アンチエイジャー「この世界、人材不足にて!元勇者様、禁忌を破って若返るご様子」

荒雲ニンザ

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第22話 右脇腹にある町

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 アクシス大陸Axis-continent。別名中央大陸。
 世界の右World Right世界の左World Leftの中間に位置する、この世界で最も大きな大陸。
 その世界一巨大な大陸を統治するのが、人間種族のジェームズ・リアム・エリオット王。
 巨大都市であるゴーサホルツハマーは王都である。堅固な城壁、豊かな市場バザール、美しい文化。人々が行き交い、ここは常に日が沈まぬ昼のようであった。

 とは言え、広大な領土を完璧に統治するというのは難しい話で、王都とその周辺の主要都市以外、郊外の治安はあまりよろしくない。大陸が広いだけあり、人間種族以外の領土も混在しているため、それが枷となり平定しようにも深く入り込めない事情があった。


 アクシス大陸東側の港町であるコメツィエラアンボスに船は到着し、無事イーサンたち一行は海を渡ることができた。
 少々船旅の疲れはあるが思いのほか順調で、宿屋で数日寝泊まりすれば問題はないだろう。何より四六時中床が動かないだけで体力は戻る。
 その間に物資を調達し、陸路の旅に備えればよいということになったので、疲れ知らずの若い二人が市場に出かけることになった。

「買い物なら二手に分かれた方が早くない?」

 アメリアのその言葉に、訝しい顔を向けるルーカスがオブラートに包まず率直に意見を返す。

「キミは田舎からやって来たお嬢さん丸出しだから、ダメ」
「何よー、まさかここでもポイントオブソードと同じことになるっていうの?」
「船が行き来する場所は、良いものも入ってくれば悪いものも入ってくるんだ。キミは田舎育ちだけならまだしも、教会育ちで、あの温厚の塊であるイライジャ神父が育ての親だ。カモにして下さいってタグつけて歩いてるようなもんだよ」

 褒められているようでそうでない。アメリアは不服そうな顔を隠さずにルーカスの後ろをついて歩いている。
 市場に入る前から道は人々で溢れ、所狭しと買い物客がうろつき回っていた。

「さすが卸売りの聖地だ、すごい人だな」
「ポイントオブソードより大きい町なの?」
「ポイントオブソードは交通の町で連絡船の要を担ってて、こっちは生産業の町だよ。ここにいる人たちは商売人が多いんじゃないかな」
「ゴーサホルツハマーは巨大都市っていうぐらいだから、あっちがメインなのかと思ってた」
「ゴーサホルツハマーは世界の中心にあるけど、どちらかといえば王都があるから栄えてるって感じかな。シールズ大陸は岩山に覆われて人の出入りはほとんどないし、ドワーフから鉱物を買っても、輸送ルートはソード大陸の南端から抜けてコメツィエラアンボスに直接持ってくるし。ワールドレフトは資源があるけど人が住むような土地じゃないから、渡って来る人はあんまりいないし。王都は堅固な城塞だし、北は雪山だし、湾は入り組んでるし、普通には行きにくいっていうのもある。一般の人たちはこっちがメインなんじゃないかな」

 アメリアは『ふーん』と感心した。

「そういえば、イーサンが武器を何とかしろって言ってたよね」
「言ってたけど……陸路で行くことになっちゃったから、日数がかかるわ。お金あんまり使えない」
「新調したら高いけど、ここなら加工屋があるんじゃないかな。町の名前に金床アンボスが入ってるくらいだし、王都も近いから兵士たちの鍛造もやってると思うよ」

 アメリアが再び目を丸くする。

「ルーカスって、見かけによらず博識よね……!?」
「え? あー……ポイントオブソードは色んな人が経由する町だったから、情報がたくさん入ってくるんだ。あそこで暮らしている人たちは大体みんな物知りだよ」
「うひゃー……私何も知らないんだなー」

 いつも元気なアメリアが少し気落ちしていたので、ルーカスは気分を変えてやる。

「アメリアの住んでる島、ヒューマランダムだろう?」
「うん」
「何でヒューマンランダムって言うか知ってる?」
「えーと……『人が行き来する中間点としてできた島』だからとか、子供の頃ミアから聞いたような?」
「そう。『行き当たりばったりばかりの人間』って意味なんだよ」
「えーっ? そんな意味だったの!? 私行き当たりばったりなんてしないのにー!」

 アメリアのふくれた頬を見てルーカスが笑った。

「南東で穏やかな気候だから、ゆっくりしたいと思った人たちが余生を過ごしに行く場所なんだって。そんなことやってるうちに人が根付いちゃって、ランダムブルグの町ができたそうだよ」
「ド田舎が好きな人達もいるんだ……。まあ私もあの島のこと大好きだけどね!」
「いい場所なんだね」
「もっちろん! 全部終わったらルーカスもおいでよ。孤児院のみんなに紹介したい!」
「本当? 僕ゴロツキだけどいいの?」
「元、でしょ。今は逃亡者だからゴロツキじゃないじゃない」

 逃亡者というのもいかがなものか。
 ふとルーカスは思った。

「イーサンたちは、最初からずっとあの島に住んでたのかな?」

 それを受けてアメリアも首を傾げる。

「どうなんだろう。あの3人、何十年生きてるか分からないからね……。色々あって疲れてあの島に流れ着いたのかもしれないし。ていうか、そんなこと考えたこともなかった」

 そこでルーカスが足を止める。

「あ! 加工屋発見!」
「おっ」
「まあ金額次第になるけど……ちょっと見て行かない?」
「オッケー!」

 当然加工するのは武器になるが、自分の所持品がどうなるのかという楽しみは少なからずある。
 ポイントオブソードに入ってからずっと緊張し続けていたせいもあり、別の町に入ったことでその緊張が解れたのは確かだ。
 何より、一人で行動しているわけではない。アメリアもルーカスも、お互いが近くに居るという安心感が心を軽くさせた。
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