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第24話 マリア=エリー=レラの手料理
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三人が下りていくと、エプロンをつけたマリア=エリー=レラがやたら長いパンをこちらに向けた。
「あら何よアレキ、ゾイスみたい」
「ゾイスに服借りた!」
「ああ、着替え持ってきてなかったわよね、そういえば。バブロニアンぽくなったじゃない」
「どういう意味!」
「アンタの服、機械っぽすぎるのよ」
「ロボットっぽいってこと?」
「何それ」
「イヒッ、機械人形ー! カワイイってことじゃん! ヤッタ!」
アズがマリア=エリー=レラを眺めて言った。
「マリア=エリー=レラがエプロンを付けてるなんて……ご両親が見たら喜ぶんじゃない?」
「やめてよ、パパもママもアタシに料理なんてさせようともしなかったんだから。蝶よ花よでナーンもやったことないし」
「その割には、いいにおいするよ?」
「それはマダムのお力あってのことよ! レシピ教えてもらっちゃった! 家で作ってパパとママを驚かせてやるんだから!」
エカテリナがトレイに乗せたチキンを運んでくる。
「みんな揃ってるかしら?」
「ハリがまだシャワー中みたい。でも大分経つから、もうすぐ出てくると思います」
「じゃあ用意してましょうか。マリア=エリー=レラちゃん、秘伝のソースの出番よ!」
「はいマダム!!」
まるで師と弟子のような二人。女の子と一緒にキャッキャと料理を並べている母の姿を、側で見ているゾイスが嬉しそうに笑っているのがまた何とも言えない。先ほどアズはうかつに彼の人生の一部を覗いてしまったので、余計この光景が目に沁みてくる。
そうこうしているうち、ハリが風呂場から出てきた。
「うおーっ、何このにおい! いいにおい!」
「いい香り、って言って下さらない?」
マリア=エリー=レラが仁王立ちすると、ハリが身構える。
「うわっ、エプロン似合わねえー!」
「うるさいわね! そのドレッド千切って炒めるわよ!」
アレキはすでに席についている。
「早く食べようよー! アズこっち! 隣座っていいよ!」
相変わらず強い。アズは笑って隣に座ってやった。
「そういえばアレキ、お父さんに電話かけなくていいの?」
「あっ……! すっかり忘れてた! まあいいか!」
即行で楽観的になるその思考がある意味羨ましい。
「外出禁止になったら、次また来た時に遊べなくなるから、連絡入れておいた方がいいと思うけど……」
「アズにゃん……!!」
自分を心配してくれるアズにアレキの目は潤んでいる。こういうさりげなく優しいところが、アレキは好きなのだろう。
「マダムに出てもらえばお父さんの信用も上がるだろうし、頼んでみるのはどう?」
「アズにゃんがそう言うならそうする! そうだよね、結婚の第一歩は信用信頼!」
「ははは……」
気の早い話に空笑いを返し、テーブルの上の料理に視線を戻した。
ゾイスが瓶のようなものを各々のデーブルに置いていく。
「コップが人数分ないから、そのままでごめん」
「何これ。この瓶ブヨブヨしてる。おもしろいな」
ハリが首を傾げると、透明な表面に自分の顔が映る。
「炭酸のジュースだよ」
エカテリナが席につく。
「じゃあ頂きましょう。マリア=エリー=レラが一生懸命作ってくれたのよ」
視線が流れると、マリア=エリー=レラが緊張した様子で下を向く。
「マ……マダムが教えてくれたし、見ててくれたから、大丈夫……だと思うわよ……」
「本当にお前が作ったの?」
ハリが顔を覗き込もうとするのをナプキンで隠す。
「いいから早く食べなさいよ!」
プス、とナイフを肉に突き立てると、皮がプンと弾けた。隙間から半透明の肉汁が流れ始め、上からかけたソースと混ざり合う。それをフォークに刺し、口の中へ。
途中で鼻面に甘いフルーツを煮込んだ香りが入り、口の中の肉の柔らかさを際立たせる……。
食べたことのない調味料は異国の味のようで、アズは感動して思わず声を上げた。
「んーっ……!」
「美味しい?」
エカテリナの問いかけに何度も頷く。
噛むうちに消えていく風味を追いかけ、もう一口を頬張る。
「ンマーっ!」
アレキも鼻息大きく吐き出した。
「美味しいよマエレ!」
「ちょ……ちょっと、そのあだ名やめなさいって言ったでしょ!」
「うめえ!!」
「美味しい。ほぼ母さんのレシピ通りにできてる。本当に初めて料理したの?」
ハリが貪り食う横で、貴族のように食を楽しむゾイスとの対照が凄まじいが、マリア=エリー=レラは頷いた。
「ほ、ほほほ……才能よ才能。先生がいいんだもの、その才能とマッチすればわけないわ」
と、言いつつ、恐る恐る自分も口に運ぶ。
「おおう……本当に美味しい……。感動するわねこれ……」
そんな調子で騒々しく食事を楽しんでいると、エカテリナが食事の手を止め、静かに微笑んでそれを見つめているのにゾイスは気がついた。
その表情はどんな心境なのか聞いてみたかったが、この場の雰囲気を崩すのを彼はやめた。確実なことは、母は今とても楽しんでいると言うことだ。
「あら何よアレキ、ゾイスみたい」
「ゾイスに服借りた!」
「ああ、着替え持ってきてなかったわよね、そういえば。バブロニアンぽくなったじゃない」
「どういう意味!」
「アンタの服、機械っぽすぎるのよ」
「ロボットっぽいってこと?」
「何それ」
「イヒッ、機械人形ー! カワイイってことじゃん! ヤッタ!」
アズがマリア=エリー=レラを眺めて言った。
「マリア=エリー=レラがエプロンを付けてるなんて……ご両親が見たら喜ぶんじゃない?」
「やめてよ、パパもママもアタシに料理なんてさせようともしなかったんだから。蝶よ花よでナーンもやったことないし」
「その割には、いいにおいするよ?」
「それはマダムのお力あってのことよ! レシピ教えてもらっちゃった! 家で作ってパパとママを驚かせてやるんだから!」
エカテリナがトレイに乗せたチキンを運んでくる。
「みんな揃ってるかしら?」
「ハリがまだシャワー中みたい。でも大分経つから、もうすぐ出てくると思います」
「じゃあ用意してましょうか。マリア=エリー=レラちゃん、秘伝のソースの出番よ!」
「はいマダム!!」
まるで師と弟子のような二人。女の子と一緒にキャッキャと料理を並べている母の姿を、側で見ているゾイスが嬉しそうに笑っているのがまた何とも言えない。先ほどアズはうかつに彼の人生の一部を覗いてしまったので、余計この光景が目に沁みてくる。
そうこうしているうち、ハリが風呂場から出てきた。
「うおーっ、何このにおい! いいにおい!」
「いい香り、って言って下さらない?」
マリア=エリー=レラが仁王立ちすると、ハリが身構える。
「うわっ、エプロン似合わねえー!」
「うるさいわね! そのドレッド千切って炒めるわよ!」
アレキはすでに席についている。
「早く食べようよー! アズこっち! 隣座っていいよ!」
相変わらず強い。アズは笑って隣に座ってやった。
「そういえばアレキ、お父さんに電話かけなくていいの?」
「あっ……! すっかり忘れてた! まあいいか!」
即行で楽観的になるその思考がある意味羨ましい。
「外出禁止になったら、次また来た時に遊べなくなるから、連絡入れておいた方がいいと思うけど……」
「アズにゃん……!!」
自分を心配してくれるアズにアレキの目は潤んでいる。こういうさりげなく優しいところが、アレキは好きなのだろう。
「マダムに出てもらえばお父さんの信用も上がるだろうし、頼んでみるのはどう?」
「アズにゃんがそう言うならそうする! そうだよね、結婚の第一歩は信用信頼!」
「ははは……」
気の早い話に空笑いを返し、テーブルの上の料理に視線を戻した。
ゾイスが瓶のようなものを各々のデーブルに置いていく。
「コップが人数分ないから、そのままでごめん」
「何これ。この瓶ブヨブヨしてる。おもしろいな」
ハリが首を傾げると、透明な表面に自分の顔が映る。
「炭酸のジュースだよ」
エカテリナが席につく。
「じゃあ頂きましょう。マリア=エリー=レラが一生懸命作ってくれたのよ」
視線が流れると、マリア=エリー=レラが緊張した様子で下を向く。
「マ……マダムが教えてくれたし、見ててくれたから、大丈夫……だと思うわよ……」
「本当にお前が作ったの?」
ハリが顔を覗き込もうとするのをナプキンで隠す。
「いいから早く食べなさいよ!」
プス、とナイフを肉に突き立てると、皮がプンと弾けた。隙間から半透明の肉汁が流れ始め、上からかけたソースと混ざり合う。それをフォークに刺し、口の中へ。
途中で鼻面に甘いフルーツを煮込んだ香りが入り、口の中の肉の柔らかさを際立たせる……。
食べたことのない調味料は異国の味のようで、アズは感動して思わず声を上げた。
「んーっ……!」
「美味しい?」
エカテリナの問いかけに何度も頷く。
噛むうちに消えていく風味を追いかけ、もう一口を頬張る。
「ンマーっ!」
アレキも鼻息大きく吐き出した。
「美味しいよマエレ!」
「ちょ……ちょっと、そのあだ名やめなさいって言ったでしょ!」
「うめえ!!」
「美味しい。ほぼ母さんのレシピ通りにできてる。本当に初めて料理したの?」
ハリが貪り食う横で、貴族のように食を楽しむゾイスとの対照が凄まじいが、マリア=エリー=レラは頷いた。
「ほ、ほほほ……才能よ才能。先生がいいんだもの、その才能とマッチすればわけないわ」
と、言いつつ、恐る恐る自分も口に運ぶ。
「おおう……本当に美味しい……。感動するわねこれ……」
そんな調子で騒々しく食事を楽しんでいると、エカテリナが食事の手を止め、静かに微笑んでそれを見つめているのにゾイスは気がついた。
その表情はどんな心境なのか聞いてみたかったが、この場の雰囲気を崩すのを彼はやめた。確実なことは、母は今とても楽しんでいると言うことだ。
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