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第52話 開かれた扉

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 ミアが話を続ける。

「もしかして、ルチアたちがニュートラルグレイターの形が分からないのは、遺物に貯められていたビオコントラクトが月日と共に自然放出されていって、わたくしたちの言ってる形状と変わってしまっているからかもしれないわよね……?」
「ああ……なるほど。逆に私たちも遺物が満たされている状態しか知りませんからね……。今現在どういった形で保存されているかも分かりませんし、可能性は濃厚ですねそれ」

 イライジャも同意したので、イーサンが頷いた。

「よし、ウチの頭脳二人が同意見だ。まとまった」
「ナニソレ」

 アメリアは呆れたが、イーサンが話を強引に進めてくる。

「うっせ。ここで机囲んで考えてても、これ以上想像から抜け出せねえだろ。あとは行動に移す。ルチア」
「はい」
「今王宮は怪しいヤツが潜んでるかもしんねえんだよな? そいつがどいつかはおぇたちにも分からない。王に頼み事はできないと。オレたちが王宮に入る方法はねえか」

 ルチアは眉間に皺を寄せて考え、口元に手を置く。

「かつての勇者達がそろって王宮に入れば必ず怪しまれる。誰にも悟られることなくサマナーホールまで行く方法か……」

 しばらくするとサムエレが声を上げた。

「総隊長代理、発言をよろしいでしょうか」
「許可する」
「サマナーホールの階段を上がると、王宮の者たちが移動に使う鷲獅子グライフの飼育部屋があります。下から入り込もうとせず、上から直接行くことができれば、近衛兵たちを気にして進む必要がなくなるのでは」
「ふむ……」
「あの付近を出入りする者と言えば、召喚士、飼育人、見回り兵、あとは研究員でしょうか」
「王宮内部で使用人達が消えるのを、逆手に使うのも手か……」

 そこでイライジャが話に入る。

「召喚士と研究員は年配者も多い。私とミアならば魔術に精通しているので、もし何か聞かれても対処できるくらいの知識はあるかと思います。この2人を行かせて下さい」
「しかし、上から行くとなると少人数でしか行動ができない。それでは何かあった時に貴方たちが危険にさらされてしまう」

 イーサンが笑った。

「100年前の災厄を乗り越えた内の2人だぞ、この程度でビビるわけねえだろ」

 するとケヴィンが前に出た。

「自分がグライフを連れ出して参ります」
「理由がなければ許可が下りまい」
「時間を稼げればよいのです。水鏡を探すだけの時間さえ取れれば、理由などどうでもよいかと」

 ルチアが目を細めた。

「今お前までいなくなっては困る。我々は人数が足りないのだ」
「水鏡が手に入れば、仲間は元の状態に戻せます。もう時間がありません。デプスランドが復活してしまえば、何もかもが遅すぎて取り返しがつかなくなってしまいます」

 隣に控えていたマレンも前に出る。

「私もお供いたします。王宮に入り出でる時まで、必ずやお二方をお守りし、連れ帰ってみせましょう」

 イーサンが手を叩いた。

「決まりだな。ルチア、おぇも総隊長代理なら、腹くくる時はくくれ」

 時は一刻を争う。エイヴァたちがクロウマークスワイバーンへ旅立ってから1月は経つ。いつ何かが爆発し、大事が勃発してもおかしくはないのだ。
 ルチアは一度目をつむり、預けられた部下たちに罠の中へ行けと命じた。

「……ケヴィン、マレン、お二方を必ずお守りして下さい。吉報を持って戻り、任務を成功させるのです」
「はっ!」

 ケヴィンとマレンは上官に敬礼した後、一歩を下げる。
 それからケヴィンがイライジャに視線を移した。

「……貴方様があの時、あの場所で私とビビアナに何を言ったのか、あの時の私には分かりませんでした。でも今なら理解できます」
「ケヴィンさん……」
「貴方様は、我々を救いに来て下さった。ならば私は扉を開かねば」

 ケヴィンは胸を張り、勇者達一行に敬礼する。

 現在、陽は真上。夕刻の西日に身を隠して逃げるとし、5時間はある。
 勇者を含めた騎士たちは行動を開始した。
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