【占星術師の宇宙論】

荒雲ニンザ

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第31話 緊急連絡網

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 アックリコーリィに到着すると、まず初めに向かった先がゾイスの家だ。
 忙しなく扉をノックすると、窓からエカテリナがこちらを覗っているのが見えた。こちらを見るなり慌てて扉の方に移動してくれたようだ。

「そんなに慌てて、みんなどうしたの?」

 息を切らせたアズが言った。

「大変なの! ゾイスを呼び戻せる!?」
「ええ? 今学校よあの子……? 一体何があったの?」
「魔法が消えてきちゃってるの、このままだと私たちも消えてしまう!」

 マリア=エリー=レラの慌てようを見て彼女は狼狽えている。

「ええ? ちょっ……ちょっと何を言ってるの? みんな落ち着いて」

 ハリが言う。

「ゾイスを戻すのが無理なら、伝言を伝えて下さい。時計台に行ってるって」

 それから三人は圧倒されているエカテリナをその場に残し、早足で元来た道を戻ってゆく。

 その後、アブラアムの道具屋へ駆け込んだ。
 乱雑にベルが揺られ、忙しない鈴の音が店内に響く。

「おいおいおいおい、ドアが壊れちゃうよ。何そんな慌ててんだ」

 カウンターの向こうでアブラアムが渋い顔をして出迎えたのも無視をして、アズが言った。

「アレキに伝言をお願いします」
「アレキの父として、君のお願いを聞くのがちょっとイヤ……」
「そんなこと言ってる場合じゃないのよ! 緊急事態なんだから!」

 マリア=エリー=レラに責められ、アブラアムはカウンターに身を隠す。

「何だ何だ、一体どうしたんだよ?」
「いいから伝言! 時計台に行くとだけ伝えてくれ!」

 ハリの威圧に思わず首を縦に振ったが、それだけ言った彼らが急いで出ていくとアブラアムは首を傾げた。

 路地に出た三人が中心部へ向かう。

「ここから結構あるわ」
「時計台までハイヤーを使おう」

 手を上げていても、何台ものハイヤーがジノヴィオス信仰をしている彼らを毛嫌いして通り過ぎて行く。すると少し先で丁度客を降ろした一台が目に入り、そこにハリが滑り込んだ。

「時計台まで行ってくれ!」

 運転手は露骨に嫌な顔を見せたが、渋々エンジンをかけると三人を乗せて中心部に走り出した。


 ゾイスは休み時間、小型電話機にかかってきた母からの電話に出た。

「もしもし?」
「ああ、よかった。お母さんよ。今休み時間よね?」
「うん。あと十分くらいだけど。何かあった?」
「ちょっと前、アズちゃんたちが来たのよ」
「ええ? アズたちが? 昨日帰ったばかりじゃないか。何の用だった?」
「それがね、ものすごく急いでて。三人とも口々に何か慌てて話すものだから、よく分からなかったんだけど……」
「慌ててた?」
「ええ。魔法が消えちゃうとか、このままだと自分達も消えちゃうかもとか、何だか不安なことばかり言ってたのよ……。お母さん心配になっちゃって……」
「え……?」
「それで伝言を頼まれたの。ゾイスに時計台に来て欲しいって言ってたわ」
「時計台? 何しに行くんだって?」
「さあ……とにかく三人とも急いでるみたいで、それだけ言ったらどこかへ行ってしまったの。貴方は学校にいるでしょう? 伝言をどうしようか迷ったんだけど、何か緊急みたいだったから、電話かけちゃったのよ、ごめんなさいね」
「いや……ありがとう。いい判断だったよ」
「時計台に向かうなら気をつけて行きなさいね。あそこは車通りが激しいから。電車で行くのよね? お小遣い持ってる?」
「大丈夫、定期券で行ける。ごめん、アレキにも連絡しないといけないからもう切るね」
「はい、じゃあね」

 ゾイスは母との通話を切った後、歯車が無数に取り付けてある小型電話の裏を開け、9までのダイヤルを回してその蓋を閉じる。
 耳に当てると電波が送信されるポツポツという通信音の後に、アレキの声が返ってきた。

「誰ー? 今授業中ー! ヤバいってー!」

 とてもそうとは思えない呑気なアレキの大声に少し笑ってしまう。

「アレキ、僕だよ。ゾイス。手短に話す」
「あ、ゾイス? なになに?」
「アズたちが街に来てる。緊急みたいで、僕たちを時計台に呼んでる。多分君のお父さんの所にも行ったと思うけど、伝言してくれるか怪しいなと思ったから、僕から電話かけた。行き違ってない?」
「ない! ていうかグッジョブ! アズがらみとなるとウチのパパ、言うこと聞かなくなった!」

 だろうなとゾイスは苦笑う。

「僕はこれから学校を抜け出して時計台に向かう。アレキはどうする?」
「行くに決まってんじゃん! 愛するアズがらみの事件ですよ!? 我がごとです!」
「オケ、じゃあ時計台駅の改札で待ち合わせしよう」
「ラジャ!」

 通話を切ると、丁度授業開始のチャイムが鳴った。
 ゾイスは鞄を机に残し、後ろのドアから廊下を覗く。教員が前のドアに向かったのを確認してから、入れ違いに外へ出た。
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