アンチエイジャー「この世界、人材不足にて!元勇者様、禁忌を破って若返るご様子」

荒雲ニンザ

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第61話 魔の使者

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 ここは険しい山脈が連なる土地。雪が積もり、灰色の岩山を白く覆い隠しているため、世界の色は乏しい。
 氷の中で生存できる生物は数少ないが、代わりに強靭な生命力を持った生物がテリトリー争いと無縁の生活を送っていた。

 この山脈の頂点はドラゴン。

 生態系の絶対的支配者は獰猛で高慢ちきではあったが、幸い人生の大半を静かに寝て過ごすため他の文明に興味はなく、山から降りてくることも干渉してくることもない。

 鋭い山脈を切り裂いたように流れる川は氷で覆われ、人々からこう呼ばれていた。
 クロウマークスワイバーン……竜の爪痕と。

 ここでは数ヶ月前から騎士団が入り込み、かつての対戦で討ち取られた魔王デプスランドの捜索にあたっていた。
 事切れたドラゴンの死骸を中心に本部が建てられ、大勢の騎士たちが出入りしている。死んだ竜は厳しい環境で氷に覆われていたが、内側から燃える自らの炎で少しずつ体内を焼き、鱗と骨はその熱を帯びていずれ燃え尽きてしまう。騎士団はその熱を利用してしばらくの間滞在を試みていた。

 竜はテリトリーの物が奪われるのを極端に嫌う。燃料を確保するのも一苦労で、外から持ち込んだ木材を燃やさねば料理もできない。
 思ったより捜索も難航していたある日、城からの使者が数名の騎士団をつれて訪れた。その騎士団の中には、かつての勇者の1人であるエイヴァがいる。
 捜索本部は急な来客に警戒したが、騎士団の総隊長であるエイヴァを見つけて取り敢えず彼らを室内に招き入れた。

 本部を任されているのは第二師団テオ。

「急なお越しですね。王は何と?」
「それについては、こちらの使者からお伝えするそうです」

 エイヴァがフードを外すと、雪がこぼれ落ちるのと同時にアッシュゴールドの三つ編みが一本、肩から背中に垂れる。随分と若く見えるが、これはオーバードーズのせいとも言い切れない。単純にエイヴァは背が低く童顔なのだ。
 使者は根深くフードを被ったまま彼らの後ろから静かに表れ、懐から王の伝令を取り上げる。そしてそれを深い声で読み始めた。

「……『令。世が送り込んだ使者に、隊を動かす権限を与える。この者の令により、デプスランド討伐を命じる……。国王ジェームズ・リアム・エリオット』」

 捜索本部をまとめていたテオが首を傾げるのは理解できるが、その令を聞いていたエイヴァも眉をひそめている。
 テオが身を乗り出して前の机を掌で叩いた。

「一体これはどういうことでしょう!? 見ず知らずの貴方に、我々を指揮する権限が与えられたと!?」

 エイヴァが彼を制し、口を開く。

「ご無礼お許し下さい。ですが、我々を含め、王からのご命令というだけでここまで何も聞かされずやってきた者の言い分もご理解頂きたいのです。これは一体、どういう話なのですか?」

 使者はエイヴァに意識を移す。静かにフードを持ち上げ、彼らの前に初めて姿を現した。

「これはこれは……。騎士団の方々には、王とは別の礼儀が必要のご様子……」

 そこにいた人物は、顎に鉄のマスクをつけ、人の姿に擬態したヴェスパジアーノであった。


 ゴーサホルツハマー城外。
 郊外にある騎士団の隠れ本部では、ここにいる全ての師団がオーバードーズを終えた形となり、騎士たちが静かにも熱く沸いていた。
 元とまではいかないが、自然に時と共に刻んだ年輪にほぼ戻り、装備共々体に馴染んで格段に戦力が上がった。
 アメリアとルーカスに日々冷やかされているイーサンも騎士たちの訓練に加わり、かつての感覚を取り戻そうと躍起になっていたある日。先日世話になった第3師団隊長のサムエレが訪れ、若くなったイーサンを目にして感動の言葉を口にする。

「おお……幼少の頃、憧れ抱いていた勇者イーサンのお姿をそのままこの目にできるとは……何という光栄……」

 それを聞いたアメリアとルーカスが小突きあって笑っているのをイーサンが横目で睨み、ばつが悪そうに聞いた。

「何か用か?」
「はっ。先日城内に入り込んだ際、イライジャ様からお預かりした品をお返しするために参上致しました」

 サムエレがイーサンの目の前に一振りの大剣を差し出す。

脅威への攻撃者モンスタアングライファー!! 城に戻したアーティファクトじゃねぇか! どうやってこれを……!?」
「さあ? 経緯までは存じ上げませんが、城から外に持ち出そうとしていらっしゃる様子でしたので、武器を所持していても疑われない自分がお預かりして本部まで持ち帰ってきた次第です。見れば大分傷んでいるようでしたので、騎士団専属の鍛冶屋で手を入れさせ、修繕が終わったのでお返ししようと……」
「でかしたああ!!」

 サムエレの肩に腕を回し、イーサンは大喜びである。まあ、サムエレも憧れの剣士に褒められて、戸惑いながらも嬉しそうではある。
 そのはしゃぎようを見てアメリアが問うた。

「アーティファクトって、イーサンたちが元々使ってた武器のことよね?」
「そうだ! オレの手に馴染みまくってるこの大剣! ああー! 会いたかったぜえー!」

 イーサンが演武しているのを見ながらルーカスも聞く。

「普通の剣とは違うんだ?」
「剣にアンロックスペルが刻まれてんだ。オーバードーズしながらたたっ斬れるから確実に数を減らしていける。隙がねえ」
「なるほど、じゃあビョルグの剣は僕がもらっていい?」
「おぇは自分の槍を作ってもらっただろうが。ビョルゴルグルの剣はご馳走を分ける時使えるだろ。便利だからダメ」
「勇者の台詞ぇ……」

 まあイーサンはこういう奴だ。
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