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第28話 中心部へ進む
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用意を済ませて荷物を持って階下に降りて行くと、エカテリナが編み物をしていた。
「ふふ、随分と遅いお目覚めね。昨日の夜は楽しめた?」
微笑む彼女にアズが挨拶をする。
「おはようございます……はおかしいのか、こんにちは?」
「二人は早くに学校に行ったわよ。戻ってくるのは三時過ぎくらいになるけど、その間どうするの?」
「用事を済ませてきます。ちょっと確認したいことがあるんですが、どのくらいかかるか分からないので、戻って来れるか分からないと伝言をお願いできますか?」
「分かったわ。お昼ご飯はどうするの? お腹減ってない?」
ハリが後ろから昨日のトレイを持って前に出た。
「夜中まで残り物食べてたから、まだそんな減ってないっす。腹減ったら街で買って食べますよ」
「そう。じゃあこのまま行くのね。寂しくなっちゃうわ。昨日は本当楽しかったから。またいつでも遊びに来てね」
マリア=エリー=レラが片膝を曲げ、昨日エカテリナに教わったばかりのカーテシーをして見せた。
「色々ありがとうございました。今度来る時は村の茶葉を持ってきます」
「まああー、嬉しい。楽しみに待ってるから、早く来てね」
エカテリナはまるで少女のように喜び、マリア=エリー=レラに静かなハグをする。
もう一度礼を言ってから別れ、ゾイスとエカテリナ親子の家を後にした。
「さて……と。それじゃ星屑が流れる方向に向かおう」
「遠そう?」
「うーん……? どうかなあ? 初めてのことだからよく分からないけど……近くはないみたい」
「もしかしてこの街じゃなかったりして」
ハリの言葉にマリア=エリー=レラが渋い顔をする。
「帰りはハイヤーを使っても、動けてあと四時間てとこね。昨日は最っ高に楽しかったから後悔なんてしてないわよ」
「オレも。アレキの怖い話を聞いたのだけ後悔してるけどな」
「あ、それ私も」
三人でクスクス笑った後、アズが号令をかけた。
「じゃあ行くよ。ついてきて」
星屑が流れていくようなオーラを感じながら、彼らは歩き出した。
星に導かれて三時間程度歩いただろうか。
路地が入り組んでいたせいで時間をかけてしまったが、直線距離ならばもっと早く到着したかもしれない。
立ち込めるスチームで道を抜ける目標を見失ったりもしたが、彼らはこの街で一番目立つ場所に足を踏み入れた。
「こんなものがあったなんて……」
広場の中央に巨大な時計塔。行き交う車の多いこの場所は、街の中心部らしい。
ジノヴィオス信者だと怪訝な顔をされ、三人は路地の端に追いやられて鼠のように壁際を進んでいた。
人通りの激しさを抜けてようやくの思いで時計台の下まで辿り着くと、それを背にして一息をつく。
「街のルールが分からないオレらにゃ、道を渡るだけでも手厳しいぜ……」
頭上を仰ぎ見れば時計台はあるものの、周囲はいかにもオデッセフスな街並み。星屑がどうしてここに連れてきたのか分からず、アズは首を捻る。
「星屑が停滞してる。この付近みたい」
「中かしら?」
「入れるのかな?」
人の流れについていくと、時計台の下は空洞で、おそらく地下鉄乗り場に続いているらしい。アズたちにはそれが何か分からなかったが、星はそちらではないと訴えかけてくる。
「下じゃないみたい」
ハリが上に登る方法を誰かに聞こうとしていたが、怪訝な顔をして避けられてしまう。中央に進むにつれ差別がひどくなっているように感じ、彼は口を尖らせて戻ってきた。
その間、マリア=エリー=レラは案内板を見つけ、それをじっと確認している。
「一般公開はされてないみたい。出入り口が書かれてない」
「街の観光名物というより、大勢が見る用の時計なのかな……」
「誰がねじを巻くのかしら?」
「ボイラーで機械がやってんだろ? こんなでけえの手で巻けるかよ」
「でも時計に変わりないじゃない。毎日調子を見てなかったから、どんどんズレていくわよ」
「管理人が入る場所があるってことか」
そこでハリが言う。
「オレが外から上の様子見てこようか」
「ダメよ、こんな明るいのに。誰かに見られたら怒られちゃうわ」
アズが壁際に設置されている広告の棚から、時計台のパンフレットを一枚手に取った。
「今日は村に戻ろう。土曜日の夜またここに来て、ハリに様子を見てもらうっていうのはどう?」
「四日後ならそんなに間も空いてないし、いいんじゃない?」
「よし、じゃあ村に戻っておばあちゃんに報告した後、一緒に作戦会議だ」
ハリが大きく息をつく。
「この二日色々ありすぎて、話すこといっぱいでもう覚えてねえよ……」
「本当、濃厚だった」
「おじいちゃんどこにいたのかなあ? 全然見かけなかったけど、大丈夫だったのかな……」
「お前のじいちゃん、お前以上にぼんやりしてるからな……。猫と遊んでて忘れてたとか言われても驚かねえぞオレは」
「アタシも」
「ま、まさか。おばあちゃんが側にいるからそこまでは……」
ないよな、と一同が脳内で否定したが、完全に否定しきれない不安は残るのであった。
「ふふ、随分と遅いお目覚めね。昨日の夜は楽しめた?」
微笑む彼女にアズが挨拶をする。
「おはようございます……はおかしいのか、こんにちは?」
「二人は早くに学校に行ったわよ。戻ってくるのは三時過ぎくらいになるけど、その間どうするの?」
「用事を済ませてきます。ちょっと確認したいことがあるんですが、どのくらいかかるか分からないので、戻って来れるか分からないと伝言をお願いできますか?」
「分かったわ。お昼ご飯はどうするの? お腹減ってない?」
ハリが後ろから昨日のトレイを持って前に出た。
「夜中まで残り物食べてたから、まだそんな減ってないっす。腹減ったら街で買って食べますよ」
「そう。じゃあこのまま行くのね。寂しくなっちゃうわ。昨日は本当楽しかったから。またいつでも遊びに来てね」
マリア=エリー=レラが片膝を曲げ、昨日エカテリナに教わったばかりのカーテシーをして見せた。
「色々ありがとうございました。今度来る時は村の茶葉を持ってきます」
「まああー、嬉しい。楽しみに待ってるから、早く来てね」
エカテリナはまるで少女のように喜び、マリア=エリー=レラに静かなハグをする。
もう一度礼を言ってから別れ、ゾイスとエカテリナ親子の家を後にした。
「さて……と。それじゃ星屑が流れる方向に向かおう」
「遠そう?」
「うーん……? どうかなあ? 初めてのことだからよく分からないけど……近くはないみたい」
「もしかしてこの街じゃなかったりして」
ハリの言葉にマリア=エリー=レラが渋い顔をする。
「帰りはハイヤーを使っても、動けてあと四時間てとこね。昨日は最っ高に楽しかったから後悔なんてしてないわよ」
「オレも。アレキの怖い話を聞いたのだけ後悔してるけどな」
「あ、それ私も」
三人でクスクス笑った後、アズが号令をかけた。
「じゃあ行くよ。ついてきて」
星屑が流れていくようなオーラを感じながら、彼らは歩き出した。
星に導かれて三時間程度歩いただろうか。
路地が入り組んでいたせいで時間をかけてしまったが、直線距離ならばもっと早く到着したかもしれない。
立ち込めるスチームで道を抜ける目標を見失ったりもしたが、彼らはこの街で一番目立つ場所に足を踏み入れた。
「こんなものがあったなんて……」
広場の中央に巨大な時計塔。行き交う車の多いこの場所は、街の中心部らしい。
ジノヴィオス信者だと怪訝な顔をされ、三人は路地の端に追いやられて鼠のように壁際を進んでいた。
人通りの激しさを抜けてようやくの思いで時計台の下まで辿り着くと、それを背にして一息をつく。
「街のルールが分からないオレらにゃ、道を渡るだけでも手厳しいぜ……」
頭上を仰ぎ見れば時計台はあるものの、周囲はいかにもオデッセフスな街並み。星屑がどうしてここに連れてきたのか分からず、アズは首を捻る。
「星屑が停滞してる。この付近みたい」
「中かしら?」
「入れるのかな?」
人の流れについていくと、時計台の下は空洞で、おそらく地下鉄乗り場に続いているらしい。アズたちにはそれが何か分からなかったが、星はそちらではないと訴えかけてくる。
「下じゃないみたい」
ハリが上に登る方法を誰かに聞こうとしていたが、怪訝な顔をして避けられてしまう。中央に進むにつれ差別がひどくなっているように感じ、彼は口を尖らせて戻ってきた。
その間、マリア=エリー=レラは案内板を見つけ、それをじっと確認している。
「一般公開はされてないみたい。出入り口が書かれてない」
「街の観光名物というより、大勢が見る用の時計なのかな……」
「誰がねじを巻くのかしら?」
「ボイラーで機械がやってんだろ? こんなでけえの手で巻けるかよ」
「でも時計に変わりないじゃない。毎日調子を見てなかったから、どんどんズレていくわよ」
「管理人が入る場所があるってことか」
そこでハリが言う。
「オレが外から上の様子見てこようか」
「ダメよ、こんな明るいのに。誰かに見られたら怒られちゃうわ」
アズが壁際に設置されている広告の棚から、時計台のパンフレットを一枚手に取った。
「今日は村に戻ろう。土曜日の夜またここに来て、ハリに様子を見てもらうっていうのはどう?」
「四日後ならそんなに間も空いてないし、いいんじゃない?」
「よし、じゃあ村に戻っておばあちゃんに報告した後、一緒に作戦会議だ」
ハリが大きく息をつく。
「この二日色々ありすぎて、話すこといっぱいでもう覚えてねえよ……」
「本当、濃厚だった」
「おじいちゃんどこにいたのかなあ? 全然見かけなかったけど、大丈夫だったのかな……」
「お前のじいちゃん、お前以上にぼんやりしてるからな……。猫と遊んでて忘れてたとか言われても驚かねえぞオレは」
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