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第25話 女の子推進派
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夕飯が終わり、一同が満腹となって椅子でだれていると、マリア=エリー=レラが一人立ち上がる。
「シャワーお借りしますん」
「あ、じゃあアタシ片付けるー! ハリも来て!」
「えーっ、オレもかよ……腹はち切れそうなのに」
渋々立ち上がるハリが、残り物のポテトをひとつまみして皿を持ち上げる。
「これ夜食にしよーぜ」
「アンタ今、腹はち切れるって言ってなかった?」
「ずっと起きてたら腹減るに決まってるだろ!」
「私も手伝うよ。ハリ、あんまり持とうとすると落とすから、それ置いて」
アズが二人を追いかけてキッチンに向かった後、ゾイスがエカテリナに声をかける。
「母さん、先に休んで。今日ははしゃぎすぎてたからちょっと心配だよ」
「ふふ、そうね。熱出したら大変ね。でも空調が調子いいせいか、肺はいつもより苦しくないわ」
「身体を拭こうか?」
「大丈夫、明日でいいわ。みんなにシャワーを浴びさせてあげて。貴方もよく働いてくれたから、汗かいてるでしょう?」
「僕は最後でいいよ」
「女の子は清潔な人が好きよ?」
ゾイスはぐっと喉を鳴らし、首を横に振る。
「アズは女の子じゃないよ母さん」
「女の子は他にもいるでしょう? アズちゃんだなんて、母さん一言も言ってないわよ」
ゾイスは自分で口走った言葉に驚いた様子で、大きく目を見開いた。
「ゾイスはアズちゃんが好きなのね」
「……アズは友達だよ。今のはアレキがよくふざけてやってくるから、つい出ちゃっただけ」
「ふふ」
エカテリナはゾイスの前髪を掬い上げた。
「今日は一晩中おしゃべりね?」
「うるさくしないように言っておく」
「大事な時間を無駄にしないようにね。人生は一度しかないわ。思い切り楽しんだもの勝ちよ」
伴侶を失っている母のその言葉に、ゾイスは何も返せなかった。
「おやすみ、私の可愛い子」
「おやすみ、母さん」
エカテリナはそのまま立ち上がり、一階にある奥の自室に消えていった。
それから居間を片付けていると、しばらくしてマリア=エリー=レラが風呂から上がって戻ってきた。
「ありがとー。あー、気持ちよかった。何かこの街、スチームボーボーやってるせいか、すぐ髪がべたついちゃう」
「次にシャワー使っていいよって、アズに声かけてくれないかな」
「はーい」
キッチンから出てきたアズにマリア=エリー=レラがその話を伝えていると、アズがゾイスに視線を送った。
「ありがとう、じゃあ先にお借りするね。急いで入ってくる」
「いいよゆっくりで、どうせ一晩中起きてるんだから」
お互い笑みを交換して別れた後、マリア=エリー=レラと目があった。
「ふうーん?」
「何?」
「アタシはアズと女子トークしたいから、女の子推進派なのよ」
「何だよいきなり……」
「協力するわよ」
「協力って……?」
「アレキはアズを男にしたがってるけど、ハリもそうなのよね。まあアイツの場合、歳の近い男友達が欲しいって単純な理由なんだけど」
自分も人のことは言えないのに、この言い種なところがマリア=エリー=レラらしい。
「二対二ならイーブンでしょ」
「僕はアズがどちらの性別でも構わないから、イーブンにはならないよ」
「でもアズも、いずれはどっちかに定めないといけないのよ? コズモロギアの定めだもの。天か地か、昼か夜か、白か黒かを決めなくてはならないじゃない。あの子は優柔不断すぎて何を決めるのも遅すぎるのよ、いい加減ハッキリさせる時が来てるのかも」
「僕はどちらにも協力しないよ。アズが決めることだ」
マリア=エリー=レラは腰に手を当てて大きく息をつく。
「ぬう……勧誘失敗のようね。でも諦めないわよ」
そうこうしているうち、キッチンからアレキとハリが戻ってきた。大皿に食べ残しを移して来たらしい。
「余り物まとめたぜー」
「ジュースも持ってこー!」
そう言うアレキは、器用にも指に何本もふにゃふにゃ瓶を差し込んで持っている。
「アズはお風呂?」
「今行ったばかりだからしばらく戻ってこないわ。先にやってましょう」
「オレゲームしたい! オデッセフスのゲーム教えてくれ!」
「アタシ怖い話聞きたい!」
ゾイスがそこで釘を刺す。
「母さんが寝てるから、なるべく静かに頼む」
「おっと……了解」
「クフ……ヒソヒソしてると笑っちゃう!」
四人は抜き足差し足で階段を上がり、客室へ飛び込んだ。
「シャワーお借りしますん」
「あ、じゃあアタシ片付けるー! ハリも来て!」
「えーっ、オレもかよ……腹はち切れそうなのに」
渋々立ち上がるハリが、残り物のポテトをひとつまみして皿を持ち上げる。
「これ夜食にしよーぜ」
「アンタ今、腹はち切れるって言ってなかった?」
「ずっと起きてたら腹減るに決まってるだろ!」
「私も手伝うよ。ハリ、あんまり持とうとすると落とすから、それ置いて」
アズが二人を追いかけてキッチンに向かった後、ゾイスがエカテリナに声をかける。
「母さん、先に休んで。今日ははしゃぎすぎてたからちょっと心配だよ」
「ふふ、そうね。熱出したら大変ね。でも空調が調子いいせいか、肺はいつもより苦しくないわ」
「身体を拭こうか?」
「大丈夫、明日でいいわ。みんなにシャワーを浴びさせてあげて。貴方もよく働いてくれたから、汗かいてるでしょう?」
「僕は最後でいいよ」
「女の子は清潔な人が好きよ?」
ゾイスはぐっと喉を鳴らし、首を横に振る。
「アズは女の子じゃないよ母さん」
「女の子は他にもいるでしょう? アズちゃんだなんて、母さん一言も言ってないわよ」
ゾイスは自分で口走った言葉に驚いた様子で、大きく目を見開いた。
「ゾイスはアズちゃんが好きなのね」
「……アズは友達だよ。今のはアレキがよくふざけてやってくるから、つい出ちゃっただけ」
「ふふ」
エカテリナはゾイスの前髪を掬い上げた。
「今日は一晩中おしゃべりね?」
「うるさくしないように言っておく」
「大事な時間を無駄にしないようにね。人生は一度しかないわ。思い切り楽しんだもの勝ちよ」
伴侶を失っている母のその言葉に、ゾイスは何も返せなかった。
「おやすみ、私の可愛い子」
「おやすみ、母さん」
エカテリナはそのまま立ち上がり、一階にある奥の自室に消えていった。
それから居間を片付けていると、しばらくしてマリア=エリー=レラが風呂から上がって戻ってきた。
「ありがとー。あー、気持ちよかった。何かこの街、スチームボーボーやってるせいか、すぐ髪がべたついちゃう」
「次にシャワー使っていいよって、アズに声かけてくれないかな」
「はーい」
キッチンから出てきたアズにマリア=エリー=レラがその話を伝えていると、アズがゾイスに視線を送った。
「ありがとう、じゃあ先にお借りするね。急いで入ってくる」
「いいよゆっくりで、どうせ一晩中起きてるんだから」
お互い笑みを交換して別れた後、マリア=エリー=レラと目があった。
「ふうーん?」
「何?」
「アタシはアズと女子トークしたいから、女の子推進派なのよ」
「何だよいきなり……」
「協力するわよ」
「協力って……?」
「アレキはアズを男にしたがってるけど、ハリもそうなのよね。まあアイツの場合、歳の近い男友達が欲しいって単純な理由なんだけど」
自分も人のことは言えないのに、この言い種なところがマリア=エリー=レラらしい。
「二対二ならイーブンでしょ」
「僕はアズがどちらの性別でも構わないから、イーブンにはならないよ」
「でもアズも、いずれはどっちかに定めないといけないのよ? コズモロギアの定めだもの。天か地か、昼か夜か、白か黒かを決めなくてはならないじゃない。あの子は優柔不断すぎて何を決めるのも遅すぎるのよ、いい加減ハッキリさせる時が来てるのかも」
「僕はどちらにも協力しないよ。アズが決めることだ」
マリア=エリー=レラは腰に手を当てて大きく息をつく。
「ぬう……勧誘失敗のようね。でも諦めないわよ」
そうこうしているうち、キッチンからアレキとハリが戻ってきた。大皿に食べ残しを移して来たらしい。
「余り物まとめたぜー」
「ジュースも持ってこー!」
そう言うアレキは、器用にも指に何本もふにゃふにゃ瓶を差し込んで持っている。
「アズはお風呂?」
「今行ったばかりだからしばらく戻ってこないわ。先にやってましょう」
「オレゲームしたい! オデッセフスのゲーム教えてくれ!」
「アタシ怖い話聞きたい!」
ゾイスがそこで釘を刺す。
「母さんが寝てるから、なるべく静かに頼む」
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