【占星術師の宇宙論】

荒雲ニンザ

文字の大きさ
上 下
28 / 42

第28話 中心部へ進む

しおりを挟む
 用意を済ませて荷物を持って階下に降りて行くと、エカテリナが編み物をしていた。

「ふふ、随分と遅いお目覚めね。昨日の夜は楽しめた?」

 微笑む彼女にアズが挨拶をする。

「おはようございます……はおかしいのか、こんにちは?」
「二人は早くに学校に行ったわよ。戻ってくるのは三時過ぎくらいになるけど、その間どうするの?」
「用事を済ませてきます。ちょっと確認したいことがあるんですが、どのくらいかかるか分からないので、戻って来れるか分からないと伝言をお願いできますか?」
「分かったわ。お昼ご飯はどうするの? お腹減ってない?」

 ハリが後ろから昨日のトレイを持って前に出た。

「夜中まで残り物食べてたから、まだそんな減ってないっす。腹減ったら街で買って食べますよ」
「そう。じゃあこのまま行くのね。寂しくなっちゃうわ。昨日は本当楽しかったから。またいつでも遊びに来てね」

 マリア=エリー=レラが片膝を曲げ、昨日エカテリナに教わったばかりのカーテシーをして見せた。

「色々ありがとうございました。今度来る時は村の茶葉を持ってきます」
「まああー、嬉しい。楽しみに待ってるから、早く来てね」

 エカテリナはまるで少女のように喜び、マリア=エリー=レラに静かなハグをする。
 もう一度礼を言ってから別れ、ゾイスとエカテリナ親子の家を後にした。

「さて……と。それじゃ星屑が流れる方向に向かおう」
「遠そう?」
「うーん……? どうかなあ? 初めてのことだからよく分からないけど……近くはないみたい」
「もしかしてこの街じゃなかったりして」

 ハリの言葉にマリア=エリー=レラが渋い顔をする。

「帰りはハイヤーを使っても、動けてあと四時間てとこね。昨日は最っ高に楽しかったから後悔なんてしてないわよ」
「オレも。アレキの怖い話を聞いたのだけ後悔してるけどな」
「あ、それ私も」

 三人でクスクス笑った後、アズが号令をかけた。

「じゃあ行くよ。ついてきて」

 星屑が流れていくようなオーラを感じながら、彼らは歩き出した。


 星に導かれて三時間程度歩いただろうか。
 路地が入り組んでいたせいで時間をかけてしまったが、直線距離ならばもっと早く到着したかもしれない。
 立ち込めるスチームで道を抜ける目標を見失ったりもしたが、彼らはこの街で一番目立つ場所に足を踏み入れた。

「こんなものがあったなんて……」

 広場の中央に巨大な時計塔。行き交う車の多いこの場所は、街の中心部らしい。
 ジノヴィオス信者だと怪訝な顔をされ、三人は路地の端に追いやられて鼠のように壁際を進んでいた。
 人通りの激しさを抜けてようやくの思いで時計台の下まで辿り着くと、それを背にして一息をつく。

「街のルールが分からないオレらにゃ、道を渡るだけでも手厳しいぜ……」

 頭上を仰ぎ見れば時計台はあるものの、周囲はいかにもオデッセフスな街並み。星屑がどうしてここに連れてきたのか分からず、アズは首を捻る。

「星屑が停滞してる。この付近みたい」

「中かしら?」
「入れるのかな?」

 人の流れについていくと、時計台の下は空洞で、おそらく地下鉄乗り場に続いているらしい。アズたちにはそれが何か分からなかったが、星はそちらではないと訴えかけてくる。

「下じゃないみたい」

 ハリが上に登る方法を誰かに聞こうとしていたが、怪訝な顔をして避けられてしまう。中央に進むにつれ差別がひどくなっているように感じ、彼は口を尖らせて戻ってきた。
 その間、マリア=エリー=レラは案内板を見つけ、それをじっと確認している。

「一般公開はされてないみたい。出入り口が書かれてない」

「街の観光名物というより、大勢が見る用の時計なのかな……」

「誰がねじを巻くのかしら?」
「ボイラーで機械がやってんだろ? こんなでけえの手で巻けるかよ」

「でも時計に変わりないじゃない。毎日調子を見てなかったから、どんどんズレていくわよ」
「管理人が入る場所があるってことか」

 そこでハリが言う。

「オレが外から上の様子見てこようか」
「ダメよ、こんな明るいのに。誰かに見られたら怒られちゃうわ」

 アズが壁際に設置されている広告の棚から、時計台のパンフレットを一枚手に取った。

「今日は村に戻ろう。土曜日の夜またここに来て、ハリに様子を見てもらうっていうのはどう?」
「四日後ならそんなに間も空いてないし、いいんじゃない?」
「よし、じゃあ村に戻っておばあちゃんに報告した後、一緒に作戦会議だ」

 ハリが大きく息をつく。

「この二日色々ありすぎて、話すこといっぱいでもう覚えてねえよ……」
「本当、濃厚だった」
「おじいちゃんどこにいたのかなあ? 全然見かけなかったけど、大丈夫だったのかな……」
「お前のじいちゃん、お前以上にぼんやりしてるからな……。猫と遊んでて忘れてたとか言われても驚かねえぞオレは」
「アタシも」
「ま、まさか。おばあちゃんが側にいるからそこまでは……」

 ないよな、と一同が脳内で否定したが、完全に否定しきれない不安は残るのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

【R18】異世界なら彼女の母親とラブラブでもいいよね!

SoftCareer
ファンタジー
幼なじみの彼女の母親と二人っきりで、期せずして異世界に飛ばされてしまった主人公が、 帰還の方法を模索しながら、その母親や異世界の人達との絆を深めていくというストーリーです。 性的描写のガイドラインに抵触してカクヨムから、R-18のミッドナイトノベルズに引っ越して、 お陰様で好評をいただきましたので、こちらにもお世話になれればとやって参りました。 (こちらとミッドナイトノベルズでの同時掲載です)

獣人の里の仕置き小屋

真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。 獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。 今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。 仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...