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第71話 器の深さ
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軽業のようなルーカスの演武は、デプスランドのお気に召さない様子。逆に言えば効果的であり、苛々を募らせている敵は意識を集中できずに攻撃の手を止める時がある。煩わしいルーカスを払い除けようと暴れる足元で、アメリアがそれをかわしながらただ一点を狙ってひたすら拳を繰り出していた。
イライジャはといえば、先ほどからずっと吹雪で身体をこわばらせながら、皆が戦える温度を保つべく魔法陣の中で結界を維持していた。しかし広範囲の防護壁と重ねての結界術は消費が激しい。まして寒さで体力が削られ、彼にかかる負荷は次第に増していった。
その時だ。強力な引き寄せが彼らを後方に押し倒す。イライジャは慌てて魔法陣の中に身を転がした。
「な……!?」
視界に飛び込む光景は、3人の勇者が揃ってオーバードーズをしている姿。イライジャは心の中で悲鳴をあげ、声にならない叫びをあげた。アメリアもルーカスも引き寄せに身体をこわばらせ、攻撃の手を止めている。
デプスランドは伏せていた身を起こし、竜の咆哮を放った。
「我の力を奪おうだ……? お前たちが3人かかろうが、吸い出せまい」
「うぐ……! くそっ!!」
「何て重さ……!!」
「大きすぎる……!!」
魔物は引き寄せに抗い、不気味な笑い声を響かせた。
「……器が小さすぎるのだ。お前たちランダマンは循環に長けてはいるが、寿命が短すぎる。長きを生きたドラゴンと魔族の魂を受け入れるには、元の大きさが足りぬのだ」
ルーカスが引き寄せの力に目を回し、その場に膝をつく。
「マ……マズイよ!! やめさせないと!!」
「遅いわ!!」
叫ぶやデプスランドはオーバードーズを反転し、自ら解除を唱えることなくイーサンたちのビオコントラクトを吸い出し始めた。
「やめて!!」
アメリアの悲鳴が耳についたが、すでに解除魔法を支配されようとしている3人にはどうすることもできない。3人だけにとどまらず、ルーカスもアメリアもデプスランドの間合いに近すぎて余波を受けていた。
イライジャは魔法陣を解くと、クルーゲレーレでデプスランドを指し示してスペルを口にした。
「Unlock-overdose」
引かれていた感覚が突然放され、アメリアとルーカスはその場に腰を抜かす。イライジャを振り返れば、引き寄せの負荷に抗いながら、ビオコントラクトのバランスをこちらに向けて偏らせているではないか。アメリアは戸惑いながらイーサンたちに振り返り、3人が持ち直している姿を目に入れる。
デプスランドが悶えながら咆哮を放つ。
「くっ……エルフか!! おのれ……!!」
その赤黒い指に閃光が集まり始め、イライジャを狙って手を広げようと震えていた。
イーサンが必死に声を張り上げようとしている。
「アメ……リ、ア……!!」
届かぬ小さな叫びは彼の唇だけを動かし、アメリアはそれを心の声で受け止めた。彼女は大地を蹴って飛び起きるとルイネゲゼツを構え、幾度と打ち込んだ一点を見据える。
「はあああああ!!」
気合いを捻り込むように拳を捻り、かつてコンパクトに打てと言っていたイーサンの助言を無視して、その一点目がけて力任せに振り抜いた。
エルドヴェリエンで作られたエッジが鱗の一枚を跳ね上げるようにして裂き、割れた破片がアメリアの頬を撫でて過ぎる。
重心を崩したデプスランドは引き寄せに前のめりとなったが、ドラゴンの匍匐でそれに抗った。
「これを回避できたとて、貴様らに永劫の命があるわけでもなし……大人しく我に飲み込まれ、悠久の時に組み込まれればよいものを!!」
魔物の尾がアメリアを払い、振り抜いたことで避けるタイミングを作れなかった彼女はそれを食らって雪の上へ投げ出される。
「アメリア!!」
ルーカスの叫ぶ声はデプスランドの咆哮でかき消され、追い討ちをかけようとする影が大地に映されるのを目で追った。ルーカスは咄嗟に体勢をかがめ、横を通り過ぎて行こうとしているデプスランドの『穴』を追いかけて飛躍する。
「止まれ……!!」
ハイレゲンアーシャランツェンが裂けた鱗の一箇所に吸い込まれるように矛先を立てると、デプスランドは足を絡ませてその場に崩れ落ちた。
「ぐあっ!?」
その瞬間、引き寄せの吸引力が軽くなり、4人はオーバードーズする力を加速する。吸われ出てくるドラゴンのビオコントラクトを綱引きのように双方が引き合い、デプスランドが唸りながら4本の角を帯電し始めた。
「ぐおおお……爆散させ、雪に散ったビオコントラクトを奪いとってくれるわ……!!」
「させるかよ!!」
咄嗟にイーサンが大地に刺したモンスタアングライファーを引き抜いて駆け出し、デプスランド目掛けて剣を振るう。回転する力で威力を上げ、渾身の力でドラゴンの角の1本を斬り落とした。
「ぐああああ!!」
突然流れを止められた雷撃はデプスランドの頭上を駆け巡り、折れた角から脳天に直撃を喰らわせると魔王の意識を朦朧とさせる。
「やった!!」
この隙にルーカスはアメリアの元に滑り込み、血に濡れる彼女の手を取った。
「しっかり……アメリア!!」
この手が冷たいのは吹雪のせいだと幾度も否定するが、彼女は動かず、胸を上下させる呼吸も見えない。それがどういうことかを悟ったルーカスの世界は凍りつき、彼の時間を止めてしまった。
イライジャはといえば、先ほどからずっと吹雪で身体をこわばらせながら、皆が戦える温度を保つべく魔法陣の中で結界を維持していた。しかし広範囲の防護壁と重ねての結界術は消費が激しい。まして寒さで体力が削られ、彼にかかる負荷は次第に増していった。
その時だ。強力な引き寄せが彼らを後方に押し倒す。イライジャは慌てて魔法陣の中に身を転がした。
「な……!?」
視界に飛び込む光景は、3人の勇者が揃ってオーバードーズをしている姿。イライジャは心の中で悲鳴をあげ、声にならない叫びをあげた。アメリアもルーカスも引き寄せに身体をこわばらせ、攻撃の手を止めている。
デプスランドは伏せていた身を起こし、竜の咆哮を放った。
「我の力を奪おうだ……? お前たちが3人かかろうが、吸い出せまい」
「うぐ……! くそっ!!」
「何て重さ……!!」
「大きすぎる……!!」
魔物は引き寄せに抗い、不気味な笑い声を響かせた。
「……器が小さすぎるのだ。お前たちランダマンは循環に長けてはいるが、寿命が短すぎる。長きを生きたドラゴンと魔族の魂を受け入れるには、元の大きさが足りぬのだ」
ルーカスが引き寄せの力に目を回し、その場に膝をつく。
「マ……マズイよ!! やめさせないと!!」
「遅いわ!!」
叫ぶやデプスランドはオーバードーズを反転し、自ら解除を唱えることなくイーサンたちのビオコントラクトを吸い出し始めた。
「やめて!!」
アメリアの悲鳴が耳についたが、すでに解除魔法を支配されようとしている3人にはどうすることもできない。3人だけにとどまらず、ルーカスもアメリアもデプスランドの間合いに近すぎて余波を受けていた。
イライジャは魔法陣を解くと、クルーゲレーレでデプスランドを指し示してスペルを口にした。
「Unlock-overdose」
引かれていた感覚が突然放され、アメリアとルーカスはその場に腰を抜かす。イライジャを振り返れば、引き寄せの負荷に抗いながら、ビオコントラクトのバランスをこちらに向けて偏らせているではないか。アメリアは戸惑いながらイーサンたちに振り返り、3人が持ち直している姿を目に入れる。
デプスランドが悶えながら咆哮を放つ。
「くっ……エルフか!! おのれ……!!」
その赤黒い指に閃光が集まり始め、イライジャを狙って手を広げようと震えていた。
イーサンが必死に声を張り上げようとしている。
「アメ……リ、ア……!!」
届かぬ小さな叫びは彼の唇だけを動かし、アメリアはそれを心の声で受け止めた。彼女は大地を蹴って飛び起きるとルイネゲゼツを構え、幾度と打ち込んだ一点を見据える。
「はあああああ!!」
気合いを捻り込むように拳を捻り、かつてコンパクトに打てと言っていたイーサンの助言を無視して、その一点目がけて力任せに振り抜いた。
エルドヴェリエンで作られたエッジが鱗の一枚を跳ね上げるようにして裂き、割れた破片がアメリアの頬を撫でて過ぎる。
重心を崩したデプスランドは引き寄せに前のめりとなったが、ドラゴンの匍匐でそれに抗った。
「これを回避できたとて、貴様らに永劫の命があるわけでもなし……大人しく我に飲み込まれ、悠久の時に組み込まれればよいものを!!」
魔物の尾がアメリアを払い、振り抜いたことで避けるタイミングを作れなかった彼女はそれを食らって雪の上へ投げ出される。
「アメリア!!」
ルーカスの叫ぶ声はデプスランドの咆哮でかき消され、追い討ちをかけようとする影が大地に映されるのを目で追った。ルーカスは咄嗟に体勢をかがめ、横を通り過ぎて行こうとしているデプスランドの『穴』を追いかけて飛躍する。
「止まれ……!!」
ハイレゲンアーシャランツェンが裂けた鱗の一箇所に吸い込まれるように矛先を立てると、デプスランドは足を絡ませてその場に崩れ落ちた。
「ぐあっ!?」
その瞬間、引き寄せの吸引力が軽くなり、4人はオーバードーズする力を加速する。吸われ出てくるドラゴンのビオコントラクトを綱引きのように双方が引き合い、デプスランドが唸りながら4本の角を帯電し始めた。
「ぐおおお……爆散させ、雪に散ったビオコントラクトを奪いとってくれるわ……!!」
「させるかよ!!」
咄嗟にイーサンが大地に刺したモンスタアングライファーを引き抜いて駆け出し、デプスランド目掛けて剣を振るう。回転する力で威力を上げ、渾身の力でドラゴンの角の1本を斬り落とした。
「ぐああああ!!」
突然流れを止められた雷撃はデプスランドの頭上を駆け巡り、折れた角から脳天に直撃を喰らわせると魔王の意識を朦朧とさせる。
「やった!!」
この隙にルーカスはアメリアの元に滑り込み、血に濡れる彼女の手を取った。
「しっかり……アメリア!!」
この手が冷たいのは吹雪のせいだと幾度も否定するが、彼女は動かず、胸を上下させる呼吸も見えない。それがどういうことかを悟ったルーカスの世界は凍りつき、彼の時間を止めてしまった。
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