【占星術師の宇宙論】

荒雲ニンザ

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第7話 父の威厳トークと世の中の影響について

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 アズが家に戻ると、居間でゆっくりしていた父親のアカターリリがパンツ一丁で出迎えた。

「おかえりん」
「そんなカッコでウロウロしないでほしいんだけど……」
「シャワー浴びた後なんだよー」

 イマイチ理由になっていない。

 母はキッチンのようだ。祖父はおそらくこの時間帯ならば庭で猫の群れと遊んでいるとみた。

「おばあちゃんは?」
「まだ回復してないねえ。相当ショックだったんだろう」

 その言葉でアズが俯くと、アカターリリは脂肪の乗った自分のお腹をポンと叩く。

「ちゃんと持ってるか? アレ」
「……アストロラーベのこと?」
「うん」
「持ってるよ……私のだもの」

 アカターリリは一度複雑そうな表情を見せたが、居間の椅子を引くとそれに腰掛けた。

「アズ、父さんは占星術の家系に生まれたが、占いは全然向いてなかった」
「知ってる」
「その代わり、土の中に潜る魔法は得意だ。宝石や水脈、珍しい鉱石なんか見つけるにはもってこいだろ?」
「いい仕事だね」
「子供の頃はヤンチャだったから、どこまでマントルに近づけるかーなんて言って、潜りまくってたな」
「それ、火傷して大変だったっておばあちゃん呆れてたよ……」

 ははは、なんて暢気に笑っているが、結構むちゃする親父だなと思う。

「だから、ばあちゃんほどじゃない。お前がそれを持ってても、いいと思ってる」

 コポコポと水の流れる音が部屋に響き、そちらに視線が流れると、アカターリリがテーブルの上に置いてあった水差しからコップに水を入れている姿が映った。

「何かうまくいかないことがあっても、ジノヴィオス様は助けて下さるよ。父さんはそうやって母さんと巡り会えたからね」

 そうしてアズが生まれ、占星術師の家系は続いていった。あながちこれは偶然ではないのかもしれないと、父は言いたいのだろう。

 時代と時代の境目に生まれると、何かと大変なのだ。良いとか悪いとかの判断で終わらせることはできない。

「父さん……」
「ん?」
「パンツ一丁でそんなこと言われても、スッと入ってこないんだけど……」
「やっぱこういう話する時は洋服着てないとダメだな!」

 そうじゃなくてもちゃんと着ろとは思ったが、父親の助言はありがたく受け取っておこうとアズは思った。


 翌朝。
 いつものように街の清掃をしてくれているドロテアおばさんに挨拶をしてから学屋に行くと、マリア=エリー=レラが机に伏している姿が飛び込んできた。

「どうしたのマリア=エリー=レラ」
「アタシはもう終わり……終わったのよ……」

 彼女はたまにこうやって不安定になる。女の子らしいと言えば女の子らしい、定期でやってくる恒例行事みたいなものだ。

「終わったって何が?」
「アタシのお気に入りの香水、あれの原料がもうとれないんだって……」
「へえ……」

 話がそこで途切れる。

「ちょっと! アズ! もっと関心持ってもいいんじゃない!?」
「えっ!? あ、ご、ごめん」
「やっぱアンタ男なんじゃないの!? こういう話に疎すぎる!!」
「そんな……! そんなことないよ! ハリだって香水つけてるじゃないか!」
「ハリのあの匂いはドレッドにつけてるワックスよ!」
「オレが何だって?」

 そこでハリがやってきた。今日も見事にドレッドヘアがキマっている。

「ああ、おはよう。いやさ、マリア=エリー=レラの使ってる香水の原料がとれなくなっちゃったらしいって話をしてて……」
「へー。そりゃ残念だったな」

 話が止まる。

「アンタも!! もっと関心寄せなさいよ!!」
「何!? 何だよ!?」
「うわん!! こんなとこでも地動説の影響が出てるっていうのにーっ!!」
「え!? どうしてそこに繋がった?」

 アズとハリが驚いたので、マリア=エリー=レラは説明してやる。

「アタシが使ってる香水って、アタシのためにパパが特注で作らせてるものなのよ。その原料に鹿の臭い袋から出る体液が入ってるんだけど、餌不足で鹿が分泌できなくなってしまったらしいの……」
「餌は魔法の植物ってこと?」
「そう! その草を食べないと、その匂いの体液が分泌されないの。でもその草がどこにも生えてないのよーっ!」
「生態系にも影響が出てきてるのか……」

 授業で学師が言っていた。天道説と地動説、これを定めることにより、生きとし生けるもの全ての暮らしが変わると。
 そこでハリが言った。

「つかマリア=エリー=レラ……お前、鹿の尻から出てる匂い身体につけてんの!?」
「はあ!? もう一回言ってごらんなさい!?」

 それはそうとして、アズも今までモヤモヤしていたことを口にする。

「マリア=エリー=レラはインビジブルの魔法が使えるのに、香水つけてたら意味ないよね……」
「姿が見えなくなっても、アタシの存在は消せないってことよ」
「意味ねぇー」

 子供同士の雑談は置いておき、やはり地動説をどうにかしないと、大事なものがどんどん失われていってしまう。その焦燥感は若者たちの心の中で日に日に大きくなっていくのであった。
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