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第10部 冒険者及び冒険者ギルド
(2)冒険者の業態と収入源 a 依頼を中心とした業態の成否-2
しおりを挟む(d)大都市における依頼数
王都などの大都市においては、高ランク冒険者が集っているなどとする作品は極めて多い。しかし、仮に王都においてもモンスター討伐などの依頼がメインであり、ランクによる受注制限があって、高ランク冒険者が多いとすると、王都は、近辺に極めて協力なモンスターが出現しやすい環境にあるということになる。果たしてそのような危険な場所に首都を建設し維持し、居住しようなどと為政者が考えたり、多くの都民が住もうと考えることにリアリティはあるだろうか。おそらく、大都市近辺には出現するのはせいぜい弱めのモンスター程度であろう。
通常、首都は安全な交通の要衝に建設されるものである。また、王都であるならば、特に警備体制は厳重であって首都防衛軍が配備されているはずである。そうすると、それなりに強大なモンスターが出現するとしても、そのたびに、誰かが発注して高ランク冒険者が受注するのを待つなどと迂遠なシステムが成立しうるはずがなく、直ちに首都防衛軍が出動し駆除するはずである。
護衛業務についても、大都市は物流の中心であり、ナーロッパの都市人口は数万~数十万レベルであるから、他の大都市へのルートはもちろん、周辺村へのルートについても往来する者が多いと考えられるから、護衛の需要も高いはずであり、護衛業者が出現し、それらのルートをカバーしているはずであるし、出張頻度の高い商人であれば、身元の確かな専属の護衛を雇っているはずである。そうすると、滅多に人が利用しない、強力なモンスターや盗賊の出現あるいは特殊な障害の存在が予想されるルートを選択した依頼人が、護衛業者を利用できない何らかの事情があるか、護衛業者よりも割安で同程度以上の実力を持つ冒険者を雇えるというケースでのみ、冒険者ギルドに護衛の依頼が発注されるということになる。
そして、それ以外の冒険者業務、つまり物資輸送や手紙配達、ドブさらいは、高ランク冒険者はランク受注制限により受注することができない。
したがって、王都の冒険者ギルド本部には、高ランク冒険者が受注するような依頼はなく、彼らが集うはずはない。
では、低ランク冒険者であればどうか。素材や薬草の採取はもちろん、手紙配達やドブさらいのような業務であっても、数万~数十万の人口を擁するナーロッパの大都市であれば、大きな需要が見込まれるのであるから、専門の会社ができ、継続的に稼働しているはずであるし、大都市における物価を考えれば冒険者ギルドの固定資産税または賃料・地代、役職員の人件費や冒険者の報酬も割高になるはずであるから、そのような業務について都度、冒険者に依頼するということは考えられない。単発の仕事よりも継続的な仕事の方が料金が割安になるのは商売の常である。
冒険者側にとっても大都市における宿泊費・食費その他の生活費は高くなるはずである。仮に宿泊費を安く済ませようとすれば、劣悪な安宿に泊まることになるのだから、当該大都市に生まれ、移動中の魔物・盗賊の襲撃を撃退できない程度の最弱レベルの冒険者以外は、定住しようとは考えにくいはずである。また、仮に単発で依頼が少しはあったとしても、生活費を賄うほどの成功報酬総額に達しないし、安定もしないだろう。ドブさらいしかできず、定住するのであれば、清掃会社に就職する方が合理的である。
よって、首都には、冒険者ギルドの当該国本部が設置されているとしても、そこでは国内支部の統括管理業務とか、当該国政府や大商人等との折衝といった業務が行われるだけで、依頼数は極めて少ないと考えるべきである。
(e)村における依頼数
説明するまでもないことであるが、数十人から数百人規模の村で、モンスターが出現したら村の戦闘力の高い者総出で討伐し、又は村を防衛するという体制を取るというようなところに、冒険業の需要があるはずがない。
したがって、村にも冒険者ギルドの支部があって冒険者が依頼を受けるなどとするのは極めて不自然である。
しかし、村における冒険者を狩人とみなし、狩人が自主的に狩猟して得た獲物を冒険者ギルドが買い取るというシステムであれば、一応は成り立ちうると考えられる。
(f)専門業者の登場
単発の仕事よりも継続的な取引が割安であり、仲介者を通じた取引よりも直接取引の方が割安になる、継続的に需要の見込める業務ならば専門業者が登場する。これらは商売の基本である。
とすると、冒険者ギルドを介して継続的な仕事を発注し続けるというのは経済的に不合理ということになる。
したがって、狩猟採集、護衛や物資輸送・手紙配達、ドブさらいのような継続的に需要のある業務には専門業者が登場する。これらのうち、後述する通り、素材の卸売業を主な事業とする冒険者ギルドに関わるのは狩猟採集業者であって、実際、冒険者のほとんどの仕事は狩猟採集であることからも明らかである。なお、盗賊の捕縛・討伐が元来司法警察の仕事であることは詳述するまでもない。
(g)依頼が多くなる状況とは
依頼が十分にある状況は、一体どうしたらありえるのだろうか。どういった依頼なのであろうか。少なくとも継続的な業務は雇用契約や売買基本契約等、最初の紹介料は別としても冒険者ギルドを通さずに契約するものと考えられる。したがって、継続的業務の初回お試しか、単発の仕事ということになる。
①狩猟(害獣駆除)
②薬草採集
③護衛
④物資輸送・手紙配達
⑤盗賊討伐
⑥宝物・レアモンスター・レア素材の探索
⑦モンスター・ダンジョン調査
⑧ドブさらい
のうち、継続的業務たりえるのは①②③④⑧であろう。ただ、③④を継続させるなら専属(雇用)又は専業(独立系)の警備業者・輸送業者、⑧を継続させるなら清掃業者が出来るはずである。
③④については、商人の定期便や貴族であれば専属の担当者がいると解するのが通常であるから、あくまで欠員補充等の臨時雇いか、あるいは旅人など完全に単発の依頼となるであろうから、単発の依頼が多いとも考えにくいため、自身の移動のついでという要素が強くなると考えられる。
③④を単発で、というのは、例えば常用されている担当者に事故があって業務を遂行できないが緊急に輸送しなければならないなど、突発的トラブルが生じている場合のみであり、信用性の問題からも考えにくい。これは、商人の身になって、物品輸送や現金輸送を、世界展開していることで名が知られる運輸会社ではあるが採用がザルであって在籍者のほとんどに後ろ暗い過去があり、所在も統制しないことでも有名な企業に頼むかを考えればわかるだろう。「冒険者ギルドが身元を保証しているから」などと理由付けする作者は多いが、登録の際に本人確認もしないのだからそれが嘘であることは明白である。
⑤は本来は司法警察の仕事であるが、司法警察は人員の都合により町内で手一杯であり、広域で捜索をさせる余裕がないとすると、おかしな話ではあるが、単発の仕事としてやむを得ず外注、ということもないとはいえないかもしれない。常用しようとするのであれば人員を拡充するべきともいえるが、死傷した場合の保障等の面倒があるとすれば、使い捨て要員として冒険者を雇うことはあるのかもしれない。しかし、複数の盗賊団が付近にいる場合、遭遇率を考えれば盗賊団1個につき冒険者1を雇うというのは考えにくく、複数の盗賊団の捜索・討伐を頼むであろうし、何十も盗賊団がいるとも考えにくいから、やはりそれほど多くはないと考えられる。
⑥⑦は、<冒険者>という職業名にもっとも適合的な業務であるが、基本的には単発の仕事であろう。もちろん、埋蔵金探索のように長期間雇う、というかパトロンのような依頼人がいるかもしれないが。
よって、依頼が多くなる状況というのは、考えにくい。
(h)小結
以上、検討してきたように、モンスターが大量に出るならば、依頼を待つよりも率先して狩猟して素材を売却すればよいし、薬草採取の依頼が多いならば需要の多い薬草を中心とした農園を作るなり(危険地帯でしか生育しないとしても)需要を見越して定期的に納品する契約をメーカーとの間で締結すればよいし、ドブさらい依頼が多いならば清掃業者が出来るはずであるから、依頼の請け負いを中心とする業態は成立しえない。
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