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第66話 小賢しい魔物
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雪に埋もれた黒い森林を駆けながら、遠くで聞こえた雷鳴にイライジャは顔を上げた。
「これは……? この地方で雷雪が起こるはずはない」
「もうドンパチ初めてるってことだろ!」
イーサンの言葉にミアが唇を噛む。
「エイヴァ……どうか無事でいて」
深い雪で身体が思うように前にいかず、ルーカスは槍で進路方向の雪を蹴散らしながら進んでいる。
「溶かして進めないのぉ!?」
「だめよ、下手なことをすれば雪崩が起きてしまう!」
すると遠くから来た爆風に煽られ、一同は一斉にその場でよろめいた。
尻餅をついたアメリアが顔を上げる。
「何かすごいことになってない!?」
「音が聞こえる! 近いぞ!!」
各々に手を貸して立ち上がり、再び駆け足を始めると、ある騎士が上空に2体の魔物が競り合っているのを見つけて警告の声を発した。
「あれを見ろ!!」
その瞬間、森が切り開かれ、薙ぎ倒された木々が散乱している場所に彼らは飛び出す。
「これは一体……!」
燃えてはいない。爆風で倒れたのだ。その中心部に見えるのは、かつて勇者たちが倒した魔王。
「デプスラーンドッ!!」
イーサンが腹の底から仇敵の名を叫ぶと、魔王は静かにこちらへ顔を動かした。
「お前は……」
周辺には取り囲むように倒れた騎士たちが散乱しており、皆が老いているように見えた。
「全員をオーバードーズしたのか……!」
イライジャが絶句していると、ミアが指をさす。
「エイヴァよ!!」
その時上空から落雷が落ち、近くにあった木を真っ二つに切り裂いた。アメリアはルーカスを抱えて衝撃を転がり逃し、轟音に身を伏せてから顔を上げる。
「あれは……ヴェスパジアーノ!?」
「まさか……何でここに!?」
上空でマテオとやりあっていたヴェスパジアーノが、地表に湧いて現れた騎士と勇者を見つけて目を細める。
「こいつぁツイてるぜ……」
口元に笑みをつけ、援軍に駆けつけた人間たちを気にもしていない様子のマテオに向き直る。
「マテオ!! オレの勝ちだ!!」
そして自分から攻撃を仕掛け、巨大な腕を振り上げて距離を縮めた。
「遅いんだよ!!」
マテオはそれを避け、退くヴェスパジアーノを追って羽ばたいた。
ヴェスパジアーノが急降下してくるのに気づいたイーサンは仲間たちに叫ぶ。
「抜け!!」
その号令で一斉に武器を構える騎士団の群れに、魔物2体は弾丸のよう突っ込むと、突然ヴェスパジアーノが180度回転してマテオに振り返った。邪魔な人間どもを蹴散らしながら飛んでいたマテオは、目前でヴェスパジアーノがこちらを狙っていることに気がつき、慌てて翼を窄めたが時すでに遅し。ヴェスパジアーノの歪んだ口元が開いた時、アンロックスペルが放たれた。
「Dedicatemelo……あばよドン!!」
周囲に引き寄せが広がり、イーサンたちはその場で膝をつく。吸引激しくスペルがマテオのビオコントラクトを掴み、ずるずると老化が始まった。
「お、おのれ……ヴェスパジアーノ!! 小賢しいマネをぉお……!!」
イライジャがその光景に目を疑う。
「何故魔物が老化を……!?」
マテオが悔しさに顔を歪ませ、雄叫びを上げながら枯れていった後、ロックがかかって引き寄せが止まった。
騎士たちに囲まれ、剣の切先を向けられた中心でヴェスパジアーノは高らかに笑っている。
「ガハハハ!! ザマァねえなマテオ!! 人間を利用したのはオレの方だったってわけだ!!」
「ちょっとアンタ!!」
聞き覚えのある声に振り返れば、そこにアメリアとルーカスが立ちはだかっていた。
「お前……小娘、それにルーカス! こんな所で会うとは」
「覚えていてくれてありがと! でも忘れるくらい殴り飛ばしてあげるわよ!」
「ハッハ……ハッハッハハハハ!! こいつぁいい! マテオを吸い込んでどのくらい力が手に入ったか、お前で試してやる!」
「前と同じ感覚で侮ると、痛い目見ると思うけど?」
「言うようになったじゃねえかルーカス。口だけが達者になったって認めさせてから、年寄りにしてやんよ。絶望のまま短い人生終えやがれ、な?」
「僕はまだお年寄りになる気はないよ!」
言うや先制攻撃を繰り出す。仕込み槍がヴェスパジアーノの胸元に伸び、それを避けた風圧で近くにいた騎士たちがよろめいた。
ミアが咄嗟に距離を取る。
「みんな離れて!! まとまってると一気にオーバードーズで吸い込まれてしまう!」
イーサンがそのミアの手を引いた。
「ミア、エイヴァを助けてやんねぇと」
「分かってる。……ここはあの子たちに任せて平気だと思う?」
「さあな。やってもらうしかねぇな。もう取り返しがつかねぇとこまできてんだ、あいつらにも勇者になってもらわねぇと、どーにも終わりそうにねぇよ!」
イーサンが走り出し、ミアは息を呑む。
「アナタこそヘマしないでよ!!」
言い換えれば、『気をつけて』。
ミアはケルンクラフトを振って足元に魔法陣を浮かび上がらせ、魔力を膨れ上がらせるとイーサンの援護を開始する。
「デプスランド……そのクソジジイに手を出したら、アナタが滅びましてよ」
そしてイーサンに反射魔法を投げ渡し、身体に軽減を仕込んだ。
デプスランドは周囲で騒ぎがおきているというのに、身動き1つしていない。ただ視線だけを動かし、ちょこまかと飛び回る蠅を気にしている程度に見える。復活して間もないからか、動くこともできないのだろうか? そんな考えを巡らせながら、イーサンは倒れて伏せているエイヴァの元へ滑り込んだ。
「エイヴァ! オレだ! 目を開けろ!!」
加齢はされていない。衝撃をダイレクトに受けた脳震とうだろう。イーサンはデプスランドを警戒しながら、エイヴァを抱えて一度間合いの外へ退いた。
「これは……? この地方で雷雪が起こるはずはない」
「もうドンパチ初めてるってことだろ!」
イーサンの言葉にミアが唇を噛む。
「エイヴァ……どうか無事でいて」
深い雪で身体が思うように前にいかず、ルーカスは槍で進路方向の雪を蹴散らしながら進んでいる。
「溶かして進めないのぉ!?」
「だめよ、下手なことをすれば雪崩が起きてしまう!」
すると遠くから来た爆風に煽られ、一同は一斉にその場でよろめいた。
尻餅をついたアメリアが顔を上げる。
「何かすごいことになってない!?」
「音が聞こえる! 近いぞ!!」
各々に手を貸して立ち上がり、再び駆け足を始めると、ある騎士が上空に2体の魔物が競り合っているのを見つけて警告の声を発した。
「あれを見ろ!!」
その瞬間、森が切り開かれ、薙ぎ倒された木々が散乱している場所に彼らは飛び出す。
「これは一体……!」
燃えてはいない。爆風で倒れたのだ。その中心部に見えるのは、かつて勇者たちが倒した魔王。
「デプスラーンドッ!!」
イーサンが腹の底から仇敵の名を叫ぶと、魔王は静かにこちらへ顔を動かした。
「お前は……」
周辺には取り囲むように倒れた騎士たちが散乱しており、皆が老いているように見えた。
「全員をオーバードーズしたのか……!」
イライジャが絶句していると、ミアが指をさす。
「エイヴァよ!!」
その時上空から落雷が落ち、近くにあった木を真っ二つに切り裂いた。アメリアはルーカスを抱えて衝撃を転がり逃し、轟音に身を伏せてから顔を上げる。
「あれは……ヴェスパジアーノ!?」
「まさか……何でここに!?」
上空でマテオとやりあっていたヴェスパジアーノが、地表に湧いて現れた騎士と勇者を見つけて目を細める。
「こいつぁツイてるぜ……」
口元に笑みをつけ、援軍に駆けつけた人間たちを気にもしていない様子のマテオに向き直る。
「マテオ!! オレの勝ちだ!!」
そして自分から攻撃を仕掛け、巨大な腕を振り上げて距離を縮めた。
「遅いんだよ!!」
マテオはそれを避け、退くヴェスパジアーノを追って羽ばたいた。
ヴェスパジアーノが急降下してくるのに気づいたイーサンは仲間たちに叫ぶ。
「抜け!!」
その号令で一斉に武器を構える騎士団の群れに、魔物2体は弾丸のよう突っ込むと、突然ヴェスパジアーノが180度回転してマテオに振り返った。邪魔な人間どもを蹴散らしながら飛んでいたマテオは、目前でヴェスパジアーノがこちらを狙っていることに気がつき、慌てて翼を窄めたが時すでに遅し。ヴェスパジアーノの歪んだ口元が開いた時、アンロックスペルが放たれた。
「Dedicatemelo……あばよドン!!」
周囲に引き寄せが広がり、イーサンたちはその場で膝をつく。吸引激しくスペルがマテオのビオコントラクトを掴み、ずるずると老化が始まった。
「お、おのれ……ヴェスパジアーノ!! 小賢しいマネをぉお……!!」
イライジャがその光景に目を疑う。
「何故魔物が老化を……!?」
マテオが悔しさに顔を歪ませ、雄叫びを上げながら枯れていった後、ロックがかかって引き寄せが止まった。
騎士たちに囲まれ、剣の切先を向けられた中心でヴェスパジアーノは高らかに笑っている。
「ガハハハ!! ザマァねえなマテオ!! 人間を利用したのはオレの方だったってわけだ!!」
「ちょっとアンタ!!」
聞き覚えのある声に振り返れば、そこにアメリアとルーカスが立ちはだかっていた。
「お前……小娘、それにルーカス! こんな所で会うとは」
「覚えていてくれてありがと! でも忘れるくらい殴り飛ばしてあげるわよ!」
「ハッハ……ハッハッハハハハ!! こいつぁいい! マテオを吸い込んでどのくらい力が手に入ったか、お前で試してやる!」
「前と同じ感覚で侮ると、痛い目見ると思うけど?」
「言うようになったじゃねえかルーカス。口だけが達者になったって認めさせてから、年寄りにしてやんよ。絶望のまま短い人生終えやがれ、な?」
「僕はまだお年寄りになる気はないよ!」
言うや先制攻撃を繰り出す。仕込み槍がヴェスパジアーノの胸元に伸び、それを避けた風圧で近くにいた騎士たちがよろめいた。
ミアが咄嗟に距離を取る。
「みんな離れて!! まとまってると一気にオーバードーズで吸い込まれてしまう!」
イーサンがそのミアの手を引いた。
「ミア、エイヴァを助けてやんねぇと」
「分かってる。……ここはあの子たちに任せて平気だと思う?」
「さあな。やってもらうしかねぇな。もう取り返しがつかねぇとこまできてんだ、あいつらにも勇者になってもらわねぇと、どーにも終わりそうにねぇよ!」
イーサンが走り出し、ミアは息を呑む。
「アナタこそヘマしないでよ!!」
言い換えれば、『気をつけて』。
ミアはケルンクラフトを振って足元に魔法陣を浮かび上がらせ、魔力を膨れ上がらせるとイーサンの援護を開始する。
「デプスランド……そのクソジジイに手を出したら、アナタが滅びましてよ」
そしてイーサンに反射魔法を投げ渡し、身体に軽減を仕込んだ。
デプスランドは周囲で騒ぎがおきているというのに、身動き1つしていない。ただ視線だけを動かし、ちょこまかと飛び回る蠅を気にしている程度に見える。復活して間もないからか、動くこともできないのだろうか? そんな考えを巡らせながら、イーサンは倒れて伏せているエイヴァの元へ滑り込んだ。
「エイヴァ! オレだ! 目を開けろ!!」
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