11 / 42
第11話 無神論者ゾイス
しおりを挟む
婦人が窓の外を窺いながら少年に言った。
「ゾイス、天気予報を調べてあげて」
「もう調べてある。明日までやまないよ」
「そう……」
それからこちらを振り向き。
「貴方たち三人はこれからどうするのかしら? 街に泊まっていくの?」
「いえ、帰るのに三時間かかるので、そろそろ帰ろうかと思っていました」
「三時間!? そんなにかかるのね……」
夫人が驚くと、ゾイスと呼ばれた少年が言う。
「帰るならハイヤーを呼んであげた方がいいんじゃないかな」
「そうしてあげて。遅くなったら親御さんが心配なさる」
「はい」
立ち上がって壁のパネルを弄り始めた少年を目で追いながら、ハリが質問する。
「ハイヤーって?」
「馬車なら分かる?」
「ああ、馬車のこと……」
それを聞いたマリア=エリー=レラが慌てて二人を止めた。
「あああ! ダメっ!! 森にオデッセフスの人たちを近づけたら怒られちゃう!!」
「あら……そうなの? でも、お家に帰るには、雨の中を行かないといけないわ。ジノヴィオス信仰の村には電話もないでしょうし、三時間もかかるなんて聞いたら、まだ明るいにしたって子供三人を雨の中に放り出すなんてできないわ」
三人が顔を見合わせ、渋々アズが言う。
「実は……今日この街に来てるのも、内緒なんです……」
「まあ……」
ゾイスは腕を組む。
「三時間かけ、戻るのに同じ時間かけるつもりということは、魔法で行き来はできないということだ。歩くにしてもオデッセフスの品物は身につけられない。傘もダメ、防水コートもダメ。車は森に近寄れない。電話もないが、そもそも内密に抜け出しているので伝言もできない……となると、とれる方法は一つ」
全員がゾイスを注視している。
「森の近くまで君たちを送った後、そこから徒歩」
「ダメよぉ、どの道傘がないと濡れちゃうわ。風邪をひいたら大変よ」
「あくまでも今のは三人行動の話。ここに僕が加われば、傘を持って森の中を進み、それを持って帰って車で戻って来れる。森をどのくらい歩くのかは知らないけれど、森の近くまで車で約三十分程度」
「車ってそんな早いの!?」
「雨での計算だから、晴れていたらもっと早い」
夫人はその案に承諾してくれそうな顔色であるが、アズは首を横に振る。
「と、とてもありがたい考えだけど、君はオデッセフスの人に変わりないから……」
「僕は無神論者だ」
無神論者って? という顔を三人がしていたので、ゾイスは砕いて説明してやる。
「僕は、神様を信じていない。伝わっているコズモロギアも信じていない」
説明されてもさっぱり理解できず、三人はポカンと大口を開けてゾイスを見ていた。
神様を信じていない人が、この世界にいたなんて!
アズは占星術師だ。しかもなりたての。ジノヴィオスの声を聞き、それを伝えるためにいる者にとって、彼の言うことはあまりにも馬鹿馬鹿しい話で、この少年は変わり者でおかしい人物だぞと身構えてしまった。
婦人がそこで間に入り、手をかざす。
「この話はこれ以上しちゃダメよ。ここから建設的な話に持っていくのは賛成」
「僕もそれに賛成だ。君たちは今の案をどう受け入れる?」
三人は混乱極まっていた。
マリア=エリー=レラはこう思っていた。
「三時間も雨に濡れながら歩いて帰るのは無理。肺炎にでもなったら大変」
ハリもそれに同意見で、付け加えてこう思っている。
「早く帰れるの最高だろ! でも森にこの街の奴を近づかせるのはやばいよなあ……」
アズも二人に同意見で、更にこう思っていた。
「何かこの子おかしなこと言ってるしなあ……。でもオデッセフス信仰じゃないって言ってるから、森には近寄っていいのかな……?」
悩みに悩み、それでも村に帰らないといけない三人は妥協した。
マリア=エリー=レラが答えた。
「森の入り口から村は……歩いて三十分かからないくらい。荷台や馬が行き来してるから道は作ってあるけど、村の人じゃないとどうなるか分からないの……」
チラリとアズに視線を送る。
「村の人じゃないから、妖精に拐かされたら……迷っちゃうかも……」
「では戻って来れるよう、行き先を案内する機械を持っていこう」
そうは言ったが、ゾイスは信じていない様子に見える。
「行って帰って二時間。どうかな母さん」
「三時には戻ってこられるわね」
「じゃあ車を呼ぶよ」
親子の間では話がポンポン進むのだが、三人はついていけていない。とりあえず村には帰れるようだということだけは分かった。
「ゾイス、天気予報を調べてあげて」
「もう調べてある。明日までやまないよ」
「そう……」
それからこちらを振り向き。
「貴方たち三人はこれからどうするのかしら? 街に泊まっていくの?」
「いえ、帰るのに三時間かかるので、そろそろ帰ろうかと思っていました」
「三時間!? そんなにかかるのね……」
夫人が驚くと、ゾイスと呼ばれた少年が言う。
「帰るならハイヤーを呼んであげた方がいいんじゃないかな」
「そうしてあげて。遅くなったら親御さんが心配なさる」
「はい」
立ち上がって壁のパネルを弄り始めた少年を目で追いながら、ハリが質問する。
「ハイヤーって?」
「馬車なら分かる?」
「ああ、馬車のこと……」
それを聞いたマリア=エリー=レラが慌てて二人を止めた。
「あああ! ダメっ!! 森にオデッセフスの人たちを近づけたら怒られちゃう!!」
「あら……そうなの? でも、お家に帰るには、雨の中を行かないといけないわ。ジノヴィオス信仰の村には電話もないでしょうし、三時間もかかるなんて聞いたら、まだ明るいにしたって子供三人を雨の中に放り出すなんてできないわ」
三人が顔を見合わせ、渋々アズが言う。
「実は……今日この街に来てるのも、内緒なんです……」
「まあ……」
ゾイスは腕を組む。
「三時間かけ、戻るのに同じ時間かけるつもりということは、魔法で行き来はできないということだ。歩くにしてもオデッセフスの品物は身につけられない。傘もダメ、防水コートもダメ。車は森に近寄れない。電話もないが、そもそも内密に抜け出しているので伝言もできない……となると、とれる方法は一つ」
全員がゾイスを注視している。
「森の近くまで君たちを送った後、そこから徒歩」
「ダメよぉ、どの道傘がないと濡れちゃうわ。風邪をひいたら大変よ」
「あくまでも今のは三人行動の話。ここに僕が加われば、傘を持って森の中を進み、それを持って帰って車で戻って来れる。森をどのくらい歩くのかは知らないけれど、森の近くまで車で約三十分程度」
「車ってそんな早いの!?」
「雨での計算だから、晴れていたらもっと早い」
夫人はその案に承諾してくれそうな顔色であるが、アズは首を横に振る。
「と、とてもありがたい考えだけど、君はオデッセフスの人に変わりないから……」
「僕は無神論者だ」
無神論者って? という顔を三人がしていたので、ゾイスは砕いて説明してやる。
「僕は、神様を信じていない。伝わっているコズモロギアも信じていない」
説明されてもさっぱり理解できず、三人はポカンと大口を開けてゾイスを見ていた。
神様を信じていない人が、この世界にいたなんて!
アズは占星術師だ。しかもなりたての。ジノヴィオスの声を聞き、それを伝えるためにいる者にとって、彼の言うことはあまりにも馬鹿馬鹿しい話で、この少年は変わり者でおかしい人物だぞと身構えてしまった。
婦人がそこで間に入り、手をかざす。
「この話はこれ以上しちゃダメよ。ここから建設的な話に持っていくのは賛成」
「僕もそれに賛成だ。君たちは今の案をどう受け入れる?」
三人は混乱極まっていた。
マリア=エリー=レラはこう思っていた。
「三時間も雨に濡れながら歩いて帰るのは無理。肺炎にでもなったら大変」
ハリもそれに同意見で、付け加えてこう思っている。
「早く帰れるの最高だろ! でも森にこの街の奴を近づかせるのはやばいよなあ……」
アズも二人に同意見で、更にこう思っていた。
「何かこの子おかしなこと言ってるしなあ……。でもオデッセフス信仰じゃないって言ってるから、森には近寄っていいのかな……?」
悩みに悩み、それでも村に帰らないといけない三人は妥協した。
マリア=エリー=レラが答えた。
「森の入り口から村は……歩いて三十分かからないくらい。荷台や馬が行き来してるから道は作ってあるけど、村の人じゃないとどうなるか分からないの……」
チラリとアズに視線を送る。
「村の人じゃないから、妖精に拐かされたら……迷っちゃうかも……」
「では戻って来れるよう、行き先を案内する機械を持っていこう」
そうは言ったが、ゾイスは信じていない様子に見える。
「行って帰って二時間。どうかな母さん」
「三時には戻ってこられるわね」
「じゃあ車を呼ぶよ」
親子の間では話がポンポン進むのだが、三人はついていけていない。とりあえず村には帰れるようだということだけは分かった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。
老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜
二階堂吉乃
ファンタジー
瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。
白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。
後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。
人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる