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第43話 キキコミ
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ミアは1人、町の市場へと向かっていた。町には民芸品を多く扱う店が目につき、裏から見える工房の中には沢山の女性が働いている。
「うーん、室内に固まられてると困りますわねぇ」
ずげずけと入っていくわけにもいかず、ここはいつもの戦法で行くことにした。町で最も賑やかな場所に目をつけるとそこに足を向け、少し外れた位置にあるプファントハウスやポーンショップと呼ばれる質屋の前で足を止めた。ショーウィンドウから品定めをしている様子を演じ、中を覗き込んで店番が女性かどうかを確かめる。
「オッケーイ」
そこで腰に巻いていた『かつて呪われし帯』を外し、マントのフードを頭に被って店の扉を開けた。
中年の女性がミアの姿を目に入れて顔を上げる。
「ん? 観光客? 珍しいわね」
ミアは困った様子でその女性に近づいて言った。
「品物を買って頂きたいの」
「見せて」
徐に腰帯をカウンターの上へ乗せて出し、付け加える。
「さる高貴な娘がつけていた帯なのですが、おいくらになりますでしょう……」
「みんなそう言って値を高くしようとするんだよ」
女店主は帯を手に取り、間近でそれを確認し始める。
「うん……確かに仕立ては良いようだね……でも随分薄汚れてるからねえ」
まあ、貧乏旅が続いていたのでそれは仕方がない。大体曰く付きのアイテムというものの7割は性能が良いので、悪い品ではないはずだ。ただ不運にもどこかの時点で呪われてしまっただけという話で、現時点では大聖者によって呪いも解かれてただの品の良い帯に落ち着いている。
「金6ってトコかねぇ」
買った時は呪われグッズだったので銅5枚だ。気味が悪いから早く引き取ってくれと言わんばかりの店主が値下げして3にしてくれたので、金6枚ならば大儲けしていることになる。
ミアは手放すのが惜しい素振りを見せ、目を伏せた。
「最近城下が騒がしくなってしまったと聞いて、嫁ぎ先から実家の様子を見に戻ってきたのですが、途中で路銀が尽きてしまって……もう少し何とかなりませんか?」
「ん? 城下で何かあったの?」
「騎士団のよくない噂がこっちまで流れてきたの。ご存じなくて?」
「ああ、騎士団ね。あいつらはもう、どうしようもないよ」
「どうしようもない?」
「ここんトコ何年も、近隣で物騒なことがあってもほとんど動きゃしないんだよ。何のためにいるんだって話。高い税金払ってんのに、それで城下の人達からよく文句出ないわよねって言ってたんだけど、やっぱ出てんのか。そりゃそーよねえ」
女店主はカウンターの引き出しから金貨6枚と銀2枚を出し、ミアに渡した。
「ちょっとオマケつけといたわ。ウチもカツカツだから、これで勘弁してね」
儲けている手前これ以上渋れず、ミアはそれを受け取って頭を下げた。
イーサンは馬がどこから来ているのか、その先を確かめに歩いていた。すれ違う馬たちを横目にしつつ、町外れの方へと進んで行く。
しばらく進むと林が開けた場所に牧場があり、牛や豚、鶏や鴨もそこに集められているのを見つけた。まだ少年くらいの男子が干し草を積んでいるのを目に留め、そこに近寄っていく。
「すまねぇ、道に迷っちまった。城の方角に行きたいんだが、どっちだ?」
ちょっと頼りない冒険者風のおじいちゃんを演じながらそう訪ねると、少年は心配して仕事の手を止めた。
「今、貴方が来た方向ですよ」
「ありゃ。またやっちまったか」
大丈夫か、ボケてないか、1人で辿り着けるのかこの老人は……そんな心配が少年の脳裏を過る。
「今丁度うちから城に馬を貸し出している最中で、男衆が御者として連れ出してるところなのです。走ればまだ追いつくと思いますよ。それについて行けば城に迎えます」
「おお、そうか。ありがとなあ坊主」
「いえ」
少年が照れたのを隠すように仕事に戻ろうとした所、更に質問される。
「そういやたくさん馬とすれ違ったな。木材運んでるヤツもいたが、ありゃ何に使うんだ?」
褒められて気をよくしていた少年は口が軽い。
「城下で武器に加工するらしいです。弓が大量に必要だとかで、火を使うから消耗品になってしまうから、いくら木材があっても足りないって、ここんところずっと買い付けが来て大繁盛」
歯並びの悪い口元がニコッと笑い、イーサンが緊張感のない子供に苦笑いをする。だがこちらはその緊張感のなさがありがたい。
「騎士団が使うのかね?」
「そりゃそうですよー。城で他にこんなに武器使う人なんていませんから」
「騎士団が弓をねぇ……」
「おじいさんは冒険者ですよね? そんな年齢になっても続けていられるなんてすごいことです。僕も冒険者になりたかったなあ。そうしたらお城で雇ってもらえたかもしれないのに」
「ちょっと待て」
「はい?」
「城で傭兵を雇ってるのか?」
「そうみたいですよ」
「何で」
「おじいさん、城の募集で行くんじゃないのですか?」
「ああ、まあ別件で行くんだが。募集してるなら応募しちゃおうかな」
「それがいいですよ、お給料いいみたいですし。いいなあ」
「何で募集してるんだ? 騎士団だけじゃ足りねぇヤマでも入ったとか?」
「ヤマ? いえ、何十年とずっと募集してるみたいですよ」
「何だと……」
「どうしました?」
「いや、サンキュウな。置いてかれたら迷うから、もう行くわ。じゃな!」
それだけ聞くと、大急ぎで元来た道を戻る。
「マジかよ……おいおいおいおいおい、いよいよきな臭くなってきやがったじゃねぇか……」
まさかまさかと思っていたが、徐々に確定へと近づいてきてしまうことへの焦りが、イーサンの足元をおぼつかなくさせた。
「うーん、室内に固まられてると困りますわねぇ」
ずげずけと入っていくわけにもいかず、ここはいつもの戦法で行くことにした。町で最も賑やかな場所に目をつけるとそこに足を向け、少し外れた位置にあるプファントハウスやポーンショップと呼ばれる質屋の前で足を止めた。ショーウィンドウから品定めをしている様子を演じ、中を覗き込んで店番が女性かどうかを確かめる。
「オッケーイ」
そこで腰に巻いていた『かつて呪われし帯』を外し、マントのフードを頭に被って店の扉を開けた。
中年の女性がミアの姿を目に入れて顔を上げる。
「ん? 観光客? 珍しいわね」
ミアは困った様子でその女性に近づいて言った。
「品物を買って頂きたいの」
「見せて」
徐に腰帯をカウンターの上へ乗せて出し、付け加える。
「さる高貴な娘がつけていた帯なのですが、おいくらになりますでしょう……」
「みんなそう言って値を高くしようとするんだよ」
女店主は帯を手に取り、間近でそれを確認し始める。
「うん……確かに仕立ては良いようだね……でも随分薄汚れてるからねえ」
まあ、貧乏旅が続いていたのでそれは仕方がない。大体曰く付きのアイテムというものの7割は性能が良いので、悪い品ではないはずだ。ただ不運にもどこかの時点で呪われてしまっただけという話で、現時点では大聖者によって呪いも解かれてただの品の良い帯に落ち着いている。
「金6ってトコかねぇ」
買った時は呪われグッズだったので銅5枚だ。気味が悪いから早く引き取ってくれと言わんばかりの店主が値下げして3にしてくれたので、金6枚ならば大儲けしていることになる。
ミアは手放すのが惜しい素振りを見せ、目を伏せた。
「最近城下が騒がしくなってしまったと聞いて、嫁ぎ先から実家の様子を見に戻ってきたのですが、途中で路銀が尽きてしまって……もう少し何とかなりませんか?」
「ん? 城下で何かあったの?」
「騎士団のよくない噂がこっちまで流れてきたの。ご存じなくて?」
「ああ、騎士団ね。あいつらはもう、どうしようもないよ」
「どうしようもない?」
「ここんトコ何年も、近隣で物騒なことがあってもほとんど動きゃしないんだよ。何のためにいるんだって話。高い税金払ってんのに、それで城下の人達からよく文句出ないわよねって言ってたんだけど、やっぱ出てんのか。そりゃそーよねえ」
女店主はカウンターの引き出しから金貨6枚と銀2枚を出し、ミアに渡した。
「ちょっとオマケつけといたわ。ウチもカツカツだから、これで勘弁してね」
儲けている手前これ以上渋れず、ミアはそれを受け取って頭を下げた。
イーサンは馬がどこから来ているのか、その先を確かめに歩いていた。すれ違う馬たちを横目にしつつ、町外れの方へと進んで行く。
しばらく進むと林が開けた場所に牧場があり、牛や豚、鶏や鴨もそこに集められているのを見つけた。まだ少年くらいの男子が干し草を積んでいるのを目に留め、そこに近寄っていく。
「すまねぇ、道に迷っちまった。城の方角に行きたいんだが、どっちだ?」
ちょっと頼りない冒険者風のおじいちゃんを演じながらそう訪ねると、少年は心配して仕事の手を止めた。
「今、貴方が来た方向ですよ」
「ありゃ。またやっちまったか」
大丈夫か、ボケてないか、1人で辿り着けるのかこの老人は……そんな心配が少年の脳裏を過る。
「今丁度うちから城に馬を貸し出している最中で、男衆が御者として連れ出してるところなのです。走ればまだ追いつくと思いますよ。それについて行けば城に迎えます」
「おお、そうか。ありがとなあ坊主」
「いえ」
少年が照れたのを隠すように仕事に戻ろうとした所、更に質問される。
「そういやたくさん馬とすれ違ったな。木材運んでるヤツもいたが、ありゃ何に使うんだ?」
褒められて気をよくしていた少年は口が軽い。
「城下で武器に加工するらしいです。弓が大量に必要だとかで、火を使うから消耗品になってしまうから、いくら木材があっても足りないって、ここんところずっと買い付けが来て大繁盛」
歯並びの悪い口元がニコッと笑い、イーサンが緊張感のない子供に苦笑いをする。だがこちらはその緊張感のなさがありがたい。
「騎士団が使うのかね?」
「そりゃそうですよー。城で他にこんなに武器使う人なんていませんから」
「騎士団が弓をねぇ……」
「おじいさんは冒険者ですよね? そんな年齢になっても続けていられるなんてすごいことです。僕も冒険者になりたかったなあ。そうしたらお城で雇ってもらえたかもしれないのに」
「ちょっと待て」
「はい?」
「城で傭兵を雇ってるのか?」
「そうみたいですよ」
「何で」
「おじいさん、城の募集で行くんじゃないのですか?」
「ああ、まあ別件で行くんだが。募集してるなら応募しちゃおうかな」
「それがいいですよ、お給料いいみたいですし。いいなあ」
「何で募集してるんだ? 騎士団だけじゃ足りねぇヤマでも入ったとか?」
「ヤマ? いえ、何十年とずっと募集してるみたいですよ」
「何だと……」
「どうしました?」
「いや、サンキュウな。置いてかれたら迷うから、もう行くわ。じゃな!」
それだけ聞くと、大急ぎで元来た道を戻る。
「マジかよ……おいおいおいおいおい、いよいよきな臭くなってきやがったじゃねぇか……」
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