【占星術師の宇宙論】

荒雲ニンザ

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第38話 星の導きを聞く

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 食事を終え、エカテリナに礼を言った四人はゾイスの部屋へと戻ってきた。
 ベッドの上にある本を避けてからそこに座り、ハリは腕を組む。

「ここからが難しいんだよな。聞くにしても、いいキーワードをチョイスしないとならない」

「今回はゾイスがいるから大丈夫でしょ」

 マリア=エリー=レラがそう言うと、ゾイスは首を傾げる。

「いいキーワードって?」

 アズが答えた。

「星は言葉を話すわけじゃないから、その場所に連れて行ってもらえるような問いかけをしないとうまく読めなくなるんだ。例えば、そこのボールが当たった時に壊す物はどれかじゃなくて、このボールが物を壊す場合に転がる方向は右か左かとか、そういう感じ」

「なるほど。ということは、今回だとクオーツのような、オデッセフスとジノヴィオスに共通して作用するアイテムで、オデッセフスの存在を打ち負かすほど強いもののある場所の位置を聞けばいいんだね?」

「わお、いとも簡単に答えを出してきたわね」
「さっすが」

「でも、かなり遠くにあったり、入れない場所にあったりするものは困るな。海の底とか案内されても取りに行けないし」

「じゃあ……近場でないかを付け加えればいいのかな」

「あと、僕たちが使えないと困るよね。その辺りも組み込んだ方がいいかもしれない」

「ううん、ちょっと待てよ……えーと」

 アズがぶつぶつ言葉を選んで目を瞑っている。部屋主はその間に窓のブラインドを閉め、離れた場所に待機している二人の元に戻った。
 しばらく待っていると、アズが意を決して立ち上がる。

「うん。多分大丈夫。いくよ」

 アストロラーベを掌に乗せてから持ち上げ、ジノヴィオスに声をかけた。

「私の声が聞こえますか。私はアズ、星の導きを必要としています」

 平面球形が静かに浮き上がりながら光を増してゆき、アーミラリスフィアへと変化する。白い球体に発光しながら、その位置で浮遊を維持した。

「オデッセフスとジノヴィオス、どちらにも通ずるものを探しています。私たちが必要以上に時間をかけることなく辿り着ける距離で、私たちが扱えるものの中から、行き過ぎたオデッセフスの存在を打ち負かすほど強いものを選び、我々をそこへ導きたまえ」

 幾度か光が点滅し、部屋影を動かした。

「星よ導きたまえ」

 最後に大きく輝くと、光は現実に溶け込んでいくようにして消え、スフィアは力をなくしてアズの掌へ収まり、平面球形へと戻った。

 占星術師の魔法を初めて見たゾイスは口を開けて呆然としており、幾度か目を瞬いて正気に戻った。

「すごい……僕の部屋じゃないみたいだった……。宇宙にいるのかと錯覚するくらい強烈……」

「ふふ、ありがとう。おばあちゃんの占星術はこんなもんじゃないんだよ」
「それは……見てみたいね」

 戻せるだろうか、消えた人々を。失われていく魔法を。
 アズの表情が少し揺らいだのを察したゾイスは話を変えてやる。

「どう? 星屑を感じる?」

「感じる……色んな方向に細い筋ができてるけど、大きくて激しい流れは街の南側に続いてるみたい」

「遠そうか?」

 ハリの問いにアズは首を捻る。

「……分からない。でも時計台の時とちょっと違うみたい」

 マリア=エリー=レラが大きなあくびを手で隠す。

「どの道今日は動けないわ。明日、朝早くから行きましょう。もう今日は疲れてこれ以上ムリ……」

「そうだね。とりあえず、今のことをアレキに電話しなきゃ」
「あいつ大丈夫だったかなあ。親父さん過保護だからなー」

 ハリの心配はみんなの心配だ。ゾイスが電話をかけている様をじっと見つめる。

「ああアレキ、僕だよ、ゾイス。大丈夫だった?」
「めっちゃ怒られた!」

 まあそりゃそうだろう。

「こっちは今星読みをしたところ。明日の早朝から星屑を追いかけることになってる。そっちは抜け出せそう?」
「学校行くフリしてそっちに行く!」

 抜け出す方法を何か考えておくと言っていたような気がするが、そのまんますぎる。

「それだとまた学校から親御さんに連絡いっちゃうよ。仮病使って休むのはどう?」

「じゃあパパの声マネして先生に電話かける!」
「せめてお母さんにしよ!?」

「ママ大人しいからなー! マネできるか分かんないけどやってみる! 八時過ぎくらいにはそっち着くと思う!」

「分かった。ちょっと遠出になるかもしれないから、バレない程度に用意してきて」
「あーい!」

 電話を切った後、三人が寝こけているのに気がついた。

「みんな、ベッド行こう。僕は父さんの部屋で寝るから、ハリはここのベッド使って。アズとマリア=エリー=レラは客室の二つを」

 と思ったが、一瞬躊躇する。

「ああ……それじゃまずいか……? ハリと僕が客室で、アズとマリア=エリー=レラを一部屋ずつに分ける方がいいのか……?」

 マリア=エリー=レラが呆れながら目をこする。

「大丈夫よ、アズは中性なんだから。どっち道この子がアタシに襲いかかるわけないじゃない。幼馴染よ?」

「いや……でも、マリア=エリー=レラは女の子だし、アズは女の子じゃないし……」

「男でもないでしょ、考えすぎ。アズ行くわよ」
「う、うん。二人ともおやすみ……」

 そう言ってマリア=エリー=レラはアズの腕を引いてドアから出て行った。
 ハリはすでにゾイスのベッドの上に寝転んでいる。そして気だるそうにゾイスに話しかけてきた。

「アズにゃんはなー、線が細いからなー、パッと見女子に見えるんだよねー……。分かります、分かりますよ学師」

「そ、そうかな? 体格はスラっとしてて、平面だし、そんなことはないような気もするけど……」

「顔も女顔じゃん?」
「え? そ……そうかな?」

「意外に可愛いよな」
「僕も寝るよ! おやすみ。また明日」

 ハリにつつかれている気分になり、ゾイスは部屋から逃げ出した。
 ドアの向こうで息をつき、嫌な汗を拭う。

「はあ……全く、何なんだよみんなで」

 頭でノーと言っているのに、心が戸惑ってしまう。
 否定すればするほど意識してしまい、アズを女の子として見てしまいそうになる。

 明日も早いのだ、早く寝よう。そう言い聞かせ、亡き父の部屋を開けてベッドに潜り込んだ。
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