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第27話 星読み
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一瞬濃い睡眠に落ちた後、アズは目を開けた。
ゾイスが枕元に置いた時計を見ると十五分程度しか経っていない。これしか寝ていないのに何時間も寝ていたような気になっていたのが不思議で、そのまま目を開いて天井を眺めていた。
さっきまで気にならなかったスチームの音が耳につく。ボイラーが動く音が延々と響き、この家は結構騒々しかったんだなと思った。
部屋の一画から明かりが見え、それが点滅しているようで壁が白くなったり黒くなったりを繰り返している。
足下灯だろうか。あの辺りに荷物を置いた記憶があり、それが原因で電気がついてしまっているのだろうかと不安になったアズは身体を起こした。
物音を立てないようにその点滅する光に近づくと、畳んだ自分の洋服の隙間から発せられていたものだと分かった。
すぐにアストロラーベが光っているのだと気がついたアズはそれを手に取り、そっと外に引き出す。
暗い室内に星が流れ出し、壁と天井に光を散りばめる。プラネタリウムのようになった部屋を嬉しそうに眺めた時、ベッドで上半身を起こしているゾイスに気がついた。
彼と目が合うと、ゾイスは人差し指を立て、そっと唇の前へ置く。みんなが寝ているから声を立てないようにと言っているのだろう、アズはその通りにしてアストロラーベに視線を戻した。
ゆっくり手の中の平面球形が崩れていき、球体へと変化していく。ミラーボールのように光を撒き散らしながら、それはアズの手に戻ってきた。
アーミラリスフィアの中に力が戻ってきた感じはしなかったが、それは延々と星を部屋に映し出していた。細やかな金属音のようなものがキラキラと音を奏でているようで、耳に心地よく気持ちが落ち着いてくる。
アズもゾイスもそれを無言のまま眺め、布団の中へ身体を沈めた。
しばらくそれを見つめていたが、徐にアズが小声で問いかける。
「ゾイスは……どうして神様を信じていないの?」
これだけ様々な奇跡を目にしているのに、何故なのだろうという思いが先に立つ。
彼が起きているのは分かっていたので、返事を待った。
何拍も空いた後、布団の擦れる音と共にゾイスの答えが返る。
「……父さんを助けてくれなかったから」
アズがはっと息を呑んだ瞬間、アーミラリスフィアは光をなくしてその掌から布団の上へと落下した。
室内に溢れていた星明かりは瞬く間に消え去り、ボイラーの音が戻りくる。
それ以上を聞くことはできず、アズもまた布団の中に潜って目を瞑った。
七時に一度アラームのけたたましい音で叩き起こされたが、ゾイスとアレキだけが起きた。
「僕たちは学校に行くから先に起きるけど、君たちはゆっくりしていって。後のことは母さんに頼んであるから、好きな時間に起きて行動して平気だからね」
星の部屋で寝に落ちる前のゾイスは別人なのか、はたまたあれは夢の中の話だったのか、アズが混乱するくらいゾイスはいつものゾイスだ。
二人が学校に行った後、そろそろお昼になろうかというあたりで三人はやっと起きてきた。
「寝た気になんねえ……」
ハリの呟きにアズとマリア=エリー=レラは頷き、先に出かけたゾイスとアレキを哀れんだ。
パジャマのままぼんやり座っていると、マットレスの上に落ちたアーミラリスフィアにマリア=エリー=レラが気がついてアズを呼ぶ。
「ねえ、アストロラーベが球体になってるわよ。力が溜まったんじゃない?」
寝る前に開いていたのだが、それは言わずにアズはスフィアを手に取った。
その瞬間、身体の中に何かが流れ込んでくるような錯覚で満ち溢れ、それを感じた自分に思わず感心してしまう。
「おお……手ごたえがある。もう交信できるみたい」
「まじか、何聞くんだ?」
ハリがマットレスの上に滑り込み、アーミラリスフィアを覗き込む。
「そうだよね、そのあたり決めてなかった」
マリア=エリー=レラがベッドの足元へ寄ってくる。
「どうやって信仰を偏らせればいいか、を聞くのよね?」
「うん。その方法を直接聞くのは無理だから、そちらの方向に進むような質問の仕方かな」
三人が考え、まずハリが呟いた。
「一日一回で、エネルギーを貯めないといけないからなあ。なるべく効率よくいかないとダメだよな」
「そうね。頻繁にこっちに来られないし、範囲を狭めてからのがいいと思う」
マリア=エリー=レラの言葉を頭に置きながら、アズが口に出す。
「オデッセフスの人々を改宗させるには……何かいい方法が……じゃだめだな。オデッセフスの人々を改宗させるには……我々が何をすべきか……でもないな?」
「我々がどちらの方向に進めばその可能性を増やせるか」
ハリが唸る。
「惜しい、もうちょい。広すぎる」
「うーん……、我々ができること……我々ができることを示す方向に導きたまえ?」
それをもう一度アズが捻り上げたのを聞き、ハリが頷いた。
「イイネ、それなら直接その前まで連れて行ってもらえそうだ」
「じゃあアズ、よろしく」
「オケ」
アズは立ち上がると、アーミラリスフィアを掌に乗せてから持ち上げる。
「私の声が聞こえますか。私はアズ、星の導きを必要としています」
アーミラリスフィアは静かに浮き上がりながら光を増してゆき、白い球体に見える程発光するとその位置で浮遊を維持した。
「魔法を守るため、ジノヴィオス信仰を広めなければなりません。我々ができることを示す方向に導きたまえ」
幾度か光が点滅し、部屋影を動かした。
「星よ導きたまえ」
最後に大きく輝くと、光は現実に溶け込んでいくようにして消え、スフィアは力をなくしてアズの掌へ収まり、平面球形へと形を戻した。
マリア=エリー=レラが室内を見回して首を傾げる。
「何も変わってないわよ?」
「でもスフィアの中の力が周囲に分散してる」
「分かるの?」
「うん。見えないけど、星屑の流れみたいな力が続いているのが分かるよ」
ハリが起き上がった。
「すぐに消えそうか?」
「大丈夫。私たちを待ってる」
マリア=エリー=レラもベッドから立ち上がった。
「じゃあ着替えてそれを追いかけましょう」
ゾイスが枕元に置いた時計を見ると十五分程度しか経っていない。これしか寝ていないのに何時間も寝ていたような気になっていたのが不思議で、そのまま目を開いて天井を眺めていた。
さっきまで気にならなかったスチームの音が耳につく。ボイラーが動く音が延々と響き、この家は結構騒々しかったんだなと思った。
部屋の一画から明かりが見え、それが点滅しているようで壁が白くなったり黒くなったりを繰り返している。
足下灯だろうか。あの辺りに荷物を置いた記憶があり、それが原因で電気がついてしまっているのだろうかと不安になったアズは身体を起こした。
物音を立てないようにその点滅する光に近づくと、畳んだ自分の洋服の隙間から発せられていたものだと分かった。
すぐにアストロラーベが光っているのだと気がついたアズはそれを手に取り、そっと外に引き出す。
暗い室内に星が流れ出し、壁と天井に光を散りばめる。プラネタリウムのようになった部屋を嬉しそうに眺めた時、ベッドで上半身を起こしているゾイスに気がついた。
彼と目が合うと、ゾイスは人差し指を立て、そっと唇の前へ置く。みんなが寝ているから声を立てないようにと言っているのだろう、アズはその通りにしてアストロラーベに視線を戻した。
ゆっくり手の中の平面球形が崩れていき、球体へと変化していく。ミラーボールのように光を撒き散らしながら、それはアズの手に戻ってきた。
アーミラリスフィアの中に力が戻ってきた感じはしなかったが、それは延々と星を部屋に映し出していた。細やかな金属音のようなものがキラキラと音を奏でているようで、耳に心地よく気持ちが落ち着いてくる。
アズもゾイスもそれを無言のまま眺め、布団の中へ身体を沈めた。
しばらくそれを見つめていたが、徐にアズが小声で問いかける。
「ゾイスは……どうして神様を信じていないの?」
これだけ様々な奇跡を目にしているのに、何故なのだろうという思いが先に立つ。
彼が起きているのは分かっていたので、返事を待った。
何拍も空いた後、布団の擦れる音と共にゾイスの答えが返る。
「……父さんを助けてくれなかったから」
アズがはっと息を呑んだ瞬間、アーミラリスフィアは光をなくしてその掌から布団の上へと落下した。
室内に溢れていた星明かりは瞬く間に消え去り、ボイラーの音が戻りくる。
それ以上を聞くことはできず、アズもまた布団の中に潜って目を瞑った。
七時に一度アラームのけたたましい音で叩き起こされたが、ゾイスとアレキだけが起きた。
「僕たちは学校に行くから先に起きるけど、君たちはゆっくりしていって。後のことは母さんに頼んであるから、好きな時間に起きて行動して平気だからね」
星の部屋で寝に落ちる前のゾイスは別人なのか、はたまたあれは夢の中の話だったのか、アズが混乱するくらいゾイスはいつものゾイスだ。
二人が学校に行った後、そろそろお昼になろうかというあたりで三人はやっと起きてきた。
「寝た気になんねえ……」
ハリの呟きにアズとマリア=エリー=レラは頷き、先に出かけたゾイスとアレキを哀れんだ。
パジャマのままぼんやり座っていると、マットレスの上に落ちたアーミラリスフィアにマリア=エリー=レラが気がついてアズを呼ぶ。
「ねえ、アストロラーベが球体になってるわよ。力が溜まったんじゃない?」
寝る前に開いていたのだが、それは言わずにアズはスフィアを手に取った。
その瞬間、身体の中に何かが流れ込んでくるような錯覚で満ち溢れ、それを感じた自分に思わず感心してしまう。
「おお……手ごたえがある。もう交信できるみたい」
「まじか、何聞くんだ?」
ハリがマットレスの上に滑り込み、アーミラリスフィアを覗き込む。
「そうだよね、そのあたり決めてなかった」
マリア=エリー=レラがベッドの足元へ寄ってくる。
「どうやって信仰を偏らせればいいか、を聞くのよね?」
「うん。その方法を直接聞くのは無理だから、そちらの方向に進むような質問の仕方かな」
三人が考え、まずハリが呟いた。
「一日一回で、エネルギーを貯めないといけないからなあ。なるべく効率よくいかないとダメだよな」
「そうね。頻繁にこっちに来られないし、範囲を狭めてからのがいいと思う」
マリア=エリー=レラの言葉を頭に置きながら、アズが口に出す。
「オデッセフスの人々を改宗させるには……何かいい方法が……じゃだめだな。オデッセフスの人々を改宗させるには……我々が何をすべきか……でもないな?」
「我々がどちらの方向に進めばその可能性を増やせるか」
ハリが唸る。
「惜しい、もうちょい。広すぎる」
「うーん……、我々ができること……我々ができることを示す方向に導きたまえ?」
それをもう一度アズが捻り上げたのを聞き、ハリが頷いた。
「イイネ、それなら直接その前まで連れて行ってもらえそうだ」
「じゃあアズ、よろしく」
「オケ」
アズは立ち上がると、アーミラリスフィアを掌に乗せてから持ち上げる。
「私の声が聞こえますか。私はアズ、星の導きを必要としています」
アーミラリスフィアは静かに浮き上がりながら光を増してゆき、白い球体に見える程発光するとその位置で浮遊を維持した。
「魔法を守るため、ジノヴィオス信仰を広めなければなりません。我々ができることを示す方向に導きたまえ」
幾度か光が点滅し、部屋影を動かした。
「星よ導きたまえ」
最後に大きく輝くと、光は現実に溶け込んでいくようにして消え、スフィアは力をなくしてアズの掌へ収まり、平面球形へと形を戻した。
マリア=エリー=レラが室内を見回して首を傾げる。
「何も変わってないわよ?」
「でもスフィアの中の力が周囲に分散してる」
「分かるの?」
「うん。見えないけど、星屑の流れみたいな力が続いているのが分かるよ」
ハリが起き上がった。
「すぐに消えそうか?」
「大丈夫。私たちを待ってる」
マリア=エリー=レラもベッドから立ち上がった。
「じゃあ着替えてそれを追いかけましょう」
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