16 / 73
第16話 抵抗と仕返し
しおりを挟む
一同が死んだように寝ていると、突然の騒々しさで目が覚めた。
ああ、ここは漁村だった、自分たちは今ヒューマランダムを出て、船で旅している途中だった……と、ここのところ立て続けに起きた出来事を一気に思い出す。
おそらく、昼になって漁に出た男衆が漁村へと戻ってきたのだろう。とりあえず『出て行け』とも言われていない様子であったので、村の女衆がうまく立ち回ってくれているのだと察し、その好意に甘えてもうしばらく寝ていることにした。
アメリアとルーカスは若いだけあり回復は早く、太陽が傾きかけた頃に起きることができた。次にアメリアが目を開けた時、見慣れない天井に再び混乱したが、再度そうだったと思い出し、身体を起こす。ヴェスパジアーノに吹き飛ばされた傷は今でも身体を叩いてくるようで、しんどさに一度ため息をついて俯いた。
「おはよー……」
隣のベッドで寝ていたルーカスが目を開けてこちらを見ている。仰向けで寝たまま動かないのであるが。
「おはよう。……眠れた?」
「モチロン。今の今まで気絶してた」
「動ける?」
「キミが動いてるのに、僕が寝てたら申し訳ない」
ルーカスも手ひどい目にあったが、途中でイライジャに回復してもらっているだけあり、傷自体は問題なく完治している。
「イライジャ動けるようになってるかな……」
「痛む?」
「……ちょっとね」
ルーカスは起き上がり、床に並べて置かれた靴を履いた。
「どうなってるか見てくるよ。キミはそこで休んでて」
彼がドアを開けて部屋から出て行くのを見送り、アメリアはもう一度ベッドに横になった。
ルーカスが部屋の外に出て階段を下りると、質素な居間に二人の女性と大柄な男が二人いた。そのうちの男が一人、声をかけてくる。
「ん、起きたな。どうだ調子は」
「おかげさまで、何とか。おじいちゃん達はどうなってます?」
「まだ起きてこない。娘が何度か様子を見に行ってるから、心配ないと思うが……。お前たち、ポイントオブソードの町から逃げてここまで歩いてきたんだろ?」
「ええ」
「じゃあ、病院で見てもらえとも言えねえもんなあ……」
昨日その病院にいたのですとも言えず、ルーカスは『ですねえ』とだけ言って苦笑い。
女将さんらしき女性が立ち上がる。
「あの眼鏡かけた素敵な老紳士、神父様でしょう? 彼が元気になれば、魔法を使ってもらえるんじゃない?」
「ああ、そうか、そうだな?」
「はい。なので、僕達より、年寄り優先が好ましいです」
「じゃあ、今朝取れた魚で精のつく物作ってあげるわ。待っててね」
「お世話になります」
女将に礼を言い、もう一度男の一人に話しかけた。
「なるべく早くここを発ちたいんです。奴らが追いかけてきたらご迷惑をかけてしまう」
「うん……そこなんだよ。村の人間たちは、元気になるまでゆっくりしていってもらって構わないと思ってるんだが、町のゴロツキが関係してくると、そうも言ってられなくなるからな……」
彼らは知らないが、ポイントオブソードのゴロツキ連中の中には魔物が混ざっている。こちらとしては巻き込みたくない。
先にアメリアが言っていたことを思い出す。
「僕達はアクシスブルグに行く途中でした。もう町へは戻れないので、定期船を使うことができない。何とか漁船を繋いで隣村まで渡してもらうことはできませんか?」
「中央大陸に?」
男は『うーん』と唸り、もう一人の男の顔を見る。
「いんじゃねえか? オレたちも町のゴロツキ連中には頭にきてんだ。この漁村は町に近いから、たまにみかじめだかなんだか言って、魚を大量に奪っていくだろ。お返しに、コイツらを次の漁村まで連れて行くくらいやったってバチゃ当たるまい」
隣で聞いていた娘も『そうよ』と口を尖らせている。
「うん……漁に出ている間に、隣村の船に乗せれば手間はかからないもんな……。よし、オレたちが他の仲間に掛け合ってきてやる」
「オレも聞いてきてやる!」
今までゴロツキどもに嫌がらせを受けていた鬱憤が蓄積していたのだろう、二人の男はウキウキと扉を出て行った。
娘がそれを見送り、ルーカスに向き直る。
「おじいちゃんたちの様子、見に行く?」
「ああ、そうだね。動けるようならいいんだけど……」
案内されて向かった部屋を開けると、イライジャが起きてミアの背中を支えようとしている光景が目に飛び込んできた。
「ああ! ルーカス! 良かった……アメリアは?」
ミアはアメリアの母親のようなものなのだろうと察し、ルーカスが言ってやる。
「もう起きてる。身体が痛むみたいで、上で休んでるよ」
「そうよね……あんなことがあったんですものね……。アナタは大丈夫?」
「うん。僕はイライジャに回復してもらってるから。歩き疲れて寝てただけ」
住人の娘が気を利かせ、母親の料理を手伝うと言って場を離れてくれたので、礼を言ってからルーカスは扉を閉めた。
「イーサンの具合はどう?」
「寝る寸前まであちこち痛い痛いって言うから、年甲斐もなくムチャばかりするからですよ! って叱ってやったわ」
ミアが呆れたように答えるのを、イライジャが苦笑いして聞いている。
「昔はあまり寝るタイプじゃなかったんだけど、歳を取ってからイーサンはよく寝るようになってね。こっそり回復したら怒りそうだから、起きるのを待ってるんだけど……」
「何で怒るの?」
「寝てる間に自分の身体に好き勝手やられるのが嫌なんだと思います。若い頃は優秀な冒険者でしたからね、危機管理の癖が抜けないのかな」
「仲間なのに?」
「それでいいのですよ。私の変装をして寝首を掻こうと近づいてくる者がいたら困るでしょう?」
ルーカスは『そういうものなのか』と思うしかない。
ミアが、そんなイーサンの寝顔を見てしみじみ言う。
「見張りで、ずっと起きてても全然平気な体力バカでしたのに……」
「私たち二人は魔法を使うからね、沢山睡眠が必要だった。近接のイーサンとエイヴァには、本当にお世話になったものです」
知らない名前が出たが、ルーカスはそれを微笑ましく聞いている。
「みんな、本当に仲が良いんだね」
「私たちは付合いが長い。もう家族のようなものですからね」
何気ないイライジャの言葉がルーカスには残酷なほど羨ましく聞こえ、その気持ちを誤魔化すように笑みをつけて言った。
「じゃあ、イーサンが起きる前に、アメリアの治療をしちゃわない?」
「そうですね。そうしましょう。若い人が早めに動けた方がいい」
扉の隙間から流れ込む食事の香りに、ミアが鼻を動かして言う。
「ご飯ができれば飛び起きましてよ、このクソジジイは」
「では急がないと」
真面目なイライジャにもお茶目なところがあり、ルーカスは思わず笑い出す。
彼らの関係性はとても羨ましいけれど、その中に少しの時間いられたことは幸せだなと。若い青年はそう思えるだけの素直な心を持っていた。
ああ、ここは漁村だった、自分たちは今ヒューマランダムを出て、船で旅している途中だった……と、ここのところ立て続けに起きた出来事を一気に思い出す。
おそらく、昼になって漁に出た男衆が漁村へと戻ってきたのだろう。とりあえず『出て行け』とも言われていない様子であったので、村の女衆がうまく立ち回ってくれているのだと察し、その好意に甘えてもうしばらく寝ていることにした。
アメリアとルーカスは若いだけあり回復は早く、太陽が傾きかけた頃に起きることができた。次にアメリアが目を開けた時、見慣れない天井に再び混乱したが、再度そうだったと思い出し、身体を起こす。ヴェスパジアーノに吹き飛ばされた傷は今でも身体を叩いてくるようで、しんどさに一度ため息をついて俯いた。
「おはよー……」
隣のベッドで寝ていたルーカスが目を開けてこちらを見ている。仰向けで寝たまま動かないのであるが。
「おはよう。……眠れた?」
「モチロン。今の今まで気絶してた」
「動ける?」
「キミが動いてるのに、僕が寝てたら申し訳ない」
ルーカスも手ひどい目にあったが、途中でイライジャに回復してもらっているだけあり、傷自体は問題なく完治している。
「イライジャ動けるようになってるかな……」
「痛む?」
「……ちょっとね」
ルーカスは起き上がり、床に並べて置かれた靴を履いた。
「どうなってるか見てくるよ。キミはそこで休んでて」
彼がドアを開けて部屋から出て行くのを見送り、アメリアはもう一度ベッドに横になった。
ルーカスが部屋の外に出て階段を下りると、質素な居間に二人の女性と大柄な男が二人いた。そのうちの男が一人、声をかけてくる。
「ん、起きたな。どうだ調子は」
「おかげさまで、何とか。おじいちゃん達はどうなってます?」
「まだ起きてこない。娘が何度か様子を見に行ってるから、心配ないと思うが……。お前たち、ポイントオブソードの町から逃げてここまで歩いてきたんだろ?」
「ええ」
「じゃあ、病院で見てもらえとも言えねえもんなあ……」
昨日その病院にいたのですとも言えず、ルーカスは『ですねえ』とだけ言って苦笑い。
女将さんらしき女性が立ち上がる。
「あの眼鏡かけた素敵な老紳士、神父様でしょう? 彼が元気になれば、魔法を使ってもらえるんじゃない?」
「ああ、そうか、そうだな?」
「はい。なので、僕達より、年寄り優先が好ましいです」
「じゃあ、今朝取れた魚で精のつく物作ってあげるわ。待っててね」
「お世話になります」
女将に礼を言い、もう一度男の一人に話しかけた。
「なるべく早くここを発ちたいんです。奴らが追いかけてきたらご迷惑をかけてしまう」
「うん……そこなんだよ。村の人間たちは、元気になるまでゆっくりしていってもらって構わないと思ってるんだが、町のゴロツキが関係してくると、そうも言ってられなくなるからな……」
彼らは知らないが、ポイントオブソードのゴロツキ連中の中には魔物が混ざっている。こちらとしては巻き込みたくない。
先にアメリアが言っていたことを思い出す。
「僕達はアクシスブルグに行く途中でした。もう町へは戻れないので、定期船を使うことができない。何とか漁船を繋いで隣村まで渡してもらうことはできませんか?」
「中央大陸に?」
男は『うーん』と唸り、もう一人の男の顔を見る。
「いんじゃねえか? オレたちも町のゴロツキ連中には頭にきてんだ。この漁村は町に近いから、たまにみかじめだかなんだか言って、魚を大量に奪っていくだろ。お返しに、コイツらを次の漁村まで連れて行くくらいやったってバチゃ当たるまい」
隣で聞いていた娘も『そうよ』と口を尖らせている。
「うん……漁に出ている間に、隣村の船に乗せれば手間はかからないもんな……。よし、オレたちが他の仲間に掛け合ってきてやる」
「オレも聞いてきてやる!」
今までゴロツキどもに嫌がらせを受けていた鬱憤が蓄積していたのだろう、二人の男はウキウキと扉を出て行った。
娘がそれを見送り、ルーカスに向き直る。
「おじいちゃんたちの様子、見に行く?」
「ああ、そうだね。動けるようならいいんだけど……」
案内されて向かった部屋を開けると、イライジャが起きてミアの背中を支えようとしている光景が目に飛び込んできた。
「ああ! ルーカス! 良かった……アメリアは?」
ミアはアメリアの母親のようなものなのだろうと察し、ルーカスが言ってやる。
「もう起きてる。身体が痛むみたいで、上で休んでるよ」
「そうよね……あんなことがあったんですものね……。アナタは大丈夫?」
「うん。僕はイライジャに回復してもらってるから。歩き疲れて寝てただけ」
住人の娘が気を利かせ、母親の料理を手伝うと言って場を離れてくれたので、礼を言ってからルーカスは扉を閉めた。
「イーサンの具合はどう?」
「寝る寸前まであちこち痛い痛いって言うから、年甲斐もなくムチャばかりするからですよ! って叱ってやったわ」
ミアが呆れたように答えるのを、イライジャが苦笑いして聞いている。
「昔はあまり寝るタイプじゃなかったんだけど、歳を取ってからイーサンはよく寝るようになってね。こっそり回復したら怒りそうだから、起きるのを待ってるんだけど……」
「何で怒るの?」
「寝てる間に自分の身体に好き勝手やられるのが嫌なんだと思います。若い頃は優秀な冒険者でしたからね、危機管理の癖が抜けないのかな」
「仲間なのに?」
「それでいいのですよ。私の変装をして寝首を掻こうと近づいてくる者がいたら困るでしょう?」
ルーカスは『そういうものなのか』と思うしかない。
ミアが、そんなイーサンの寝顔を見てしみじみ言う。
「見張りで、ずっと起きてても全然平気な体力バカでしたのに……」
「私たち二人は魔法を使うからね、沢山睡眠が必要だった。近接のイーサンとエイヴァには、本当にお世話になったものです」
知らない名前が出たが、ルーカスはそれを微笑ましく聞いている。
「みんな、本当に仲が良いんだね」
「私たちは付合いが長い。もう家族のようなものですからね」
何気ないイライジャの言葉がルーカスには残酷なほど羨ましく聞こえ、その気持ちを誤魔化すように笑みをつけて言った。
「じゃあ、イーサンが起きる前に、アメリアの治療をしちゃわない?」
「そうですね。そうしましょう。若い人が早めに動けた方がいい」
扉の隙間から流れ込む食事の香りに、ミアが鼻を動かして言う。
「ご飯ができれば飛び起きましてよ、このクソジジイは」
「では急がないと」
真面目なイライジャにもお茶目なところがあり、ルーカスは思わず笑い出す。
彼らの関係性はとても羨ましいけれど、その中に少しの時間いられたことは幸せだなと。若い青年はそう思えるだけの素直な心を持っていた。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢にざまぁされた王子のその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。
その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。
そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。
マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。
人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
結婚してるのに、屋敷を出たら幸せでした。
恋愛系
恋愛
屋敷が大っ嫌いだったミア。
そして、屋敷から出ると決め
計画を実行したら
皮肉にも失敗しそうになっていた。
そんな時彼に出会い。
王国の陛下を捨てて、村で元気に暮らす!
と、そんな時に聖騎士が来た
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
獣人の里の仕置き小屋
真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。
獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。
今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。
仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる