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第55話 時空魔法
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研究室を出ると、通路で見張りをしていたマレンがこちらを振り返った。
「どうでした」
「ここにはありませんでした」
そう答えたイライジャの横からミアが前に出る。
「宝物庫に移動したいの。ここから遠い?」
「先ほど巡回の兵士が通り過ぎたばかりです。今抜ければ誰にも会わず宝物庫に続く道に辿り着ける」
ミアがケヴィンを止めた。
「待って。鍵を取りにいかなくては。誰が持っているの?」
「管理者の衛兵です。宝物庫の番兵と共に扉を守っているはず」
イライジャがミアに尋ねた。
「どうやって鍵を取るつもりですか?」
「ちょっと拝借するのよ」
「ことを荒立てる方法は賛同できません。騎士団が王国と敵対するようなことになっては一大事になってしまう」
「分かってるわ。でも、誰が取ったか分からなければ問題ないでしょう?」
イライジャが首を傾げたのを見て、ミアはその手を引いた。
「いいから、わたくしに任せて。さあ、案内して頂戴」
その声に頷き、ケヴィンとマレンが廊下を先導しはじめた。
宝物庫が見える通路まで来ると、周囲を警戒してその角に身を隠す。
扉の前に番兵が2人、その奥にあるゲートの中に管理者が1人見えた。
「何事もなく取れなければ意味がないですよミア」
「5分が限界ってとこですわね」
マレンが問う。
「どうなさるおつもりで?」
「時空魔法を使います。魔法をかけた人物の時間の流れをほぼ止めた状態にして、鍵を奪って扉の中に入るまでを一気にこなして突破するの」
ケヴィンが目を見開く。
「そんなことができるのですか」
イライジャが頷いた。
「なるほど。相手には超高速で動いているように見えるため、それが誰だか分からないと」
「でも何回もかけられないの。初動でおおよそ3分、その後は耐性がついてしまうので2分、残り1回は1分ないくらい。その間に扉の向こうに行けないとアウトね」
「入る時はそれでいいとして、出る時はどうするのですか?」
「どうしよう」
「ミア……」
事前に聞いておいてよかったとイライジャは脱力する。
「しばらく時間が経てば時空耐性は取れるけど、夕日が沈む前に戻れるか分からなくなるわ……」
マレンが提案する。
「ならば、少し手荒な方法はどうでしょう」
「何かいい案があるなら言って」
「中にお二方が入り、我々はここで待機します。調べ終わった後、大きな物音を立てて下さい。それを合図に我々2人が『曲者が宝物庫に入った』と言って番兵たちの気を引きます。その後は我々がお二方の身柄を拘束し、鷲獅子の場所まで戻って脱出」
「ううむ……それだと宝物庫にニュートラルグレイターがない時、後の対処ができなくなってしまいます」
「でももう王宮にいられる時間が少なくてよ? 宝物庫が確認できれば次に探す場所を狭められるかもしれない」
「しかしそれでは警備がきつくなってしまい、次に侵入するチャンスを失ってしまう可能性が高い」
「イライジャ、次自体がなくなるかもしれないのよ。エイヴァたちがデプスランドを見つけてしまう前に何とかしないと」
そこでイライジャは目をつむり、大きく息を吸ってミアに頷いた。
「貴女の言う通りですミア。今最も警備が緩んでいる時に宝物庫を狙うのが得策です」
「オーケー、じゃあ行きますわよ」
ケヴィンとマレンが周囲を確認し、合図を出す。
「チャンスは一度だけ。5分でしてよ」
「分かりました」
イライジャが頷いたその瞬間、ミアは唇を動かして小さくスペルを唱えた。指先から空間が歪み、それは床と並行に線を引いて鋭く伸びると、番兵たちの前で弾け散る。
「走って」
ミアの声にイライジャは駆け出したが、彼らは老人で進みは遅い。ケヴィンとマレンは路地を警戒していなければならず動けないため、じりじりと緊張しながらそれを見守っていた。
ミアとイライジャは番兵2人の間を抜け、その奥にあるゲートを抜ける。そこでミアが2回目のスペルを唱え、その間にそこに立っている管理者の身体をイライジャが検査する。服の上から軽く確かめながら鍵を探し、広いレースでできた袖の内側から束になった鍵を取り出すと顔を歪めた。
「ぬかりないですね……!」
一本一本鍵穴に差し込み、確認していくしかない。
「急いでイライジャ」
慌てる手は鍵穴を幾度か外しもしたが、ミアが3度目のスペルを唱えた時にカチリと音を立てて合わさった。
あと数十秒。
2人は重い扉を手で押し開け、隙間から身体を滑らせて中に飛び込む。床に崩れるように入り込んだ後、ミアが足で扉を蹴って押しやった。
静かに扉が閉まった後、番兵が目を瞬く。
1人が背後を振り返ったが、目があったのは管理者のみ。少し首を傾げはしたものの、そのまま前を向いて任務に戻ってくれた。
「どうでした」
「ここにはありませんでした」
そう答えたイライジャの横からミアが前に出る。
「宝物庫に移動したいの。ここから遠い?」
「先ほど巡回の兵士が通り過ぎたばかりです。今抜ければ誰にも会わず宝物庫に続く道に辿り着ける」
ミアがケヴィンを止めた。
「待って。鍵を取りにいかなくては。誰が持っているの?」
「管理者の衛兵です。宝物庫の番兵と共に扉を守っているはず」
イライジャがミアに尋ねた。
「どうやって鍵を取るつもりですか?」
「ちょっと拝借するのよ」
「ことを荒立てる方法は賛同できません。騎士団が王国と敵対するようなことになっては一大事になってしまう」
「分かってるわ。でも、誰が取ったか分からなければ問題ないでしょう?」
イライジャが首を傾げたのを見て、ミアはその手を引いた。
「いいから、わたくしに任せて。さあ、案内して頂戴」
その声に頷き、ケヴィンとマレンが廊下を先導しはじめた。
宝物庫が見える通路まで来ると、周囲を警戒してその角に身を隠す。
扉の前に番兵が2人、その奥にあるゲートの中に管理者が1人見えた。
「何事もなく取れなければ意味がないですよミア」
「5分が限界ってとこですわね」
マレンが問う。
「どうなさるおつもりで?」
「時空魔法を使います。魔法をかけた人物の時間の流れをほぼ止めた状態にして、鍵を奪って扉の中に入るまでを一気にこなして突破するの」
ケヴィンが目を見開く。
「そんなことができるのですか」
イライジャが頷いた。
「なるほど。相手には超高速で動いているように見えるため、それが誰だか分からないと」
「でも何回もかけられないの。初動でおおよそ3分、その後は耐性がついてしまうので2分、残り1回は1分ないくらい。その間に扉の向こうに行けないとアウトね」
「入る時はそれでいいとして、出る時はどうするのですか?」
「どうしよう」
「ミア……」
事前に聞いておいてよかったとイライジャは脱力する。
「しばらく時間が経てば時空耐性は取れるけど、夕日が沈む前に戻れるか分からなくなるわ……」
マレンが提案する。
「ならば、少し手荒な方法はどうでしょう」
「何かいい案があるなら言って」
「中にお二方が入り、我々はここで待機します。調べ終わった後、大きな物音を立てて下さい。それを合図に我々2人が『曲者が宝物庫に入った』と言って番兵たちの気を引きます。その後は我々がお二方の身柄を拘束し、鷲獅子の場所まで戻って脱出」
「ううむ……それだと宝物庫にニュートラルグレイターがない時、後の対処ができなくなってしまいます」
「でももう王宮にいられる時間が少なくてよ? 宝物庫が確認できれば次に探す場所を狭められるかもしれない」
「しかしそれでは警備がきつくなってしまい、次に侵入するチャンスを失ってしまう可能性が高い」
「イライジャ、次自体がなくなるかもしれないのよ。エイヴァたちがデプスランドを見つけてしまう前に何とかしないと」
そこでイライジャは目をつむり、大きく息を吸ってミアに頷いた。
「貴女の言う通りですミア。今最も警備が緩んでいる時に宝物庫を狙うのが得策です」
「オーケー、じゃあ行きますわよ」
ケヴィンとマレンが周囲を確認し、合図を出す。
「チャンスは一度だけ。5分でしてよ」
「分かりました」
イライジャが頷いたその瞬間、ミアは唇を動かして小さくスペルを唱えた。指先から空間が歪み、それは床と並行に線を引いて鋭く伸びると、番兵たちの前で弾け散る。
「走って」
ミアの声にイライジャは駆け出したが、彼らは老人で進みは遅い。ケヴィンとマレンは路地を警戒していなければならず動けないため、じりじりと緊張しながらそれを見守っていた。
ミアとイライジャは番兵2人の間を抜け、その奥にあるゲートを抜ける。そこでミアが2回目のスペルを唱え、その間にそこに立っている管理者の身体をイライジャが検査する。服の上から軽く確かめながら鍵を探し、広いレースでできた袖の内側から束になった鍵を取り出すと顔を歪めた。
「ぬかりないですね……!」
一本一本鍵穴に差し込み、確認していくしかない。
「急いでイライジャ」
慌てる手は鍵穴を幾度か外しもしたが、ミアが3度目のスペルを唱えた時にカチリと音を立てて合わさった。
あと数十秒。
2人は重い扉を手で押し開け、隙間から身体を滑らせて中に飛び込む。床に崩れるように入り込んだ後、ミアが足で扉を蹴って押しやった。
静かに扉が閉まった後、番兵が目を瞬く。
1人が背後を振り返ったが、目があったのは管理者のみ。少し首を傾げはしたものの、そのまま前を向いて任務に戻ってくれた。
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