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第18話 セオリスト
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ハリが大人しくなったところで、アズが話し始める。
「アレキにも話してないんだけど……。その話をする前に、二人はどこまでジノヴィオス信仰を知ってる?」
アレキがベッドに腰掛けて胡座を描く。
「おじいちゃんがジノヴィオス教徒だったから結構知ってるよ! パパからはもうオデッセフス信仰だけどね。でも興味あるのは難しいこと以外!」
ゾイスは本棚から数冊本を引き出して見せる。
「一通り学校で勉強したのと、あとは個人的に調べたことがあるから大体の文化は分かるかな」
「オケ、じゃあそこに補足しながら話していくね」
部屋がしんとなる中、アズは説明を始めた。
「私の家系は占星術師で、占星術師の家系は代々技術が受け継がれていくのね。でも誰でもなれるというわけではないから、向いてる子が生まれなければそこで途絶えてしまったりするんだけど、ありがたいことに私は向いていたから、子供の頃からずっとその修行をしてたんだ。で、今年やっと認められて、ジノヴィオス様と占星術師になるための契約をできるようになったんだけど……」
そこでポケットからアストロラーベを取り出す。
「あ、これアタシが作ったの! 可愛いでしょ!」
「私のおばあちゃんはアレキのおじいちゃんにアストロラーベを作ってもらって、今でもそれを使ってる。だから私もそうするように勧められたんだけど、もうすでにアレキのおじいちゃんは他界なさってて、手に入らなかったんだ」
「十年くらい前、寿命がきて死んじゃった!」
「明るく言うなよお前……」
「だから私は、アレキが作ったアストロラーベを使うことにしたのね」
「わーい! 運命の出会いなのこれ!」
ゾイスはアレキの明るい性格が気に入ったらしい。微笑ましくその対応を見て口元に笑みをつけている。
「ジノヴィオス信者は自然と共に暮らす文化だから、占星術師のアストロラーベも木工でできてる物なんだけど、アレキのおじいちゃんが亡くなってしまって、作る人がいなくなってしまったんだ」
「だけど、アタシがおじいちゃんの図面を見つけて、見よう見まねで作ってみたの! それがこれ!」
「へえ、さすが機械工学が得意なだけあるね。見事だよ」
「ありがと! 自信作! でもこれ、インテリア用品として作ってるから、装飾すごくて実用的ではないのね! まさか飾る以外の用途で使われると思ってなかったから、めちゃくちゃゴテゴテにしちゃった!」
「でもこれ、真鍮でできてない?」
「当たり!」
「そう。アレキは金属で作ってる。占星術師は選択したアストロラーベを生涯使い続けなければならないから、私はこれでジノヴィオス様の声を受け取らないとならないんだ」
「ふむ……それは初耳だったな」
マリア=エリー=レラが息をつく。
「やっと本題に入れるわね」
「ここからなんだけど、オデッセフス信仰の人たちにはちょっと話しにくい内容が続くから、我慢して聞いててほしいんだ」
「分かった!」
アレキは素直に頷いたが、ゾイスは神妙な様子だ。
「昨日も言ったけど、僕は無神教だからね」
「分かってる」
「え! ゾイス珍しい! ゾイスの中には神様がいないんだ……!?」
アレキは驚いていたが、アズたちは二回目なので頷いて終わった。
階下からエカテリナの呼ぶ声が聞こえ、ゾイスが返事をする。
「お茶が用意できたみたいだ。取りに行ってくるから少し待ってて」
ハリが代わりに立ち上がると、扉を開けた。
「続けてて。オレ取りに行ってくるわ」
「たまには気が利くじゃない」
「いつもだろぉ」
マリア=エリー=レラの皮肉を受けつつ、ハリが部屋から出ていった。
アズは続ける。
「村に泉があるんだけど、そこは水のニュンペーが住んでる場所なんだ」
「ニュンペー?」
「妖精のこと。彼らは普通の人たちにはまず見えない。よっぽどジノヴィオス様に近い存在じゃないと姿を見せてくれないから、赤ちゃんとか、賢者とか、そういった人たちしかお目にかかったことがないのね」
「ほえー! この世界にそんなのがいたんだ!」
「ジノヴィオス様と交信できる占星術師も見ることができるんだけど、私はまだ見れないはずなんだ」
「まだ契約をしていないから」
ゾイスの言葉にアズは頷く。
「そう。そのはずなんだけど……何故か見えてしまって」
「アズにゃんニュンペー見たの!? どんなのだった!?」
素っ裸で踊ってる女性でしたとは、口が裂けてもアレキには教えられない。
「声も聞こえたんだ。それで、ニュンペーたちから助けを求められた」
ハリが紅茶を乗せたトレイを持って戻って来た。
「重いぞー、どいてー」
マリア=エリー=レラが一つずつソーサーを受け取り、皆に回していく。
「いい香り。オレンジかしら。さすがマダム、センスがいいのね」
「母さん、フルーツの紅茶が好きなんだ」
「あら、アタシもよ。今度遊びに来る時オススメを持って来てあげよっと」
マリア=エリー=レラは美しく品のあるエカテリナに憧れているらしい。確かに村の女たちとは違い、エカテリナは貴婦人のような雰囲気があるので、それが彼女のハートをワクワクさせているのだろう。
ゾイスがアズから紅茶を渡され、一度香りを楽しむ。
「アズ、続けて」
「えっと……」
「ニュンペーから助けを求められた」
「ああ、そう。助けを求められたんだ。だけど私、何を言われているのか理解できなくて」
「なんて言ってたの?」
「オデッセフス信仰が極端に増えて、ジノヴィオス信仰がほとんど減ってしまったから、魔法の力が消えてきてしまっているって。このままではそのうち自分たちも消えてしまうって」
「えっ、やばいじゃん!」
「魔法の力がなくなれば、私たちも魔法が使えなくなってしまう。そうなる前に……取り返しがつかなくなる前に、クレプシドラをひっくりかえしてって」
「クレプシドラをひっくり返す?」
アレキは頭の上に疑問符がついていたが、ゾイスは眉間に皺を寄せた。
「それから?」
「それだけ伝えたら、ニュンペーたちは消えてしまった。その後アストロラーベが開いて、プラニスフェリックアストロラーベからアーミラリスフィアに変形したんだよ。本来なら占星術としての契約を済ませないとそんなことにはならないのに」
「それで君は、何故そうなったのかが分からず、困り果ててここに辿り着いたと」
「ご明察」
「アレキにも話してないんだけど……。その話をする前に、二人はどこまでジノヴィオス信仰を知ってる?」
アレキがベッドに腰掛けて胡座を描く。
「おじいちゃんがジノヴィオス教徒だったから結構知ってるよ! パパからはもうオデッセフス信仰だけどね。でも興味あるのは難しいこと以外!」
ゾイスは本棚から数冊本を引き出して見せる。
「一通り学校で勉強したのと、あとは個人的に調べたことがあるから大体の文化は分かるかな」
「オケ、じゃあそこに補足しながら話していくね」
部屋がしんとなる中、アズは説明を始めた。
「私の家系は占星術師で、占星術師の家系は代々技術が受け継がれていくのね。でも誰でもなれるというわけではないから、向いてる子が生まれなければそこで途絶えてしまったりするんだけど、ありがたいことに私は向いていたから、子供の頃からずっとその修行をしてたんだ。で、今年やっと認められて、ジノヴィオス様と占星術師になるための契約をできるようになったんだけど……」
そこでポケットからアストロラーベを取り出す。
「あ、これアタシが作ったの! 可愛いでしょ!」
「私のおばあちゃんはアレキのおじいちゃんにアストロラーベを作ってもらって、今でもそれを使ってる。だから私もそうするように勧められたんだけど、もうすでにアレキのおじいちゃんは他界なさってて、手に入らなかったんだ」
「十年くらい前、寿命がきて死んじゃった!」
「明るく言うなよお前……」
「だから私は、アレキが作ったアストロラーベを使うことにしたのね」
「わーい! 運命の出会いなのこれ!」
ゾイスはアレキの明るい性格が気に入ったらしい。微笑ましくその対応を見て口元に笑みをつけている。
「ジノヴィオス信者は自然と共に暮らす文化だから、占星術師のアストロラーベも木工でできてる物なんだけど、アレキのおじいちゃんが亡くなってしまって、作る人がいなくなってしまったんだ」
「だけど、アタシがおじいちゃんの図面を見つけて、見よう見まねで作ってみたの! それがこれ!」
「へえ、さすが機械工学が得意なだけあるね。見事だよ」
「ありがと! 自信作! でもこれ、インテリア用品として作ってるから、装飾すごくて実用的ではないのね! まさか飾る以外の用途で使われると思ってなかったから、めちゃくちゃゴテゴテにしちゃった!」
「でもこれ、真鍮でできてない?」
「当たり!」
「そう。アレキは金属で作ってる。占星術師は選択したアストロラーベを生涯使い続けなければならないから、私はこれでジノヴィオス様の声を受け取らないとならないんだ」
「ふむ……それは初耳だったな」
マリア=エリー=レラが息をつく。
「やっと本題に入れるわね」
「ここからなんだけど、オデッセフス信仰の人たちにはちょっと話しにくい内容が続くから、我慢して聞いててほしいんだ」
「分かった!」
アレキは素直に頷いたが、ゾイスは神妙な様子だ。
「昨日も言ったけど、僕は無神教だからね」
「分かってる」
「え! ゾイス珍しい! ゾイスの中には神様がいないんだ……!?」
アレキは驚いていたが、アズたちは二回目なので頷いて終わった。
階下からエカテリナの呼ぶ声が聞こえ、ゾイスが返事をする。
「お茶が用意できたみたいだ。取りに行ってくるから少し待ってて」
ハリが代わりに立ち上がると、扉を開けた。
「続けてて。オレ取りに行ってくるわ」
「たまには気が利くじゃない」
「いつもだろぉ」
マリア=エリー=レラの皮肉を受けつつ、ハリが部屋から出ていった。
アズは続ける。
「村に泉があるんだけど、そこは水のニュンペーが住んでる場所なんだ」
「ニュンペー?」
「妖精のこと。彼らは普通の人たちにはまず見えない。よっぽどジノヴィオス様に近い存在じゃないと姿を見せてくれないから、赤ちゃんとか、賢者とか、そういった人たちしかお目にかかったことがないのね」
「ほえー! この世界にそんなのがいたんだ!」
「ジノヴィオス様と交信できる占星術師も見ることができるんだけど、私はまだ見れないはずなんだ」
「まだ契約をしていないから」
ゾイスの言葉にアズは頷く。
「そう。そのはずなんだけど……何故か見えてしまって」
「アズにゃんニュンペー見たの!? どんなのだった!?」
素っ裸で踊ってる女性でしたとは、口が裂けてもアレキには教えられない。
「声も聞こえたんだ。それで、ニュンペーたちから助けを求められた」
ハリが紅茶を乗せたトレイを持って戻って来た。
「重いぞー、どいてー」
マリア=エリー=レラが一つずつソーサーを受け取り、皆に回していく。
「いい香り。オレンジかしら。さすがマダム、センスがいいのね」
「母さん、フルーツの紅茶が好きなんだ」
「あら、アタシもよ。今度遊びに来る時オススメを持って来てあげよっと」
マリア=エリー=レラは美しく品のあるエカテリナに憧れているらしい。確かに村の女たちとは違い、エカテリナは貴婦人のような雰囲気があるので、それが彼女のハートをワクワクさせているのだろう。
ゾイスがアズから紅茶を渡され、一度香りを楽しむ。
「アズ、続けて」
「えっと……」
「ニュンペーから助けを求められた」
「ああ、そう。助けを求められたんだ。だけど私、何を言われているのか理解できなくて」
「なんて言ってたの?」
「オデッセフス信仰が極端に増えて、ジノヴィオス信仰がほとんど減ってしまったから、魔法の力が消えてきてしまっているって。このままではそのうち自分たちも消えてしまうって」
「えっ、やばいじゃん!」
「魔法の力がなくなれば、私たちも魔法が使えなくなってしまう。そうなる前に……取り返しがつかなくなる前に、クレプシドラをひっくりかえしてって」
「クレプシドラをひっくり返す?」
アレキは頭の上に疑問符がついていたが、ゾイスは眉間に皺を寄せた。
「それから?」
「それだけ伝えたら、ニュンペーたちは消えてしまった。その後アストロラーベが開いて、プラニスフェリックアストロラーベからアーミラリスフィアに変形したんだよ。本来なら占星術としての契約を済ませないとそんなことにはならないのに」
「それで君は、何故そうなったのかが分からず、困り果ててここに辿り着いたと」
「ご明察」
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