上 下
54 / 73

第54話 王宮内の記憶迷路

しおりを挟む
 ケヴィンとマレンが周囲を警戒し、先導してサマナーズルームへと下りて行く。

「我々は通路を見張っておきます。移動する際はお声かけ下さい」

 イライジャとミアは頷き、一度辺りを見回した。

「……ねえイライジャ、この辺り覚えてる?」
「何となくは。私はヒーラーなので、あまりニュートラルグレイターのあった場所に足を運んでいないのです。イーサンの方が適任者だったかと」
「かもしれないけど、あのトンチンカンじゃ魔術を扱えるようには見えなくてよ」
「です、ね……。とんちんかんとやらはさておき、状況が悪くてイーサンには頼めなかったのは確かです」

 サマナーズルームを見渡すが、中央に大きな魔法陣が1つ、その四隅に小ぶりの魔法陣が4つ書かれているだけで、めぼしい道具は置いていない。

「まあそうよね……召喚すれば必要なものは増えるのだから、最初から何か用意しておく必要のないのが召喚士だものね……」

 イライジャがケヴィンに声をかけた。

「この近くの部屋は他に何が?」
「書庫は別館に移動しましたから、召喚研究室と……鷲獅子の餌を置く倉庫、あとは……」

 マレンがそれに付け加える。

「食料庫が奥に」

 ミアが過去を思いだしている。

「1階中央に庭があったわよね……?」
「その周辺に書庫がありました」
「じゃあ、書庫だった場所に、研究室と倉庫、食料庫が入ったのかしらね?」
「行ってみましょう」

 サマナーホールを出るとすぐ、十字路から見回りの衛兵が声をかけてきた。

「そちらのお二方は?」

 ケヴィンとマレンは咄嗟のことで息を呑んだが、平然とした態度で答える。

「召喚研究の方々で、今到着されたところです」
「これから研究室にご案内しようかと」
「鷲獅子でこられたのですか?」
「ええ。その方が近いですから」

 ケヴィンとマレンは騎士団であり、その師団の隊長だ。見回りの衛兵は今一腑に落ちない様子だったが、信用ある騎士団を前に今一歩踏み出せず、壁際に避けて彼らに道を譲った。
 衛兵が通り過ぎた後、肺の中の空気が一気に外へ出る。

「びっくりした……」

 研究室の前で止まり、マレンが言う。

「私はここで見張りをしています。衛兵の見回りの間隔を計らねば。また先程と同じことを繰り返しては、何れ怪しまれてしまう」

 お互い頷き、別れてからケヴィンがドアを開けた。
 室内は思ったより大きくもなく、巨大な本棚と奇妙な標本に、瓶詰めにされた気味の悪い生物らしきもので埋め尽くされている。
 見回しながら奥に進んでいくと、室内にいた研究員らしき召喚士がこちらに気がついた。

「ケヴィン様? 何かご用でしょうか?」
「以前お話ししていた召喚研究士の方をお連れしました」
「そんな話聞いておりませんが……?」
「それは困りましたね……。私も大分前にお聞きした話なので、どなたに通したか覚えておりませんが、ここにお連れしてしまった」
「この所、急な移動があったりで引き継ぎがうまくできておりませんで……」
「ああ、お察しします」

 王宮内の怪しい移動を逆手に取り、ケヴィンはしゃあしゃあと話を進めてみせる。

「ケヴィン様がいらっしゃるのであれば心配いりませんね。どうぞ案内して差し上げて下さい。さほど珍しいものもないかとは思いますが」

 そこでイライジャが尋ねる。

「ありがとうございます。我々は召喚遺物の研究をしておりまして、王宮の遺物があれば拝見させて頂きたいのですが」
「面白い物を研究なさっているのですね。初めてお聞きしました」

 相手が興味を示したので、ミアもその話を膨らませた。

「過去の書物によると、召喚途中で一定の条件を満たすと、ビオコントラクトが固形化してしまうことがあるらしいのです。かなり稀なことらしいのでが、それを遺物として扱っていた時代がありまして」
「ほおほお! 興味深い!」
「何か心当たりはございませんか? 変わった石や、木片や、金属のような物をどこかで見たことがあるとか……」
「うーん、残念ながら私には心当たりがありません。ですが、貴重品を置いてある部屋が王宮内にあるそうなので、そちらに行かれてみてはどうでしょう? この城も古くからある城ですから、何かお探しの物が置いてあるかもしれませんよ」
「その部屋はどちらに?」
「貴重品は真偽を確かめる前に、取り敢えず宝物庫の奥に移動されると聞いたことがありますが、実際入ったことがないのでなんとも」
「ありがとうございます。いい話をお聞きました」

 その研究員と別れ、3人は室内を見回しながら目配せをする。

「ここにはそれらしい物がないようです。先ほど彼が言っていた宝物庫には入れませんか?」

 そうイライジャが問うと、ケヴィンは少し考え込む。

「宝物庫は王の許可がなければ開けられません。鍵を持っている者は管理者で、出入りはその者と一緒じゃなければ無理です」

 ミアが口を尖らせて腕を組んだ。

「まあ普通そうよねえ……」
「王に謁見を願い出たくとも、王を操っている人物が分からない今、危険すぎてその方法をとることができない……」
「ぐずぐずしてると太陽が沈む時刻になってしまいますわよ。わたくしにいい考えがあります」
「それは?」
「宝物庫まで案内して下さるかしら」

 ミアはケヴィンにそう伝え、杖の底で床を一度叩いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

おっさん商人、仲間を気ままに最強SSランクパーティーへ育てる

シンギョウ ガク
ファンタジー
※2019年7月下旬に第二巻発売しました。 ※12/11書籍化のため『Sランクパーティーから追放されたおっさん商人、真の仲間を気ままに最強SSランクハーレムパーティーへ育てる。』から『おっさん商人、仲間を気ままに最強SSランクパーティーへ育てる』に改題を実施しました。 ※第十一回アルファポリスファンタジー大賞において優秀賞を頂きました。 俺の名はグレイズ。 鳶色の眼と茶色い髪、ちょっとした無精ひげがワイルドさを醸し出す、四十路の(自称ワイルド系イケオジ)おっさん。 ジョブは商人だ。 そう、戦闘スキルを全く習得しない商人なんだ。おかげで戦えない俺はパーティーの雑用係。 だが、ステータスはMAX。これは呪いのせいだが、仲間には黙っていた。 そんな俺がメンバーと探索から戻ると、リーダーのムエルから『パーティー追放』を言い渡された。 理由は『巷で流行している』かららしい。 そんなこと言いつつ、次のメンバー候補が可愛い魔術士の子だって知ってるんだぜ。 まぁ、言い争っても仕方ないので、装備品全部返して、パーティーを脱退し、次の仲間を探して暇していた。 まぁ、ステータスMAXの力を以ってすれば、Sランク冒険者は余裕だが、あくまで俺は『商人』なんだ。前衛に立って戦うなんて野蛮なことはしたくない。 表向き戦力にならない『商人』の俺を受け入れてくれるメンバーを探していたが、火力重視の冒険者たちからは相手にされない。 そんな、ある日、冒険者ギルドでは流行している、『パーティー追放』の餌食になった問題児二人とひょんなことからパーティーを組むことになった。 一人は『武闘家』ファーマ。もう一人は『精霊術士』カーラ。ともになぜか上級職から始まっていて、成長できず仲間から追放された女冒険者だ。 俺はそんな追放された二人とともに冒険者パーティー『追放者《アウトキャスト》』を結成する。 その後、前のパーティーとのひと悶着があって、『魔術師』アウリースも参加することとなった。 本当は彼女らが成長し、他のパーティーに入れるまでの暫定パーティーのつもりだったが、俺の指導でメキメキと実力を伸ばしていき、いつの間にか『追放者《アウトキャスト》』が最強のハーレムパーティーと言われるSSランクを得るまでの話。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

転生の水神様ーー使える魔法は水属性のみだが最強ですーー

芍薬甘草湯
ファンタジー
水道局職員が異世界に転生、水神様の加護を受けて活躍する異世界転生テンプレ的なストーリーです。    42歳のパッとしない水道局職員が死亡したのち水神様から加護を約束される。   下級貴族の三男ネロ=ヴァッサーに転生し12歳の祝福の儀で水神様に再会する。  約束通り祝福をもらったが使えるのは水属性魔法のみ。  それでもネロは水魔法を工夫しながら活躍していく。  一話当たりは短いです。  通勤通学の合間などにどうぞ。  あまり深く考えずに、気楽に読んでいただければ幸いです。 完結しました。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

処理中です...