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第25話 武器を求めて
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込み合う市場で物資を調達してきたアメリアとルーカスは、イーサン達の待つ宿屋へと戻る。
しばらく体力が回復するまで滞在するつもりだったので荷物の量は適度に多く、縄で結ばれた食料をカウンターの上に乗せた後、重力から解放された気持ちで二人は長椅子の上に腰を下ろした。
ミアが少し温くなった紅茶に氷を入れ、二人の前にそれを差し出す。
「お疲れ様。宿屋にリーフティーがありましたのよ。あまり良い茶葉ではありませんが、美味しくなるよう魔法をかけました」
ミアの言う魔法というのは、手習いをした方法で丁寧に淹れたという意味だ。元々良いところのお嬢さんだったような雰囲気のミアは、お茶を淹れるのがうまい。アメリアは彼女の入れるお茶が子供の頃から大好きであった。
「ありがとう! ミアのお茶を飲んだら疲れなんか吹き飛んじゃうよー!」
味わう様子もなくルーカスが一気に喉に流し込んでいたのを肘で小突き、アメリアは加工屋で起きた一連の話を3人にし始めた。
「それはそうと、市場でね、武器を何とかできないか見て回ったの」
ベッドで横になっていたイーサンさんが顔をこちらに向ける。
「ほお?」
「そこにね、ドワーフの加工屋さんがあったんだ」
「ドヴェルグの?」
イライジャが目を丸くしていたが、イーサンとミアも興味を示している。
ドワーフは生息地に引きこもりで、他の大陸に出歩くことは滅多にない。それが外の町に住み着いているというのだから驚きもするだろう。
「その店主のドワーフは、過去の大戦を知っててね。まあ結構なお年寄りみたいだったんだけど……商売柄見て分かっちゃったみたいで」
察したイーサンが嗚呼とため息を漏らす。
「お前ぇのナックルダスターについたビオコントラクトか」
そこでイライジャとミアも『あっ』と声を出す。
「そう……。それで、まあ、悪い方には話が進まなかったんだけど、結果として武器は作ってもらえるみたいなんだ」
「んー……じゃあまあ、それはそれとして置いといて。お前ぇのその辛気臭え顔は何だ」
「それなんだけど……何だかお城の方でややこしいことになってるかもしれないって話を聞いちゃって」
イライジャが首を傾げる。
「どういうことですか」
ミアに紅茶のおかわりをもらいながら、ルーカスが続けた。
「騎士団にとってあまり良い噂とは言えないものが、この町で囁かれているらしいんだ。この町って言うかこの大陸?」
ミアが神妙な様子で口を開く。
「まあ、昔からそういった話は切って切れないものではありましたけれど……例えば?」
「騎士団は未だにビオコントラクトを吸収しながら活動してるかもしれないっていうのが一つ」
「まさか」
ミアは信じられないといった様子だが、ルーカスは続ける。
「実は魔物が一掃できておらず、未だに隠れて討伐を続けているかもしれないっていうのが二つ目」
イライジャが困ったように眉を下げた。
「最後はちょっとショッキングで、騎士団を含め王宮内部は魔物の巣窟かもしれない……てやつ」
「はあ?」
そこでイーサンさんが飛び起きた。
「そのドヴェルグのジジイがそう言ったのか」
アメリアが『ビョルグね』と付け加える。
「その話をした後、急に武器を加工してくれるって言い出したの」
「だから、僕たちお金ないよーって言ったら、南にあるエルフの森の近くにある海岸沿いに行って、西から吹く森の風を受けた珊瑚礁の死骸を取ってこいって言われたんだ」
それに反応したイライジャが顔を上げた。
「エルフ森の珊瑚……」
「イライジャ知ってるの?」
「んん、まあ、私は半分エルフですから、聞いたことはあります。何でも死んだ珊瑚が、エルフ森からの西風で結晶化するとか。それを鉱物に混ぜると、魔物耐性のインゴットができるそうです」
「エルヴァルドコラレか……」
イーサンがつぶやいたのに、ミアが反応する。
「どう思う? イーサン」
「ポイントオブソードは現に魔物が紛れ込んでたんだ。ドヴェルグジジイの話も可能性として捨てきれねぇ」
アメリアが『ビョルグだよ』と小声で付け加えた。
「耐魔武器か……」
「わたくしたち、大戦の処理討伐が全て終わった後、アーティファクトを王宮に返還してしまったわ。内側にある力を肉体から通して外側に放出するとなると、制御するための依代が必要となる。今のままでは何もできませんわ」
イライジャもミアの話に頷く。
「エルヴァルドコラレなら、低級鉱物で製造した武器でも、多少の威力は見込めるかと思います。現役当時と同等になるわけではありませんが、今よりは遥かに良くなるかと」
「このままではアメリアとルーカスだけに頼ることになってしまうわ。戦闘経験の少ない2人にこれ以上の負担をかけさせるわけには参りません。わたくしたちも何か装備しなくては」
イーサンは少し考え、二人に向き直る。
「……このうん十年、エイヴァから音沙汰ないのは、騎士団に入ったからかと思ってた」
いつもの余裕が消えた彼の言葉を聞き、イーサンとミアははっと息を呑む。
「そんなこと考えもしなかった。俺たちが討ち漏らしたかもしんねぇなんて……」
何かあればエイヴァが自分たちを必要とするはず。そう信じて疑わなかったが、その道理が通るのは王宮や騎士団が正道にいるのが前提だ。
3人は重苦しさに俯いたが、彼らは曲がりなりにも勇者である。向かうべき方向は心得ているつもりだ。
「王宮に行くのは一旦やめだ。先に南にある海岸線に向かう」
様子を見ていたアメリアが頷く。
「エルヴァルドコラレを採りに行くのね」
「ああ。耐魔装備を作りに行くぞ」
備えあれば憂いなし。彼らはひとたび南へ進路を変更する。
しばらく体力が回復するまで滞在するつもりだったので荷物の量は適度に多く、縄で結ばれた食料をカウンターの上に乗せた後、重力から解放された気持ちで二人は長椅子の上に腰を下ろした。
ミアが少し温くなった紅茶に氷を入れ、二人の前にそれを差し出す。
「お疲れ様。宿屋にリーフティーがありましたのよ。あまり良い茶葉ではありませんが、美味しくなるよう魔法をかけました」
ミアの言う魔法というのは、手習いをした方法で丁寧に淹れたという意味だ。元々良いところのお嬢さんだったような雰囲気のミアは、お茶を淹れるのがうまい。アメリアは彼女の入れるお茶が子供の頃から大好きであった。
「ありがとう! ミアのお茶を飲んだら疲れなんか吹き飛んじゃうよー!」
味わう様子もなくルーカスが一気に喉に流し込んでいたのを肘で小突き、アメリアは加工屋で起きた一連の話を3人にし始めた。
「それはそうと、市場でね、武器を何とかできないか見て回ったの」
ベッドで横になっていたイーサンさんが顔をこちらに向ける。
「ほお?」
「そこにね、ドワーフの加工屋さんがあったんだ」
「ドヴェルグの?」
イライジャが目を丸くしていたが、イーサンとミアも興味を示している。
ドワーフは生息地に引きこもりで、他の大陸に出歩くことは滅多にない。それが外の町に住み着いているというのだから驚きもするだろう。
「その店主のドワーフは、過去の大戦を知っててね。まあ結構なお年寄りみたいだったんだけど……商売柄見て分かっちゃったみたいで」
察したイーサンが嗚呼とため息を漏らす。
「お前ぇのナックルダスターについたビオコントラクトか」
そこでイライジャとミアも『あっ』と声を出す。
「そう……。それで、まあ、悪い方には話が進まなかったんだけど、結果として武器は作ってもらえるみたいなんだ」
「んー……じゃあまあ、それはそれとして置いといて。お前ぇのその辛気臭え顔は何だ」
「それなんだけど……何だかお城の方でややこしいことになってるかもしれないって話を聞いちゃって」
イライジャが首を傾げる。
「どういうことですか」
ミアに紅茶のおかわりをもらいながら、ルーカスが続けた。
「騎士団にとってあまり良い噂とは言えないものが、この町で囁かれているらしいんだ。この町って言うかこの大陸?」
ミアが神妙な様子で口を開く。
「まあ、昔からそういった話は切って切れないものではありましたけれど……例えば?」
「騎士団は未だにビオコントラクトを吸収しながら活動してるかもしれないっていうのが一つ」
「まさか」
ミアは信じられないといった様子だが、ルーカスは続ける。
「実は魔物が一掃できておらず、未だに隠れて討伐を続けているかもしれないっていうのが二つ目」
イライジャが困ったように眉を下げた。
「最後はちょっとショッキングで、騎士団を含め王宮内部は魔物の巣窟かもしれない……てやつ」
「はあ?」
そこでイーサンさんが飛び起きた。
「そのドヴェルグのジジイがそう言ったのか」
アメリアが『ビョルグね』と付け加える。
「その話をした後、急に武器を加工してくれるって言い出したの」
「だから、僕たちお金ないよーって言ったら、南にあるエルフの森の近くにある海岸沿いに行って、西から吹く森の風を受けた珊瑚礁の死骸を取ってこいって言われたんだ」
それに反応したイライジャが顔を上げた。
「エルフ森の珊瑚……」
「イライジャ知ってるの?」
「んん、まあ、私は半分エルフですから、聞いたことはあります。何でも死んだ珊瑚が、エルフ森からの西風で結晶化するとか。それを鉱物に混ぜると、魔物耐性のインゴットができるそうです」
「エルヴァルドコラレか……」
イーサンがつぶやいたのに、ミアが反応する。
「どう思う? イーサン」
「ポイントオブソードは現に魔物が紛れ込んでたんだ。ドヴェルグジジイの話も可能性として捨てきれねぇ」
アメリアが『ビョルグだよ』と小声で付け加えた。
「耐魔武器か……」
「わたくしたち、大戦の処理討伐が全て終わった後、アーティファクトを王宮に返還してしまったわ。内側にある力を肉体から通して外側に放出するとなると、制御するための依代が必要となる。今のままでは何もできませんわ」
イライジャもミアの話に頷く。
「エルヴァルドコラレなら、低級鉱物で製造した武器でも、多少の威力は見込めるかと思います。現役当時と同等になるわけではありませんが、今よりは遥かに良くなるかと」
「このままではアメリアとルーカスだけに頼ることになってしまうわ。戦闘経験の少ない2人にこれ以上の負担をかけさせるわけには参りません。わたくしたちも何か装備しなくては」
イーサンは少し考え、二人に向き直る。
「……このうん十年、エイヴァから音沙汰ないのは、騎士団に入ったからかと思ってた」
いつもの余裕が消えた彼の言葉を聞き、イーサンとミアははっと息を呑む。
「そんなこと考えもしなかった。俺たちが討ち漏らしたかもしんねぇなんて……」
何かあればエイヴァが自分たちを必要とするはず。そう信じて疑わなかったが、その道理が通るのは王宮や騎士団が正道にいるのが前提だ。
3人は重苦しさに俯いたが、彼らは曲がりなりにも勇者である。向かうべき方向は心得ているつもりだ。
「王宮に行くのは一旦やめだ。先に南にある海岸線に向かう」
様子を見ていたアメリアが頷く。
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