【占星術師の宇宙論】

荒雲ニンザ

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第11話 無神論者ゾイス

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 婦人が窓の外を窺いながら少年に言った。

「ゾイス、天気予報を調べてあげて」
「もう調べてある。明日までやまないよ」
「そう……」

 それからこちらを振り向き。

「貴方たち三人はこれからどうするのかしら? 街に泊まっていくの?」
「いえ、帰るのに三時間かかるので、そろそろ帰ろうかと思っていました」
「三時間!? そんなにかかるのね……」

 夫人が驚くと、ゾイスと呼ばれた少年が言う。

「帰るならハイヤーを呼んであげた方がいいんじゃないかな」
「そうしてあげて。遅くなったら親御さんが心配なさる」
「はい」

 立ち上がって壁のパネルを弄り始めた少年を目で追いながら、ハリが質問する。

「ハイヤーって?」
「馬車なら分かる?」
「ああ、馬車のこと……」

 それを聞いたマリア=エリー=レラが慌てて二人を止めた。

「あああ! ダメっ!! 森にオデッセフスの人たちを近づけたら怒られちゃう!!」
「あら……そうなの? でも、お家に帰るには、雨の中を行かないといけないわ。ジノヴィオス信仰の村には電話もないでしょうし、三時間もかかるなんて聞いたら、まだ明るいにしたって子供三人を雨の中に放り出すなんてできないわ」

 三人が顔を見合わせ、渋々アズが言う。

「実は……今日この街に来てるのも、内緒なんです……」
「まあ……」

 ゾイスは腕を組む。

「三時間かけ、戻るのに同じ時間かけるつもりということは、魔法で行き来はできないということだ。歩くにしてもオデッセフスの品物は身につけられない。傘もダメ、防水コートもダメ。車は森に近寄れない。電話もないが、そもそも内密に抜け出しているので伝言もできない……となると、とれる方法は一つ」

 全員がゾイスを注視している。

「森の近くまで君たちを送った後、そこから徒歩」
「ダメよぉ、どの道傘がないと濡れちゃうわ。風邪をひいたら大変よ」
「あくまでも今のは三人行動の話。ここに僕が加われば、傘を持って森の中を進み、それを持って帰って車で戻って来れる。森をどのくらい歩くのかは知らないけれど、森の近くまで車で約三十分程度」
「車ってそんな早いの!?」
「雨での計算だから、晴れていたらもっと早い」

 夫人はその案に承諾してくれそうな顔色であるが、アズは首を横に振る。

「と、とてもありがたい考えだけど、君はオデッセフスの人に変わりないから……」
「僕は無神論者だ」

 無神論者って? という顔を三人がしていたので、ゾイスは砕いて説明してやる。

「僕は、神様を信じていない。伝わっているコズモロギアも信じていない」

 説明されてもさっぱり理解できず、三人はポカンと大口を開けてゾイスを見ていた。
 神様を信じていない人が、この世界にいたなんて!
 アズは占星術師だ。しかもなりたての。ジノヴィオスの声を聞き、それを伝えるためにいる者にとって、彼の言うことはあまりにも馬鹿馬鹿しい話で、この少年は変わり者でおかしい人物だぞと身構えてしまった。
 婦人がそこで間に入り、手をかざす。

「この話はこれ以上しちゃダメよ。ここから建設的な話に持っていくのは賛成」
「僕もそれに賛成だ。君たちは今の案をどう受け入れる?」

 三人は混乱極まっていた。

 マリア=エリー=レラはこう思っていた。

「三時間も雨に濡れながら歩いて帰るのは無理。肺炎にでもなったら大変」

 ハリもそれに同意見で、付け加えてこう思っている。

「早く帰れるの最高だろ! でも森にこの街の奴を近づかせるのはやばいよなあ……」

 アズも二人に同意見で、更にこう思っていた。

「何かこの子おかしなこと言ってるしなあ……。でもオデッセフス信仰じゃないって言ってるから、森には近寄っていいのかな……?」

 悩みに悩み、それでも村に帰らないといけない三人は妥協した。
 マリア=エリー=レラが答えた。

「森の入り口から村は……歩いて三十分かからないくらい。荷台や馬が行き来してるから道は作ってあるけど、村の人じゃないとどうなるか分からないの……」

 チラリとアズに視線を送る。

「村の人じゃないから、妖精に拐かされたら……迷っちゃうかも……」
「では戻って来れるよう、行き先を案内する機械を持っていこう」

 そうは言ったが、ゾイスは信じていない様子に見える。

「行って帰って二時間。どうかな母さん」
「三時には戻ってこられるわね」
「じゃあ車を呼ぶよ」

 親子の間では話がポンポン進むのだが、三人はついていけていない。とりあえず村には帰れるようだということだけは分かった。
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