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第1話 こちら天動説
しおりを挟む女神ジノヴィオスを信仰する者たちが、五回目の誕生日で学ぶこと。
「世の中には、女の子と男の子がいまーす」
ここで、大体どちらかの性別が決まる。
自分で選択するのだが、このあたりの年齢ですでに意識的に定まっているので、すんなり決まることの方が多い。
それをベースに、成長過程で身体の作りが変化していく。
女性は丸みを帯び、男性は筋肉がつき始める。
この年、五歳になった村の子供は三人いて、元気ハツラツなハリは男児に、金持ち一家のマリア=エリー=レラは女児に定まった。
ただ稀に、自分がどちらか分からないといった子供もいるにはいる。そういう場合の性別は保留され、定まる時点まで身体の発育は中間を維持しながら育ってゆく。
アズという名の子供はまだ性別の自覚が芽生えていない様子で、定着を見送った。
七回目の誕生日になると、衝撃的な事実を知らされる。
「みんなの住んでるこの世界、実は天動説だけではありませーん」
今までずっと空がぐるぐる回っているのだと思っていた子供たちは、この日を境に恐怖で震えるようになる。
茶髪でゆるふわショートの穏やかなアズは、天を見て星を読む占星術師の家庭で育ったので、それが理解できずに混乱を極めた。
「じめんが、まわるって、どうゆうこと?」
学師は容赦なく子供達に現実を叩き込んでいく。
「天動説を司る女神ジノヴィオス様の他に、もう一人神様がいまーす」
それを聞いた豪華なプラチナブロンドのマリア=エリー=レラが、ブルブルと震えながら学師に詰め寄る。
「どういうこと! じのびおすさまが、いちばんの、はずよ!」
「一番か二番はどうでもいいのよー」
褐色肌でドレッドヘアのハリが飛び跳ねてきた。
「もうひとりのかみさまは、どいつ?」
些か敬意が足りないが、そこはまあ七歳児。
「地道説を司るのは、男神オデッセフス様。このクレプシドラの世界で、バブローニャーの大陸をぐるんぐるん回してらっしゃるそうよ」
アズはやはり納得ができない。
「うそ! そんなのうそ! わたしたち、ほうりだされてしまうもん!」
「だよなあ?」
「イヤよ、おとこのかみさまだなんて。スマートじゃないわ」
ハリもマリア=エリー=レラも地動説には懐疑的であった。
十回目の誕生日が来ると、結構シビアな事実が教えられる。
「世界はコズモロギアという法則で成り立っていまーす」
ざっと説明すると、天道説か地動説か、その星に住んでいる者たちに決めさせようという法則である。
「え、どっちでもいいの?」
「そうよ。私たちが生まれてから自分で性別を決めたように、神様も私たちに自分の住む世界に選択肢を与えて下さっているの」
質問したハリは納得したようだが、マリア=エリー=レラは首を傾げる。
「今はどっちなのですか?」
「今は比較的、地動説ねえ……」
天道説と地動説、これを定めることにより、生きとし生けるもの全ての暮らしが変わる。
天道説を司る女神ジノヴィオスを信仰する者たちには、自然と魔法の恩恵が与えられる。
地動説を司る男神オデッセフスを信仰する者たちには、頭脳と科学の恩恵が与えられる。
地動説を信じるようになれば世の中は科学で満たされ、天道説によってもたらされる恩恵の魔法がなくなってしまう。
そこでもやはりアズは納得できない。
「魔法の方が便利なのに!」
ハリとマリア=エリー=レラが混じり込む。
「でも科学だと、スチームだけでなんでもできちゃうんだぜ?」
「何よハリ、アンタ飛び跳ねられなくなってもいいっていうの?」
「いや困る! オレ飛躍しか脳がねぇし!」
「ほらご覧なさい」
やはり彼らは天道説を支持していた。
まだ子供である。
魔法が使えた方が楽しいのだろう。
だが十代半ばになってくると、段々世の中の理不尽に遭遇する機会が多くなる。
十四回目の誕生日。
このあたりで、世の中に差別があることを知るようになる。
天道説がマイナー信仰だと分かり、大半の人類は地動説を信じているのだと気がつく年頃。
そしてそれは賢いオデッセフス教徒を驕り高ぶらせ、魔法を使うジノヴィオス教徒を『劣ったバブロニアン』……『エクフィリズモス』と呼ぶようになり、分断を余儀なくされる。
アズは余計地動説が嫌になり、そしてまたハリもマリア=エリー=レラも同じ気持ちが芽生えてゆく。
「何が『進化系』よ。お高く止まっちゃって、バッカみたい。自分たちがエクセリクシだと言うなら、それ相応の素行をしたらどうなのよ」
マリア=エリー=レラは小さな頃から性格がきついが、こういうスパッと竹を割ったような部分が好かれていたりする。
こうして子供達は世界の成り立ちを学んでいくうち、物事は二つの選択肢で運命が決まるのを知ってゆく。
天と地、昼と夜、白と黒。
その裏表どちらか片方だけの選択肢を選びながら生きていくのだ。
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