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第39話 続く星屑の道しるべ
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翌朝。
外から元気な声がゾイスを呼んだ。
「ゾイスー! おはよお!」
窓から下を見るとリュックを背負ったアレキが手を振っている。
「アレキが来た。出発しよう」
もう用意は済んでいるので、全員が階下に降りていく。
エカテリナがドアを開けて待っていた。
「いってらっしゃい。遅くなるなら電話かけてね」
「はい。行ってきます」
アレキはアズを見るなり飛びついてくる。
「おはアズにゃん!」
「おはようアレキ、随分大きな荷物だね」
アズもすっかりアレキの態度に慣れており、問題行動は華麗にスルーだ。
「何か見つけたらたくさん持って帰ってこなくちゃいけないんでしょ? 一番おっきなリュック持ってきた!」
アレキの学生鞄をゾイスの家に置き、一同は出発する。
ハリとマリア=エリー=レラの口数が少ないのを気にしたアレキが二人の顔を覗いた。
「昨日の疲れとれてないんだ?」
「あのクッソ暑い部屋に閉じこもって力仕事してたら、そりゃげっそりするわよ」
「重いの三人五階まで持ち運びしてみろよ……」
「あー! また重いって言った!」
「今のは不可抗力だろ!?」
それを前で聞いていたゾイスが、先導するアズを気にして声をかける。
「大丈夫? 君も疲れが取れてないんじゃない?」
「大丈夫だよ。星屑はハッキリ場所を教えてくれてるし、導きを追ってる時はそんなに魔力いらないから」
「疲れたら無理しないで言って。休み休み行こう」
「ありがとう。私は本当に平気。後ろの二人の方が心配だよ」
ゾイスはアズに、どうしてそんなに三人がそろって疲弊しているのかを聞かないでおいた。アズはきっと嘘を言う。だから嘘をつかせたくなかった。
早く目的の場所に辿り着きたい。けれど彼らの身体を考えると足早に進めず、そのジレンマに背中を押されている。
星屑を追いかけてしばらく進んでいるうち、彼らはアックリコーリィの街の門まで来てしまった。
「あれ……門の外に続いてる……」
「街にないものなのか。でも、相互で使用しているものと区切りをつけておいたのに、どういうことだ……?」
ゾイスも予想がつかず首を傾げている。
だが星屑は門の外に続き、遙か南に流れていた。
「とにかく導きの通りに進むよ」
アズは星屑を追いかけて更に歩を進めた。
それから一時間程歩き、マリア=エリー=レラが口を開く。
「ねえ……こっちって村の方よね……」
「うん……。私も気になってきた。星屑は街道をなぞってるみたい」
アズの発言にハリがホッパーを使った。
上空から先を見れば、遠くの地平線を緑の森が埋めている。
着地をして足がふらつき、慌てて隣を歩いていたアレキがその身体を支えた。
「ちょっと無理しないでよお!」
「悪ィ、降りる場所ミスった」
嘘だ。みんな分かっていたが、あえてそれを口にしない。
「三分の一くらい進んだかな。大分遠目に森が見えた」
「もうちょっと急いだ方がよくない……?」
いつも元気なアレキの声に張りが無い。それを察したマリア=エリー=レラが凛と胸を張った。
「そうね。もう少しペースを上げて、半分くらい進んだら休憩しましょ」
無理をさせたくはなかったが、時間は刻々とすぎていってしまう。
街と村の丁度半分くらいの位置で休憩を取る。
三人は息を切らしてはいたが、まだ笑みを見せられるくらいの余裕があるようだ。
アズが水を飲みながら村の方角を見て言った。
「やっぱり村の方角に続いてる」
「じゃああと一時間ちょいってとこか。余裕余裕」
ハリが草むらに横になる。
アレキは空を見上げて言った。
「アタシ、街から出たことなかったんだ! 何かすごいね、空が真っ青……! 国語の時間、空が青いって文章読んで、うっそだあーって思ってたけど、本当に青い!」
灰色の空に住む彼女にはそれが斬新なのだろう。ゾイスはこの前アズたちを送ってきた時に街から出たことはあったが、雨の中を歩いていたのでこの青さを見たことがない。
「本当だね。僕たちは知識をたくさんオデッセフスにもらっているけど、そのものの本質を見たことがない。自然はこんなに美しいのに、何も知らないんだな……」
「空気が美味しい……食べ物じゃないのに! 不思議な感覚! ねえ、ゾイスのママを連れてきてあげたら、肺の調子もっと良くなるんじゃない?」
「母さんをか……。ああ、あの森の中へ連れて行ってやりたい。濃縮された土と緑の香り……きっと喜ぶだろうな」
蝶が鼻面を飛んで過ぎ、アレキはそれを嬉しそうに目で追った。その視線が草むらで寝こける三人に辿り着き、ハッと息を呑む。
「みんな? ねえ、大丈夫?」
身体を揺らされたマリア=エリー=レラが目を開ける。
「何よそんな顔して。あったかいからウトウトしてたのよ」
嘘だ。
「もうちょっと休もうか」
「今ちょっとうたた寝したから回復したわ。ほらアンタたち起きなさいよ」
ハリとアズの頭を小突き、二人を起こすと歩き出す。
「村はこっち。アズじゃなくても分かるからついてらっしゃい」
アレキとゾイスは不安を隠せず、お互い視線を送った。
外から元気な声がゾイスを呼んだ。
「ゾイスー! おはよお!」
窓から下を見るとリュックを背負ったアレキが手を振っている。
「アレキが来た。出発しよう」
もう用意は済んでいるので、全員が階下に降りていく。
エカテリナがドアを開けて待っていた。
「いってらっしゃい。遅くなるなら電話かけてね」
「はい。行ってきます」
アレキはアズを見るなり飛びついてくる。
「おはアズにゃん!」
「おはようアレキ、随分大きな荷物だね」
アズもすっかりアレキの態度に慣れており、問題行動は華麗にスルーだ。
「何か見つけたらたくさん持って帰ってこなくちゃいけないんでしょ? 一番おっきなリュック持ってきた!」
アレキの学生鞄をゾイスの家に置き、一同は出発する。
ハリとマリア=エリー=レラの口数が少ないのを気にしたアレキが二人の顔を覗いた。
「昨日の疲れとれてないんだ?」
「あのクッソ暑い部屋に閉じこもって力仕事してたら、そりゃげっそりするわよ」
「重いの三人五階まで持ち運びしてみろよ……」
「あー! また重いって言った!」
「今のは不可抗力だろ!?」
それを前で聞いていたゾイスが、先導するアズを気にして声をかける。
「大丈夫? 君も疲れが取れてないんじゃない?」
「大丈夫だよ。星屑はハッキリ場所を教えてくれてるし、導きを追ってる時はそんなに魔力いらないから」
「疲れたら無理しないで言って。休み休み行こう」
「ありがとう。私は本当に平気。後ろの二人の方が心配だよ」
ゾイスはアズに、どうしてそんなに三人がそろって疲弊しているのかを聞かないでおいた。アズはきっと嘘を言う。だから嘘をつかせたくなかった。
早く目的の場所に辿り着きたい。けれど彼らの身体を考えると足早に進めず、そのジレンマに背中を押されている。
星屑を追いかけてしばらく進んでいるうち、彼らはアックリコーリィの街の門まで来てしまった。
「あれ……門の外に続いてる……」
「街にないものなのか。でも、相互で使用しているものと区切りをつけておいたのに、どういうことだ……?」
ゾイスも予想がつかず首を傾げている。
だが星屑は門の外に続き、遙か南に流れていた。
「とにかく導きの通りに進むよ」
アズは星屑を追いかけて更に歩を進めた。
それから一時間程歩き、マリア=エリー=レラが口を開く。
「ねえ……こっちって村の方よね……」
「うん……。私も気になってきた。星屑は街道をなぞってるみたい」
アズの発言にハリがホッパーを使った。
上空から先を見れば、遠くの地平線を緑の森が埋めている。
着地をして足がふらつき、慌てて隣を歩いていたアレキがその身体を支えた。
「ちょっと無理しないでよお!」
「悪ィ、降りる場所ミスった」
嘘だ。みんな分かっていたが、あえてそれを口にしない。
「三分の一くらい進んだかな。大分遠目に森が見えた」
「もうちょっと急いだ方がよくない……?」
いつも元気なアレキの声に張りが無い。それを察したマリア=エリー=レラが凛と胸を張った。
「そうね。もう少しペースを上げて、半分くらい進んだら休憩しましょ」
無理をさせたくはなかったが、時間は刻々とすぎていってしまう。
街と村の丁度半分くらいの位置で休憩を取る。
三人は息を切らしてはいたが、まだ笑みを見せられるくらいの余裕があるようだ。
アズが水を飲みながら村の方角を見て言った。
「やっぱり村の方角に続いてる」
「じゃああと一時間ちょいってとこか。余裕余裕」
ハリが草むらに横になる。
アレキは空を見上げて言った。
「アタシ、街から出たことなかったんだ! 何かすごいね、空が真っ青……! 国語の時間、空が青いって文章読んで、うっそだあーって思ってたけど、本当に青い!」
灰色の空に住む彼女にはそれが斬新なのだろう。ゾイスはこの前アズたちを送ってきた時に街から出たことはあったが、雨の中を歩いていたのでこの青さを見たことがない。
「本当だね。僕たちは知識をたくさんオデッセフスにもらっているけど、そのものの本質を見たことがない。自然はこんなに美しいのに、何も知らないんだな……」
「空気が美味しい……食べ物じゃないのに! 不思議な感覚! ねえ、ゾイスのママを連れてきてあげたら、肺の調子もっと良くなるんじゃない?」
「母さんをか……。ああ、あの森の中へ連れて行ってやりたい。濃縮された土と緑の香り……きっと喜ぶだろうな」
蝶が鼻面を飛んで過ぎ、アレキはそれを嬉しそうに目で追った。その視線が草むらで寝こける三人に辿り着き、ハッと息を呑む。
「みんな? ねえ、大丈夫?」
身体を揺らされたマリア=エリー=レラが目を開ける。
「何よそんな顔して。あったかいからウトウトしてたのよ」
嘘だ。
「もうちょっと休もうか」
「今ちょっとうたた寝したから回復したわ。ほらアンタたち起きなさいよ」
ハリとアズの頭を小突き、二人を起こすと歩き出す。
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アレキとゾイスは不安を隠せず、お互い視線を送った。
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