上 下
73 / 73

第73話 ファンファーレ

しおりを挟む
 吹雪の中を本部まで歩いて戻り、到着するなり泥のように眠りについた一同たち。
 翌日になり、空腹で目が覚めた時はすでに昼過ぎで、のこのこ起き上がると食べ物を探してテントを外に出た。
 すでに吹雪は収まっており、騎士団の支援に動き回っているイライジャがこちらに気がついて声をかけてきた。

「身体は大丈夫ですか?」
「ああ……。若いってすげぇな」

 イーサンはテーブル前の椅子に腰掛け、ピッチャーから直接口に水を流し込む。喉音を立てつつ飲み込んだ後、深いため息をついてからイライジャに言った。

「おぇ元気だな。まさかあんなことがあったのに、朝から動き回ってんじゃねぇだろな?」
「私の仕事は奉仕活動ですので」

 見違えて生き生きしているイライジャに、イーサンは呆れてため息をついた。

「おはようー」

 アメリアがルーカスと共に現れる。

「もうお昼過ぎてますよアメリア。身体の調子はどうですか?」
「元気だよお。ルーカスが心配してうるさいくらい」
「な、何だよー。昨日あやうく死に損なったんだから、そりゃ心配もするよ」
「死んだんだけどな」

 賑やかになってきたところで、エイヴァがテントの外に出てきた。

「みなさんお目覚めのようですね。あ、ミアはまだ寝てるのかな?」
「魔法使う奴は良く寝るからな。それよかエイヴァ、何か食う物ねぇか。こっちの補給部隊が到着するには、まだ時間がかかんだよ」
「はい。今持ってきて頂きますね」
「すみません、そちらも大所帯なのに」
「いえ、みなさんのおかげでもう任務は完了しているので、我々も国に帰りますから」

 エイヴァが部下に食事を手配しているのを眺めつつ、イーサンが問う。

「こっちの補給部隊が到着したら、合流して戻んのか?」
「はい。下手にいじるとまたドラゴンの怒りを受けてしまいますし、そうなると調べることもできませんから。もうここに長居する理由はなくなりますので」

 ルーカスがアメリアと共に椅子に座る。

「残党狩りってどうするの? やるの?」
「ええ。魔族とは共存できない間柄ですから。しばらくはそちらの方に騎士団は駆り出され、隠密行動が続くかと思います」

 アメリアは神妙な様子だ。

「やっぱり隠密のままなの? こっちに来るまで色々旅して回ったけど、市民から不平出てたし、何かとやりにくそうだよ?」
「どの道騎士団だけでは収められないので、他種族に助けを求めるつもりです」

 イーサンが眉間に皺を寄せる。

「あのダメ王がそんなことできんのかね?」
「やって頂かなくては困ります。幸い四男であらせられる兄上様がご存命なので、そちらから切り崩せないか画策することにしました。我々は王を甘やかして国を滅ぼしかけたのです……もう同じ轍を踏むのは御免です」
「おや、エイヴァ様、大胆な秘策だ」

 イライジャが少々驚いた様子で軽口を言ったので、エイヴァは照れ臭そうに笑って返す。

「兄上様はお身体が弱いので政はできませんが、弟を叱るくらいのことはできましょう。どの道種族間の主だったやり取りは騎士団が行うつもりです」
「うん、ならば問題はなさそうですね。騎士団にはよい騎士がたくさんいる」
「本当ならば、イライジャに城に来て頂き、この先も助言頂きたいと思っていました」
「エイヴァ……それは……」
「大丈夫。そうだったら楽なんだけどなあ~というだけで、本当に誘ったりはしませんよ。あのミサンガに助けられては、皆様の神父様を城に閉じ込めることなんてできませんから」

 そこでミアが起きてきた。

「いい香り」
「いじきたねぇな、飯の匂いで目ェ覚めたのかよ」
「デリカシー! 女の子は用意が大変なの」

 横でアメリアが、若いミアを見てよろこんでいる。

「ミア可愛い!」
「んまっ! ありがとうアメリア。アナタは特別美しくてよ! まるで朝日を受けて輝くオンシジウムのよう!」
「えへへ」

 ルーカスがアメリアに耳打ちする。

「オンシジウムって?」
「分かんない」

 ちなみに、オンシジウムは南国の黄色い花だ。
 テーブルに乗せられた質素な食事に手を伸ばしながらイーサンが言う。

「討伐も手伝ってやっから、音信不通になんなよ?」

 それを聞いたエイヴァが苦笑いしているので、ミアが強引に彼女の腕を取って自分に引き寄せた。

「よろしくて?」
「はい。もう、1人で長生きするのはやめます。同じ時間を生きてくれる友を悲しませたくないですから」
「よろしい」

 ミアの嬉しそうな弾む声を聞き、イーサンが呟く。

「これでようやく、100年前の正史に戻ったわけだ」
「あら、おとぎ話はあのまま? 新訳として新しい時代のお話も付け加えればいいのに」

 アメリアが大きな肉に手を伸ばす。それをイーサンがフォークで引っ張った。

「ダーメ! シュレーディンガーの戦いはあのままがいいの! 蓋を開けるまでどちらが勝ったか分からない。そんなお話が最高に面白いんだから!」

 競り勝ったアメリアは大きな口を開け、茶色に照り輝く肉の塊にかぶりついた。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

異世界でスローライフを満喫

美鈴
ファンタジー
タイトル通り異世界に行った主人公が異世界でスローライフを満喫…。出来たらいいなというお話です! ※カクヨム様にも投稿しております ※イラストはAIアートイラストを使用

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!

夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ) 安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると めちゃめちゃ強かった! 気軽に読めるので、暇つぶしに是非! 涙あり、笑いあり シリアスなおとぼけ冒険譚! 異世界ラブ冒険ファンタジー!

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

みんなで転生〜チートな従魔と普通の私でほのぼの異世界生活〜

ノデミチ
ファンタジー
西門 愛衣楽、19歳。花の短大生。 年明けの誕生日も近いのに、未だ就活中。 そんな彼女の癒しは3匹のペット達。 シベリアンハスキーのコロ。 カナリアのカナ。 キバラガメのキィ。 犬と小鳥は、元は父のペットだったけど、母が出て行ってから父は変わってしまった…。 ペットの世話もせず、それどころか働く意欲も失い酒に溺れて…。 挙句に無理心中しようとして家に火を付けて焼け死んで。 アイラもペット達も焼け死んでしまう。 それを不憫に思った異世界の神が、自らの世界へ招き入れる。せっかくだからとペット達も一緒に。 何故かペット達がチートな力を持って…。 アイラは只の幼女になって…。 そんな彼女達のほのぼの異世界生活。 テイマー物 第3弾。 カクヨムでも公開中。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

【R18】童貞のまま転生し悪魔になったけど、エロ女騎士を救ったら筆下ろしを手伝ってくれる契約をしてくれた。

飼猫タマ
ファンタジー
訳あって、冒険者をしている没落騎士の娘、アナ·アナシア。 ダンジョン探索中、フロアーボスの付き人悪魔Bに捕まり、恥辱を受けていた。 そんな折、そのダンジョンのフロアーボスである、残虐で鬼畜だと巷で噂の悪魔Aが復活してしまい、アナ·アナシアは死を覚悟する。 しかし、その悪魔は違う意味で悪魔らしくなかった。 自分の前世は人間だったと言い張り、自分は童貞で、SEXさせてくれたらアナ·アナシアを殺さないと言う。 アナ·アナシアは殺さない為に、童貞チェリーボーイの悪魔Aの筆下ろしをする契約をしたのだった!

処理中です...