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第40話 雨雲が迫る
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早朝から野焼きが始まった。
まず周囲のシュクレイムをミアが焼却し、進路を開く。次に気化したビオコントラクトを彼女がオーバードーズする。大足で進むとシュクレイムは移動してついてくるので、再度集まってきた塊を焼き払う。そしてまたオーバードーズ。これを延々と繰り返して進んだ。
「さすがにこれだけ大きいのを一気に摂ると、いくらシュクレイムでも満腹になりそうですわ」
「しかし、延々と湧いてくるなこりゃ……。どうなってんだか本当によ」
「怨霊の方はどうなってる?」
「まだついてきますね。一度目をつけられたらしつこいですから、引き剥がすのに苦労しそうです」
「浄化しちまえよ」
「ミアの負担が増えてしまいます。やるならもっと間をおかないと、ビオコントラクトの再建築ができなくなってしまう」
早い話、取り込んだ直後は互換性がないという意味になる。ゆっくりと時間をかけて自分のビオコントラクトに変換していかなくてはならず、そのあたりは口から入れた食べ物と同じ原理だ。
まあ仕方がない。ゆっくり地道にやりながら進む他ない。
川の蛇行が激しい部分は飛ばしていたが、ほぼ毎日水源が近くにある状態で旅をするのは安心感がある。水も食料も手に入れようと思えば困らない程度には確保でき、持ってきた物資も枯れずに残りそうだ。
「中間の町は木こりの町なんでしょう? だったら、大足のアップグレードとかできないかな?」
アメリアの案にルーカスが賛成して手を叩いた。
「いいね! 魔力で進んだりできたら最高!」
ミアがそれを聞いてワゴンの中で笑っている。
「あの辺りの木材は人間が育てているから、魔法を通すのはむりでしてよ。エルフ森の深い場所にある木ならできたかもしれないけれどね」
「でも、歯車に細工をするのは可能かもしれませんよ。メンテナンスも兼ねて一度見てもらった方がよいかもしれませんね」
イーサンの発言にイーサンも頷く。
「加工はさておき、こいつは便利な乗り物だかんな、なくなったらオレたちが困るし。かなり手荒なことが続いてるから、職人に見てもらうのは賛成だな」
ルーカスがワゴンを振り返り、まじまじと全体を眺めた。
「だよねえ。これ、置いてあった廃材組み立てて作っただけだし」
「ルーカス器用よね。その槍だって、元は自分で細工して縮められるようにしたんでしょう?」
「アメリアもね? それ元はジョッキの持ち手だよ?」
「違えねぇ」
後からイーサンの笑い声が聞こえる。
そんな談笑をしながら進んでいると、しばらくしてまたシュクレイムが集まり始めた。陽も大分傾き、夜が近い。
「今日はこれが最後かしら」
ミアが立ち上がり、小窓から外を眺める。
「お前ぇ、明日はずっと屋根の上にいた方が楽なんじゃねぇの」
「イヤよー、埃っぽくなっちゃうでしょ。直射日光はシミも増えちゃうし!」
「まだそんなこと言ってんの!? もういいだろその歳で!!」
「デ・リ・カ・シー!! 冒険者やってた頃が祟ってシミだらけなの!! これ以上増やしたくないって乙女の気持ちはいくつになっても変わらなくてよ!!」
アメリアが外で2輪を漕ぎながら微妙な顔をしている横で、ルーカスがその彼女を横目で窺っている。
陽が沈むのとはまた別に、雲の影が周囲を急に暗くし始めた。
「ねえ、やるなら早いほうがいいよ。雨降るかも……」
ルーカスの声でイライジャが後ろの扉を開けた。
「ああ……確かに。湿気を感じますね……。大足は雨漏りするのでどこかに移して雨宿りしないと」
「オイオイ、マジかよ……すぐやんでくれないと先に進めねぇぞ」
「そんな悠長なこと言ってられませんことよ。雨でシュクレイムが増えまくったら、この一帯ぬるぬる地獄絵ができあがりましてよ。わたくしの魔法もセーブしてるから効きが悪くなってしまいますし、イライジャの結界と併せても、量が迫って押し返せなくなる可能性だってありますわ」
「カンベンしてよおぉ!」
ルーカスの悲鳴が木霊する。
「川辺だし、雨降ったらマズイよ……。もっと高い場所行こう?」
漕ぎ出そうとするアメリアを制してミアが杖を構えた。
「ちょっと待って、少し数を減らして時間を稼ぎましょう。一回焼いておきますわ」
口調に対してやることがえげつない。彼女がスペルを唱えると、ミアを中心に火の輪が広がり、大地に赤い閃光がなぞられて遠退いていく。それから目を閉じた大魔道士は、解除魔法でビオコントラクトのロックを解除する。
「Unlock-overdose」
周辺が歪み、ひどく引き寄せられる感覚に息を止めた後、ぱっとそれを放される。
「はい、おしまい。行きましょう」
アメリアがミアの顔を覗き込んだ。
「全然変わらない」
「シュクレイムだもの。500回淹れた紅茶を飲んでるようなものでしてよ」
「そりゃ変わらないわ……」
アメリアはミアの若い姿が見てみたいのだ。今でもこんなに可愛いらしい人なのだ、それは若い頃特有のかわゆさも見てみたくなろう。
早く行こうと騒ぐルーカスを宥め、一行は川から距離を取って西に進み始めた。
まず周囲のシュクレイムをミアが焼却し、進路を開く。次に気化したビオコントラクトを彼女がオーバードーズする。大足で進むとシュクレイムは移動してついてくるので、再度集まってきた塊を焼き払う。そしてまたオーバードーズ。これを延々と繰り返して進んだ。
「さすがにこれだけ大きいのを一気に摂ると、いくらシュクレイムでも満腹になりそうですわ」
「しかし、延々と湧いてくるなこりゃ……。どうなってんだか本当によ」
「怨霊の方はどうなってる?」
「まだついてきますね。一度目をつけられたらしつこいですから、引き剥がすのに苦労しそうです」
「浄化しちまえよ」
「ミアの負担が増えてしまいます。やるならもっと間をおかないと、ビオコントラクトの再建築ができなくなってしまう」
早い話、取り込んだ直後は互換性がないという意味になる。ゆっくりと時間をかけて自分のビオコントラクトに変換していかなくてはならず、そのあたりは口から入れた食べ物と同じ原理だ。
まあ仕方がない。ゆっくり地道にやりながら進む他ない。
川の蛇行が激しい部分は飛ばしていたが、ほぼ毎日水源が近くにある状態で旅をするのは安心感がある。水も食料も手に入れようと思えば困らない程度には確保でき、持ってきた物資も枯れずに残りそうだ。
「中間の町は木こりの町なんでしょう? だったら、大足のアップグレードとかできないかな?」
アメリアの案にルーカスが賛成して手を叩いた。
「いいね! 魔力で進んだりできたら最高!」
ミアがそれを聞いてワゴンの中で笑っている。
「あの辺りの木材は人間が育てているから、魔法を通すのはむりでしてよ。エルフ森の深い場所にある木ならできたかもしれないけれどね」
「でも、歯車に細工をするのは可能かもしれませんよ。メンテナンスも兼ねて一度見てもらった方がよいかもしれませんね」
イーサンの発言にイーサンも頷く。
「加工はさておき、こいつは便利な乗り物だかんな、なくなったらオレたちが困るし。かなり手荒なことが続いてるから、職人に見てもらうのは賛成だな」
ルーカスがワゴンを振り返り、まじまじと全体を眺めた。
「だよねえ。これ、置いてあった廃材組み立てて作っただけだし」
「ルーカス器用よね。その槍だって、元は自分で細工して縮められるようにしたんでしょう?」
「アメリアもね? それ元はジョッキの持ち手だよ?」
「違えねぇ」
後からイーサンの笑い声が聞こえる。
そんな談笑をしながら進んでいると、しばらくしてまたシュクレイムが集まり始めた。陽も大分傾き、夜が近い。
「今日はこれが最後かしら」
ミアが立ち上がり、小窓から外を眺める。
「お前ぇ、明日はずっと屋根の上にいた方が楽なんじゃねぇの」
「イヤよー、埃っぽくなっちゃうでしょ。直射日光はシミも増えちゃうし!」
「まだそんなこと言ってんの!? もういいだろその歳で!!」
「デ・リ・カ・シー!! 冒険者やってた頃が祟ってシミだらけなの!! これ以上増やしたくないって乙女の気持ちはいくつになっても変わらなくてよ!!」
アメリアが外で2輪を漕ぎながら微妙な顔をしている横で、ルーカスがその彼女を横目で窺っている。
陽が沈むのとはまた別に、雲の影が周囲を急に暗くし始めた。
「ねえ、やるなら早いほうがいいよ。雨降るかも……」
ルーカスの声でイライジャが後ろの扉を開けた。
「ああ……確かに。湿気を感じますね……。大足は雨漏りするのでどこかに移して雨宿りしないと」
「オイオイ、マジかよ……すぐやんでくれないと先に進めねぇぞ」
「そんな悠長なこと言ってられませんことよ。雨でシュクレイムが増えまくったら、この一帯ぬるぬる地獄絵ができあがりましてよ。わたくしの魔法もセーブしてるから効きが悪くなってしまいますし、イライジャの結界と併せても、量が迫って押し返せなくなる可能性だってありますわ」
「カンベンしてよおぉ!」
ルーカスの悲鳴が木霊する。
「川辺だし、雨降ったらマズイよ……。もっと高い場所行こう?」
漕ぎ出そうとするアメリアを制してミアが杖を構えた。
「ちょっと待って、少し数を減らして時間を稼ぎましょう。一回焼いておきますわ」
口調に対してやることがえげつない。彼女がスペルを唱えると、ミアを中心に火の輪が広がり、大地に赤い閃光がなぞられて遠退いていく。それから目を閉じた大魔道士は、解除魔法でビオコントラクトのロックを解除する。
「Unlock-overdose」
周辺が歪み、ひどく引き寄せられる感覚に息を止めた後、ぱっとそれを放される。
「はい、おしまい。行きましょう」
アメリアがミアの顔を覗き込んだ。
「全然変わらない」
「シュクレイムだもの。500回淹れた紅茶を飲んでるようなものでしてよ」
「そりゃ変わらないわ……」
アメリアはミアの若い姿が見てみたいのだ。今でもこんなに可愛いらしい人なのだ、それは若い頃特有のかわゆさも見てみたくなろう。
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