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第34話 作戦決行の夜
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太陽がオレンジに染まり、どろどろとビルの後ろに沈む頃、反対側の空はもう星が見えていた。
薄暗くなる前から電灯がつき、周囲は煌々とし始めている。
ビルの明かりは星の光を消してしまい、スチームは夜空すら覆い隠してしまっている。自然の穏やかさは皆無となり、暗い空間に『機械の街』という巨大なライトだけが浮かび上がっていた。
帰宅する学生たちが見え始めればもう安心と、一同は大通りに移動する。
「じゃあ、手筈通りに」
皆が頷き、時計台の下に向かった。
帰宅ラッシュで人が右往左往している中、マリア=エリー=レラが一人歩き出す。
彼女の後ろ姿を心配そうに見つめるアズとハリ。同じ気持ちでマリア=エリー=レラも地下鉄の階段を下りていた。
先ほどこの周辺を確認しに来ているので、進む方向は分かっている。券売機付近でたむろしている人々を押し退け、隙間から改札の中に入ると、駅員の詰め寄り所の前を通り過ぎた。
少し進んで人通りが途切れた場所で角を曲がり、その死角を利用してインビジブルを発動させて身体を透明にした後、再び引き返して詰め寄り所の扉の前まで戻ってくる。
改札横から中を覗くと、三人の駅員がいるのが見えた。
マリア=エリー=レラはドアのノブに手をかけ、ゆっくりとそれを回す……。
鍵はかかっていない。そっとそれを押して隙間を開ける。人手が足りていない駅員が忙しなく業務を行っているのにつけ込み、こちらに気がついていない間に中に入り込んでからドアをゆっくり閉めた。
詰め寄り所の中に入ることはできた。それだけで息をつきたい気分に駆られたが、マリア=エリー=レラはそのまま足音を立てないように歩いて奥の扉に向かう。
奥のドアにはノブがついていない。ただ押すだけの扉のようなので、駅員の様子を伺いながらそのドアをそっと押す。すると蝶番がキイと黄色い音を立てたので、慌てて手を離した。
近くにいた駅員がこちらに振り向き、揺れているドアを見て首を傾げている。
その駅員がこちらに歩いてきたので、狭い室内でマリア=エリー=レラは慌てて壁に背を預けてへばりついた。
駅員は扉を押して向こう側を確認すると、誰もいないことに首を傾げてその手を離す。その隙にマリア=エリー=レラが隙間から扉の外へと抜け出した。
キイキイ音の鳴る扉の向こう、ようやく息をつけたマリア=エリー=レラが嫌な汗を拭う。
「ふう……アレキの怖い話よりスリリングよ全く……」
文句を垂れてから廊下を進んで行くと、建物全体に響いていたボイラーの音が次第に大きくなってきた。
何個か扉はあったが一番奥へ進み、最も重圧な鉄の扉についているカードを読み上げる。
「ボイラー室。ここね」
開けるととてつもない熱気が吹き上がり、彼女は思わず呻き声をあげた。
「うえっ……!! 何これ、こんな暑いの!?」
階段が下に続いており、その先が薄明るい。下まで降りていくと、巨大なタンクが入り組んだパイプに繋がれて並んでいる巨大な部屋に出た。
圧巻な光景に思わず呆然としたが、マリア=エリー=レラは急いで小型電話を取り出すとアレキの番号にダイヤルをする。
「もしもおし! こちらアレキ!」
「アタシよ! ボイラー室の中についたわ」
「でかした! 中はどんな感じになってる?」
「大きくて細長い樽が並んでる……。それに大きなパイプがついて、上に向かって伸びてるわ」
「オケ、そのタンクのどこかに扉のついた箱がない?」
マリア=エリー=レラは歩きながら周囲を見回している。
「箱っていうか……一つのタンクってやつに一つずつ、細長い物置みたいなものはついてるけど……」
「開けてみて!」
言われた通り開けると、大きなレバーが上下に一つずつついていた。
「大きな杭が二つある。上が赤で、下が青」
「箱の外にでっかいバルブない?」
「ばるぶって何?」
「え? えーと……鶏のトサカみたいなやつ!」
何だそりゃと思いながら箱の横を確認してみると、あった。鶏の鶏冠だ。
「あった。丸くて大きくて、うねってる感じのやつであってる?」
「それそれ! 箱の中の青いレバーを下げてからそれを回すと、弁が閉まってボイラーの熱が下がるの! 多分それをいじるとどんどん電力が落ちていくから、片っ端から下げちゃって!」
「分かった」
「あっ、待って。ゾイスに代わる」
ガサガサと音がした後、ゾイスの声が耳に伝わる。
「マリア=エリー=レラ、君がボイラーをいじった後、周囲がどんどん暗くなってくる。懐中電灯を分かりやすい場所に用意しておいて。あと、すぐに技術者がやってくるだろうから、インビジブルは解かないように」
「わ、分かった」
「技術者がバルブを戻すだろうから、君は戻されたバルブをまた閉めていって。僕たちが中に侵入できれば明かりはついていいから、三十分も確保してくれれば十分だ。それまで繰り返し頼む」
「頑張るわ」
「マリア=エリー=レラ!」
アレキの声だ。
「ボイラー室の中はクッソ暑いでしょ!? 危ないから、もう無理だと思ったら急いで外に出て! 脱水したら命に関わるからね!?」
「ええ、分かったわ」
「頑張って! 僕たちは暗くなり次第行動に移る」
「了解」
そう言ってから通話を切り、ポケットに手を置いた。
「懐中電灯ヨシ……」
そしてキッと前を向く。
「さあ、始めるわよマリア=エリー=レラ……! 力仕事汚れ仕事? どんときなさいよ! 鶏のトサカを片っ端から締めあげてやるわ!」
彼女が今透明なのが残念なくらい、見事な彼女の啖呵がボイラー室に響き渡る。
薄暗くなる前から電灯がつき、周囲は煌々とし始めている。
ビルの明かりは星の光を消してしまい、スチームは夜空すら覆い隠してしまっている。自然の穏やかさは皆無となり、暗い空間に『機械の街』という巨大なライトだけが浮かび上がっていた。
帰宅する学生たちが見え始めればもう安心と、一同は大通りに移動する。
「じゃあ、手筈通りに」
皆が頷き、時計台の下に向かった。
帰宅ラッシュで人が右往左往している中、マリア=エリー=レラが一人歩き出す。
彼女の後ろ姿を心配そうに見つめるアズとハリ。同じ気持ちでマリア=エリー=レラも地下鉄の階段を下りていた。
先ほどこの周辺を確認しに来ているので、進む方向は分かっている。券売機付近でたむろしている人々を押し退け、隙間から改札の中に入ると、駅員の詰め寄り所の前を通り過ぎた。
少し進んで人通りが途切れた場所で角を曲がり、その死角を利用してインビジブルを発動させて身体を透明にした後、再び引き返して詰め寄り所の扉の前まで戻ってくる。
改札横から中を覗くと、三人の駅員がいるのが見えた。
マリア=エリー=レラはドアのノブに手をかけ、ゆっくりとそれを回す……。
鍵はかかっていない。そっとそれを押して隙間を開ける。人手が足りていない駅員が忙しなく業務を行っているのにつけ込み、こちらに気がついていない間に中に入り込んでからドアをゆっくり閉めた。
詰め寄り所の中に入ることはできた。それだけで息をつきたい気分に駆られたが、マリア=エリー=レラはそのまま足音を立てないように歩いて奥の扉に向かう。
奥のドアにはノブがついていない。ただ押すだけの扉のようなので、駅員の様子を伺いながらそのドアをそっと押す。すると蝶番がキイと黄色い音を立てたので、慌てて手を離した。
近くにいた駅員がこちらに振り向き、揺れているドアを見て首を傾げている。
その駅員がこちらに歩いてきたので、狭い室内でマリア=エリー=レラは慌てて壁に背を預けてへばりついた。
駅員は扉を押して向こう側を確認すると、誰もいないことに首を傾げてその手を離す。その隙にマリア=エリー=レラが隙間から扉の外へと抜け出した。
キイキイ音の鳴る扉の向こう、ようやく息をつけたマリア=エリー=レラが嫌な汗を拭う。
「ふう……アレキの怖い話よりスリリングよ全く……」
文句を垂れてから廊下を進んで行くと、建物全体に響いていたボイラーの音が次第に大きくなってきた。
何個か扉はあったが一番奥へ進み、最も重圧な鉄の扉についているカードを読み上げる。
「ボイラー室。ここね」
開けるととてつもない熱気が吹き上がり、彼女は思わず呻き声をあげた。
「うえっ……!! 何これ、こんな暑いの!?」
階段が下に続いており、その先が薄明るい。下まで降りていくと、巨大なタンクが入り組んだパイプに繋がれて並んでいる巨大な部屋に出た。
圧巻な光景に思わず呆然としたが、マリア=エリー=レラは急いで小型電話を取り出すとアレキの番号にダイヤルをする。
「もしもおし! こちらアレキ!」
「アタシよ! ボイラー室の中についたわ」
「でかした! 中はどんな感じになってる?」
「大きくて細長い樽が並んでる……。それに大きなパイプがついて、上に向かって伸びてるわ」
「オケ、そのタンクのどこかに扉のついた箱がない?」
マリア=エリー=レラは歩きながら周囲を見回している。
「箱っていうか……一つのタンクってやつに一つずつ、細長い物置みたいなものはついてるけど……」
「開けてみて!」
言われた通り開けると、大きなレバーが上下に一つずつついていた。
「大きな杭が二つある。上が赤で、下が青」
「箱の外にでっかいバルブない?」
「ばるぶって何?」
「え? えーと……鶏のトサカみたいなやつ!」
何だそりゃと思いながら箱の横を確認してみると、あった。鶏の鶏冠だ。
「あった。丸くて大きくて、うねってる感じのやつであってる?」
「それそれ! 箱の中の青いレバーを下げてからそれを回すと、弁が閉まってボイラーの熱が下がるの! 多分それをいじるとどんどん電力が落ちていくから、片っ端から下げちゃって!」
「分かった」
「あっ、待って。ゾイスに代わる」
ガサガサと音がした後、ゾイスの声が耳に伝わる。
「マリア=エリー=レラ、君がボイラーをいじった後、周囲がどんどん暗くなってくる。懐中電灯を分かりやすい場所に用意しておいて。あと、すぐに技術者がやってくるだろうから、インビジブルは解かないように」
「わ、分かった」
「技術者がバルブを戻すだろうから、君は戻されたバルブをまた閉めていって。僕たちが中に侵入できれば明かりはついていいから、三十分も確保してくれれば十分だ。それまで繰り返し頼む」
「頑張るわ」
「マリア=エリー=レラ!」
アレキの声だ。
「ボイラー室の中はクッソ暑いでしょ!? 危ないから、もう無理だと思ったら急いで外に出て! 脱水したら命に関わるからね!?」
「ええ、分かったわ」
「頑張って! 僕たちは暗くなり次第行動に移る」
「了解」
そう言ってから通話を切り、ポケットに手を置いた。
「懐中電灯ヨシ……」
そしてキッと前を向く。
「さあ、始めるわよマリア=エリー=レラ……! 力仕事汚れ仕事? どんときなさいよ! 鶏のトサカを片っ端から締めあげてやるわ!」
彼女が今透明なのが残念なくらい、見事な彼女の啖呵がボイラー室に響き渡る。
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