれば良いのに」
「サンタクロースは
クリスマスに来るから
サンタクロースでいられるんだ」
「君がサンタクロースなら
さながら私は
プレゼントを待つ子供かしら?」
彼女は男の方へ瞼を伏せながら
微笑んだ。
「良い子にしていた君には
こちらをさしあげよう」
「まぁ、何かしら」
男は彼女の両手に
ポケットから取り出した綿花を
優しく置いた。
今朝取ってきたそれは、
ポケットの中にいた割には
形が保たれていた。
「繊細なものさ。
風が吹くと飛んでいってしまうよ」
「ふわふわとカサカサ。
これは一体なぁに?」
彼女は両手に乗ったそれを
ガラス細工を触るようにいじる。
匂いを嗅ぐ。
「食べていいものかしら?」
「窓際に飾るのが良いかもね」
「意地悪しないでくださる?
これは食べ物ではないのね。」
頬でその感触を楽しむ彼女に
微笑みながら男は答える。
「綿花だよ」
「まぁ!…これが……」
彼女は釣り上げていた片眉を
元に戻し、
両手の綿花に顔を向け、
しばらくするとクスリと笑った。
「こんなに優しい手触りだなんて
夢にも思わなかったわ」
「気に入った?」
「えぇ、とっても。
繊細で優しくて、
一体どんな色をしているのかしら。」
「そうだなぁ。
天使の羽のように輝くよ。」
「そう。
サンタクロースのお髭は
こんな感じなのかしら」
「さぁね。
俺は悪い子だったから、
お目にかかったことは無いけど」
「窓際に飾ってあげて。
きっと輝きたいはずよ」
彼女は綿花を男に渡す。
男がそれを窓際に置くと
彼女は満足そうに微笑んだ。
「喜んでるかい?」
「喜んでるわ」
お昼時の暖かな日光が
綿花を照らす。
彼女は満足したようで、
ソファから立ち上がり
クローゼットに向かった。
男がクローゼットの扉を
開けてやると、
彼女は中にかけられた
沢山の美しい服達に手を伸ばした。
「今日はどれが良さそうかな?」
「そうねぇ。
これがいいわ。
私も太陽を浴びて輝きたいの」
「じゃあ、これなんてどうだろう」
男は彼女の腕に
ふわふわで
真っ白なファーコートを渡す。
「これがいいわ!」
「じゃあ、靴を選んで
さしあげましょう。」
彼女がコートを器用に着ながら
ソファに座ると、
男は上品な黒のヒールを
彼女の足にはめた。
「どんな靴かしら」
「踊ってみるとわかるかも」
「一緒に踊ってくださらないの?」
「俺の音が混ざりはしないかな?」
「それくらい聞きわけるわ♪
私、耳がとっても良いんだから」
彼女は伏せた瞼でこちらを見つめ、
両耳に両手をかざした。
男はクスリと笑い、
彼女の手をとりワルツを踊った。
彼女のヒールから
カツカツと
軽快な音色が零れ落ちる。
「まぁ!
なんて楽しそうなのかしら!」
「気に入った?」
「君が選ぶ靴は
いつも楽しそうに
歌っているわ♪」
「どんな靴でも
あなたはそう言うね」
「君には
幸せな靴を選ぶ才能があるのよ。
きっと」
コートとセットになっている
真っ白で
ふわふわなウシャンカを被ると、
彼女は男の前で
まるで妖精のように
一周まわって見せた。
「どうかしら」
「とっても綺麗だよ。
あの花みたいに輝いている」
「そう。嬉しいわ」
彼女は嬉しそうに笑うと、
男に手を引かれながら
新しいレストランへ
ランチに出かけた。
扉の閉まる振動で
窓際の綿花がふわりと揺れた。
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