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第21話 ヒーラーの出番
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ゾイスが階下に降りていくと、エカテリナが居間で編み物をしていた。レースを広げて編む彼女の姿は絵画のように穏やかで美しい。
「母さん、今晩みんなを泊めてやって。まだ宿泊先を探してないんだって」
「あら、それは楽しそうね。もちろんいいわよ。じゃあ腕によりをかけて晩御飯作らないと」
エカテリナは編み棒を箱にしまい、ウキウキと立ち上がる。
「食材買いに行こうか?」
「そうね。育ち盛りが五人もいたら全然足りない」
上から子供たちが降りてくると、エカテリナは嬉しそうに声をかけた。
「みんな晩御飯、何食べたい?」
「マダムが作って下さるのですか?」
マリア=エリー=レラの瞳が輝いて見える。
「こんなに大人数のご飯を作るのは初めてだから、お手伝いしてくれる?」
「します! アタシお料理するの初めてだから教えて下さい!」
ハリが声を漏らす。
「うおお……あの気高きマリア=エリー=レラ様が、自ら働こうとなさっている……」
「うるさいわね、アンタの料理にだけ仕込むわよ」
「何を!?」
ゾイスが冷蔵庫を覗き込んでメモをとっている。アズはそれ見ていて思った。
「ゾイス手慣れてるんだね。お料理好きなの?」
「母さん身体が弱いから、色々やってあげないといけないからね。まあ、料理は科学だから嫌いじゃないけど、同じ味しか作れないかな」
「私も手伝うよ、お世話になるし。カップ洗うね」
「ありがとう。丁度今、食洗機壊れててさ、助かるよ」
「しょくせんき?」
「ああ……えと、自動でお皿を洗ってくれる機械のこと」
「そんなものまであるんだ! まるで魔法だねオデッセフスの街は……」
「でも、機械がないと何もできないからなあ。君たちみたいに我が身一つで何かできる訳じゃないし、不便なこともたくさんあるよ。それこそ、食洗機壊れた時とか」
アレキがやっと上から降りてきた。
「はー! もうパパ、うるさすぎ!」
「許可下りた?」
「下りたけど、一時間おきに電話しろって言うの! できるわけないじゃない! 寝る時どうすんの!」
「ははっ、心配してるんだよ」
アズがキッチンで皿洗いをしているのを見つけたアレキは目を丸くする。
「あれ! ゾイスの家、食洗機ない!?」
「あるよ。壊れちゃってるんだ。業者さんが中々回ってきてくれなくてさ」
「アタシ直してあげる!」
言うや洋服についてるパーツから工具が飛び出し、彼女はそれを手に取るや否や食洗機の蓋を開けて中に顔を突っ込んだ。
「さすが職人の卵。直せるんだったらありがたいけど……できそう?」
アレキはサムズアップする。
「楽勝! 単純な構造だからちょろいよ!」
アズは感心して皿を洗いながらそれを見ている。
「アレキはすごいなあ。機械を作れるし、直せもする。ヒーラーだね」
「惚れた!?」
「ははっ! そうだね、魅力的だね」
「ヤッタア!」
アズもこのノリに慣れてきた様子。
「ゾイス、他に壊れてるものあったら直すよ! 泊めてもらうお礼!」
「本当? 助かるよ、機械の街だと技術者が大忙しで予約が全然回ってこなくてさ。ボイラーとか点検できる?」
「よゆう! でもボイラー触るとゾイスのパパに怒られない?」
「父さんは僕が小さな頃に亡くなってて、うちは母さんと二人だから、管理は僕がしてるんだ」
アレキが食洗機の中に頭をぶつけた。
「ごめ……知らなかった……」
「大丈夫。昔のことすぎて気にしてないよ」
「分かった! じゃあパパのやりそうな修理全部やったげる!」
切り替えが早いのもアレキの長所だ。
「ありがとう。でも逆に何か悪いな。本当気にしてないのに」
「いいの! 機械いじるの大好きだからやりたいし!」
そのやり取りを聞いていたアズはほっとして、タオルで手を拭いてやってきた。
「お皿どこにしまえばいいのかな」
「そこのカウンターの上に置いておけば、アームが勝手にしまってくれるよ」
言われた通りにすると、天井から細長い腕が何本か伸びてきて、トレイの上の皿を戸棚にしまい出した。
「すごいなあ! 本当に科学は魔法みたいだ! いつも街の清掃をやってくれてるドロテアさんに見せたら喜びそう」
アームが動いていると、金属の擦れる臭いが鼻についた。アレキが食洗機をいじりながら言う。
「なんか換気悪くない?」
「換気扇はこの前見てもらったよ」
「じゃあ煙突かー! 煙突は高いからなー……」
アズが言う。
「高い場所ならハリが得意だよ。ホッパーっていう魔法の使い手だから、家なんて軽々跳び越えられる」
「そんな跳ぶの!? 見たい! 見たいから頼んじゃお!」
ゾイスがメモを千切ってから振り返った。
「アズ、一緒に買い物行ってくれないか。荷物が多くなりそうなんだ」
「もちろん!」
そこでアレキが食洗機から顔を出す。
「あー!! ゾイス、アズを口説いたら怒るからね!」
「ははっ、分かった。約束する」
「行ってヨシ!」
「ゾイスまでアレキのノリに乗らなくていいから……」
まあ、変に意識されるよりか余程良いのは確かであるが。
居間に戻るとマリア=エリー=レラとハリがエカテリナと談話しながら笑っていた。
「母さん、何作るか決めた? アズと買い物に行ってくる」
「ハリちゃんは面白いのね、マリア=エリー=レラちゃんとの掛け合いが面白くて涙が出てきちゃうほど笑ってしまったわ」
「それは良かった」
「はいこれ、メモした物を買ってきてね。お小遣いもあげるから、必要なものがあったら揃えて」
「ありがとう、行ってきます。アズ行こう」
ハリとマリア=エリー=レラがアズを眺めつつ道を開ける。
「おじいちゃん探しながら、買い物に付き合ってくる」
「いってらっしゃいー」
「よくアレキが許したな?」
「今キッチンで機械の修理してるから、手が離せないみたい」
「なるほど。奴はお前と機械いじりを天秤にかけると、機械いじりが重くなるんだな」
「何言ってるんだよ。じゃあ行ってくる」
「母さん、今晩みんなを泊めてやって。まだ宿泊先を探してないんだって」
「あら、それは楽しそうね。もちろんいいわよ。じゃあ腕によりをかけて晩御飯作らないと」
エカテリナは編み棒を箱にしまい、ウキウキと立ち上がる。
「食材買いに行こうか?」
「そうね。育ち盛りが五人もいたら全然足りない」
上から子供たちが降りてくると、エカテリナは嬉しそうに声をかけた。
「みんな晩御飯、何食べたい?」
「マダムが作って下さるのですか?」
マリア=エリー=レラの瞳が輝いて見える。
「こんなに大人数のご飯を作るのは初めてだから、お手伝いしてくれる?」
「します! アタシお料理するの初めてだから教えて下さい!」
ハリが声を漏らす。
「うおお……あの気高きマリア=エリー=レラ様が、自ら働こうとなさっている……」
「うるさいわね、アンタの料理にだけ仕込むわよ」
「何を!?」
ゾイスが冷蔵庫を覗き込んでメモをとっている。アズはそれ見ていて思った。
「ゾイス手慣れてるんだね。お料理好きなの?」
「母さん身体が弱いから、色々やってあげないといけないからね。まあ、料理は科学だから嫌いじゃないけど、同じ味しか作れないかな」
「私も手伝うよ、お世話になるし。カップ洗うね」
「ありがとう。丁度今、食洗機壊れててさ、助かるよ」
「しょくせんき?」
「ああ……えと、自動でお皿を洗ってくれる機械のこと」
「そんなものまであるんだ! まるで魔法だねオデッセフスの街は……」
「でも、機械がないと何もできないからなあ。君たちみたいに我が身一つで何かできる訳じゃないし、不便なこともたくさんあるよ。それこそ、食洗機壊れた時とか」
アレキがやっと上から降りてきた。
「はー! もうパパ、うるさすぎ!」
「許可下りた?」
「下りたけど、一時間おきに電話しろって言うの! できるわけないじゃない! 寝る時どうすんの!」
「ははっ、心配してるんだよ」
アズがキッチンで皿洗いをしているのを見つけたアレキは目を丸くする。
「あれ! ゾイスの家、食洗機ない!?」
「あるよ。壊れちゃってるんだ。業者さんが中々回ってきてくれなくてさ」
「アタシ直してあげる!」
言うや洋服についてるパーツから工具が飛び出し、彼女はそれを手に取るや否や食洗機の蓋を開けて中に顔を突っ込んだ。
「さすが職人の卵。直せるんだったらありがたいけど……できそう?」
アレキはサムズアップする。
「楽勝! 単純な構造だからちょろいよ!」
アズは感心して皿を洗いながらそれを見ている。
「アレキはすごいなあ。機械を作れるし、直せもする。ヒーラーだね」
「惚れた!?」
「ははっ! そうだね、魅力的だね」
「ヤッタア!」
アズもこのノリに慣れてきた様子。
「ゾイス、他に壊れてるものあったら直すよ! 泊めてもらうお礼!」
「本当? 助かるよ、機械の街だと技術者が大忙しで予約が全然回ってこなくてさ。ボイラーとか点検できる?」
「よゆう! でもボイラー触るとゾイスのパパに怒られない?」
「父さんは僕が小さな頃に亡くなってて、うちは母さんと二人だから、管理は僕がしてるんだ」
アレキが食洗機の中に頭をぶつけた。
「ごめ……知らなかった……」
「大丈夫。昔のことすぎて気にしてないよ」
「分かった! じゃあパパのやりそうな修理全部やったげる!」
切り替えが早いのもアレキの長所だ。
「ありがとう。でも逆に何か悪いな。本当気にしてないのに」
「いいの! 機械いじるの大好きだからやりたいし!」
そのやり取りを聞いていたアズはほっとして、タオルで手を拭いてやってきた。
「お皿どこにしまえばいいのかな」
「そこのカウンターの上に置いておけば、アームが勝手にしまってくれるよ」
言われた通りにすると、天井から細長い腕が何本か伸びてきて、トレイの上の皿を戸棚にしまい出した。
「すごいなあ! 本当に科学は魔法みたいだ! いつも街の清掃をやってくれてるドロテアさんに見せたら喜びそう」
アームが動いていると、金属の擦れる臭いが鼻についた。アレキが食洗機をいじりながら言う。
「なんか換気悪くない?」
「換気扇はこの前見てもらったよ」
「じゃあ煙突かー! 煙突は高いからなー……」
アズが言う。
「高い場所ならハリが得意だよ。ホッパーっていう魔法の使い手だから、家なんて軽々跳び越えられる」
「そんな跳ぶの!? 見たい! 見たいから頼んじゃお!」
ゾイスがメモを千切ってから振り返った。
「アズ、一緒に買い物行ってくれないか。荷物が多くなりそうなんだ」
「もちろん!」
そこでアレキが食洗機から顔を出す。
「あー!! ゾイス、アズを口説いたら怒るからね!」
「ははっ、分かった。約束する」
「行ってヨシ!」
「ゾイスまでアレキのノリに乗らなくていいから……」
まあ、変に意識されるよりか余程良いのは確かであるが。
居間に戻るとマリア=エリー=レラとハリがエカテリナと談話しながら笑っていた。
「母さん、何作るか決めた? アズと買い物に行ってくる」
「ハリちゃんは面白いのね、マリア=エリー=レラちゃんとの掛け合いが面白くて涙が出てきちゃうほど笑ってしまったわ」
「それは良かった」
「はいこれ、メモした物を買ってきてね。お小遣いもあげるから、必要なものがあったら揃えて」
「ありがとう、行ってきます。アズ行こう」
ハリとマリア=エリー=レラがアズを眺めつつ道を開ける。
「おじいちゃん探しながら、買い物に付き合ってくる」
「いってらっしゃいー」
「よくアレキが許したな?」
「今キッチンで機械の修理してるから、手が離せないみたい」
「なるほど。奴はお前と機械いじりを天秤にかけると、機械いじりが重くなるんだな」
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