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第17話 ゾイスの部屋
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部屋で読書をしていたゾイスは、母のエカテリナに呼ばれて階下に降りて行く。
「何か用?」
居間に顔を出すと、アズとハリとマリア=エリー=レラが手を振っているのが目に映り、口元を綻ばせた。
「ああ、一昨日のことなのに、もう遊びに来ちゃったの?」
「だって一昨日、車代を出してもらってたでしょ? 早く返さなくちゃって気になるじゃない」
マリア=エリー=レラがそう言うと、エカテリナは感心したように頷く。
「まあ、別に良かったのに。困ってる人を助けるのは当然のことなのよ。それが子供なら尚更というだけの話」
「ジノヴィオス様が、受けた恩はちゃんと返しなさいっておっしゃってるの。だからこれも、アタシたちにとって当然の話なのですマダム」
ハリが胸を張り、背中のリュックを二人に見せた。
「今日はちゃんと傘とコート、持ってきてあるぜ」
エカテリナは微笑み、皆を中へ迎え入れる。
「さあ入って。いつまでいられるのかしら? お茶とお菓子を食べる時間はある?」
アズが頷き、整えられたレンガの部屋にお邪魔する。
「はい。今日は宿泊する予定で来ているんです」
「まあ、じゃあゆっくりお話できるわね。ジノヴィオスの人達のお口に合うかどうか分からないけれど、焼いたクッキーをお出しするわ。ちょっと待っててね」
ドアの向こうから、アレキが顔を覗かせた。
「あら? この子もお友達?」
「こんにちは! アレキです!」
「まあ、元気ね」
エカテリナは優しく微笑み、彼女も中に入れてやる。
「アレキはこの街の道具屋さんの子なんですが、仲良くなったので一緒に行動しています」
「アズの恋人候補なの!」
「まあ」
慌ててアズが止めに入り、アレキをテーブルに押しやった。
「冗談ですよ、ははは!」
エカテリナは少し首を傾げて冗談めかして微笑んでから、その足でキッチンに向かう。
「六つもカップあったかしら……」
ゾイスがすれ違いに居間に入り、皆を出迎える。
「誰も風邪ひいてないみたいでよかった」
「はいこれ、お母様にお渡しして」
マリア=エリー=レラが車代往復分をゾイスに手渡すと、彼はその袋を受け取ってから言った。
「内緒で出て来たんだろう? どうやってお金を工面してきたんだい?」
「大丈夫。ウチは村一番のお金持ちだから。村じゃ買う物もあんまりないし、お小遣い余ってるのよ」
なるほど、と硬貨の入った袋を棚の上へ乗せる。
「彼女は道具屋の娘さんと言ってたけど、何かトラブルで来たのかな?」
アズは驚いて顔を上げた。
「え、どうして?」
「一昨日、ジャコウの話で何か深刻になっていた様子だったから……」
さすがはゾイスだ、理論的に物事を考える。
「実は……ゾイスの知恵を借りたいんだ」
「僕の知恵?」
「君は筋道を立てて物事を考えるのが得意でしょう? 私の話のどこかに何か潜んでたら、聞いてて分かるんじゃないかと思って……」
アズが深刻な様子だったので、困り果てているのは見てとれた。
「僕で良ければ協力は惜しまないけど……一体何の話?」
キッチンにいるエカテリナを気にして口籠もる。
「ちょっとオデッセフスの人たちには話しにくい内容なんだ。だからゾイスだけに話したい」
「じゃあ僕の部屋に行こう。その代わり、終わったら母さんに君たちの文化の話をしてあげてくれる? 身体があまり強い人じゃなくて、外に出られないから退屈してると思うんだ」
「お安い御用だよ。今日はゆっくりできるし」
ゾイスが微笑み、キッチンの中にいるエカテリナに声をかける。
「母さん、アズたちが何か相談に乗って欲しいらしいから、ちょっと部屋に行くよ。終わったら一緒に談話しよう。今はお茶だけ用意してくれるかな。呼んでくれれば取りに来るから」
「分かったわ」
ゾイスの部屋に案内されて中に招かれると、本棚と積み上げられた本に出迎えられる。
思わずアレキが唸った。
「うげ、ゾイスは本の虫だ……!」
「そこは調べものの途中だから崩さないで。こっちは床があるよ」
「専攻は何?」
「科学哲学かな。でも弁護も一緒に勉強してる」
「ああ、それでそういう性格! 納得!」
「君は?」
「機械工学ー!」
アズたち三人にはさっぱりな話がやり取りされている間に、座る位置を決める。
ハリがその中の一冊を手に取った。
「すっげえー、これ全部読んだの?」
「読みかけもあるよ。分厚い辞書が何冊もあるから、どうしても量がすごくなっちゃって」
マリア=エリー=レラが吊り下げられた長椅子に腰を下ろす。
「床抜けそう」
「小説とかないの? オデッセフスの文化で書かれたやつとか興味津々」
「あるよ、読んでみる? 猟奇殺人を推理していく話」
「怖え! そんなもん読んでんのお前ら!? めちゃくちゃ物騒だな!!」
「実際あった話じゃないんだし、いかにそれらしく謎を想像して読者を楽しませるかっていうお話だよ」
「そんなの想像して楽しむとかやべえだろ!」
「そうかな? じゃあ……冒険譚とか」
「お、いいね」
「暗黒の門を潜った先で悲惨な出来事に遭遇したりするけど……」
「怖えよ!? 残虐なのしかねえのかよオデッセフス!?」
マリア=エリー=レラがそれを止める。
「ちょっとハリ、遊ぶのは後。先に本題を片付けてからにしてちょうだい」
「何か用?」
居間に顔を出すと、アズとハリとマリア=エリー=レラが手を振っているのが目に映り、口元を綻ばせた。
「ああ、一昨日のことなのに、もう遊びに来ちゃったの?」
「だって一昨日、車代を出してもらってたでしょ? 早く返さなくちゃって気になるじゃない」
マリア=エリー=レラがそう言うと、エカテリナは感心したように頷く。
「まあ、別に良かったのに。困ってる人を助けるのは当然のことなのよ。それが子供なら尚更というだけの話」
「ジノヴィオス様が、受けた恩はちゃんと返しなさいっておっしゃってるの。だからこれも、アタシたちにとって当然の話なのですマダム」
ハリが胸を張り、背中のリュックを二人に見せた。
「今日はちゃんと傘とコート、持ってきてあるぜ」
エカテリナは微笑み、皆を中へ迎え入れる。
「さあ入って。いつまでいられるのかしら? お茶とお菓子を食べる時間はある?」
アズが頷き、整えられたレンガの部屋にお邪魔する。
「はい。今日は宿泊する予定で来ているんです」
「まあ、じゃあゆっくりお話できるわね。ジノヴィオスの人達のお口に合うかどうか分からないけれど、焼いたクッキーをお出しするわ。ちょっと待っててね」
ドアの向こうから、アレキが顔を覗かせた。
「あら? この子もお友達?」
「こんにちは! アレキです!」
「まあ、元気ね」
エカテリナは優しく微笑み、彼女も中に入れてやる。
「アレキはこの街の道具屋さんの子なんですが、仲良くなったので一緒に行動しています」
「アズの恋人候補なの!」
「まあ」
慌ててアズが止めに入り、アレキをテーブルに押しやった。
「冗談ですよ、ははは!」
エカテリナは少し首を傾げて冗談めかして微笑んでから、その足でキッチンに向かう。
「六つもカップあったかしら……」
ゾイスがすれ違いに居間に入り、皆を出迎える。
「誰も風邪ひいてないみたいでよかった」
「はいこれ、お母様にお渡しして」
マリア=エリー=レラが車代往復分をゾイスに手渡すと、彼はその袋を受け取ってから言った。
「内緒で出て来たんだろう? どうやってお金を工面してきたんだい?」
「大丈夫。ウチは村一番のお金持ちだから。村じゃ買う物もあんまりないし、お小遣い余ってるのよ」
なるほど、と硬貨の入った袋を棚の上へ乗せる。
「彼女は道具屋の娘さんと言ってたけど、何かトラブルで来たのかな?」
アズは驚いて顔を上げた。
「え、どうして?」
「一昨日、ジャコウの話で何か深刻になっていた様子だったから……」
さすがはゾイスだ、理論的に物事を考える。
「実は……ゾイスの知恵を借りたいんだ」
「僕の知恵?」
「君は筋道を立てて物事を考えるのが得意でしょう? 私の話のどこかに何か潜んでたら、聞いてて分かるんじゃないかと思って……」
アズが深刻な様子だったので、困り果てているのは見てとれた。
「僕で良ければ協力は惜しまないけど……一体何の話?」
キッチンにいるエカテリナを気にして口籠もる。
「ちょっとオデッセフスの人たちには話しにくい内容なんだ。だからゾイスだけに話したい」
「じゃあ僕の部屋に行こう。その代わり、終わったら母さんに君たちの文化の話をしてあげてくれる? 身体があまり強い人じゃなくて、外に出られないから退屈してると思うんだ」
「お安い御用だよ。今日はゆっくりできるし」
ゾイスが微笑み、キッチンの中にいるエカテリナに声をかける。
「母さん、アズたちが何か相談に乗って欲しいらしいから、ちょっと部屋に行くよ。終わったら一緒に談話しよう。今はお茶だけ用意してくれるかな。呼んでくれれば取りに来るから」
「分かったわ」
ゾイスの部屋に案内されて中に招かれると、本棚と積み上げられた本に出迎えられる。
思わずアレキが唸った。
「うげ、ゾイスは本の虫だ……!」
「そこは調べものの途中だから崩さないで。こっちは床があるよ」
「専攻は何?」
「科学哲学かな。でも弁護も一緒に勉強してる」
「ああ、それでそういう性格! 納得!」
「君は?」
「機械工学ー!」
アズたち三人にはさっぱりな話がやり取りされている間に、座る位置を決める。
ハリがその中の一冊を手に取った。
「すっげえー、これ全部読んだの?」
「読みかけもあるよ。分厚い辞書が何冊もあるから、どうしても量がすごくなっちゃって」
マリア=エリー=レラが吊り下げられた長椅子に腰を下ろす。
「床抜けそう」
「小説とかないの? オデッセフスの文化で書かれたやつとか興味津々」
「あるよ、読んでみる? 猟奇殺人を推理していく話」
「怖え! そんなもん読んでんのお前ら!? めちゃくちゃ物騒だな!!」
「実際あった話じゃないんだし、いかにそれらしく謎を想像して読者を楽しませるかっていうお話だよ」
「そんなの想像して楽しむとかやべえだろ!」
「そうかな? じゃあ……冒険譚とか」
「お、いいね」
「暗黒の門を潜った先で悲惨な出来事に遭遇したりするけど……」
「怖えよ!? 残虐なのしかねえのかよオデッセフス!?」
マリア=エリー=レラがそれを止める。
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